中原中也
1907.04.29 〜 1937.10.22
“中原中也”に特徴的な語句
夜
遐
汝
汝
蹲
奴
彼方
眼
扨
脣
裡
上
開
眼
去
方
接唇
這入
可笑
明
肖顔
厳
涕
湛
音
顫
穢
眼眸
黄昏
家
床
茲
玩具
卓子
嗤
梁
更
欧羅巴
蒼
蜘蛛
技
恰度
睡
尠
道化
汝
外
炎
魚
甍
著者としての作品一覧
Me Voilà:―― à Cobayashi(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
人がいかにもてなしてくれようとも、それがたゞ暖い色をした影に見え、自分が自分で疑はれるほど、淋しさの中に這入つた時、人よ憶ひ出さないか?かの、君が幼な時汽車で通りかゝつた小山の裾の …
読書目安時間:約1分
人がいかにもてなしてくれようとも、それがたゞ暖い色をした影に見え、自分が自分で疑はれるほど、淋しさの中に這入つた時、人よ憶ひ出さないか?かの、君が幼な時汽車で通りかゝつた小山の裾の …
秋の日曜(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
私の部屋の、窓越しに みえるのは、エヤ・サイン 軽くあがつた二つの気球 青い空は金色に澄み、 そこから茸の薫りは生れ、 娘は生れ夢も生れる。 でも、風は冷え、 街はいつたいに雨の翌 …
読書目安時間:約1分
私の部屋の、窓越しに みえるのは、エヤ・サイン 軽くあがつた二つの気球 青い空は金色に澄み、 そこから茸の薫りは生れ、 娘は生れ夢も生れる。 でも、風は冷え、 街はいつたいに雨の翌 …
(あなたが生れたその日に)(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
あなたが生れたその日に ぼくはまだ生れてゐなかつた 途中下車して 無効になつた切符が 古洋服のカクシから出て来た時 恐らく僕は生れた日といふもの …
読書目安時間:約1分
あなたが生れたその日に ぼくはまだ生れてゐなかつた 途中下車して 無効になつた切符が 古洋服のカクシから出て来た時 恐らく僕は生れた日といふもの …
在りし日の歌:亡き児文也の霊に捧ぐ(新字旧仮名)
読書目安時間:約32分
なにゆゑにこゝろかくは羞ぢらふ 秋風白き日の山かげなりき 椎の枯葉の落窪に 幹々はいやにおとなび彳ちゐたり 枝々の拱みあはすあたりかなしげの 空は死児等の亡霊にみちまばたきぬ をり …
読書目安時間:約32分
なにゆゑにこゝろかくは羞ぢらふ 秋風白き日の山かげなりき 椎の枯葉の落窪に 幹々はいやにおとなび彳ちゐたり 枝々の拱みあはすあたりかなしげの 空は死児等の亡霊にみちまばたきぬ をり …
アンドレ・ジイド管見(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
ジイドの芸術活動の始つたのは、凡そかのデカダン一派の淋れる頃からだと云ふことが出来る。 思ふにデカダン芸術が好調子であつた時といふのは、猶実生活人の側に健康の或物が可なりに存し、そ …
読書目安時間:約4分
ジイドの芸術活動の始つたのは、凡そかのデカダン一派の淋れる頃からだと云ふことが出来る。 思ふにデカダン芸術が好調子であつた時といふのは、猶実生活人の側に健康の或物が可なりに存し、そ …
医者と赤ン坊(新字旧仮名)
読書目安時間:約6分
午前からの来診患者が一先づ絶えたので、先刻から庭木に鋏を入れてゐた医者が、今居間に帰つて来た所だ。 窮屈さうに、紫檀の卓に頬肘を突いて、今まで其処に自分のゐた庭に、障子の中硝子を透 …
読書目安時間:約6分
午前からの来診患者が一先づ絶えたので、先刻から庭木に鋏を入れてゐた医者が、今居間に帰つて来た所だ。 窮屈さうに、紫檀の卓に頬肘を突いて、今まで其処に自分のゐた庭に、障子の中硝子を透 …
いちじくの葉(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
夏の午前よ、いちじくの葉よ、 葉は、乾いてゐる、ねむげな色をして 風が吹くと揺れてゐる、 よわい枝をもつてゐる…… 僕は睡らうか…… 電線は空を走る その電線からのやうに遠く蝉は鳴 …
読書目安時間:約1分
夏の午前よ、いちじくの葉よ、 葉は、乾いてゐる、ねむげな色をして 風が吹くと揺れてゐる、 よわい枝をもつてゐる…… 僕は睡らうか…… 電線は空を走る その電線からのやうに遠く蝉は鳴 …
いちぢくの葉:〔夏の午前よ〕(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
夏の午前よ、いちぢくの葉よ、 葉は、乾いてゐる、ねむげな色をして 風が吹くと揺れてゐる、 よはい枝をもつてゐる…… 僕は睡らうか…… 電線は空を走る その電線からのやうに遠く蝉は鳴 …
読書目安時間:約1分
夏の午前よ、いちぢくの葉よ、 葉は、乾いてゐる、ねむげな色をして 風が吹くと揺れてゐる、 よはい枝をもつてゐる…… 僕は睡らうか…… 電線は空を走る その電線からのやうに遠く蝉は鳴 …
一度(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
結果から結果を作る 飜訳の悲哀—— 尊崇はたゞ 道中にありました 再び巡る道は 「過去」と「現在」との沈黙の対坐です 一度別れた恋人と またあたらしく恋を始めたが 思ひ出と未来での …
読書目安時間:約1分
結果から結果を作る 飜訳の悲哀—— 尊崇はたゞ 道中にありました 再び巡る道は 「過去」と「現在」との沈黙の対坐です 一度別れた恋人と またあたらしく恋を始めたが 思ひ出と未来での …
海の詩:――人と海――(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
こころまゝなる人間は、いつでも海が好きなもの! これは、ボオドレエルの「人と海」といふ詩の、第一行である。海と聞くたびに、海を見るたびに、この歌を思ひ出すから、以下私は此の詩を辿り …
読書目安時間:約4分
こころまゝなる人間は、いつでも海が好きなもの! これは、ボオドレエルの「人と海」といふ詩の、第一行である。海と聞くたびに、海を見るたびに、この歌を思ひ出すから、以下私は此の詩を辿り …
幼き恋の回顧(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
幼き恋は 寸燐の軸木 燃えてしまへば あるまいものを 寐覚めの囁きは 燃えた燐だつた また燃える時が ありませうか アルコールのやうな夕暮に 二人は再びあひました—— 圧搾酸素でも …
読書目安時間:約1分
幼き恋は 寸燐の軸木 燃えてしまへば あるまいものを 寐覚めの囁きは 燃えた燐だつた また燃える時が ありませうか アルコールのやうな夕暮に 二人は再びあひました—— 圧搾酸素でも …
思ひ出す牧野信一(新字旧仮名)
読書目安時間:約6分
牧野信一が縊死した。原因が何であるか、私は知らない。新聞に拠れば、神経衰弱が原因だし、宇野女史との恋愛なぞといふことも一寸載つてゐたが、どれも直ちに信じる気にはなれない。仮りに正し …
読書目安時間:約6分
牧野信一が縊死した。原因が何であるか、私は知らない。新聞に拠れば、神経衰弱が原因だし、宇野女史との恋愛なぞといふことも一寸載つてゐたが、どれも直ちに信じる気にはなれない。仮りに正し …
音楽と世態(新字旧仮名)
読書目安時間:約7分
近頃は音楽界は盛んであるやうだ。演奏方面は勿論として、作曲家も没々出て来る。——つまり音楽界は盛んであるのだ。そこで音楽は盛んであるか如何。 そこらのお坊つちやんが、——まあ、お坊 …
読書目安時間:約7分
近頃は音楽界は盛んであるやうだ。演奏方面は勿論として、作曲家も没々出て来る。——つまり音楽界は盛んであるのだ。そこで音楽は盛んであるか如何。 そこらのお坊つちやんが、——まあ、お坊 …
(女)(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
女 吸取紙を早くかせ 恵まれぬものが何処にある? マッチの軸を小さく折つた 女 自分は道草かしら 女は摘草といふも勿体ないといつた 俺は女の目的を知らないのださうだ 原因なしの涙な …
読書目安時間:約1分
女 吸取紙を早くかせ 恵まれぬものが何処にある? マッチの軸を小さく折つた 女 自分は道草かしら 女は摘草といふも勿体ないといつた 俺は女の目的を知らないのださうだ 原因なしの涙な …
(概念が明白となれば)(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
概念が明白となれば それの所産は観念でした 観念の恋愛とは 焼砂ですか 紙で包んで 棄てませう 馬鹿な美人 人間に倦きがなかつたら 彼岸の見えない川があつたら 反省は咏嘆を生むばか …
読書目安時間:約1分
概念が明白となれば それの所産は観念でした 観念の恋愛とは 焼砂ですか 紙で包んで 棄てませう 馬鹿な美人 人間に倦きがなかつたら 彼岸の見えない川があつたら 反省は咏嘆を生むばか …
家族(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
朝な朝な、東の空の紫色の雲の中に、一つの家族がありました。 まづお婆さんが目を覚まし、家中のお掃除を始めます。恰度その時女中は台所で、竈の下を焚き付けてゐます。お婆さんはお掃除が好 …
読書目安時間:約2分
朝な朝な、東の空の紫色の雲の中に、一つの家族がありました。 まづお婆さんが目を覚まし、家中のお掃除を始めます。恰度その時女中は台所で、竈の下を焚き付けてゐます。お婆さんはお掃除が好 …
(過程に興味が存するばかりです)(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
過程に興味が存するばかりです それで不可ないと言ひますか 生活の中の恋が 原稿紙の中の芸術です 有限の中の無限は 最も有限なそれでした 君の頭髪を一本一本数へて それから人にお告げ …
読書目安時間:約1分
過程に興味が存するばかりです それで不可ないと言ひますか 生活の中の恋が 原稿紙の中の芸術です 有限の中の無限は 最も有限なそれでした 君の頭髪を一本一本数へて それから人にお告げ …
(仮定はないぞよ!)(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
仮定はないぞよ! 先天的観念もないぞよ! 何にもない所から組立てゝ行つて 先天的観念にも合致したがね 理窟が面倒になつたさ 屋根みたいなものさ 意識した親切は持たないがね 忠告する …
