)” の例文
当時、皇后陛下でらせられた皇太后様は、毎年文展に行啓あらせられ、殊のほか絵画に御興深くあらせられるように拝されました。
つとに祖父の風ありといわれた騎射きしゃの名手で、数年前から騎都尉きといとして西辺の酒泉しゅせん張掖ちょうえきってしゃを教え兵を練っていたのである。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
澤は、自分と同じような恵まれない境遇にる養子に対して、素直な同情はせんから持っていたが、恋らしい心持は最近までなかった。
九月一日 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
私の見つめている豪奢悦楽は地上にり得ず、歴史的にも在り得ず、ただ私の生活の後側にあるだけだ。背中合せに在るだけだった。
いずこへ (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
彼の本舞台は、降霊術の暗闇の世界にったのだ。悪魔の触手は、遠くから近くへと、徐々に我が黒川博士の身辺に迫って来たのだ。
悪霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
こゝでは、誰と成績を競ふこともなく、伊藤も、ばア様も、川島舎監長も、下駄屋の亭主もゐなかつた。るものはたゞ解放であつた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
日本のほかに、そういう大きな国々もほんとにるのだということを——漠然とではあるが——一般に知られかけてきた時代である。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
權「お前辛抱しなよ、お女郎買におっぱまってはいかねえよ、国と違ってお女郎が方々にるから、随分身体を大事でえじにしねば成んねえ」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
敬太郎の考えではこれから浅草橋へ出る間には、一軒や二軒の易者はあるだろう。もしったら何でも構わないから入る事にしよう。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
庭中ていちゆう池のほとりに智勇の良将宇佐美駿河守刃死じんし古墳こふんりしを、先年牧之老人施主せしゆとしてあらた墓碑ぼひたてたり。不朽ふきう善行ぜんぎやうといふべし。
屏風びょうぶとか双六盤すごろくばんとかは、もとは京鎌倉きようかまくらの家々だけにるもので、ひさしく名はきいて見たことのないという女や子どもが多かった。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
郷愁はるものを思慕する情をいうのである。再び見るべからざるものを見ようとする心は、これを名づけてそも何と言うべき
草紅葉 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
今朝は日曜なれば家にれど、心は楽しからず。エリスはとこすほどにはあらねど、さき鉄炉てつろほとり椅子いすさし寄せて言葉すくなし。
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
法然が小松殿の御堂にった時、元久元年三月十四日律師が訪ねて行った。法然は後戸しりどに出迎えて、ふところから一巻の書を取り出して
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
吟味ぎんみせしに殘金十一兩りたり是を思へば文右衛門盜賊たうぞくでなき事は明白めいはくなり斯程かほどに證據ある上は汝何程陳ずる共せんなき事ぞいたき思ひを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
腐敗くさり易き盛りと云いことに我国には仏国巴里府ぱりふルー、モルグにる如き死骸陳列所の設けも無きゆえ何時いつまでも此儘このまゝに捨置く可きに非ず
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
べて神聖しんせいものはてよろこびる。われらがしゆきみはこのあかいばらうへに、このわがくちに、わがまづしい言葉ことばにも宿やどつていらせられる。
船室にりて憂目うきめいし盲翁めくらおやじの、この極楽浄土ごくらくじょうど仏性ほとけしょうの恩人と半座はんざを分つ歓喜よろこびのほどは、しるくもその面貌おももちと挙動とにあらわれたり。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今日われわれがるところの緯度は北緯八十度五十二分で、これはすなわち氷群に南からの強い潮流がまじっていることを示すのである。
かの女はそういうものがまれにはかの女の遠方えんぽうるのを感じる。しかし遠いものは遠いものとしてはるかに尊敬の念を送って居たい。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
けつしておろかなる船長せんちやうふがごとき、怨靈おんれうとかうみ怪物ばけものとかいふやう得可うべからざるものひかりではなく、りよくこう兩燈りようとうたしかふね舷燈げんとう
「お前たちに見せてやりたかったなあ。その仲のえ事というものは……お前たちは人間に生れながら新婚旅行なんてした事あるめえ」
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
彼の出できたる、継嗣論その楔子せっしたる疑うまでもなし。当時くらいきわめ、おごりを極め、徳川の隆運を極めたる家斉いえなりの孫家定、将軍の位にり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
建文二年(1400)よりタメルランはオットマン帝国を攻めしが、外にる五年にして、永楽二年(1404)サマルカンドにかえりぬ。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
この三上にる間はわれわれは他の仕事をしたくてもできない。しかしまた一方から見ると非常に自由な解放されたありがたい境地である。
