)” の例文
黒一楽くろいちらく三紋みつもん付けたる綿入羽織わたいればおり衣紋えもんを直して、彼は機嫌きげん好く火鉢ひばちそばに歩み寄る時、直道はやうやおもてげて礼をせり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
奴のいまだ答えざるに先だちて、御者はきと面をげ、かすかになれる車の影を見送りて
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
七徳の舞には首を俛し、九功の舞には顏をげるのは、魏徴一人に限らぬ。かかる國民が始皇の攘夷拓地を以て、兵を窮め武を涜すものとして、贊成せぬのも無理ならぬことである。
秦始皇帝 (旧字旧仮名) / 桑原隲蔵(著)
白糸はその手にみ着き、片手には庖丁振りげて、再び柄をもて渠の脾腹ひばらくらわしぬ。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
宮は千条ちすぢの緑の陰より、その色よりはやや白きおもてあらはして、追来る人をと見たりしが、つひに疲れて起きも得ざる貫一の、唯手をげてはるかむるを、ゆるし給へと伏拝ふしをがみて、つと茂のうちに隠れたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
吾妻下駄あずまげたの音は天地の寂黙せきもくを破りて、からんころんと月に響けり。渠はその音の可愛おかしさに、なおしいて響かせつつ、橋のなかば近く来たれるとき、やにわに左手ゆんでげてその高髷たかまげつか
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
父が前にかしられて、たやすげぬ彼のおもては熱き涙におほはるるなりき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)