)” の例文
この小説は、「健康道場」と称するる療養所で病いと闘っている二十歳の男の子から、その親友にてた手紙の形式になっている。
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
窓外は勿論もちろん何にも見えなかった。鷲尾はやがて手帳を出して、二三枚ちぎりながら別れてきた末弟へてて、手紙を書き始めた——。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
あくる朝俊夫君は、昨夜ゆうべ、叔父さんてに書いたという手紙を投函してくると言って出かけたまま、正午ひる頃まで帰ってきませんでした。
紅色ダイヤ (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
故川田甕江おうこう先生は、白石はくせき鳩巣きゅうそうてた書翰しょかんと『折焚柴おりたくしばの記』に浪人越前某の伝を同事異文で記したのを馬遷班固の文以上にめたが
わたくしの顔を見ると、「ちょっと手をおし」といったまま、自分は席に着いた。私は兄に代って、油紙あぶらがみを父のしりの下にてがったりした。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
澪標の語は『延喜式』に難波津なにわづほとり、海中に澪標を立つとあるのが初めで『万葉』には水咫衝石の字をつと『和訓栞わくんのしおり』に言ってある。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
この手紙は僕にてたもので、犯人を誰とも書いてないけれども、僕に宛てたところをみると、僕を犯人に当てているのかも知れないね。
不連続殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
五時間目には菊池きくち先生がうちへてた手紙をわたして、またいろいろ話された。武田先生と菊池先生がついて行かれるのだそうだ。
或る農学生の日誌 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
東国の逆乱もすみやかな静謐せいひつを見、相共によろこばしい。さっそく将士の軍功の施与せよは、綸旨りんじの下に、朝廷でおこなうであろう。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
甥のことを頼んで置いて、自分の家へ引返してから、三吉は不取敢とりあえず正太へてて書いた。その時は姪のお延と二人ぎりであった。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その明くる日、ナオミは私から二百円もらって、一人で三越へ行き、私は会社でひるの休みに、母親へてて始めて無心状を書いたものです。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その文学士河野にてたは。——英吉君……島山夫人が、才と色とをもって、君の為に早瀬をとりこにしようとしたのは事実である。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
トいいさして文三は顔に手をてて黙ッてしまう。こころとどめてく見れば、壁に写ッた影法師が、慄然ぶるぶるとばかり震えている。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
わたしだそれをひらきません』とつて白兎しろうさぎは、『だが、それは手紙てがみのやうです、囚人しうじんになつた、——何者なにものかにてた』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
善作さんの家に厄介になつてゐることを知らせてやつた。父からはあらためて善作さんにてて何分頼むと云ふ手紙が来た。私にも別封で来た。
ある職工の手記 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
簿記台のなかから、手紙を取り出してみると、それは加世子から均平にてたもので、富士見の青嵐荘せいらんそうにてとしてあった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
手紙は重吉といねにてたもので、病身でも充分に気をつけるから八重と結婚をしたいという、坂田の若者らしい熱情でつづられたものであった。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
私は座敷に落付くや否や其処そこすずりを取り寄せて一本の手紙を書いた。それは少し以前から此の地に来ているはずの漱石氏にてたものであった。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
若浪は若草を抱き上げ、湯呑を口にてがうとゴックリと一口水を飲み、フー/\という息遣いでございます。暫くして
おぼつかないてではあったけれど、ほかに宛てのない彼女としては、そんなことでも宛てにして、良人をさがさなければならないのであった。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼はかわいた唇をなめてあたりを見まわした。大沼喜三郎をてるつもりでいた。彼はそれを阿賀妻に連れて行かれていた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
わたしの船室にはわたしてに十数個の小包が届いていた。なかには、一度ぐらいより会ったことのないような人からまで記念品を贈られていた。
謎の街 (新字新仮名) / 松本泰(著)
優善が家を出た日に書いたもので、一は五百いおて、一は成善に宛ててある。ならび訣別けつべつの書で、所々しょしょ涙痕るいこんいんしている。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
しかし、セントラル・ニュース社にてた通信を犯人から出たものと仮定すれば、このロシア渡来の狂医師説はただちに粉砕されなければならない。
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
それからソフィヤ・セミョーノヴナがすっかり安心するように、三人が丁年に達するまで、一人あたま千五百ルーブリずつてといてやりましょう。
それで、クリストフへてられた招待の相伴しょうばんを受けた。そしてひそかにクリストフを監視するためについて行った。
妻君「鯖の船場煮とはどうしたお料理です」お登和嬢「鯖の船場煮は誠にさっぱりしたお料理で先ず生鯖のあたらしいのへ一塩てて二、三時間置きます。 ...
