)” の例文
彼は毎日海亀の脂や石焼の仔豚や人魚の胎児や蝙蝠の仔の蒸焼むしやきなどの美食にいているので、彼の腹は脂ぎってはらみ豚の如くにふくらんでいる。
南島譚:01 幸福 (新字新仮名) / 中島敦(著)
母子の為には幾許いかばかりさいはひなりけん。彼は貫一に就いて半点の疑ひをもれず、唯くまでもいとしき宮に心をのこして行けり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
帆は風にきて、舟は忽ち外海にはしり出で、我は艙板ふないたの上に坐して、藍碧なる波の起伏を眺め居たるに、傍に一少年のうづくまれるありて、ヱネチアの俚謠ひなうたを歌ふ。
りく菩提樹ぼだいじゅの蔭に「死の宗教」の花が咲いた印度のうみは、を求めてくことを知らぬ死の海である。烈しいあつさのせいもあろうが、印度洋は人の気を変にする。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
くことを知らない polypeポリイプ の腕に、自分は無意味のになっていだかれていたような心持がして、堪えられない程不愉快になって来るのである。そしてこう云った。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
肉体の欲にきて、とこしへに精神の愛に飢ゑたる放縦生活の悲愁ここにたたへられ、或は空想の泡沫ほうまつに帰するを哀みて、真理の捉へ難きにあこがるる哲人の愁思もほのめかさる。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
いや、やっぱり浮氣うはきがよい、そしたらひとすぐいてわしかへしてたもらうによって。
時々其音が自分と自分の単調にいたように、忽ちガアと慣れた調子を破り、凄じい、障子の紙の共鳴りのする程の音を立てて、勢込んで何処へか行きそうにして、忽ち物に行当ったように
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
くことを知らない嗜欲の脣の前に
常に飢ゑ、きがたき心の惱み
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
雌伏時代とは違って、今度こそ思い切り派手に此の娯しみに耽ることが出来る。金と権勢とにかして国内国外から雄雞の優れたものが悉く集められた。
盈虚 (新字新仮名) / 中島敦(著)
かず、饜かず、彼の慾はこの日より益急になりて、既に自ら心事の不徳を以つて許せる身を投じて、唯快く万事を一事に換へてまん、と深くも念じたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
諸君よ、わが持てる限の物をば、悉く贈るべし、されどおん身等をかしむるに足らざるこそ氣の毒なれと答へて、われは進寄りつゝ、手を我衣兜かくしにさしみたり。
さけますやまべなぞは持ちきれぬ程釣れて、草原にうっちゃって来ることもあり、銃を知らぬ山鳥はうてば落ちうてば落ちして、うまいものゝためしにもなる山鳥の塩焼にもいて了まった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
それが氣懸きがゝりゆゑ、おれゃもうけっしてこのやみやかたはなれぬ。そなた侍女こしもと蛆共うじどもと一しょにおれ永久いつまで此處こゝにゐよう。おゝ、いまこゝで永劫安處えいがふあんじょはふさだめ、憂世うきよてたこの肉體からだから薄運ふしあはせくびき振落ふりおとさう。
夫は心たけく、人のうれひを見ること、犬のくさめの如く、唯貪ただむさぼりてくを知らざるに引易へて、気立きだて優しとまでにはあらねど、鬼の女房ながらも尋常の人の心はてるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
長老は、自分でも予期しなかった程の慇懃いんぎんな言葉で、下男に向い、彼が健康を回復した次第を尋ねた。下男は詳しく夢のことを語った。如何に彼が夜毎美食にき足るか。
南島譚:01 幸福 (新字新仮名) / 中島敦(著)
色と動と音と千変万化の無尽蔵たる海洋のほとり。野にいた彼には、此等のものが時々まぼろしの如く立現われる。然しながらかりにサハラ、ゴビの一切水に縁遠い境に住まねばならぬとなったら如何どうであろう。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)