路傍の草 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「われわれが教育読本のために求めるのは、背後になんら正しからぬものをかくしておらぬ率直な物語のもつまことのうちにる清浄無垢である」
『グリム童話集』序 (新字新仮名) / 金田鬼一(著)
わたし其時そのときまさに、日本國にほんこくといふ範圍内はんゐないつては、同郷どうきやう同藩どうはん同縣どうけんなどいふ地方的偏見ちはうてきへんけんから離脱りだつしたコスモポリタンであつた。
感傷のりかたが、諦念に到達する過程が、心境の動きが、あきらかに公式化せられています。かならずお手本があるのです。
風の便り (新字新仮名) / 太宰治(著)
ことに変わったのは梅子に対する挙動ふるまいで、時によると「馬鹿者! 死んでしまえ、貴様きさまるお蔭で乃公おれは死ぬことも出来んわ!」
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
JOAKのある愛宕山あたごやまは、東京の中心、丸の内を、僅かに南に寄ったところにった。それは山というほど高いものではない。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
吉野にばかりったのでなく、皇居はしばしば移っていること、また京方の諸院が、吉野朝の皇居に軒を並べて御座ござあったこともあるのは
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
ふゆ季節きせつほこりいて西風にしかぜ何處どこよりもおつぎのいへ雨戸あまど今日けふたぞとたゝく。それはむら西端せいたんるからである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
又彼の妻としても、一度に三四十円も出す力は持って居なかった。従って一疋六十円以上もする大島は、当然譲吉夫婦の購買力の上にった。
大島が出来る話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
こらえしょうというものが全くなく、怒りだすと手がつけられない。身のまわりにるものなら飯櫃めしびつでも、金魚鉢でも手あたり次第に投げつける。
南方郵信 (新字新仮名) / 中村地平(著)
四六ばんから四六ばいの雑誌にうつまでには大分だいぶ沿革えんかくが有るのですが、今はく覚えません、印刷所いんさつじよ飯田町いひだまち中坂なかさか同益社どうえきしやふのにへて
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
そして、それが出来上るとその翌日、七里も先方さき牧場まきばへ庄吉をつれて行つて、豚の一番ひとつがひ荷車に乗せて運んで来た。
新らしき祖先 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
「能う限り罪の少なからんことこそ、人の法なれ。全く罪の無きは天使の夢想なり。地上にりと在るものは皆罪を伴う。罪は一の引力なり。」
と、これつたことばです、智者ちしや哲人てつじんしくは思想家しさうかたるものゝ、他人たにんことなところてんは、すなはこゝるのでせう、苦痛くつうかろんずるとことに。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
唇は微笑んで「MRミスタ・タチバナ、あなたは私を覚えていて下さるか?」とあの英国大使館で別れる時に微笑まれたりし日のおもかげそのままであった。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
ここでちょっと申添もうしそえてきたいのは、わたくし修行場しゅぎょうば右手みぎてやま半腹はんぷくる、あのちいさい竜神りゅうじんやしろのことでございます。
黎元れいぐわん撫育むいくすることやや年歳としを経たり。風化ふうくわなほようして、囹圄れいごいまむなしからず。通旦よもすがらしんを忘れて憂労いうらうここり。頃者このごろてんしきりあらはし、地しばしば震動す。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
そういう春次も信者の一人であり、その人相見の予言のとおりに、過去はもちろん現在の彼女の運命がるのであった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
またあへ(五八)横失わういつしてつくすのかたきにあらざるなりおよぜいかたきは、(五九)ところこころつて(六〇)ぜいもつこれきにり。
お種や三吉の生れた小泉の家は、橋本の家とは十里ほど離れて、丁度この谿谷たにの尽きようとするところにった。その家でお種は娘の時代を送った。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
もし神りとせば義者に患難を下し給うは何故なにゆえか——およそこれらの疑問が彼の心霊を圧倒すべく臨んだのである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
燃えるようなまなざしで、馬道裏うまみちうらの、路地の角にる柳の下にったのは、せいの高い歌麿と、小男の亀吉だった。亀吉は麻の葉の手拭で、頬冠ほおかぶりをしていた。
歌麿懺悔:江戸名人伝 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
全体私ども儀は尽忠報国の志士、依て今般御召に相応じ去る二月遙々上京仕り、皇命御尊載、夷侠攘斥の御英断承知仕りき存志にて滞京まかり候。
新撰組 (新字新仮名) / 服部之総(著)
本来宣教師せんきょうしにして久しく函館はこだてり、ほぼ日本語にもつうじたるを以て仏公使館の訳官となりたるが、これまた政府にちかづきて利したることすくなからず。
印刷機械のさび付きそうな会社の内部にって、利平達は、職長仲間の団体をつくって、この争議に最初の間は「公平なる中立」の態度を持すと声明していた。
(新字新仮名) / 徳永直(著)
これこそ真に日本アルプスであると言って、帽子を振って、おどり上っていたそうだ、その森林は今いずくにる。
上高地風景保護論 (新字新仮名) / 小島烏水(著)