読書目安時間:約1分
仮定はないぞよ! 先天的観念もないぞよ! 何にもない所から組立てゝ行つて 先天的観念にも合致したがね 理窟が面倒になつたさ 屋根みたいなものさ 意識した親切は持たないがね 忠告する …
金沢の思ひ出(新字旧仮名)
読書目安時間:約6分
私が金沢にゐたのは大正元年の末から大正三年の春迄である。住んでゐたのは野田寺町の照月寺(字は違つてゐるかも知れない)の真前、犀川に臨む庭に、大きい松の樹のある家であつた。その松の樹 …
読書目安時間:約6分
私が金沢にゐたのは大正元年の末から大正三年の春迄である。住んでゐたのは野田寺町の照月寺(字は違つてゐるかも知れない)の真前、犀川に臨む庭に、大きい松の樹のある家であつた。その松の樹 …
河上に呈する詩論(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
子供の時に、深く感じてゐたもの、——それを現はさうとして、あまりに散文的になるのを悲しむでゐたものが、今日、歌となつて実現する。 元来、言葉は説明するためのものなのを、それをそのま …
読書目安時間:約2分
子供の時に、深く感じてゐたもの、——それを現はさうとして、あまりに散文的になるのを悲しむでゐたものが、今日、歌となつて実現する。 元来、言葉は説明するためのものなのを、それをそのま …
玩具の賦:昇平に(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
どうともなれだ 俺には何がどうでも構はない どうせスキだらけぢやないか スキの方を減さうなんてチヤンチヤラ可笑しい 俺はスキの方なぞ減らさうとは思はぬ スキでない所をいつそ放りつぱ …
読書目安時間:約3分
どうともなれだ 俺には何がどうでも構はない どうせスキだらけぢやないか スキの方を減さうなんてチヤンチヤラ可笑しい 俺はスキの方なぞ減らさうとは思はぬ スキでない所をいつそ放りつぱ …
感情喪失時代(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
現代は、「不安の時代」だと云はれる。之に対して或人は理智の欠乏がその原因だといひ、或人は共通信条の不在を嘆いてゐる。みんなそれぞれ理由のある所であらうが、原因はいざ知らず、見渡した …
読書目安時間:約4分
現代は、「不安の時代」だと云はれる。之に対して或人は理智の欠乏がその原因だといひ、或人は共通信条の不在を嘆いてゐる。みんなそれぞれ理由のある所であらうが、原因はいざ知らず、見渡した …
感想(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
地方の詩のグループも多いことだが、どういふものか、ずつと以前から大連と神戸にだけ面白いものが見られるのだつた。京都は嘗つて小生自身二年間ゐて、詩人にとつては有難い土地だと思つてゐる …
読書目安時間:約1分
地方の詩のグループも多いことだが、どういふものか、ずつと以前から大連と神戸にだけ面白いものが見られるのだつた。京都は嘗つて小生自身二年間ゐて、詩人にとつては有難い土地だと思つてゐる …
菊岡久利著「貧時交」(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
私自身とは、詩に於けるたてまへも大分相違してゐるにも拘らず、私は此の詩集を、気持よく読んだことを告白しなければならない。先づ第一に、是等の詩を書いた人は豊富である。従つてセンチメン …
読書目安時間:約2分
私自身とは、詩に於けるたてまへも大分相違してゐるにも拘らず、私は此の詩集を、気持よく読んだことを告白しなければならない。先づ第一に、是等の詩を書いた人は豊富である。従つてセンチメン …
近時詩壇寸感(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
詩論か何かさういつた風のものを書けと云はれるたびに、書くことはいくらでもあるやうな気持と、書くことは何にもないやうな気持に襲はれます。さて暫く案じた揚句、大抵はお断りすることとなる …
読書目安時間:約4分
詩論か何かさういつた風のものを書けと云はれるたびに、書くことはいくらでもあるやうな気持と、書くことは何にもないやうな気持に襲はれます。さて暫く案じた揚句、大抵はお断りすることとなる …
草野心平詩集『母岩』(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
草野心平君の第三詩集『母岩』が出た。 草野君の感覚は非常に正確なものである。そして草野君の仕事は何時も感覚第一になされてゐる。このことは、詩の道として、最も健全なことである。彼は、 …
読書目安時間:約2分
草野心平君の第三詩集『母岩』が出た。 草野君の感覚は非常に正確なものである。そして草野君の仕事は何時も感覚第一になされてゐる。このことは、詩の道として、最も健全なことである。彼は、 …
雲(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
山の上には雲が流れてゐた あの山の上で、お弁当を食つたこともある…… 女の子なぞといふものは 由来桜の花弁のやうに、 欣んで散りゆくものだ 近い過去も遠いい過去もおんなじこつた 近 …
読書目安時間:約1分
山の上には雲が流れてゐた あの山の上で、お弁当を食つたこともある…… 女の子なぞといふものは 由来桜の花弁のやうに、 欣んで散りゆくものだ 近い過去も遠いい過去もおんなじこつた 近 …
曇つた秋(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
或る日君は僕を見て嗤ふだらう、 あんまり蒼い顔してゐるとて、 十一月の風に吹かれてゐる、無花果の葉かなんかのやうだ、 棄てられた犬のやうだとて。 まことにそれはそのやうであり、 犬 …
読書目安時間:約3分
或る日君は僕を見て嗤ふだらう、 あんまり蒼い顔してゐるとて、 十一月の風に吹かれてゐる、無花果の葉かなんかのやうだ、 棄てられた犬のやうだとて。 まことにそれはそのやうであり、 犬 …
暗い天候(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
こんなにフケが落ちる、 秋の夜に、雨の音は トタン屋根の上でしてゐる…… お道化てゐるな—— しかしあんまり哀しすぎる。 犬が吠える、虫が鳴く、 畜生!おまへ達には社交界も世間も、 …
読書目安時間:約1分
こんなにフケが落ちる、 秋の夜に、雨の音は トタン屋根の上でしてゐる…… お道化てゐるな—— しかしあんまり哀しすぎる。 犬が吠える、虫が鳴く、 畜生!おまへ達には社交界も世間も、 …
桑名の駅(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
桑名の夜は暗かつた 蛙がコロコロ鳴いてゐた 夜更の駅には駅長が 綺麗な砂利を敷き詰めた プラットホームに只独り ランプを持つて立つてゐた 桑名の夜は暗かつた 蛙がコロコロ泣いてゐた …
読書目安時間:約1分
桑名の夜は暗かつた 蛙がコロコロ鳴いてゐた 夜更の駅には駅長が 綺麗な砂利を敷き詰めた プラットホームに只独り ランプを持つて立つてゐた 桑名の夜は暗かつた 蛙がコロコロ泣いてゐた …
芸術論覚え書(新字旧仮名)
読書目安時間:約18分
一、「これが手だ」と、「手」といふ名辞を口にする前に感じてゐる手、その手が深く感じられてゐればよい。 一、名辞が早く脳裡に浮ぶといふことは尠くも芸術家にとつては不幸だ。名辞が早く浮 …
読書目安時間:約18分
一、「これが手だ」と、「手」といふ名辞を口にする前に感じてゐる手、その手が深く感じられてゐればよい。 一、名辞が早く脳裡に浮ぶといふことは尠くも芸術家にとつては不幸だ。名辞が早く浮 …
倦怠者の持つ意志(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
タタミの目 時計の音 一切が地に落ちた だが圧力はありません 舌がアレました ヘソを凝視めます 一切がニガミを帯びました だが反作用はありません 此の時 夏の日の海が現はれる! 思 …
読書目安時間:約1分
タタミの目 時計の音 一切が地に落ちた だが圧力はありません 舌がアレました ヘソを凝視めます 一切がニガミを帯びました だが反作用はありません 此の時 夏の日の海が現はれる! 思 …
倦怠に握られた男(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
俺は、俺の脚だけはなして 脚だけ歩くのをみてゐよう—— 灰色の、セメント菓子を噛みながら 風呂屋の多いみちをさまよへ—— 流しの上で、茶碗と皿は喜ぶに 俺はかうまで三和土の土だ—— …
読書目安時間:約1分
俺は、俺の脚だけはなして 脚だけ歩くのをみてゐよう—— 灰色の、セメント菓子を噛みながら 風呂屋の多いみちをさまよへ—— 流しの上で、茶碗と皿は喜ぶに 俺はかうまで三和土の土だ—— …
恋の後悔(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
正直過ぎては不可ません 親切過ぎては不可ません 女を御覧なさい 正直過ぎ親切過ぎて 男を何時も苦しめます だが女から 正直にみえ親切にみえた男は 最も偉いエゴイストでした 思想と行 …
読書目安時間:約1分
正直過ぎては不可ません 親切過ぎては不可ません 女を御覧なさい 正直過ぎ親切過ぎて 男を何時も苦しめます だが女から 正直にみえ親切にみえた男は 最も偉いエゴイストでした 思想と行 …
耕二のこと(新字旧仮名)
読書目安時間:約13分
主家で先刻から、父と母との小言らしい声がしてゐた。時々その声の間から、調子の高い耕二の声が聞えた。 それが聞えなくなつてから間もなくして、その時書斎で読書してゐた耕二の兄は、机の前 …
読書目安時間:約13分
主家で先刻から、父と母との小言らしい声がしてゐた。時々その声の間から、調子の高い耕二の声が聞えた。 それが聞えなくなつてから間もなくして、その時書斎で読書してゐた耕二の兄は、机の前 …
校長(新字旧仮名)
読書目安時間:約13分
田舎の県立中学で歴史の教師をしてゐた彼が、今度京都の或私立中学の校長を勉めることになつた。頭は良くないが読書家で、読書以外の時間は常に気を揉んでゐなければ済まない男であつた。 丈が …
読書目安時間:約13分
田舎の県立中学で歴史の教師をしてゐた彼が、今度京都の或私立中学の校長を勉めることになつた。頭は良くないが読書家で、読書以外の時間は常に気を揉んでゐなければ済まない男であつた。 丈が …
