)” の例文
旧字:
「ところで、此辺は武家屋敷ばかりで、容易に眼は届くまいが、今朝けてから間もなく此辺に荷車が居た筈だが、訊いておくれ」
ければ颯々さっさつの秋風ばかりいて、所々の水辺に、寒げに啼く牛の仔と、灰色の空をかすめるこうの影を時たまに仰ぐくらいなものであった。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ず、春の朝のそれも若葉しぐれのけ方と云った調子、七月も半ばはとうに過ぎた、二十四日とは、まるで感じがちがう。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
木枯しはけ方から止んでいたが、針を含んでいるような朝の空気は身にしみて、又次郎は一種の武者ぶるいを感じた。
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
うらめしいような腹立たしいような、やるせない思いに疲れた神経の興奮が、しっとりしたがた涼気すずけに、やっとすやすややされたのであった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
だからがたになってようやく通行人が、電気看板の上端じょうたんからのぞいている蒼白あおじろはぎや、女の着衣ちゃくいの一部や、看板の下から生首なまくびころがしでもしたかのように
電気看板の神経 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それは、父のことなんですけど、とうに母の口からお聴きかもしれませんが、ここ十四、五日の間というものは、きまってけ方になると、五時を跨いで戸外に出るのです。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
そして、けがたになってその猫の声がぴたりとやむと同時に、令弟が呼吸を引きとった。
屋根の上の黒猫 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
け方の三時に起きて来て、私に立ち退くように説得するために、金を持って来ました。
小鳥たちに至っては、これはもう、か星の消えやらぬうちから、夕つづの落ちかかるまで、時を惜しんで歌いつ舞いつ……杜鵑や慈悲心のように、夜の目も寝ない手合いさえある。
ある偃松の独白 (新字新仮名) / 中村清太郎(著)
「今朝、がたに、袖ノ井が、自害して果てましたんで……」
秋のそら殊に未だけず
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そして、蹴上けあげの辺りに、茫乎ぼうとしてたたずんでいる間に、京の町々の屋根、加茂の水は、霧の底からっすらとけかけて来た。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雨の日のけ方はうすら寒い、洗面の御湯をもって来て呉れるナースの手を取って、ラ・ボヘーメのロドルフォのように
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
半七は町内の湯屋へ行って、け方からの小雨こさめのなかを帰って来ると、格子の内に女の傘と足駄あしだが見いだされた。
半七捕物帳:64 廻り灯籠 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
け方に大雨が降って、あくる朝は綺麗に晴れた。やがて亀吉は顔を出したが、彼はあまり元気が好くなかった。
半七捕物帳:66 地蔵は踊る (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そういう煩悩や頭のにごりを清掃するためにも、朝ごとの勤行ごんぎょうは、彼自身に必要であった。その声は大きく、彼の声からひる小島こじまけるといってよかった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
け方は、窓硝子にしっとりと露を置いて、抑せば冷たい山の空気が、草の香をまじえて流れこむ。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
「されば、月のあきらかなるまま、夜がけたかと思って啼いたのでしょう」と、早速に答えた。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
弥兵衛がけ七ツの見まわりを済ませた後、彼はのみつちとをたずさえて小屋の内へ忍び込んだ。
半七捕物帳:65 夜叉神堂 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ゆうべの雨かぜもけ方からからりと晴れて、きょうはぬぐったような青空を見せていた。
その頃やっと、江戸橋、日本橋の欄干に、ほんのり、けのくれないが染まりかけていた。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
表はもう薄明るくなっていたが、店の奥にはけの灯の影が微かにゆらめいていた。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「兵糧は山崎か。いや夜が短いから、海印寺かいいんじあたりでけるだろうな」
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その晩もけ七ツに見まわった時まで無事であったと云うのですが、弥兵衛ももう年寄りですから、寝ごころのいい春の夜にうっかり寝込んでしまったか、それとも初めから横着を極めて
半七捕物帳:65 夜叉神堂 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
されば、凡夫ぼんぷわれらには、けては、兵馬を見、ともしては書に親しみ、血腥ちなまぐさい中にあるほど、歌心も、欲しいとするのじゃ。平易に申せば、身ひとつに文武ふたつをあわせ持つこと。至極やさしい。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
七月三日のけ方、勝久は、いさぎよく切腹を遂げた。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
杉林の上が水色にけてきた。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)