)” の例文
惜しい夜もけた。手をきよめに出て見ると、樺の焚火たきびさがって、ほの白いけむりげ、真黒な立木たちきの上には霜夜の星爛々らんらんと光って居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
秋らしい光線が、枝葉のややえかかった銀杏いちょうの街路樹のうえに降りそそぎ、円タクのげて行く軽いほこりも目につくほどだった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
皆天には霧の球、地には火山の弾子だんし、五合目にして一天の霧やうやれ、下によどめるもの、風なきにさかしまにがり、故郷を望んで帰りなむを私語さゞめく。
霧の不二、月の不二 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
紙鳶は他の子供が二枚も三枚も破り棄てて仕舞う間に自分は一枚の紙鳶を満足にげて遊んで居た程でした。
少年時代 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
対岸の岩間からは、湯の烟が二筋ばかり白く立ち昇って、河風に吹きげられては消えて行った。
黒部川を遡る (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
人の影はあたりを見まわしてもないが、青い細い炊煙は糸のようにさびしく立ちがる。
一兵卒 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
白い煙をげて浴衣はめらめらと燃えて行ったが、燃えのこりの部分のくすぶっているのを、さらに棒片ぼうきれきたてていた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
焼岳の中腹から麓へかけて森林の中から灰が、砂煙のように白く舞いがって、おどろくべき速力で、空の一角を暗くするばかりに、ずんずんと進行をはじめる。
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
扇沢から吹きげられた千切れ雲が気紛れに手を伸して、時々祖父じい岳の額を撫でに来るが、双尖を聳やかした鹿島槍ヶ岳の威容におびえて、慌てたように黒部の大谷に逃げ込む。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
浴をらなかったものだが、今は立派な温泉宿が出来た、それにしても客の来るのは、夏から秋だけで、冬は雪が二尺もつもる、風がつよくて、山々谷々から吹きげ、吹き下すので
梓川の上流 (新字新仮名) / 小島烏水(著)