コキューの憶ひ出(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
その夜私は、コンテで以て自我像を画いた 風の吹いてるお会式の夜でした 打叩く太鼓の音は風に消え、 私の机の上ばかり、あかあかと明り、 女はどこで何を話してゐたかは知る由もない 私の …
読書目安時間:約1分
その夜私は、コンテで以て自我像を画いた 風の吹いてるお会式の夜でした 打叩く太鼓の音は風に消え、 私の机の上ばかり、あかあかと明り、 女はどこで何を話してゐたかは知る由もない 私の …
(58号の電車で女郎買に行つた男が)(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
58号の電車で女郎買に行つた男が 梅毒になつた 彼は12の如き沈黙の男であつたに 腕々々 交通巡査には煩悶はないのか 自殺せぬ自殺の体験者は 障子に手を突込んで裏側からみてゐました …
読書目安時間:約1分
58号の電車で女郎買に行つた男が 梅毒になつた 彼は12の如き沈黙の男であつたに 腕々々 交通巡査には煩悶はないのか 自殺せぬ自殺の体験者は 障子に手を突込んで裏側からみてゐました …
古代土器の印象(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
認識以前に書かれた詩—— 沙漠のたゞ中で 私は土人に訊ねました 「クリストの降誕した前日までに カラカネの 歌を歌つて旅人が 何人こゝを通りましたか」 土人は何にも答へないで 遠い …
読書目安時間:約1分
認識以前に書かれた詩—— 沙漠のたゞ中で 私は土人に訊ねました 「クリストの降誕した前日までに カラカネの 歌を歌つて旅人が 何人こゝを通りましたか」 土人は何にも答へないで 遠い …
小林秀雄小論(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
機敏な晩熟児といふべき此の男が、現に存するのだから僕は機敏な晩熟児が如何にして存るかその様を語らうと思ふ。 この男は意識的なのです。そして意識はどつちみち人を悲しませるものです。然 …
読書目安時間:約2分
機敏な晩熟児といふべき此の男が、現に存するのだから僕は機敏な晩熟児が如何にして存るかその様を語らうと思ふ。 この男は意識的なのです。そして意識はどつちみち人を悲しませるものです。然 …
酒場にて(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
今晩あゝして元気に語り合つてゐる人々も、 実は、元気ではないのです。 近代といふ今は尠くも、 あんな具合な元気さで ゐられる時代ではないのです。 諸君は僕を、「ほがらか」でないとい …
読書目安時間:約1分
今晩あゝして元気に語り合つてゐる人々も、 実は、元気ではないのです。 近代といふ今は尠くも、 あんな具合な元気さで ゐられる時代ではないのです。 諸君は僕を、「ほがらか」でないとい …
酒場にて(定稿)(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
今晩あゝして元気に語り合つてゐる人々も、 実は、元気ではないのです。 近代といふ今は尠くも、 あんな具合な元気さで ゐられる時代ではないのです。 諸君は僕を、「ほがらか」でないとい …
読書目安時間:約1分
今晩あゝして元気に語り合つてゐる人々も、 実は、元気ではないのです。 近代といふ今は尠くも、 あんな具合な元気さで ゐられる時代ではないのです。 諸君は僕を、「ほがらか」でないとい …
(酒は誰でも酔はす)(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
酒は誰でも酔はす だがどんな傑れた詩も 字の読めない人は酔はさない ——だからといつて 酒が詩の上だなんて考へる奴あ 「生活第一芸術第二」なんて言つてろい 自然が美しいといふことは …
読書目安時間:約1分
酒は誰でも酔はす だがどんな傑れた詩も 字の読めない人は酔はさない ——だからといつて 酒が詩の上だなんて考へる奴あ 「生活第一芸術第二」なんて言つてろい 自然が美しいといふことは …
作家と孤独(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
インテリは蒼ざめてゐる。之に反して、月末の支払ひだけ片付くとなれば安心の出来る人達は元気でゐる。多分世の中は観念を見失つてゐるのである。衣食住さへ足りればいゝ人達は、不景気にも関ら …
読書目安時間:約3分
インテリは蒼ざめてゐる。之に反して、月末の支払ひだけ片付くとなれば安心の出来る人達は元気でゐる。多分世の中は観念を見失つてゐるのである。衣食住さへ足りればいゝ人達は、不景気にも関ら …
寒い夜の自我像(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
恋人よ、その哀しげな歌をやめてよ、 おまへの魂がいらいらするので、 そんな歌をうたひだすのだ。 しかもおまへはわがままに 親しい人だと歌つてきかせる。 ああ、それは不可ないことだ! …
読書目安時間:約1分
恋人よ、その哀しげな歌をやめてよ、 おまへの魂がいらいらするので、 そんな歌をうたひだすのだ。 しかもおまへはわがままに 親しい人だと歌つてきかせる。 ああ、それは不可ないことだ! …
寒い夜の自我像(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
きらびやかでもないけれど、 この一本の手綱をはなさず この陰暗の地域をすぎる! その志明かなれば 冬の夜を、われは嘆かず、 人々の憔燥のみの悲しみや 憧れに引廻される女等の鼻唄を、 …
読書目安時間:約2分
きらびやかでもないけれど、 この一本の手綱をはなさず この陰暗の地域をすぎる! その志明かなれば 冬の夜を、われは嘆かず、 人々の憔燥のみの悲しみや 憧れに引廻される女等の鼻唄を、 …
山間秘話(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
春であつた。牡兎の血の環りはよくなつてゐた。勇ましくはないまでも、しやきしやきしてゐた。一日兎は森に這入つて行つた、牝狐を訪ねる算段で。彼が森の径を巡つてゐる時、牝狐は家で囲炉裡に …
読書目安時間:約4分
春であつた。牡兎の血の環りはよくなつてゐた。勇ましくはないまでも、しやきしやきしてゐた。一日兎は森に這入つて行つた、牝狐を訪ねる算段で。彼が森の径を巡つてゐる時、牝狐は家で囲炉裡に …
三等車の中(スケッチ)(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
疲れてゐるのに眠られぬ。車室の中は満員である。棚の上もトランクや土産物で一杯である。 僕の連れの男は僕の丁度直ぐ前の席に、もう先刻から眠つてゐる。汽車が東京を出発してから、二言三言 …
読書目安時間:約4分
疲れてゐるのに眠られぬ。車室の中は満員である。棚の上もトランクや土産物で一杯である。 僕の連れの男は僕の丁度直ぐ前の席に、もう先刻から眠つてゐる。汽車が東京を出発してから、二言三言 …
散歩生活(新字旧仮名)
読書目安時間:約7分
「女房でも貰つて、はやくシヤツキリしろよ、シヤツキリ」と、従兄みたいな奴が従弟みたいな奴に、浅草のと或るカフエーで言つてゐた。そいつらは私の卓子のぢき傍で、生ビール一杯を三十分もか …
読書目安時間:約7分
「女房でも貰つて、はやくシヤツキリしろよ、シヤツキリ」と、従兄みたいな奴が従弟みたいな奴に、浅草のと或るカフエーで言つてゐた。そいつらは私の卓子のぢき傍で、生ビール一杯を三十分もか …
ヂェラルド・ド・ネルヴァル(新字旧仮名)
読書目安時間:約5分
今から百年ばかり前のことだ、仏蘭西はエルメンノンヴィユに近い一小村モンタニーの、或るお祭の日の黄昏時、アドリンもその辺の娘達と草の上で踊るために出て来た。当時十八才のヂェラルド・ド …
読書目安時間:約5分
今から百年ばかり前のことだ、仏蘭西はエルメンノンヴィユに近い一小村モンタニーの、或るお祭の日の黄昏時、アドリンもその辺の娘達と草の上で踊るために出て来た。当時十八才のヂェラルド・ド …
地極の天使(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
われ星に甘え、われ太陽に傲岸ならん時、人々自らを死物と観念してあらんことを!われは御身等を呪ふ。 心は腐れ、器物は穢れぬ。「夕暮」なき競走、油と虫となる理想!——言葉は既に無益なる …
読書目安時間:約1分
われ星に甘え、われ太陽に傲岸ならん時、人々自らを死物と観念してあらんことを!われは御身等を呪ふ。 心は腐れ、器物は穢れぬ。「夕暮」なき競走、油と虫となる理想!——言葉は既に無益なる …
詩集 浚渫船(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
友人高森文夫の詩集、浚渫船が出た。僕が高森を知つたのは七八年前のことであるが、彼はその前から詩を書いて、日夏耿之介主宰の游牧記等に発表してゐた。僕なぞまだ何処にも発表しない頃のこと …
読書目安時間:約2分
友人高森文夫の詩集、浚渫船が出た。僕が高森を知つたのは七八年前のことであるが、彼はその前から詩を書いて、日夏耿之介主宰の游牧記等に発表してゐた。僕なぞまだ何処にも発表しない頃のこと …
詩人は辛い(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
私はもう歌なぞ歌はない 誰が歌なぞ歌ふものか みんな歌なぞ聴いてはゐない 聴いてるやうなふりだけはする みんなたゞ冷たい心を持つてゐて 歌なぞどうだつてかまはないのだ それなのに聴 …
読書目安時間:約1分
私はもう歌なぞ歌はない 誰が歌なぞ歌ふものか みんな歌なぞ聴いてはゐない 聴いてるやうなふりだけはする みんなたゞ冷たい心を持つてゐて 歌なぞどうだつてかまはないのだ それなのに聴 …
詩壇への願ひ(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
詩壇は今や、一と通りの準備をすませた。絵の具も画架も揃ひ、まづまづ龍は描いたが、まだ点睛がないといふのが昨今の状勢である。従つて各人各様の特質にも拘らず、可なり大同小異の観があるこ …
読書目安時間:約4分
