“し”のいろいろな漢字の書き方と例文
カタカナ:
語句割合
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(注) 作品の中でふりがなが振られた語句のみを対象としているため、一般的な用法や使用頻度とは異なる場合があります。
なんでも夜中よなかすぎになると、天子てんしさまのおやすみになる紫宸殿ししいでんのお屋根やねの上になんともれない気味きみわるこえくものがあります。
(新字新仮名) / 楠山正雄(著)
そのうえいることはあるまいと思っていると、そのけったいな男が、突然きょろきょろと四方あたりを見廻して、落着かないことおびただしい。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
けれども、グレーテルはどんどんかけていきました。こうして、ばちあたりの魔法使まほうつかいは、むごたらしくんでしまったのです。
停車場ステエションうしろは、突然いきなり荒寺の裏へ入った形で、ぷんと身にみるの葉のにおい、鳥の羽ででられるように、さらさらと——袖が鳴った。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ここに於て佐志木作右衛門は、千束島の山善左衛門等とはかったが、結局ながら藩兵に攻められるより兵を挙ぐるにかずとなった。
島原の乱 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
一撃に敵を打ち倒すことには何の痛痒つうようも感じない代りに、らずらず友人を傷つけることには児女に似た恐怖を感ずるものである。
侏儒の言葉 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
嫡男信忠(年十九)は河尻秀隆を従えて、矢部村勅養寺附近の天神山に、次男北畠信雄は稲葉一徹属して御堂山に、夫々陣をいた。
長篠合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「いつのまに、こんなにはや時間じかんがたったろう。」と、つぶやきながら、れいのレストランのまえへくると、もうみせまっていました。
世の中へ出る子供たち (新字新仮名) / 小川未明(著)
春は水嵩みずかさゆたかで、両岸に咲く一重桜の花の反映の薄べに色に淵はんでも、瀬々の白波しらなみはます/\えて、こまかい荒波を立てゝゐる。
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
此の婚礼に就いて在所の者が、先住のためしを引いて不吉ふきつな噂を立てるので、豪気がうき新住しんじう境内けいだいの暗い竹籔たけやぶ切払きりはらつて桑畑にしまつた。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
つまり河流かりゆう上汐あげしほとが河口かこう暫時ざんじたゝかつて、つひ上汐あげしほかちめ、海水かいすいかべきづきながらそれが上流じようりゆうむかつていきほひよく進行しんこうするのである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
繃帶ほうたいかわいてれば五六にちてゝいてもいが、液汁みづすやうならば明日あすにもすぐるやうにと醫者いしやはいつたのであるが
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ところが案外、いい加減に聞いていられないことをいい出しそうなので、急に女のような優しくて厚い唇が、難しく大きくまった。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
油断ゆだんをしているうちに、達二たつじはいきなり山男に足をつかまいてたおされました。山男は達二を組みいて、刀をり上げてしまいました。
種山ヶ原 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
其跡そのあと入違いれちがつてたのは、織色おりいろ羽織はおり結城博多ゆうきはかたの五本手ほんて衣服きもの茶博多ちやはかたおびめました人物、年齢四十五六になるひんをとこ。客
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
今までの怖ろしかった心が、だんだんに消えて行って、水の肌にみ込む気持が何とも言えぬ清々すがすがしさになってゆくのでありました。
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
いま廿日はつかつきおもかげかすんで、さしのぼには木立こだちおぼろおぼろとくらく、たりや孤徽殿こきでん細殿口ほそどのぐちさとしためにはくものもなきときぞかし。
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
あゝなに御存ごぞんじなしにのやうによろこんでお出遊いであそばすものを、かほさげて離縁状りゑんじようもらふてくだされとはれたものか、かられるは必定ひつぢよう
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
吾々三人馬車に乗りやがて其ビヽエン街に達しますと藻西太郎は丁度夕飯を初める所で妻と共に店の次の間で席につこうとて居ました
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
これを tick-tack といって、その場になって刻々移る一般の人気によって激しく上下する馬金率をらせあっているのだ。
いい芳香におい臓腑はらわたのドン底までみ渡りましたよ。そうなると香水だか肌のにおいだか解かれあしません。おまけにハッキリした日本語で
