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褪
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あ
ふりがな文庫
“
褪
(
あ
)” の例文
しかし水から出すとすぐに、その光沢は
褪
(
あ
)
せてきて、その姿が指の間に
融
(
と
)
け込む。彼はそれを水に投げ込み、また他のを
漁
(
あさ
)
り始める。
ジャン・クリストフ:06 第四巻 反抗
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
美しきものは命短しというをモットーとするように
豪奢
(
ごうしゃ
)
と
絢爛
(
けんらん
)
が極まると直ぐ色
褪
(
あ
)
せてあの世の星の色と清涼に消え流れて行きます。
生々流転
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
それはその海岸へ来てから朝晩に歩いている
路
(
みち
)
であった。櫟の葉はもう緑が
褪
(
あ
)
せて風がある日にはかさかさと云う音をさしていた。
蟇の血
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
そう言いながらテナルディエは、黄ばみがかって色が
褪
(
あ
)
せてしかも強い
煙草
(
たばこ
)
のにおいがする二枚の新聞紙を、包みの中から引き出した。
レ・ミゼラブル:08 第五部 ジャン・ヴァルジャン
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
と節子はすこし顔を
紅
(
あか
)
めた。彼女は何事も思うに任せぬという風で、手にした女持の洋傘のすこし色の
褪
(
あ
)
せたのをひろげて
翳
(
さ
)
した。
新生
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
▼ もっと見る
試みにその中のただ一つを掘り出してこの世の空気にさらすと、たちまちに色も光も消え
褪
(
あ
)
せた一片の
土塊
(
つちくれ
)
に変わってしまった。
柿の種
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
夕日のなごりが空の一部を染め、波頭を赤々と照らしたと見る間もなく、
忽
(
たちま
)
ち光は
褪
(
あ
)
せて、黒々とした闇が海と空とを包んでゆきました。
太平洋雷撃戦隊
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
すっかり
禿
(
は
)
げ上った白髪を総髪に垂らして、
額
(
ひたい
)
に年の波、鼻
隆
(
たか
)
く、
褪
(
あ
)
せた
唇元
(
くちもと
)
に、和らぎのある、上品な、六十あまりの老人だ。
雪之丞変化
(新字新仮名)
/
三上於菟吉
(著)
最早
(
もはや
)
、
茜
(
あかね
)
さえ
褪
(
あ
)
せた空に、いつしか
I岬
(
アイみさき
)
も溶け込み、サンマー・ハウスの
灯
(
ひ
)
を写すように、澄んだ夜空には、淡く銀河の瀬がかかる——。
鱗粉
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
英吉利
(
イギリス
)
海軍の
快走艇
(
ヨット
)
だ。が、幼い歌人の幻滅にまで、帆の色は赤ではなかった。陽に
褪
(
あ
)
せて白っぽくなったカアキイいろだった。
踊る地平線:12 海のモザイク
(新字新仮名)
/
谷譲次
(著)
九月にはいって、夕刻になると風はもう肌に寒かったが、彼は木綿縞の色の
褪
(
あ
)
せた
半纒
(
はんてん
)
に
股引
(
ももひき
)
、古い草履ばきで、少し背中が
跼
(
かが
)
んでいた。
榎物語
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
裲襠
(
うちかけ
)
のすそを音もなく曳いて、鏡のまえに一度坐る。髪の毛、一すじの乱れも、良人を暗くするであろう。
臙脂
(
べに
)
も、
褪
(
あ
)
せていてはならぬ。
新編忠臣蔵
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
色とりどりの美しい端切れで作ったお手玉は、その色も
褪
(
あ
)
せ、うすよごれていることで、持ち主のながい間のそれへの愛着を語っている。
いやな感じ
(新字新仮名)
/
高見順
(著)
いったい、薬物室の酸化鉛の
瓶
(
びん
)
の中には、何があったのでしょう。あの
褪
(
あ
)
せやすい薬物の色を、依然鮮かに保たせていたのは……
黒死館殺人事件
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
色の
褪
(
あ
)
せた唇は、何やらわななきますが、それっきり言葉にもならず、美しい眉がひそんで、
彫
(
きざ
)
んだような頬を、痛ましい
痙攣
(
けいれん
)
が走ります。
銭形平次捕物控:005 幽霊にされた女
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
彼女はみじめな
形
(
なり
)
をしている。ことに色の
褪
(
あ
)
せた靴下が、焦げた靴の上にだらしなく下っているので、なおさらその感が深い。
ぶどう畑のぶどう作り
(新字新仮名)
/
ジュール・ルナール
(著)
此の温帯地の・色彩の
褪
(
あ
)
せた幽霊然たる風景と比べる時、我がヴァイリマの森の、何という美しさ! 我が・風吹く家の、何たる輝かしさ!