詩壇は今や、一と通りの準備をすませた。絵の具も画架も揃ひ、まづまづ龍は描いたが、まだ点睛がないといふのが昨今の状勢である。従つて各人各様の特質にも拘らず、可なり大同小異の観があるこ …
詩壇への抱負(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
今までの詩(新体詩)は熱つぽいと思ふ。それはつまり様々の技法論が盛んで、分析的な気持が強かつたからであると思ふ。私は今度はじめてさういふ気持を味はつた。つまり子供の時のやうな気持に …
読書目安時間:約3分
今までの詩(新体詩)は熱つぽいと思ふ。それはつまり様々の技法論が盛んで、分析的な気持が強かつたからであると思ふ。私は今度はじめてさういふ気持を味はつた。つまり子供の時のやうな気持に …
詩と現代(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
由来芸術と時代との関係は、屡々取扱はれる所ではあるけれどもその問題本来の性質のせゐか、ハツキリとした結論に到達してゐる場合は、極めて稀である。そこで私は今此の問題を全体的に扱はうと …
読書目安時間:約4分
由来芸術と時代との関係は、屡々取扱はれる所ではあるけれどもその問題本来の性質のせゐか、ハツキリとした結論に到達してゐる場合は、極めて稀である。そこで私は今此の問題を全体的に扱はうと …
詩と詩人(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
詩といふものが、人生を打算して生きてゐる根性からは、決して生れるものではない!一見、その根性は人をして屡々知慧ある態度を採らせるやうに見える。けれど知慧とはそんなものではない!若し …
読書目安時間:約3分
詩といふものが、人生を打算して生きてゐる根性からは、決して生れるものではない!一見、その根性は人をして屡々知慧ある態度を採らせるやうに見える。けれど知慧とはそんなものではない!若し …
詩と其の伝統(新字旧仮名)
読書目安時間:約12分
何時誰から聞いたのだつたか覚えないが、かういふことを聞いたことがある。 山奥の村に、新しく小学校が設けられる。小学校では、毎年創立記念日に学童の作品展覧会が催される。尋常五年生は毎 …
読書目安時間:約12分
何時誰から聞いたのだつたか覚えないが、かういふことを聞いたことがある。 山奥の村に、新しく小学校が設けられる。小学校では、毎年創立記念日に学童の作品展覧会が催される。尋常五年生は毎 …
詩に関する話(新字旧仮名)
読書目安時間:約9分
一、序 近頃芸術は世界全般に亙つて衰へ、その帰趨を知らない。種々なる主義傾向によつて賑はつてゐるとは云へ、各人は衰弱し、独りゐては考へ込み、人と遇つてはカラ笑ひしてゐる。私も亦同様 …
読書目安時間:約9分
一、序 近頃芸術は世界全般に亙つて衰へ、その帰趨を知らない。種々なる主義傾向によつて賑はつてゐるとは云へ、各人は衰弱し、独りゐては考へ込み、人と遇つてはカラ笑ひしてゐる。私も亦同様 …
死別の翌日(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
生きのこるものはづうづうしく、 死にゆくものはその清純さを漂はせ 物云ひたげな瞳を床にさまよはすだけで、 親を離れ、兄弟を離れ、 最初から独りであつたもののやうに死んでゆく。 さて …
読書目安時間:約1分
生きのこるものはづうづうしく、 死にゆくものはその清純さを漂はせ 物云ひたげな瞳を床にさまよはすだけで、 親を離れ、兄弟を離れ、 最初から独りであつたもののやうに死んでゆく。 さて …
自滅(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
親の手紙が泡吹いた 恋は空みた肩揺つた 俺は灰色のステッキを呑んだ 足足 足足 足足 足 万年筆の徒歩旅行 電信棒よ御辞儀しろ お腹の皮がカシヤカシヤする 胯の下から右手みた 一切 …
読書目安時間:約1分
親の手紙が泡吹いた 恋は空みた肩揺つた 俺は灰色のステッキを呑んだ 足足 足足 足足 足 万年筆の徒歩旅行 電信棒よ御辞儀しろ お腹の皮がカシヤカシヤする 胯の下から右手みた 一切 …
小詩論:小林秀雄に(新字旧仮名)
読書目安時間:約5分
此処に家がある。人が若し此の家を見て何等かの驚きをなしたとして、そこで此の家の出来具合を描写するとなら、その描写が如何に微細洩さずに行はれてをれ、それは読む人を退屈させるに違ひない …
読書目安時間:約5分
此処に家がある。人が若し此の家を見て何等かの驚きをなしたとして、そこで此の家の出来具合を描写するとなら、その描写が如何に微細洩さずに行はれてをれ、それは読む人を退屈させるに違ひない …
情慾(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
何故取れない! 何故取れない! 電球よ暑くなれ! 冬の野原を夏の風が行くに 煙が去つた 情熱の火が突進する ブツカルものもなく—— だから不可ない 昔からあつたものだのに 今新たに …
読書目安時間:約1分
何故取れない! 何故取れない! 電球よ暑くなれ! 冬の野原を夏の風が行くに 煙が去つた 情熱の火が突進する ブツカルものもなく—— だから不可ない 昔からあつたものだのに 今新たに …
書信(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
依田氏の「春愁」は好きです。槙氏の「道」は関西に住む人の幸福がよく感じられます。「春愁」は傑作でさへあります。しかし「偶然うまく行つた」といふ感じがするのです。謂はば詩格がないとで …
読書目安時間:約1分
依田氏の「春愁」は好きです。槙氏の「道」は関西に住む人の幸福がよく感じられます。「春愁」は傑作でさへあります。しかし「偶然うまく行つた」といふ感じがするのです。謂はば詩格がないとで …
詩論(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
Lart, mes enfents, dêtre en soi-meme! Paul Verlaine 芸術とは、喩へば金鉱発掘の如きものだ。金鉱を発掘する人は、親や妻子より …
読書目安時間:約1分
Lart, mes enfents, dêtre en soi-meme! Paul Verlaine 芸術とは、喩へば金鉱発掘の如きものだ。金鉱を発掘する人は、親や妻子より …
新短歌に就いて(新字旧仮名)
読書目安時間:約7分
新短歌に就いて論ずることは、非常に困難なことに思はれる。すべて芸術上の新様式の発生期に当つてその新様式を是非することは、予想外の困難を伴ふことだし、大概の場合正鵠を射当てることはな …
読書目安時間:約7分
新短歌に就いて論ずることは、非常に困難なことに思はれる。すべて芸術上の新様式の発生期に当つてその新様式を是非することは、予想外の困難を伴ふことだし、大概の場合正鵠を射当てることはな …
深夜の峠にて(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
峠の頂上を過ぎると私は十歩も歩まぬうちに、いきなり蹲み込んでしまつた。木の葉が偶にそよいでゐる。土は湿つてゐて、腰を下ろすことは出来ない。一寸横に寄つて径傍の草を撫でてみたが、それ …
読書目安時間:約2分
峠の頂上を過ぎると私は十歩も歩まぬうちに、いきなり蹲み込んでしまつた。木の葉が偶にそよいでゐる。土は湿つてゐて、腰を下ろすことは出来ない。一寸横に寄つて径傍の草を撫でてみたが、それ …
心理的と個性的(新字旧仮名)
読書目安時間:約13分
裕福な家庭の、特に才能があるといふ程でもない青年が、「文学でもやつてみるか」といつた調子で、文学志望を抱いたとする。四年五年と経つても、いつかう何も書けさうもない。「書いてゐる奴等 …
読書目安時間:約13分
裕福な家庭の、特に才能があるといふ程でもない青年が、「文学でもやつてみるか」といつた調子で、文学志望を抱いたとする。四年五年と経つても、いつかう何も書けさうもない。「書いてゐる奴等 …
生と歌(新字旧仮名)
読書目安時間:約9分
古へにあつて、人が先づ最初に表現したかつたものは自分自身の叫びであつたに相違ない。その叫びの動機が野山から来ようと隣人から来ようと、其の他意識されないものから来ようと、一たびそれが …
読書目安時間:約9分
古へにあつて、人が先づ最初に表現したかつたものは自分自身の叫びであつたに相違ない。その叫びの動機が野山から来ようと隣人から来ようと、其の他意識されないものから来ようと、一たびそれが …
青年青木三造(新字旧仮名)
読書目安時間:約5分
——三造の友人達に。 三造は、この世に自分くらゐ切ないがまた、呑気といへば呑気な男はないと思つてゐた。事実彼は呑気であつた。 或時三造の一寸知つた男が彼に言つた。「無念さうな顔をし …
読書目安時間:約5分
——三造の友人達に。 三造は、この世に自分くらゐ切ないがまた、呑気といへば呑気な男はないと思つてゐた。事実彼は呑気であつた。 或時三造の一寸知つた男が彼に言つた。「無念さうな顔をし …
西部通信(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
その日はカラリと晴れた、やはらかい日射しの、秋の一日だつた。私は暫く麦のよく稔つた田園を歩いた後、フト玉を突いてみたい欲望を抱いた。別にしたいこととてもないその午後に、一つの欲望が …
読書目安時間:約3分
その日はカラリと晴れた、やはらかい日射しの、秋の一日だつた。私は暫く麦のよく稔つた田園を歩いた後、フト玉を突いてみたい欲望を抱いた。別にしたいこととてもないその午後に、一つの欲望が …
蝉(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
蝉が鳴いてゐる、蝉が鳴いてゐる 蝉が鳴いてゐるほかになんにもない! うつらうつらと僕はする ……風もある…… 松林を透いて空が見える うつらうつらと僕はする。 『いいや、さうぢやな …
読書目安時間:約1分
蝉が鳴いてゐる、蝉が鳴いてゐる 蝉が鳴いてゐるほかになんにもない! うつらうつらと僕はする ……風もある…… 松林を透いて空が見える うつらうつらと僕はする。 『いいや、さうぢやな …
早春散歩(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
空は晴れてても、建物には蔭があるよ、 春、早春は心なびかせ、 それがまるで薄絹ででもあるやうに ハンケチででもあるやうに 我等の心を引千切り きれぎれにして風に散らせる 私はもう、 …
読書目安時間:約1分
