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看護かんごひとつかれぬ、雪子ゆきこよわりぬ、きのふも植村うゑむらひしとひ、今日けふ植村うゑむらひたりとふ、かはひとへだてゝ姿すがたるばかり
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
わたしはつい四五日まえ西国さいこく海辺うみべに上陸した、希臘ギリシャの船乗りにいました。その男は神ではありません。ただの人間に過ぎないのです。
神神の微笑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
いきどおりを感じましたが、お手討ちにいました忍びの男には却って不便ふびんを催しましたので、たしかその明くる日のことでござりました。
怪しいと思って跡を付けて出て往って見ると、道でまた葬式とむらいって、それを段々調べて見るとわしの縁類の吉崎のおみわと云う娘で
「寝ている中に黴菌ばいきんをなすりつけられて盲目になった芸者もある。君江のような女は最後にはきっとそういう目にうだろう……。」
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ところがまた大分大きな石にいました。これはぜひ廻らなくてはいけない石ですのに、さはせずしてパッと飛踰とびこえて向うに行った。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
その風にって難破し、五六人の乗組の漁夫りょうしがみんな溺死して、その死体がそれから四五日もたってから隣村となりむらの海岸に漂著ひょうちゃくしましたが
少年と海 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
彼が今、しきりに督促にっている借財の口は都合三ツあって、それを片附けるには百弐拾円と少しなければならないのであった。
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
我は常に宮がなさけこまやかならざるを疑へり。あだかも好しこの理不尽ぞ彼が愛の力を試むるに足るなる。善し善し、盤根錯節ばんこんさくせつはずんば。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
この歌と並んで、「渡る日のかげにきほひて尋ねてな清きその道またもはむため」(巻二十・四四六九)という歌をも作っている。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
一時間許りで炭焼の男にったのを幸に、附近の山や谷の名称をただしているうちにまた雨が大降りとなったので、二時間許り小屋で過した。
初旅の大菩薩連嶺 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
虎一生一乳、乳必双虎と『類函』にも見ゆ、また人これにうもの敵勢をししばしば引いて曲路に至りすなわち避け去るべし。
河間王かかんわう宮殿きうでんも、河陰かいん亂逆らんぎやくうて寺院じゐんとなりぬ。たゞ堂觀廊廡だうくわんらうぶ壯麗さうれいなるがゆゑに、蓬莱ほうらい仙室せんしつとしてばれたるのみ。たんずべきかな。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
かく患者等かんじゃら理髪師とこやほかには、ただニキタ一人ひとり、それよりほかにはたれうことも、たれることもかなわぬ運命うんめいさだめられていた。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
死目にうとか遇わぬとかいうことは、世の普通の人にとってはこれ以上の大きな問題はないかも知れぬ。しかも六十の母親にとっては。
党生活者 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
此方が勝たなければ彼方が勝ち、彼方が負けなければ此方が負け、下手にまごつけば前の降間木につぐんだ時のやうな目にふのだらう。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
廊下に出ると動物学の方の野村教授が、外套の衣嚢かくしの辺で癖のように両手を拭きながら自分の研究室から出てくるのにった。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
そのときに友人が来ましてカーライルにったところが、カーライルがその話をしたら「実に結構な書物だ、今晩一読を許してもらいたい」
後世への最大遺物 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
彼女は一軒一軒を訪ね、う人ごとに懺悔をする。初め、人は笑っているが、後に気の毒がる。彼女はわたしのところへも懺悔をしに来た。
はしなくも幼友達の名をわが思い出の一齣ひとこまのうちにしるしとどめる折りにった。御輿を担ぐ面々はみな私の竹馬ちくばの友である。
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
○こゝに我が魚沼郡うをぬまごほり藪上やぶかみの庄の村より農夫のうふ一人柏崎かしはざきえきにいたる、此路程みちのり五里ばかりなり。途中にて一人の苧纑商人をがせあきびとひ、路伴みちづれになりてゆきけり。
老紳士は世間的には逸作の方に馴染なじみは深かったが、しかし、職務上からは、はじめてったかの女の方にかねがね関心を持っていたらしい。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
事に依ったら、女にって、女が己に許すのに、己は従わないで、そして女をなるべく侮辱せずに、なだめて慰藉いしゃして別れたら、面白かろう。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「誰も口にせぬ者はないが、誰も見たものはない。誰も聞いた事はあるが、誰もった者がない。大和魂はそれ天狗てんぐたぐいか」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私思うに学校時代はもっとも理想の高い時であるからであろう。理想さえ高ければ、如何いかなる困難にっても楽しむ事が出来る。