人間腸詰 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「わが夫の神よ、それではこのしかえしに、日本じゅうの人を一日に千人ずつめ殺してゆきますから、そう思っていらっしゃいまし」
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
彼女は、二つの世界の境界を、はっきりとまたぎ越えて、やがて訪れるであろう恋愛の世界に、身も世もなく酔いれるのだった。
紅毛傾城 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
殘念ざんねんでならぬので、自分じぶん持場もちばを一生懸命しやうけんめいつたけれど、なにない。幻子げんし大成功だいせいかう引替ひきかへて大失敗だいしつぱいくわつぼう茫然ばうぜんとしてしまつた。
「罪ありと我をいるか。何をあかしに、何の罪を数えんとはする。いつわりは天も照覧あれ」とほそき手を抜け出でよと空高く挙げる。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
『もうないから、萬望どうぞはなして頂戴ちやうだいな』とあいちやんは謙遜けんそんして、『二くちれないわ。屹度きつとそんな井戸ゐどひとくらゐあつてよ』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
初枝は十二の冬、村の小学校への行きがけに、みついた雪の上に誰かに突き転がされて、それがもとで今の脊髄炎せきずいえんを患ったのだった。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
先刻グロテスクだと思った彼の手を堅く握りめて、今更のように肩幅の広い、厳丈なこの山人の体を頼もしげに見詰めたのであります。
案内人風景 (新字新仮名) / 百瀬慎太郎黒部溯郎(著)
おかの上に立って、うつくしい村をながめては、歌にうたい、牧場まきばにいって、やさしいひつじのむれをながめては、をかくのがつねでした。
丘の銅像 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
これも何者かに命ぜられてかく入つて居るらしい、起してはならないやうに思はれ、アヽまた横になつて、足をかがめて、目をふさいだ。
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
問の漠然たるが如くに答もまた漠然たるを失わぬけれども、かも漠然たる大掴みの語の中に皭然しゃくぜんとしてくろなすべからざる真理が存する。
永久平和の先決問題 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
(七九)閭巷りよかうひとおこなひてんとほつするものは、(八〇)青雲せいうんくにあらずんば、いづくんぞく(名ヲ)後世こうせいかん
しかしそのとき周圍しうゐ事情じじやうは、病人びやうにんをKうちかしてことゆるさないので、ぐに何處どこへか入院にふゐんさせなければならなかつた。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
ふっくら豊頬ほうきょうな面だちであるが、やはり父義朝に似て、長面ながおもてのほうであった。一体に源家の人々は、四たくましく、とがり骨で顔が長い。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
つうじると、田舎いなか者らしい小女こおんなの取次で、洋館の方の応接間へ案内されたが、そこには静子が、ただならぬ様子で待構えていた。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「くそうッ、切支丹族のやつなんかに、高麗村の者がおそれていてたまるものか。ちゃんは臆病だから、をまいて逃げて来たんだろう」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
碧色の瞳は何処と信ってっかり見詰めないような平静な光りをただよわせて居る。が、時折り突き入るようにとがってきらめくこともある。
決闘場 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「貴公の一がなければ、鄧賢とうけんのために討たれていたかも知れない。つつしんで高恩を謝します」と、ひざまずいて頓首した。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は倚凭よりかかって眺め入っていた田圃たんぼわきだの、いていた草だの、それから岡をよぎる旅人の群などを胸に浮べながら帰って来た。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
司馬穰苴しばじやうしよ田完でんくわん(一)苗裔べうえいなりせい景公けいこうときしん(二)けんち、しかうしてえん(三)河上かじやうをかし、せい敗績はいせきせり。景公けいこうこれうれふ。
そうしている間も、ちょっと油断すると、秋草のしとどな露に、火縄は消してしまうし、弾薬は湿めらしてしまう。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あいするところ((ノ人))をろんずればすなはもつ(七五)るとせられ、にくところ((ノ人))をろんずれば、すなはもつおのれこころむとせらる。
しか今日こんにちところでは病院びやうゐんは、たしか資力ちから以上いじやう贅澤ぜいたくつてゐるので、餘計よけい建物たてもの餘計よけいやくなどで隨分ずゐぶん費用ひようおほつかつてゐるのです。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