空は晴れてても、建物には蔭があるよ、 春、早春は心なびかせ、 それがまるで薄絹ででもあるやうに ハンケチででもあるやうに 我等の心を引千切り きれぎれにして風に散らせる 私はもう、 …
想像力の悲歌(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
恋を知らない 街上の 笑ひ者なる爺やんは 赤ちやけた 麦藁帽をアミダにかぶり ハツハツハツ 「夢魔」てえことがあるものか その日蝶々の落ちるのを 夕の風がみてゐました 思ひのほかで …
読書目安時間:約1分
恋を知らない 街上の 笑ひ者なる爺やんは 赤ちやけた 麦藁帽をアミダにかぶり ハツハツハツ 「夢魔」てえことがあるものか その日蝶々の落ちるのを 夕の風がみてゐました 思ひのほかで …
その一週間:――不真面目なわが心……(新字旧仮名)
読書目安時間:約5分
「御暇でしたら、一寸御相談したい事等御座居ますので、私の動く事についての事ですが、岩山さんともいろいろ考へたのですが、で、考へをおかし下さいませんでせうか、お待ちします、御目文字の …
読書目安時間:約5分
「御暇でしたら、一寸御相談したい事等御座居ますので、私の動く事についての事ですが、岩山さんともいろいろ考へたのですが、で、考へをおかし下さいませんでせうか、お待ちします、御目文字の …
その頃の生活(新字旧仮名)
読書目安時間:約25分
暑中休暇が、もう終りに近かつた。私は休暇中の自分の予定が、まだ三分の一も出来てゐないことでヂリヂリしてゐた。それに一ヶ月余りといふものを寝て起きて食ふと言ふ全くその文字通りの日暮し …
読書目安時間:約25分
暑中休暇が、もう終りに近かつた。私は休暇中の自分の予定が、まだ三分の一も出来てゐないことでヂリヂリしてゐた。それに一ヶ月余りといふものを寝て起きて食ふと言ふ全くその文字通りの日暮し …
(題を附けるのが無理です)(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
トランプの占ひで 日が暮れました—— オランダ時計の罪悪です 喩へ話の上に出来た喩へ話—— 誰です 法律ばかり研究してるのは 林檎の皮に灯が光る そればかりみてゐても 金の時計が真 …
読書目安時間:約1分
トランプの占ひで 日が暮れました—— オランダ時計の罪悪です 喩へ話の上に出来た喩へ話—— 誰です 法律ばかり研究してるのは 林檎の皮に灯が光る そればかりみてゐても 金の時計が真 …
高橋新吉論(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
こんなやさしい無辜な心はまたとないのだ。 それに同情のアクチイビティが沢山ある。これは日本人には珍らしい事だ。 この人は細心だが、然し意識的な人ではない。意識的な人はかうも論理を愛 …
読書目安時間:約4分
こんなやさしい無辜な心はまたとないのだ。 それに同情のアクチイビティが沢山ある。これは日本人には珍らしい事だ。 この人は細心だが、然し意識的な人ではない。意識的な人はかうも論理を愛 …
(ダダイストが大砲だのに)(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
ダダイストが大砲だのに 女が電柱にもたれて泣いてゐました リゾール石鹸を用意なさい それでも遂に私は愛されません 女はダダイストを 普通の形式で愛し得ません 私は如何せ恋なんかの上 …
読書目安時間:約1分
ダダイストが大砲だのに 女が電柱にもたれて泣いてゐました リゾール石鹸を用意なさい それでも遂に私は愛されません 女はダダイストを 普通の形式で愛し得ません 私は如何せ恋なんかの上 …
ダダ音楽の歌詞(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
ウハキはハミガキ ウハバミはウロコ 太陽が落ちて 太陽の世界が始つた テツポーは戸袋 ヒヨータンはキンチヤク 太陽が上つて 夜の世界が始つた オハグロは妖怪 下痢はトブクロ レイメ …
読書目安時間:約1分
ウハキはハミガキ ウハバミはウロコ 太陽が落ちて 太陽の世界が始つた テツポーは戸袋 ヒヨータンはキンチヤク 太陽が上つて 夜の世界が始つた オハグロは妖怪 下痢はトブクロ レイメ …
タバコとマントの恋(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
タバコとマントが恋をした その筈だ タバコとマントは同類で タバコが男でマントが女だ 或時二人が身投心中したが マントは重いが風を含み タバコは細いが軽かつたので 崖の上から海面に …
読書目安時間:約1分
タバコとマントが恋をした その筈だ タバコとマントは同類で タバコが男でマントが女だ 或時二人が身投心中したが マントは重いが風を含み タバコは細いが軽かつたので 崖の上から海面に …
旅(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
夕刊売 来てみれば此処も人の世 散水車があるから 汽車の煙が麦食べた 実用を忘れて 歯ブラッシを買つてみた 青い紙ばかり欲しくて それなのに唯物史観だつた 砂袋 スソがマクレます …
読書目安時間:約1分
夕刊売 来てみれば此処も人の世 散水車があるから 汽車の煙が麦食べた 実用を忘れて 歯ブラッシを買つてみた 青い紙ばかり欲しくて それなのに唯物史観だつた 砂袋 スソがマクレます …
近頃芸術の不振を論ず(新字旧仮名)
読書目安時間:約5分
近頃芸術が不振かどうか、それからして既に軽々と決めてかゝることは出来ない。だが作家等が昔日のやうに、楽々と筆を執つてゐないことだけは事実である。そして、さうした事態を脱がれようとす …
読書目安時間:約5分
近頃芸術が不振かどうか、それからして既に軽々と決めてかゝることは出来ない。だが作家等が昔日のやうに、楽々と筆を執つてゐないことだけは事実である。そして、さうした事態を脱がれようとす …
地上組織(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
私は全ての有機体の上に、無数に溢れる無機的現象を見る。それは私に、如何しても神を信ぜしめなくては置かない所以のものである。 人間にとつての偶然も神にとつては必然。運命は即ち、その必 …
読書目安時間:約2分
私は全ての有機体の上に、無数に溢れる無機的現象を見る。それは私に、如何しても神を信ぜしめなくては置かない所以のものである。 人間にとつての偶然も神にとつては必然。運命は即ち、その必 …
疲れやつれた美しい顔(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
疲れやつれた美しい顔よ、 私はおまへを愛す。 さうあるべきがよかつたかも知れない多くの元気な顔たちの中に、 私は容易におまへを見付ける。 それはもう、疲れしぼみ、 悔とさびしい微笑 …
読書目安時間:約1分
疲れやつれた美しい顔よ、 私はおまへを愛す。 さうあるべきがよかつたかも知れない多くの元気な顔たちの中に、 私は容易におまへを見付ける。 それはもう、疲れしぼみ、 悔とさびしい微笑 …
(ツツケンドンに)(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
ツツケンドンに 女は言ひつぱなして出て行つた 襖の上に灰がみえる 眼窩の顛倒 鳥の羽斜に空へ!…… 対象の知れぬ寂しみ 神様はつまらぬものゝみをつくつた 盥の底の残り水 古いゴムマ …
読書目安時間:約1分
ツツケンドンに 女は言ひつぱなして出て行つた 襖の上に灰がみえる 眼窩の顛倒 鳥の羽斜に空へ!…… 対象の知れぬ寂しみ 神様はつまらぬものゝみをつくつた 盥の底の残り水 古いゴムマ …
(辛いこつた辛いこつた!)(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
辛いこつた辛いこつた! なまなか伝説的存在にされて あゝ、この言語玩弄者達の世に、 なまなか伝説的存在にされて、 (パンを奪はれ花は与へられ) あゝ、小児病者の横行の世に! 奴等の …
読書目安時間:約1分
辛いこつた辛いこつた! なまなか伝説的存在にされて あゝ、この言語玩弄者達の世に、 なまなか伝説的存在にされて、 (パンを奪はれ花は与へられ) あゝ、小児病者の横行の世に! 奴等の …
デボルド―ヷルモオル(新字旧仮名)
読書目安時間:約6分
今月から、何回かにわたつて、マルスリーヌ・デボルド—ヷルモオルの詩を、飜訳してゆかうと思ふ。 ヷルモオルは、我国に於ては、殆んどまだ知られてゐないが、当のフランスに於ては、ボードレ …
読書目安時間:約6分
今月から、何回かにわたつて、マルスリーヌ・デボルド—ヷルモオルの詩を、飜訳してゆかうと思ふ。 ヷルモオルは、我国に於ては、殆んどまだ知られてゐないが、当のフランスに於ては、ボードレ …
(テンピにかけて)(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
テンピにかけて 焼いたろか あんなヘナチヨコ詩人の詩 百科辞典を引き廻し 鳥の名や花の名や みたこともないそれなんか ひつぱり出して書いたつて ——だがそれ程想像力があればね—— …
読書目安時間:約1分
テンピにかけて 焼いたろか あんなヘナチヨコ詩人の詩 百科辞典を引き廻し 鳥の名や花の名や みたこともないそれなんか ひつぱり出して書いたつて ——だがそれ程想像力があればね—— …
トリスタン・コルビエールを紹介す(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
トリスタン・コルビエールが、甞て我が国に於いて紹介されたことがあつたかどうか、私は知らない。コルビエールは、ヴ※ルレーヌの有名な批評集、『生得の詩人達(Poètes maudits …
読書目安時間:約4分
トリスタン・コルビエールが、甞て我が国に於いて紹介されたことがあつたかどうか、私は知らない。コルビエールは、ヴ※ルレーヌの有名な批評集、『生得の詩人達(Poètes maudits …
蜻蛉:――飜弄さる(新字旧仮名)
読書目安時間:約10分
会社の帰りに社長の宅を訪問した竹山は何時もになく遅く帰つて来た。 玄関先に夫らしい足音がすると、先刻から火鉢に凭つて時計ばかりみてゐた妻君は、忙しげに立ち上つて玄関に行つた。「まあ …
読書目安時間:約10分
会社の帰りに社長の宅を訪問した竹山は何時もになく遅く帰つて来た。 玄関先に夫らしい足音がすると、先刻から火鉢に凭つて時計ばかりみてゐた妻君は、忙しげに立ち上つて玄関に行つた。「まあ …