女子教育に就て (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「袂別する時に、初めて、ほんとうにえたのだ。」といえるような弁証法的な自分への対決を、自分に強いる時がある。
美学入門 (新字新仮名) / 中井正一(著)
ちょうどこんな時分に、こんな所で、三人の白髪婆さんにうんだ! 君が彼等を見ないうちに、向うから見つけられないように気をつけ給え。
今やこの開校の期にい、親しくその式にあずかる。故にいささか余が心情と冀望とを述べ、以てこの開校を祝するのことばと為す。
祝東京専門学校之開校 (新字新仮名) / 小野梓(著)
かく専門的の攻撃にひては余ら『康熙字典こうきじてん』位を標準とせし素人先生はその可否の判断すら為しかねて今は口をつぐむより外なきに至りたり。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
おりおり落葉の音が聞こえるばかり、あたりはしんとしていかにも淋しい。前にも後ろにも人影見えず、誰にもわず。
武蔵野 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
難なく相談が整ってそれから二人は一途いッしょに義興の手に加わろうとて出立し、ついに武蔵野で不思議な危難にったのだ。
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
岩手県の方にいる友からはこの頃、便たよりがなかった。釜石かまいしが艦砲射撃にい、あの辺ももう安全ではなさそうであった。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
それからしばらくって後、ルービンシュタインを訪ねたチャイコフスキーは、控室でハタと彼女にったことがある。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
「じゃ、僕が今ったのだ。僕は君とばっかり思ってた。いってから間がないから、まだ遠くへはいかないだろう。」
成仙 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
妊婦にんぷが早過ぎた埋葬にって、墓場の中で生き返り、生き返ったばかりか、その暗闇の中で分娩ぶんべんして、泣きわめく嬰児えいじいだいてもだえ死んだ話などは
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
木曾の森林にでも迷いいったようで、焼砂の富士、「ほうろく」を伏せた形の石山とは思われない。また白衣の道者の一群に、森の出口でゆきう。
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
旅で祭にった直樹は、方々の親類からばれて、出て行った。正太を始め、薬方の若衆も皆な遊びに出た。町の方がにぎやかなだけ、家の内は寂しい。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「かれも一個の志士であった。世にわない不幸児であった。もし、尊王討幕の実があがる暁はあっても、ついにかれは無名の一公卿に終るだろう」
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この固い決心のもとにマリーは遠くパリに赴き、姉にった上で、東寄りのある町に屋根裏の一室を借り、そこで極度に切りつめた生活を始めました。
キュリー夫人 (新字新仮名) / 石原純(著)
米国のカピテン・ブルックは帰国の後、たまたま南北戦争の起るにうて南軍に属し、一種の弾丸だんがん発明はつめいしこれを使用してしばしば戦功をあらわせしが
そして今日迄私にはどうしてもわからない人間だ。どうして九年の間どんな目につても我慢して一言も云はないでゐて、十年目にありつたけの鬱憤を
七郎丸は何か息苦しそうにのどを詰らせて熱い手で僕の手を握った。「ああ、君にってしまったらどう話をはじめて好いやら解らなくなってしまった。」
吊籠と月光と (新字新仮名) / 牧野信一(著)
その寺へ産婦が参詣さんけいして祈祷きとうを請うことになっておる。もし、門内に入りて初めて男子に会すれば、胎児は男と判じ、女子にえば女と判ずとのことだ。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
「ええ、来ましたよ、たった今お帰りになったばかりですから、そのへんでおいになったかも知れませんね」
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
痛みに堪えかねて、眼球を転ずることさえ叶わず、実に四苦八苦のめにいしも、もと捨てたりし命を図らずも拾いしに、予に於てごうも憂うるに足らず。
え返るような若い時代の連中で毎日進んで行くというような時代だから、二三日わないと何処かしら解らなくなって了うという風な毎日を送っていた。
回想録 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
木村の家来に島安太郎しまやすたろうと云う用人ようにんがある、ソレが海岸まで迎いに来て、私が一番先に陸にあがってその島にうた。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「主家の没落にって武士の意気地いきじを立てるには、そのほかに道もおざりませぬ。兄上、お察しくだされい」
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
青山小町とまでうたわれた娘を、こんなむごい目にわしやがった奴を、おめおめ生かしておくもんじゃねえ。
けれども決してそうでない! 先日病院の石垣の下でったことや家に道具一つないことや、いつもこうやって坐っていて、食物たべものを食った様子も見ないことや
老婆 (新字新仮名) / 小川未明(著)