伊庭心猿（いばしんえん）

1908 〜 1957.02.25

著者としての作品一覧

荷風翁の発句（旧字旧仮名）
読書目安時間：約10分
遠みちも夜寒になりぬ川向う 「川向う」は隅田川東岸である。即ち、寺島町玉の井の遊里を指す。さうすると、この作は對岸淺草側からの吟でなければならぬ。但し「遠みち」が直ちにその淺草から …

九月朔日（旧字旧仮名）
読書目安時間：約4分
市電は、三筋町で二三人おろすと、相變らず單調な音をきしらせ、東に向つてのろのろと進んだ。なまぬるい風、灼けつくやうな舗道のてりかえし。——その時である。まだ停留所までだいぶあるのに …

桜もち（旧字旧仮名）
読書目安時間：約5分
一友に誘はれて久しぶりに向島を散歩したのは、まだ花には少しはやい三月なかばのことであつた。震災と戰災で昔の面影をきれいに失つたが、それでもわれわれ明治の子にとつて、墨東は忘れがたい …

来訪者のモデル（旧字旧仮名）
読書目安時間：約4分
御成道のうさぎや主人、谷口喜作さんから「先生はいまタカちやんと君のことを書いてゐるさうですよ」と知らされたのは、まだ空襲もさう激しくならない、たしか昭和十八年の春頃だつたと覺えてゐ …

緑雨と一葉（旧字旧仮名）
読書目安時間：約3分
かの日都を落ちて船橋にやどり申候きのふより市川町に戻りて百姓家を借りうけ、ともかくすごし居り候 今宵は松葉の土手と申すを下りて渡船にのりて月を觀候なみ／＼の旅ならねば落人の身の上い …

露伴忌（旧字旧仮名）
読書目安時間：約7分
「露伴忌がまた來ますね」 と、今にもひよつこり、長髮をなびかせた面長の顏が、庭口からはいつて來さうな氣がする。その若い友人、松井夢六が死んだ。通知をうけたのは、二十五日である。 七 …