夏:〔私が貧乏で〕(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
私が貧乏で、旅行としいへば殆んど夏にしかしないからかも知れない、………夏と聞くと旅愁が湧いて来て、却々「夏は四季のうち、自然の最も旺んなる時なり」どころではない、なんだか哀れにも懐 …
読書目安時間:約4分
私が貧乏で、旅行としいへば殆んど夏にしかしないからかも知れない、………夏と聞くと旅愁が湧いて来て、却々「夏は四季のうち、自然の最も旺んなる時なり」どころではない、なんだか哀れにも懐 …
夏と悲運(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
とど、俺としたことが、笑ひ出さずにやゐられない。 思へば小学校の頃からだ。 例へば夏休みも近づかうといふ暑い日に、 唱歌教室で先生が、オルガン弾いてアーエーイー すると俺としたこと …
読書目安時間:約2分
とど、俺としたことが、笑ひ出さずにやゐられない。 思へば小学校の頃からだ。 例へば夏休みも近づかうといふ暑い日に、 唱歌教室で先生が、オルガン弾いてアーエーイー すると俺としたこと …
夏と私(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
真ツ白い嘆かひのうちに、 海を見たり。鴎を見たり。 高きより、風のただ中に、 思ひ出の破片の翻転するをみたり。 夏としなれば、高山に、 真ツ白い嘆きを見たり。 燃ゆる山路を、登りゆ …
読書目安時間:約1分
真ツ白い嘆かひのうちに、 海を見たり。鴎を見たり。 高きより、風のただ中に、 思ひ出の破片の翻転するをみたり。 夏としなれば、高山に、 真ツ白い嘆きを見たり。 燃ゆる山路を、登りゆ …
夏の夜の博覧会は、かなしからずや(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
夏の夜の博覧会は、哀しからずや 雨ちよと降りて、やがてもあがりぬ 夏の夜の、博覧会は、哀しからずや 女房買物をなす間、 象の前に僕と坊やとはゐぬ、 二人蹲んでゐぬ、かなしからずや、 …
読書目安時間:約1分
夏の夜の博覧会は、哀しからずや 雨ちよと降りて、やがてもあがりぬ 夏の夜の、博覧会は、哀しからずや 女房買物をなす間、 象の前に僕と坊やとはゐぬ、 二人蹲んでゐぬ、かなしからずや、 …
夏の夜の博覧会はかなしからずや(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
夏の夜の、博覧会は、哀しからずや 雨ちよと降りて、やがてもあがりぬ 夏の夜の、博覧会は、哀しからずや 女房買物をなす間、かなしからずや 象の前に余と坊やとはゐぬ 二人蹲んでゐぬ、か …
読書目安時間:約1分
夏の夜の、博覧会は、哀しからずや 雨ちよと降りて、やがてもあがりぬ 夏の夜の、博覧会は、哀しからずや 女房買物をなす間、かなしからずや 象の前に余と坊やとはゐぬ 二人蹲んでゐぬ、か …
夏の夜の話(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
夏も半ばを過ぎてゐた。此処は銀座の裏通りのカフェー、卓子の上で扇風器は、哀しげな唸りをつづけてゐる。 三田村は私の前でさかんに飲んでゐる。その兎のやうな眼を赤くして、折々キヨロキヨ …
読書目安時間:約4分
夏も半ばを過ぎてゐた。此処は銀座の裏通りのカフェー、卓子の上で扇風器は、哀しげな唸りをつづけてゐる。 三田村は私の前でさかんに飲んでゐる。その兎のやうな眼を赤くして、折々キヨロキヨ …
夏は青い空に……(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
夏は青い空に、白い雲を浮ばせ、 わが嘆きをうたふ。 わが知らぬ、とほきとほきとほき深みにて 青空は、白い雲を呼ぶ。 わが嘆きわが悲しみよ、かうべを昂げよ。 ——記憶も、去るにあらず …
読書目安時間:約1分
夏は青い空に、白い雲を浮ばせ、 わが嘆きをうたふ。 わが知らぬ、とほきとほきとほき深みにて 青空は、白い雲を呼ぶ。 わが嘆きわが悲しみよ、かうべを昂げよ。 ——記憶も、去るにあらず …
撫でられた象(新字旧仮名)
読書目安時間:約9分
様々な議論が沸騰してゐるけれど、それらの何れもはや議論といふよりは彷徨、それも随分無責任な、身入りのしないことにしか過ぎない。かくて人々は、それを時代のせゐに帰したりするのだが、そ …
読書目安時間:約9分
様々な議論が沸騰してゐるけれど、それらの何れもはや議論といふよりは彷徨、それも随分無責任な、身入りのしないことにしか過ぎない。かくて人々は、それを時代のせゐに帰したりするのだが、そ …
(七銭でバットを買つて)(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
七銭でバットを買つて、 一銭でマッチを買つて、 ——ウレシイネ、 僕は次の峠を越えるまでに、 バットは一と箱で足りると思つた。 山の中は暗くつて、 顔には蜘蛛の巣が一杯かかつた。 …
読書目安時間:約1分
七銭でバットを買つて、 一銭でマッチを買つて、 ——ウレシイネ、 僕は次の峠を越えるまでに、 バットは一と箱で足りると思つた。 山の中は暗くつて、 顔には蜘蛛の巣が一杯かかつた。 …
(成程)(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
成程 共に発見することが楽しみなのか さうか、それでは俺に恋は出来ない お前を知る前既に お前の今後発見することを発見しつくしてゐたから 一つの菓子を 二人とも好んではゐない 一人 …
読書目安時間:約1分
成程 共に発見することが楽しみなのか さうか、それでは俺に恋は出来ない お前を知る前既に お前の今後発見することを発見しつくしてゐたから 一つの菓子を 二人とも好んではゐない 一人 …
(何と物酷いのです)(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
何と物酷いのです 此の夜の海は ——天才の眉毛—— いくら原稿が売れなくとも 燈台番にはなり給ふな あの白ッ、黒い空の空—— 卓の上がせめてもです 読書くらゐ障げられても好いが 書 …
読書目安時間:約1分
何と物酷いのです 此の夜の海は ——天才の眉毛—— いくら原稿が売れなくとも 燈台番にはなり給ふな あの白ッ、黒い空の空—— 卓の上がせめてもです 読書くらゐ障げられても好いが 書 …
萩原朔太郎評論集 無からの抗争(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
萩原氏の本はよく売れるさうである。ところで萩原氏は文学的苦労人である。氏に会つてゐると何か暖いものが感じられる。だから氏の本がよく売れることは、私としても喜びである。 氏は実に誠実 …
読書目安時間:約1分
萩原氏の本はよく売れるさうである。ところで萩原氏は文学的苦労人である。氏に会つてゐると何か暖いものが感じられる。だから氏の本がよく売れることは、私としても喜びである。 氏は実に誠実 …
初恋(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
最も弱いものは 弱いもの—— 最も強いものは 強いもの—— タバコの灰は 霧の不平—— 燈心は 決闘—— 最も弱いものが 最も強いものに—— タバコの灰が 燈心に—— 霧の不平が …
読書目安時間:約1分
最も弱いものは 弱いもの—— 最も強いものは 強いもの—— タバコの灰は 霧の不平—— 燈心は 決闘—— 最も弱いものが 最も強いものに—— タバコの灰が 燈心に—— 霧の不平が …
(バルザック)(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
バルザック バルザック 腹の皮が収縮する 胃病は明治時代の病気らしい そんな退屈は嫌で嫌で 悟つたつて昂奮するさ 同時性が実在してたまるものか 空をみて 涙と仁丹 雨がまた降つて来 …
読書目安時間:約1分
バルザック バルザック 腹の皮が収縮する 胃病は明治時代の病気らしい そんな退屈は嫌で嫌で 悟つたつて昂奮するさ 同時性が実在してたまるものか 空をみて 涙と仁丹 雨がまた降つて来 …
春の日の怒(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
田の中にテニスコートがありますかい? 春風です よろこびやがれ凡俗! 名詞の換言で日が暮れよう アスファルトの上は凡人がゆく 顔顔顔 石版刷のポスターに 木履の音は這ひ込まう …
読書目安時間:約1分
田の中にテニスコートがありますかい? 春風です よろこびやがれ凡俗! 名詞の換言で日が暮れよう アスファルトの上は凡人がゆく 顔顔顔 石版刷のポスターに 木履の音は這ひ込まう …
春の夕暮(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
塗板がセンベイ食べて 春の日の夕暮は静かです アンダースロウされた灰が蒼ざめて 春の日の夕暮は穏かです あゝ、案山子はなきか——あるまい 馬嘶くか——嘶きもしまい たゞたゞ青色の月 …
読書目安時間:約1分
塗板がセンベイ食べて 春の日の夕暮は静かです アンダースロウされた灰が蒼ざめて 春の日の夕暮は穏かです あゝ、案山子はなきか——あるまい 馬嘶くか——嘶きもしまい たゞたゞ青色の月 …
引越し(新字旧仮名)
読書目安時間:約13分
実際その電報には驚いた。僕としてそんな用命にあづかつたことは生れて初めてでもあつた。「アスアサゴジヒキコシテツダヒタノム」といふのだ。朝五時!……僕は此の十幾年といふもの夜昼転倒の …
読書目安時間:約13分
実際その電報には驚いた。僕としてそんな用命にあづかつたことは生れて初めてでもあつた。「アスアサゴジヒキコシテツダヒタノム」といふのだ。朝五時!……僕は此の十幾年といふもの夜昼転倒の …
一つの境涯:――世の母びと達に捧ぐ――(新字旧仮名)
読書目安時間:約6分
普通に人々が、この景色は佳いだのあの景色は悪いだのと云ふ、そんなことは殆んど意味もないことだ。人の心の奥底を動かすものは、却て人が毎日いやといふ程見てゐるもの、恐らくは人々称んで退 …
読書目安時間:約6分
普通に人々が、この景色は佳いだのあの景色は悪いだのと云ふ、そんなことは殆んど意味もないことだ。人の心の奥底を動かすものは、却て人が毎日いやといふ程見てゐるもの、恐らくは人々称んで退 …
