)” の例文
旧字:
後にして之を想へば、よし真に自ら釣りしとするも、の時携へし骨無し竿にて、しかも玉網たまも無く、之をげんことは易きに非ず。
釣好隠居の懺悔 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
日本のそういった文学だけをげて、中国や西洋の文芸を挙げないで論ずるのはやはり井の中の蛙のそしりを免れないことになります。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
一つの場合をげるならば、袋中上人たいちゅうしょうにんの『琉球神道記りゅうきゅうしんとうき』に、姿を隠してのち三十二年目に、海から戻ってきた若い妻の話を載せている。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
玄恵は、彼らに利用されるのを、知ってか知らずにか、唯々いいとして、それにも出席し、天皇の侍読じどくげられれば、それにもなった。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は結婚して、三人の子をげた。——長男のドミトリイは先妻、次の二人、すなわちイワンとアレクセイとは後妻の腹から生まれた。
見るとその男は両手を高くげて、こっちを向いておもしろい恰好かっこうをしている。ふと、気がついて、頭に手をやると、留針ピンがない。
少女病 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
し又理由らしいものをげるとすれば、ただかれの生意気だった——或はかれのかれ自身を容易に曲げようとしなかったからである。
本所両国 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
でも、取り澄ました気振りは少しも見えず、折々表情のない目をげて、どこを見るともなくみつめると、目眩まぶしそうにまた伏せていた。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
するととりりてたので、二十にんこなひきおとこは、そうががかりで、「ヨイショ、ヨイショ!」とぼうでもって石臼いしうすたかげました。
花鳥も娘義太夫なんかをいじめたりしなければ、まだ容易に露顕しなかったかも知れません。巾着切りの竹蔵もつづいてげられました。
半七捕物帳:49 大阪屋花鳥 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
私の考では前にげたモーパッサン氏よりもある方面に向って一歩進んだ理想がなくってはとうてい書きこなせない作物だと思います。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もう一つ四重奏曲で「弦楽四重奏曲イ短調作品二九」のコーリッシュ四重奏団をげて良いと思う(コロムビアJ八四一三—六)。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
彼は去年法学士を授けられ、次いで内務省試補にげられ、踰えて一年の今日こんにち愛知県の参事官に栄転して、赴任の途に上れるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
村田が、ひょっとげた眼に、奥のボックスで相当御機嫌らしい男の横顔が、どろんとよどんだタバコの煙りの向うに映った——、と同時に
睡魔 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
その時廊下の向こうでどっとがる喚声が聞こえて来た。思わず肩をすくめていると、急にばたばたと駈け出す足音が響いて来た。
いのちの初夜 (新字新仮名) / 北条民雄(著)
喬介はそう言って、笑いながら右腕の袖口カフスをまくしげて見せた。手首の奥に白い繃帯ほうたい、赤い血を薄くにじませて巻かれてあった。
カンカン虫殺人事件 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
体中からだぢう珠数生じゆずなりになつたのを手当次第てあたりしだいむして、りなどして、あしんで、まるをどくるかたち歩行あるきした。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
こういうとき、私は強い衝動にられて、し許さるるなら私は大声げて「タロー! タロー!」と野でも山でもさけまわり度い気がする。
巴里のむす子へ (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
こうした大不公平だいふこうへいは、ここにくされないほどある。これにたいして、あなたがた同様どうようわたしたちが、だまっているものですか。
あらしの前の木と鳥の会話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
マークィスには子がないから兄百年の後は卿がその後をぐことになるであろう。しかし卿が総長にげられたのは無論家柄のためでない。
彼女はますます夢想にふけっていった。一身をげて願うことはついにはかならずかなうものだと、青春期の美しい推測で信じかけていた。
彼はづ画家五人をげ、次に蒔絵まきえ鋳金ちゅうきん、彫刻、象牙細工ぞうげざいく、銅器、刺繍ししゅう、陶器各種の制作者中おのおの一人いちにんを選び、その代表的制作品を研究し
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
誠党領袖の一人なる武田耕雲斎たけだこううんさいと筑波に兵をげた志士らとの通謀を疑っていた際であるから、早速さっそく耕雲斎に隠居慎いんきょつつしみを命じ
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
彼は、カンテラをげ、李の枝を引き寄せ、李をいくつかちぎる。そして、良いのを自分が取っておき、虫のついたやつをおじさんに渡す。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
一例をぐれば、一人ひとりの人が原書を読むそのそばで、その読む声がちゃんと耳に這入はいって、颯々さっさと写してスペルを誤ることがない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