光と風と夢
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
胸の
血汐
(
ちしお
)
の通うのが、波打って、風に
戦
(
そよ
)
いで見ゆるばかり、
撓
(
たわ
)
まぬ
膚
(
はだえ
)
の未開紅、この意気なれば二十六でも、
紅
(
くれない
)
の色は
褪
(
あ
)
せぬ。
婦系図
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
私は、これらの怪物の輪郭は十分はっきりしているが、その色彩が湿った空気のためであろうか、
褪
(
あ
)
せてぼんやりしているらしいことを認めた。
落穴と振子
(新字新仮名)
/
エドガー・アラン・ポー
(著)
それに対して「成田山」だの「不動明王」だのとしたいろ/\の古い
提灯
(
ちょうちん
)
……長かったりまるかったりするそれらの
褪
(
あ
)
せた色のわびしいことよ。
雷門以北
(新字新仮名)
/
久保田万太郎
(著)
紙の色も
褪
(
あ
)
せて、虫にくわれてボロボロになっていましたが、なんの気なしにそれをひらいてみて、アッ! と和尚さんは胆をつぶされました。
亡霊怪猫屋敷
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
すでにやや色の
褪
(
あ
)
せた晩夏の青空には、風に吹きちぎられた薄い雲ぎれが、一面に浮かんでいた。しかし太陽は彼の故郷の町の上に照っていた。
トニオ・クレエゲル
(新字新仮名)
/
パウル・トーマス・マン
(著)
花聟の衣裳は磨り切れて艶々しい色も
褪
(
あ
)
せ、荒野の悪い野良犬や尖った
茨
(
いばら
)
にその柔らかな
布地
(
ぬのじ
)
は引き裂かれてしまった。
世界怪談名作集:14 ラザルス
(新字新仮名)
/
レオニード・ニコラーエヴィチ・アンドレーエフ
(著)
坂の中ほどまでやって来ると、視野が改まり、向うに中学の色
褪
(
あ
)
せた校舎が見えたが、彼の
脚
(
あし
)
はひだるく熱っぽかった。
冬日記
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
汚れた
瓦
(
かわら
)
屋根、目に
入
(
い
)
るものは
尽
(
ことごと
)
く
褪
(
あ
)
せた寒い色をしているので、芝居を出てから一瞬間とても
消失
(
きえう
)
せない
清心
(
せいしん
)
と
十六夜
(
いざよい
)
の
華美
(
はで
)
やかな姿の記憶が
すみだ川
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
色の
褪
(
あ
)
せた粗末な
革鞄
(
トランク
)
をほとんど投げ出すように彼の
足許
(
あしもと
)
へ置くと、我慢がしきれないと云ったように急いで顔や手に流れている汗を手拭でふいた。
田舎医師の子
(新字新仮名)
/
相馬泰三
(著)
肘
(
ひじ
)
から手首まで鮎のように細く、生白いむずむずした臆病そうな艶を失った
褪
(
あ
)
せたいろで伸べられた。葉脈のようなうすあおいものがすいて見えた。
香爐を盗む
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
冬の白じらと色の
褪
(
あ
)
せた寒空のなかに、いまは空のしみほどの煙も出さない薄汚ない煙突をながめ、