非文学的文士(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
我が国に文学がないとは云はないが、我が大衆に未だ文学がないとは云へるのだ。それかあらぬか文士と呼ばれる人種の中にも、文学でも何でもない、といつて文学に全然関係がなくもないから、つま …
読書目安時間:約2分
我が国に文学がないとは云はないが、我が大衆に未だ文学がないとは云へるのだ。それかあらぬか文士と呼ばれる人種の中にも、文学でも何でもない、といつて文学に全然関係がなくもないから、つま …
干物(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
秋の日は、干物の匂ひがするよ 外苑の鋪道しろじろ、うちつづき、 千駄ヶ谷森の梢のちろちろと 空を透かせて、われわれを 視守る如し。 秋の日は、干物の匂ひがするよ 干物の、匂ひを嗅い …
読書目安時間:約1分
秋の日は、干物の匂ひがするよ 外苑の鋪道しろじろ、うちつづき、 千駄ヶ谷森の梢のちろちろと 空を透かせて、われわれを 視守る如し。 秋の日は、干物の匂ひがするよ 干物の、匂ひを嗅い …
(風船玉の衝突)(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
風船玉の衝突 立て膝 立て膝 スナアソビ 心よ! 幼き日を忘れよ! 煉瓦塀に春を発見した 福助人形の影法師 孤児の下駄が置き忘れてありました 公園の入口 ペンキのはげた立札 心よ! …
読書目安時間:約1分
風船玉の衝突 立て膝 立て膝 スナアソビ 心よ! 幼き日を忘れよ! 煉瓦塀に春を発見した 福助人形の影法師 孤児の下駄が置き忘れてありました 公園の入口 ペンキのはげた立札 心よ! …
不可入性(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
自分の感情に自分で作用される奴は なんとまあ伽藍なんだ 欲しくても 取つてはならぬ気もあります 好きと嫌ひで生きてゐる女には 一番明白なものが一番漠然たるものでした 空想は植物性で …
読書目安時間:約2分
自分の感情に自分で作用される奴は なんとまあ伽藍なんだ 欲しくても 取つてはならぬ気もあります 好きと嫌ひで生きてゐる女には 一番明白なものが一番漠然たるものでした 空想は植物性で …
(古る摺れた)(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
古る摺れた 外国の絵端書—— 唾液が余りに中性だ 雨あがりの街道を 歩いたが歩いたが 飴屋がめつからない 唯のセンチメントと思ひますか? ——額をみ給へ—— 一度は神も客観してやり …
読書目安時間:約1分
古る摺れた 外国の絵端書—— 唾液が余りに中性だ 雨あがりの街道を 歩いたが歩いたが 飴屋がめつからない 唯のセンチメントと思ひますか? ——額をみ給へ—— 一度は神も客観してやり …
古本屋(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
夕飯を終へると、彼はがつかりしたといつた風に夕空を眺めながら、妻楊子を使ひはじめた。やがて使ひ終つてその妻楊子を彼の前にある灰皿の中に放つた時、フツと彼は彼の死んだ父親を思ひだした …
読書目安時間:約3分
夕飯を終へると、彼はがつかりしたといつた風に夕空を眺めながら、妻楊子を使ひはじめた。やがて使ひ終つてその妻楊子を彼の前にある灰皿の中に放つた時、フツと彼は彼の死んだ父親を思ひだした …
文学に関係のない文学者(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
陽気な文学をといふ声がするが、では陽気とはいつたいどんなことなのだらう。誰しも陰気よりは陽気の方が凡そ好きなのに相違はないのに、「陽気な文学を」といふのが一つの文学上の提案となるた …
読書目安時間:約2分
陽気な文学をといふ声がするが、では陽気とはいつたいどんなことなのだらう。誰しも陰気よりは陽気の方が凡そ好きなのに相違はないのに、「陽気な文学を」といふのが一つの文学上の提案となるた …
別離(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
さよなら、さよなら! いろいろお世話になりました いろいろお世話になりましたねえ いろいろお世話になりました さよなら、さよなら! こんなに良いお天気の日に お別れしてゆくのかと思 …
読書目安時間:約3分
さよなら、さよなら! いろいろお世話になりました いろいろお世話になりましたねえ いろいろお世話になりました さよなら、さよなら! こんなに良いお天気の日に お別れしてゆくのかと思 …
(頁 頁 頁)(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
頁頁頁 歴史と習慣と社界意識 名誉欲をくさして 名誉を得た男もありました 認識以前の徹定 土台は何時も性慾みたいなもの 上に築れたものゝ価値 十九世期は土台だけをみて物言ひました飴 …
読書目安時間:約1分
頁頁頁 歴史と習慣と社界意識 名誉欲をくさして 名誉を得た男もありました 認識以前の徹定 土台は何時も性慾みたいなもの 上に築れたものゝ価値 十九世期は土台だけをみて物言ひました飴 …
亡弟(新字旧仮名)
読書目安時間:約19分
ああ、もう、死んでしまはうか…… 自分の正直さが、といふよりも歌ひたい欲望が、といふよりも酔つてゐたい性情が、強ければ強いだけ、〈頭を上げれば叩かれる〉此の世の中では、損を来たすこ …
読書目安時間:約19分
ああ、もう、死んでしまはうか…… 自分の正直さが、といふよりも歌ひたい欲望が、といふよりも酔つてゐたい性情が、強ければ強いだけ、〈頭を上げれば叩かれる〉此の世の中では、損を来たすこ …
坊や(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
山に清水が流れるやうに その陽の照つた山の上の 硬い粘土の小さな溝を 山に清水が流れるやうに 何も解せぬ僕の赤子は 今夜もこんなに寒い真夜中 硬い粘土の小さな溝を 流れる清水のやう …
読書目安時間:約1分
山に清水が流れるやうに その陽の照つた山の上の 硬い粘土の小さな溝を 山に清水が流れるやうに 何も解せぬ僕の赤子は 今夜もこんなに寒い真夜中 硬い粘土の小さな溝を 流れる清水のやう …
星とピエロ(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
何、あれはな、空に吊した銀紙ぢやよ かう、ボール紙を剪つて、それに銀紙を張る、 それを綱か何かで、空に吊し上げる、 するとそれが夜になつて、空の奥であのやうに 光るのぢや。分つたか …
読書目安時間:約2分
何、あれはな、空に吊した銀紙ぢやよ かう、ボール紙を剪つて、それに銀紙を張る、 それを綱か何かで、空に吊し上げる、 するとそれが夜になつて、空の奥であのやうに 光るのぢや。分つたか …
迷つてゐます(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
筆が折れる それ程足りた心があるか だつて折れない筆がありますか? 聖書の綱が 性慾のコマを廻す 原始人の礼儀は 外界物に目も呉れないで 目前のものだけを見ることでした だがだが …
読書目安時間:約1分
筆が折れる それ程足りた心があるか だつて折れない筆がありますか? 聖書の綱が 性慾のコマを廻す 原始人の礼儀は 外界物に目も呉れないで 目前のものだけを見ることでした だがだが …
宮沢賢治全集(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
宮沢賢治全集第一回配本が出た。死んだ宮沢は、自分が死ねば全集が出ると、果して予測してゐたであらうか。 私にはこれら彼の作品が、大正十三年頃、つまり「春と修羅」が出た頃に認められなか …
読書目安時間:約4分
宮沢賢治全集第一回配本が出た。死んだ宮沢は、自分が死ねば全集が出ると、果して予測してゐたであらうか。 私にはこれら彼の作品が、大正十三年頃、つまり「春と修羅」が出た頃に認められなか …
宮沢賢治全集刊行に際して(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
宮沢賢治全集の、第一回配本が出ました。僕は彼の詩集、「春と修羅」を十年来愛読してゐますが、自分が無名のために、此の地方で印刷された驚くべき詩集を、皆さんにお知らせする術を持ちません …
読書目安時間:約1分
宮沢賢治全集の、第一回配本が出ました。僕は彼の詩集、「春と修羅」を十年来愛読してゐますが、自分が無名のために、此の地方で印刷された驚くべき詩集を、皆さんにお知らせする術を持ちません …
宮沢賢治の詩(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
彼は幸福に書き付けました、とにかく印象の生滅するまゝに自分の命が経験したことのその何の部分をだつてこぼしてはならないとばかり。それには概念を出来るだけ遠ざけて、なるべく生の印象、新 …
読書目安時間:約1分
彼は幸福に書き付けました、とにかく印象の生滅するまゝに自分の命が経験したことのその何の部分をだつてこぼしてはならないとばかり。それには概念を出来るだけ遠ざけて、なるべく生の印象、新 …
宮沢賢治の世界(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
人性の中には、かの概念が、殆んど全く容喙出来ない世界があつて、宮沢賢治の一生は、その世界への間断なき恋慕であつたと云ふことが出来る。 その世界といふのは、誰しもが多かれ少かれ有して …
読書目安時間:約2分
人性の中には、かの概念が、殆んど全く容喙出来ない世界があつて、宮沢賢治の一生は、その世界への間断なき恋慕であつたと云ふことが出来る。 その世界といふのは、誰しもが多かれ少かれ有して …
(名詞の扱ひに)(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
名詞の扱ひに ロヂックを忘れた象徴さ 俺の詩は 宣言と作品との関係は 有機的抽象と無機的具象との関係だ 物質名詞と印象との関係だ。 ダダ、つてんだよ 木馬、つてんだ 原始人のドモリ …
読書目安時間:約1分