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
袋だたきにわされまいものでもないから——金子きんすだけを送ってやることに初めから心には定めていたので、すぐ吉弥てで電報がわせをふり出した。
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
女はちょっと途方に暮れて立っていたが、たちまち思いいた事があるらしく、一人うなずいて郵便局へけて行った。医学士にてた電報を打ったのである。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
但し条件附であった。掃除をよくすること、本座敷は滅多に使わぬこと——。それゆえ、鼈四郎夫妻は次の間の六畳を常の住いにてているのであった。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
B ぼく政治上せいぢじやうこと趣味しゆみがないからくはしいことらないが、なんでも請願せいぐわんかはりに、多數たすう人民じんみんから衆議院議長しうぎゐんぎちやうてゝ葉書はがきさうとふのださうな。
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
二十三年の間、洗濯婦をやり、手のかたちをいびつにしていささかの貯えを残し、その貯金のためにランドリュに惨殺された五十一歳のギラン夫人にてた恋文は
青髯二百八十三人の妻 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
ともかくも大きい水車があるために、ここの家も火薬製造所にてられていました処が、このお話の安政元年、六月十一日の明け六ツ過ぎに突然爆発しました。
半七捕物帳:50 正雪の絵馬 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
独言ひとりごとを言っている時に、与力同心の部屋にてられたところでどっと人の笑う声がしました。それと共に
ははなどは、ほかおおくの人達ひとたちおなじく、こちらにまいってから、産土神様うぶすなのかみさまのお手元てもとで、ある一しつてがわれ、そこでしずかに修行しゅぎょうをつづけているだけなのです……。
冬柏とうはく』の昭和五年十月号の消息欄に、賀古鶴所かこつるど氏が与謝野よさの氏にてた、次のような手紙が出ています。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
何か国にてて書くべき急な手紙の用事のあることを見てとつたので、臨時に受持を替へたのである。
姉弟と新聞配達 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
愛宕さんの祭には花踊はなをどりがあつた。ある年の祭に町の若いしうだけでは踊り子が足りなくて、他所者たしよもん小池こいけまでが徴發ちようはつされて、薙刀振なぎなたふりの役をてられたことがあつた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
誰にてるという遺書ではなかった。次第に腹が立って来た。私は立ち上って、それを破り捨てた。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
ベンヺ カピューレットの一ぞくのチッバルトが、ロミオが父者てゝぢゃてゝ、書面しょめんをばおくったさうな。
さきに一旦いったんの感情に駆られて、葉石にてたりし永別の書が、はしなくも世に発表せられしことを思いてわれながら面目なく、また葉石に対し何となく気の毒なる情も起り
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
三万両からの金をのこして、その場所を誰にも教えずに死んでしまいましたが、手文庫の中の倅にてた遺言状らしい手紙に、日比魚とたった三字だけ書いてあったそうです。
私には躊躇はなかったのです。その日友人にて、「上人は幕末における最大の彫刻家だ」と書かないわけにはゆきませんでした。それほど上人は私の眼を覚まさせました。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
赤穂の元浅野家菩提所ぼだいしょ華岳寺の住職恵光えこう、同新浜正福寺の住職良雪、自家の菩提所周世すせ村の神護寺住職三人にてたもので、自分が江戸へ下ってからの一党の情況を報じて
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
忌々いまいましくてならないので、帰ると直ぐ「鴎外を訪うて会わず」という短文を書いて、その頃在籍していた国民新聞社へててポストへ入れに運動かたがた自分で持って出掛けた。
鴎外博士の追憶 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
しかし単に状態の上からめた名とすれば、さしたる不都合はなかろうと思われる。
高山の雪 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
手紙は簡単に「トニカク、クワシイ事ヲオ話シマショウ。明日八時、石切山ノ下デマッテイマス。」——書くなと云った通り、自分の名前も、てた森本の名も書いてなかった。
工場細胞 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
お浜の一家からは、その後、到着を報じたくちゃくちゃの葉書が、年内に一通と、年が明けて十日も経ったころ、次郎にてたお鶴の年賀状が来たきり、何の音沙汰もなかった。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
そして聞くところによると、泣き出しさえしたそうである。あの、わたしの父がである! 発作の起る日の朝のこと、父はわたしにてて、フランス語の手紙を書き始めていた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
税関附ぜいくわんづき官吏くわんりて、大蔵省おほくらしやうから桑港税関長さうかうぜいくわんちやうてた書面しよめんうつしれる。ると、一周会員しうくわいいん荷物にもつ東京駐剳大使とうきやうちうさつたいし照会せうくわいがあつたので、一々検査けんさくはふるにおよばぬとの内訓ないくんである。
検疫と荷物検査 (新字旧仮名) / 杉村楚人冠(著)