何故
(
なぜ
)
かかならずくる急激な空腹感といっしょに
煙突
(新字新仮名)
/
山川方夫
(著)
さて彼が丹精して作ったそれらの菊の花どもゝすっかり色香が
褪
(
あ
)
せてしまったその年の冬の、或る晩のことであった。
少将滋幹の母
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
私は松葉杖を傍に置いて、がつくりとベンチの上に凭れかゝつたおしづさんの姿と、其色の
褪
(
あ
)
せた櫻とが妙に一緒に成つて、私の記憶に殘つてゐます。
「青白き夢」序
(旧字旧仮名)
/
森田草平
(著)
その他にマフラや絹地の
刺繍物
(
ししうもの
)
を売る女、フォチュンテラーと英文字で書いた腕章をつけて、色の
褪
(
あ
)
せた背広を着
老残
(新字旧仮名)
/
宮地嘉六
(著)
その色
褪
(
あ
)
せたきんらんを除くと、すがりといって、紅い絹紐であんだ網をスッポリと壺にかぶせてあることだろう。
丹下左膳:02 こけ猿の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
見よ、演説壇上のこの人を——黒紋付の木綿羽織に、色
褪
(
あ
)
せた
毛繻子
(
けじゆす
)
の袴。大きな円い額には長く延びた半白の髪が蓬のやうに乱れて居る。年正に六十。
政治の破産者・田中正造
(新字旧仮名)
/
木下尚江
(著)
買手はこれで安く品が買えたとしても、色は本藍ほどに丈夫ではありませんし、使えばきたなく
褪
(
あ
)
せてゆきます。
手仕事の日本
(新字新仮名)
/
柳宗悦
(著)
色の
褪
(
あ
)
せた紡績織りの寝衣に、派手な
仕扱
(
しごき
)
などを締めながら、火鉢の傍に立て膝をして寝しなに莨を
喫
(
す
)
っていた。
足迹
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
そこが応接室につかわれていて、もう数人の先客が、いくらか
褪
(
あ
)
せた淡紅色のカーペットの上に自由にばらばらおかれている
肱
(
ひじ
)
かけ椅子の上にかけていた。
道標
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
色の
褪
(
あ
)
せた囚衣の肩に、いくつにも
補綴
(
つぎ
)
があててあり、大きな足が尻の切れた草履からはみ出している姿が、みじめな感じをさらに増しているのであった。
癩
(新字新仮名)
/
島木健作
(著)
道は色
褪
(
あ
)
せかけた
黄昏
(
たそがれ
)
を貫いていた。吉良兵曹長が先に立った。崖の上に、落日に
染
(
そ
)
められた桜島岳があった。
桜島
(新字新仮名)
/
梅崎春生
(著)
割合に古木の並んだ庭さきのその木の梢にはまだみつちりと咲きかたまつてゐるのだが、今日はもう昨日の色の深みはない。見るからにほの白く
褪
(
あ
)
せてゐる。
樹木とその葉:25 或る日の昼餐
(旧字旧仮名)
/
若山牧水
(著)
といってもそれは色も
褪
(
あ
)
せ、つぎもつけた、ぐにゃぐにゃの銘仙の
袷
(
あわせ
)
や
瓦斯裏
(
がすうら
)
のついた新銘仙の羽織などが一番上等の部に這入る種類のものばかりであった。
何が私をこうさせたか:――獄中手記――
(新字新仮名)
/
金子ふみ子
(著)
賠
(
つぐの
)
ひの金屆きて一群の山を下りし時、少女の顏は色
褪