名詞の扱ひに ロヂックを忘れた象徴さ 俺の詩は 宣言と作品との関係は 有機的抽象と無機的具象との関係だ 物質名詞と印象との関係だ。 ダダ、つてんだよ 木馬、つてんだ 原始人のドモリ …
(最も純粋に意地悪い奴)(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
最も純粋に意地悪い奴。 私は悲劇をみて泣いたことはない 悲劇に遭遇したことのある自分を発見したゞけであつた。 やつぱり形式に於ても経験世界を肯定しなきや 万人の芸術品とは言へないの …
読書目安時間:約1分
最も純粋に意地悪い奴。 私は悲劇をみて泣いたことはない 悲劇に遭遇したことのある自分を発見したゞけであつた。 やつぱり形式に於ても経験世界を肯定しなきや 万人の芸術品とは言へないの …
山羊の歌(新字旧仮名)
読書目安時間:約30分
トタンがセンベイ食べて 春の日の夕暮は穏かです アンダースローされた灰が蒼ざめて 春の日の夕暮は静かです 吁!案山子はないか——あるまい 馬嘶くか——嘶きもしまい ただただ月の光の …
読書目安時間:約30分
トタンがセンベイ食べて 春の日の夕暮は穏かです アンダースローされた灰が蒼ざめて 春の日の夕暮は静かです 吁!案山子はないか——あるまい 馬嘶くか——嘶きもしまい ただただ月の光の …
山羊の言(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
芸術に関するあらゆる議論は無用である。ピカソ 当今、我々は落付いてはゐない。一日外出して、我々の抱いて帰る印象は雑然として、而も果敢ないものである。 かうしたことの原因を、或人は経 …
読書目安時間:約2分
芸術に関するあらゆる議論は無用である。ピカソ 当今、我々は落付いてはゐない。一日外出して、我々の抱いて帰る印象は雑然として、而も果敢ないものである。 かうしたことの原因を、或人は経 …
逝ける辻野君(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
辻野君とは会で五六回、会の流れで二回会つたばかりであるから余り深いつきあひであつたわけではない。からだの弱さうな人だと思つてゐた。からだの弱さうな、気の弱さうな人であるけれども、あ …
読書目安時間:約2分
辻野君とは会で五六回、会の流れで二回会つたばかりであるから余り深いつきあひであつたわけではない。からだの弱さうな人だと思つてゐた。からだの弱さうな、気の弱さうな人であるけれども、あ …
夢:(これは、叙景・叙述のない一挿話である)(新字旧仮名)
読書目安時間:約10分
人物 男 女 男の友人 貧弱な洋室。柱はすべて、黒く太し。左側壁に一つの大きい窓。窓際に机、机の傍に煖炉。右側壁手前に入口。正面壁右隅に隣室に通ずるドアあり。——窓の外一間の所には …
読書目安時間:約10分
人物 男 女 男の友人 貧弱な洋室。柱はすべて、黒く太し。左側壁に一つの大きい窓。窓際に机、机の傍に煖炉。右側壁手前に入口。正面壁右隅に隣室に通ずるドアあり。——窓の外一間の所には …
夭折した富永太郎(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
ほつそりと、だが骨組はしつかりしてゐた、その躯幹の上に、小さな頭が載つかつてゐた。赤い攣れた髪毛が額に迫り、その下で紅と栗との軟い顔がほつとり上気してゐる。黒く澄んだ、黄楊の葉の目 …
読書目安時間:約3分
ほつそりと、だが骨組はしつかりしてゐた、その躯幹の上に、小さな頭が載つかつてゐた。赤い攣れた髪毛が額に迫り、その下で紅と栗との軟い顔がほつとり上気してゐる。黒く澄んだ、黄楊の葉の目 …
夜汽車の食堂(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
雪の野原の中に、一条のレールがあつて、そのレールのずつと地平線に見えなくなるあたりの空に、大きなお月様がポツカリと出てゐました。レールの片側には、真ッ黒に火で焦がされた、太い木杭が …
読書目安時間:約2分
雪の野原の中に、一条のレールがあつて、そのレールのずつと地平線に見えなくなるあたりの空に、大きなお月様がポツカリと出てゐました。レールの片側には、真ッ黒に火で焦がされた、太い木杭が …
良子(新字旧仮名)
読書目安時間:約7分
「お嬢ちやん大きくなつたらお嫁に行くんでせう?……」良子の家に毎日やつてくる真つ赤な顔や手の魚屋の小僧は、いまお祖母ちやんが鉢を出しに奥へ行つたと思ふとそんなことを云つた。 「いや …
読書目安時間:約7分
「お嬢ちやん大きくなつたらお嫁に行くんでせう?……」良子の家に毎日やつてくる真つ赤な顔や手の魚屋の小僧は、いまお祖母ちやんが鉢を出しに奥へ行つたと思ふとそんなことを云つた。 「いや …
よもやまの話(新字旧仮名)
読書目安時間:約10分
ジイド全集ももうあと三冊で完了する。寔によく読まれよく評されて来た。今更私なぞがジイドのことを書くにも当るまい。ジイドのことを書けとて与られた紙面ではあるが、そのやうなわけで今はよ …
読書目安時間:約10分
ジイド全集ももうあと三冊で完了する。寔によく読まれよく評されて来た。今更私なぞがジイドのことを書くにも当るまい。ジイドのことを書けとて与られた紙面ではあるが、そのやうなわけで今はよ …
我が祈り:小林秀雄に(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
神よ、私は俗人の奸策ともない奸策が いかに細き糸目もて編みなされるかを知つてをります。 神よ、しかしそれがよく編みなされてゐればゐる程、 破れる時には却て速かに乱離することを知つて …
読書目安時間:約1分
神よ、私は俗人の奸策ともない奸策が いかに細き糸目もて編みなされるかを知つてをります。 神よ、しかしそれがよく編みなされてゐればゐる程、 破れる時には却て速かに乱離することを知つて …
我邦感傷主義寸感(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
此の間京都の農林学校の生徒が三十名、満蒙視察に出掛けました。帰つて来て、彼等の身体検査をしてみますと、そのうち二十名がイヤな病気に冒されてゐました。 そのうち五名は非常に重く、学校 …
読書目安時間:約4分
此の間京都の農林学校の生徒が三十名、満蒙視察に出掛けました。帰つて来て、彼等の身体検査をしてみますと、そのうち二十名がイヤな病気に冒されてゐました。 そのうち五名は非常に重く、学校 …
我が詩観(新字旧仮名)
読書目安時間:約14分
詩観とはいへ、書かんとするのは要するに私の文学観であり、世界観の概略でもあるから、それに今日や昨日に考へ付いたことではないことを書くのであるから、多くの人に読んで貰ひたいものである …
読書目安時間:約14分
詩観とはいへ、書かんとするのは要するに私の文学観であり、世界観の概略でもあるから、それに今日や昨日に考へ付いたことではないことを書くのであるから、多くの人に読んで貰ひたいものである …
我が生活(新字旧仮名)
読書目安時間:約10分
私はほんとに馬鹿だつたのかもしれない。私の女を私から奪略した男の所へ、女が行くといふ日、実は私もその日家を変へたのだが、自分の荷物だけ運送屋に渡してしまふと、女の荷物の片附けを手助 …
読書目安時間:約10分
私はほんとに馬鹿だつたのかもしれない。私の女を私から奪略した男の所へ、女が行くといふ日、実は私もその日家を変へたのだが、自分の荷物だけ運送屋に渡してしまふと、女の荷物の片附けを手助 …
我が生活(新字旧仮名)
読書目安時間:約6分
明治座に吉右衛門の勧進帳が掛かつてゐる、連日満員である——と電車の中で隣り客の話してゐるのを聞いて、なんとなく観に行きたくなつたのであつた。観れば何時もながら面白く感ずるのだが、観 …
読書目安時間:約6分
明治座に吉右衛門の勧進帳が掛かつてゐる、連日満員である——と電車の中で隣り客の話してゐるのを聞いて、なんとなく観に行きたくなつたのであつた。観れば何時もながら面白く感ずるのだが、観 …
分らないもの(新字旧仮名)
読書目安時間:約12分
「福岡から、お客様がみえました」——さういふ下女の取次ぎの言葉を聞いた時から、彼は脅えてゐなくちやならなかつた。 福岡の客つて、それは彼の内の親類端だつたんだが、非常なブルヂョアで …
読書目安時間:約12分
「福岡から、お客様がみえました」——さういふ下女の取次ぎの言葉を聞いた時から、彼は脅えてゐなくちやならなかつた。 福岡の客つて、それは彼の内の親類端だつたんだが、非常なブルヂョアで …
私の事(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
どうしてこんなに暗くなるのだらう……どうもこれはかう理由もなく暗くなるのでは、理由を神秘に索めるよりほかはない。愉快に友達と話してゐても、或る時或る時刻から、急に何の理由もなく暗く …
読書目安時間:約4分
どうしてこんなに暗くなるのだらう……どうもこれはかう理由もなく暗くなるのでは、理由を神秘に索めるよりほかはない。愉快に友達と話してゐても、或る時或る時刻から、急に何の理由もなく暗く …
翻訳者としての作品一覧
ランボオ詩集(新字旧仮名)
読書目安時間:約1時間8分
初期詩篇 感動 私はゆかう、夏の青き宵は 麦穂臑刺す小径の上に、小草を蹈みに 夢想家・私は私の足に、爽々しさのつたふを覚え、 吹く風に思ふさま、私の頭をなぶらすだらう! 私は語りも …
読書目安時間:約1時間8分
初期詩篇 感動 私はゆかう、夏の青き宵は 麦穂臑刺す小径の上に、小草を蹈みに 夢想家・私は私の足に、爽々しさのつたふを覚え、 吹く風に思ふさま、私の頭をなぶらすだらう! 私は語りも …
ランボオ詩集≪学校時代の詩≫(新字旧仮名)
読書目安時間:約14分
1Ver erat 春であつた、オルビリウスは羅馬で病ひに苦しんでゐた 彼は身動きも出来なかつた、無情な教師、彼の剣術は中止されてゐた その打合ひの音は、我が耳を聾さなかつた 木刀 …
読書目安時間:約14分
1Ver erat 春であつた、オルビリウスは羅馬で病ひに苦しんでゐた 彼は身動きも出来なかつた、無情な教師、彼の剣術は中止されてゐた その打合ひの音は、我が耳を聾さなかつた 木刀 …
“中原中也”について
中原 中也(なかはら ちゅうや、1907年〈明治40年〉4月29日 - 1937年〈昭和12年〉10月22日)は、日本の詩人・歌人・翻訳家。旧姓は柏村(かしむら)。
(出典:Wikipedia)
(出典:Wikipedia)
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フランツ・カフカ(没後100年)