その一例をげますれば日本国の二十分の一の人口を有するデンマーク国は日本の二分の一の外国貿易をもつのであります。
ふと産婦の握力がゆるんだのを感じて私は顔をげて見た。産婆の膝許ひざもとには血の気のない嬰児えいじが仰向けに横たえられていた。
小さき者へ (新字新仮名) / 有島武郎(著)
いっその事二人共に死んで仕舞おうかと云って居る処へ、夫が来たので左右へ離れて、ぴったり畳へかしら摺付すりつけて山平お照も顔をげ得ません。
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
なかなかに耳にもつぱらなるこそ正覚しょうがくのたよりなるべけれ、いざいざと筆をはしらしわずかにその綱目ばかりをげてこれを松風会諸子しょうふうかいしょしにいたす。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
翌日よくじつ新聞しんぶんには、やみなか摸摸すり何人なんにんとやらんで、何々なに/\しなぬすまれたとのことをげて、さかん会社くわいしや不行届ふゆきとどき攻撃こうげきしたのがあつた。
検疫と荷物検査 (新字旧仮名) / 杉村楚人冠(著)
と、職人風の一人が両手をさあッとげて頓狂とんきょうな叫びを発した。と、同時に、冷水管を通す円い穴の向うで、「きゃッ」という叫びがはじかれた。
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
彼女が驚きの叫びごえをげ、又は気を失うようなことを引き起したら、折角の好機会が玉なしになってしまうのである。
二十四日までその祭典が続いて、二十五日にいよいよ終りの式をげます。これはチベットで最も大なるお祭りであって、また大祈祷会だいきとうえである。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
全軍の信頼をつなぐに足る将帥しょうすいとしては、わずかに先年大宛だいえんを遠征して武名をげた弐師じし将軍李広利りこうりがあるにすぎない。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
結婚は秋までのばしたいという閑子のたった一つの希望条件も、男の側のせっかちな申出にまけて、八月の暑熱の中を式はげられることになった。
妻の座 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
母のことば黙止もだし難くて、今日山木の宴に臨みつれど、見も知らぬ相客と並びて、好まぬさかずきぐることのおもしろからず。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
高橋氏に話すと快諾してくれましたので、形ばかりの結納ゆいのうを取りかわし、明治八年の十一月七日に、九尺二間の我家で結婚の式をげたのでありました。
もつと可笑をかしいのは、張帥が装甲自動車で外出する際には、この老人が大佐の制服を着て、拳銃をげて同乗する。
南京六月祭 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
そしてちかうち黄道吉日こうどうきちにちえらんで、婚礼こんれいしきげようとしていたさいに、不図ふとおこりましたのがあの戦乱せんらんもなく良人おっととなるべきひと戦場せんじょうつゆ
兄弟共通に知つてゐる女性では、他に適当の心当りがないので、差当り此の従姉いとこの娘をげてみたまでであつた。
曠日 (新字旧仮名) / 佐佐木茂索(著)
二人ふたりげ、耳をすましました。ごとごと鳴る汽車のひびきと、すすきの風との間から、ころんころんと水のくような音が聞こえて来るのでした。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
お代は厚き唇をまくりげて嬉しそうに笑い「早く帰ればよいなあ」と後ろを振向きて思わず門の外を眺むるに門外よりきたれるはこの村の郵便脚夫
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
而してそれを取囲んで、先刻さつき別れて来たばかりの、SやYやTやが、折からの正月の座敷着で、きらびやかな者どもを交へ乍ら、愉快さうに盃をげてゐた。
良友悪友 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
色斯おどろきてがり、かけって後くだる。曰く、山梁さんりょう雌雉しちよいかなよいかなと。子路これむかえば三たびはねひろげてつ。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
政府はほとんど全国の兵をげ、くわうるに文明精巧せいこう兵器へいきを以てして容易よういにこれを鎮圧ちんあつするを得ず、攻城こうじょう野戦やせんおよそ八箇月、わずかに平定へいていこうそうしたれども
明治十年の西郷戦争さいごうせんそうに、彼の郷里の熊本は兵戈へいかの中心となったので、家をげて田舎に避難したが、オブチと云う飼犬のみは如何してもうちを守って去らないので
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
高城は両かかとをそろえて宇治に挙手の敬礼をした。げた手がぶるぶる慄えた。宇治も視線を外らさず一寸片掌を上げた。高城はむこうをむくと崖縁の道を歩き出した。
日の果て (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
今からざっと三十年も前に父親が一家をげて京都に移って来る時分に、所有していた山林田畑をその義弟の保管に任しておくと、彼はその財産を全部くしてしまい
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
もう一つ美作の特徴として、げなければならない一事がある。徹底したる佐幕思想——ということがそれである。したがって美作は同じ程度に、勤王思想を嫌忌けんきした。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
妾の所為しょいいましめ給いしほどなれば、幼友達おさなともだちの皆ひとして、子をぐる頃となりても、妾のみは、いまだあるべきものをだに見ざるを知りて、母上はいよいよ安からず
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)