(
あ
)
せて、目は光鈍りたりき。深山は蔭多きけにやあらん。
即興詩人
(旧字旧仮名)
/
ハンス・クリスチャン・アンデルセン
(著)
妾は、皮膚の色
褪
(
あ
)
せた
波斯
(
ペルシャ
)
族、半黒黒焼の
馬来
(
マレー
)
人、衰微した安南の舞姫の
裡
(
うち
)
にあって、日露戦争役の小さい誇を、桜の花の咲いた日本の衣服に輝かせていました。
バルザックの寝巻姿
(新字新仮名)
/
吉行エイスケ
(著)
姉の容色が急に
褪
(
あ
)
せてきたように思われて、彼女に対する熱烈な恋は夢のように
覚
(
さ
)
めてしまい、さらに妹のガブリエルとの結婚を父の伯爵に申し込んだのである。
世界怪談名作集:10 廃宅
(新字新仮名)
/
エルンスト・テオドーア・アマーデウス・ホフマン
(著)
彼らが今なお生きていると信ずる過去は、色
褪
(
あ
)
せた記念碑の残骸にすぎない。確かにわれわれは過去を通って現在に来た。「それゆえに」と言うことはできない。
二十歳のエチュード
(新字新仮名)
/
原口統三
(著)
が、彼は
空
(
くう
)
を
掴
(
つか
)
んだのである。その幼児がいつも
宙有
(
ちゅうう
)
に浮いてゐた。神話のやうに奇妙な光景だつた。色
褪
(
あ
)
せた幼児がいつも明子の
瞼
(
まぶた
)
に斜めの空間に浮いてゐた。
青いポアン
(新字旧仮名)
/
神西清
(著)
太陽はわたしの家具をいためもせず敷物を
褪
(
あ
)
せさせもしない——もし彼が時に少々暑すぎる友人ならば、自然が供給する何かのカーテンのうしろに引っこむ方が
森の生活――ウォールデン――:02 森の生活――ウォールデン――
(新字新仮名)
/
ヘンリー・デイビッド・ソロー
(著)
われとわが心にちぎるも誓には
洩
(
も
)
れず。この誓だに破らずばと思い詰める。エレーンの頬の色は
褪
(
あ
)
せる。
薤露行
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
カピ長 いかにも、
往
(
ゆ
)
きて
再
(
ふたゝ
)
び
還
(
かへ
)
らぬ
支度
(
したく
)
が。おゝ、
婿
(
むこ
)
どの、いざ
婚禮
(
こんれい
)
の
前
(
まへ
)
の
夜
(
よ
)
に、
死神
(
しにがみ
)
めが
貴下
(
こなた
)
の
妻
(
つま
)
を
寢取
(
ねと
)
りをった。あれ、あのやうに
花
(
はな
)
の
相
(
すがた
)
の
色
(
いろ
)
も
褪
(
あ
)
せたわ。
ロミオとヂュリエット:03 ロミオとヂュリエット
(旧字旧仮名)
/
ウィリアム・シェークスピア
(著)
縦覧を許されないから
其
(
その
)
内部は知らないが、
薄桃
(
うすもも
)
色の塗料の雨風に
褪
(
あ
)
せた、外観の平凡な画室であつた。
巴里より
(新字旧仮名)
/
与謝野寛
、
与謝野晶子
(著)
残ったのは、虫の食った
挟箱
(
はさみばこ
)
や、手文庫、軸の曲った
燭台
(
しょくだい
)
、古風な
長提灯
(
ながちょうちん
)
、色の
褪
(
あ
)
せた
裃
(
かみしも
)
といったような、いかにもがらくたという感じのするものばかりであった。
次郎物語:01 第一部
(新字新仮名)
/
下村湖人
(著)
褪
漢検1級
部首:⾐
15画
“褪”を含む語句
蒼褪
色褪
褪色
青褪
褪赭
褪紅色
衰褪
褪紅
褪朱色
褪紅緋色
褪緑
鈍褪