)” の例文
それが眼に入るか入らぬにきっかしらげた源三は、白い横長い雲がかかっている雁坂の山をにらんで、つかつかと山手の方へ上りかけた。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
かくて曲者は間近の横町にりぬ。からうじておもてげ得たりし貫一は、一時に発せる全身の疼通いたみに、精神やうやく乱れて、しばしば前後を覚えざらんとす。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
滿子がうつ向いて了ひ、そのあと、何を言つても顏をげようとしない、むつつりした状態を續けた。私はそのまま滿子を置いて三階から降りて行つた。
帆の世界 (旧字旧仮名) / 室生犀星(著)
私はふと顔をげると、その頬骨の尖端から顎骨の不気味な角度にかけて、あらゆる細部が瞭然はっきりと眼に映った。
誰? (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
「お父さん!」兄はしづかに頭をげた。平素は、黙々として反抗を示すだけの兄だつたが、今日は徹底的に云つて見ようといふ決心が、その口の辺に動いてゐた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
平和おだやか謂出いいいだせば、屠犬児は顔をげて、「何の雑作もござりませぬ。初手からそう出さっしゃれば、訳は無いに、余計なことに御騒ぎなされる。やれやれ。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二人の足音に眼を覚まし、ひょいと首をげたが、見知らぬ客の顔を見ると、驚いて逃げて去った。
黒猫十三 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
そのとき、流れあっているものを感じたように峯子が顔をげておだやかに真直な視線で慎一を見た。その峯子の瞳は日向で金ぽい茶色にかがやいている。慎一は美しいと思った。
杉垣 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
差俯向さしうつむき暫らく涙に沈み居たるが、漸く気を取直しておもてげ、袂から銭入を取出し
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
うして又、ヒステリーにったんでしょう。」と、冬子は不意に顔をげた。お葉に掴みこわされた前髪のひさしくずれたままで、掻上かきあげもせぬ乱れ髪は黒幕のように彼女かれの蒼い顔をとざしていた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
子供は意味を悟ったらしく、顔をげて恐る恐る父の眼の色を見た。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「お父さん!」兄はしずかに頭をげた。平素いつもは、黙々として反抗を示すだけの兄だったが、今日は徹底的にって見ようという決心が、その口の辺に動いていた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
と、顔をげてじっと主人を看る眼に、涙のさしぐみて、はふりちんとする時、またかしらを下げた。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
友はわずかにおもてげて、額越ひたいごしに検事代理の色をうかがいぬ。渠は峻酷しゅんこくなる法官の威容をもて
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
どうも骨格が違うの、是は妙だ、權六其の方は国で衆人の為めに宝物たからものを打砕いた事を予も聞いておるが、感服だのう、かしらげよ、おもてを上げよ、これ權六、權六、如何いかゞ致した、何も申さん、返答を
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
臨検の役人たちはそのとき一斉に、被疑者であるその男の方へ眼をつけたが、男は二人の看守に護られながら、しゃんと顔をげ、うしろへ両手を廻わして、相変らず傲然と突立っているのであった。
青蠅 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
「汝等ごときうじ虫が分に過ぎた言い分だ。弥吉、面をげい。」
お小姓児太郎 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
ここに至って客の老人としよりおもむろにこうべげた。艶やかにげた前頭からは光りが走った。其の澄んだ眼はチラリと主人を射た。が、又たちまちにかしらを少し下げて、低い調子の沈着な声で
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それとにはか心着こゝろづけば、天窓あたまより爪先まで氷を浴ぶる心地して、歯の根も合はずわなゝきつゝ、不気味にへぬ顔をげて、手燭ぼんぼりの影かすかに血の足痕あしあと仰見あふぎみる時しも、天井より糸を引きて一疋いつぴきの蜘蛛垂下たれさが
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
と何者かと首をげて見ると、筏乗市四郎でございます。
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
七歳八歳の時に、努力して僅にぐるを得たる塊石も、年長じ身大なるに至つては、容易に之を擡ぐるを得るものである。七歳八歳の我が、十五歳二十歳の我に及ばざりしは、明白である。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
滅入めいつたこゑして、のしよぼ/\したさびしいまゆげてつた。
月夜車 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
とまた手拭をねじっては涙をふき/\頭を
と残念そうな顔をしてずっと首をげました。
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)