穿)” の例文
それにも増して、刀身へ穴でも穿けるかのように、その刀身を見詰めているのは、おきのように熱を持った薪左衛門の眼であった。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ペツポ怒りて、かたくななる女かな、この木履もてそちが頭に、ピアツツア、デル、ポヽロの通衢おほぢのやうなる穴を穿けんと叫びぬ。
底の方には蜂の出入口になる小さな穴が三つ穿いてゐます。そして、内側には、今に出来る筈の蜜窩みつかを支へる為めの幾本かの木釘があります。
水槽を二つに仕切った格子の潜りの真下に、幅二分、長さ七八分、ちょうど短刀のなかごを逆に立てるほどの、真新しい穴が穿いているのです。
演壇の右側には一警視の剣をきて、弁士の横顔穴も穿けよとにらみつゝあり、三名の巡査はして速記に忙殺ばうさつせらる
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
どれも一文字に引いてあるのは、左から右に通っています。一体刃物を突き込んだ所は大きく穴が穿き、引くに従って薄くなりますから、よく分る筈です。
琥珀のパイプ (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
申分けが無いとなると、切腹するより他には無いのだが、同じ死ぬのならお前のドテッ腹へ風穴を穿けて、屍骸がせるまで血を流さした上で、覚悟をする
悪因縁の怨 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
その首には三尺四方の板で首の入るだけ穴の穿いた、厚み一寸二、三分のごく重い木で拵えた板がめてある。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
上部に鉄の格子こうし穿けて中央の孔から鉄砲を打つと云う仕懸しかけの後世のものでは無論ない。いずれの時、何者がきたえた盾かは盾の主人なるウィリアムさえ知らぬ。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
またその櫃には小さい孔を穿けて、空気の流通を自由にし、しばしばグローチゥスをこれに入れて試験を行い、それからひたすら、好機会の到来を侍っておった。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
大晦日おおみそかの雨はこの附近もひどかったらしく、木の根元に大孔を穿けているので思うように飛ばせない。
単独行 (新字新仮名) / 加藤文太郎(著)
諸君はこの個我の宿中に穴を穿けたいとは思はぬのか、自然の向う側を見たいとは思はぬのか! 自然とは、調和とは、一体何か。私は私の周囲に押し寄せて来る敵を見た。
一所ひとところ闇が千切られた。そこへ楔形くさびがたの穴が穿いた。焔が楔形に燃え上がったのであった。五人の者は火を囲んだ。風に消されまいと取り囲んだ。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
蜘蛛はほんの一寸の間に孔を穿けて、虫が絹の材料の液をつくるやうにしてつくつた毒液の、やつと見える位の僅かの滴りをその管から流し込むのだ。
これではどんなに自分が生活を守つても、片端から夫が大穴を穿けて行くやうなものだと、彼女は近頃の夫に苛立しいものを感じるのだつた。彼女にも、夫の苦痛が全然判らない訳ではなかつた。
道化芝居 (新字旧仮名) / 北条民雄(著)
ちと具合ぐあひわるいので、三にん其所そこつてると、それとつた男子達をとこたちは、きこえよがしに高話たかばなしである。何處どこやつだか、んな大穴おほあな穿けやアがつた。今度こんど見附次第みつけしだい叩殺たゝきころしてやるといふ血腥ちなまぐさ鼻息はないき
乳房のあるべき位置の辺りに、椀ほどの穴が穿いていた。げた朱塗りの椀のように、諸所に赤い斑点があった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
蟻塚にはどれにもめいめいに其のてつぺんに、出入口になる穴が穿いてゐるのだ。
と云って黙ってはいられなかった。いつまでも黙っていようものなら、杖の先で顔を突かれるだろう。突かれたら顔へ穴が穿こう。トロトロに顔が融かされよう。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
穴が穿きましょう、綺麗な顔へ! 鉛を変えて黄金とする、道教での錬金術、それに用いる醂麝りんじゃ液、一滴つけたら肉も骨も、海鼠なまこのように融けましょう、……さて付ける
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
落ちるに従って石畳の上に、小穴がポッツリポッツリと穿く。そうして煙りがポ——ッと立つ。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
星ばかりが空へ穴を穿けていた。その暗澹あんたんたる漆色の夜を、二つの焔が遠ざかって行った。一つは陸を行く仮面の城主の、身に纏っているほうであり、一つは帆船の帆であった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)