彼等が人々を折檻せつかんする時に、人々は無上の快楽を感ずるなり、我眼わがめ曇れるか、彼等の眼ひたる、之を断ずる者は誰ぞ。
我牢獄 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
そうして、越中守がよろめきながら、とうとう、の縁にたおれてしまうと、脇差わきざしをそこへ捨てたなり、慌ててどこか見えなくなってしまった。
忠義 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
洋傘かうもりがさは二本あつても、一本を高田氏に呉れてやつたら事は済む。「真理」が二つあつたら、博士は首をめなければならなかつたらう。
僕はつねに思う、一の花のなかに千種の花を見えぬ者は花を語るに足らぬと。すなわち理想を論ずる者は一の中に千万の数を読むを要する。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
当時政治の局に当りし人々は皆旧思想を有するもののみで、かもその企つるところの事業はことごとく皆新智識を要する事業のみであった。
東洋学人を懐う (新字新仮名) / 大隈重信(著)
いつも置いているのでありますが、その素焼のよごれた壺は、五月雨の降る暗い日などことに心にみて眺められます。
俳句の作りよう (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
下には黄金色きんいろをしたかわらいてすこしの塵もなかった。老嫗は青年を伴れて遊廊かいろうを通って往った。遊廊の欄干も皆宝石であった。
賈后と小吏 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
此春より引きも切らぬ文の、此の二十日計りはそよとだに音なきは、言はでもるき、あだなる戀と思ひ絶えしにあんなれ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
彼の高厳荘重なるミルトンまでも一度は此轍このてつふまんとし、嶢※げうかく豪逸なるカーライルさへ死後に遺筆をするに至りて、合歓団欒だんらんならざりし醜を発見せられぬ。
厭世詩家と女性 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
今われわれの喚問コールに最初に答えたこの愛すべき先覚者、国民全体の触覚ともいうべき聡明叡知そうめいえいちなる青年の哀願に、いたる耳を向けるということは
船医の立場 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
大戦いらいの出費に次ぐ出費から、幕府としてもムリは承知で諸国へ苛烈な追徴の使をのべつ派遣していたところなのだった。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「これは迷子札よ。いつどこでぶッくらけえっても、死骸だけはジープにもかれずに戻って来るようにというわけ。人間もこうなっちゃおしまいだ。おい、なにか出さないか」
三界万霊塔 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「大名同盟」の右派綱領にことごとく反対して福沢のいわゆる「モナルキ」のために着々道をきつつあった。
福沢諭吉 (新字新仮名) / 服部之総(著)
(七九)閭巷りよかうひとおこなひてんとほつするものは、(八〇)青雲せいうんくにあらずんば、いづくんぞく(名ヲ)後世こうせいかん
八絃やつをの琴を調しらべたるごと、天の下らしびし、伊耶本和氣いざほわけの天皇の御子、市の邊の押齒のみこの、やつこ御末みすゑ
「フフンそんなに宜きゃア慈母おッかさんおなさいな。人が厭だというものを好々いいいいッて、可笑しな慈母さんだよ」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
義侠の巴山人奮然意を決してまづわれら木曜会の気勢を揚げしめんがためにを投じ美育社なるものを興し月刊雑誌『饒舌じょうぜつ』を発行したり。
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
には、文武天皇の大宝元年(西暦七〇一年)が始めとみえる。禁廷きんていで、左右の衛府えふの人びとだけでやったものらしい。それも五月の節会せちえだけに。
……処が中日なかびを過ぎた或る日のこと、そのキツカケが来ても「浪子」から「伯母」を呼ぶ声がしない、何か新狂言をするのか? と、「加藤夫人」をて居たものは
(新字旧仮名) / 喜多村緑郎(著)
おいに代筆を頼もうと思ったが、せっかくあげるのに自分でかかなくっちゃ、坊っちゃんに済まないと思って、わざわざたがきを一返して、それから清書をした。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さうさうと空揺りとよむ走り火の炎の幅は山をらせり
風隠集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
時に兄の利吒りた托鉢たくはつなしてを得んと城中まちに入りしが、生憎あやにく布施するものもなかりければ空鉢くうはつをもてかえらんとしけるが、みちにて弟に行遇ゆきあひたり。
印度の古話 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
蝉時雨ながらふ聽けば母の手のつめたき手觸たふみにおもほゆ
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
に於ても誠実が物を言う。僕は同僚との折合おりあいが好い。喧嘩をしてかえって別懇べっこんになったのもある。一杯飲んで胸襟きょうきんを開くと皆ういやつだ。渡る世間に鬼はないという諺はえらい。
ロマンスと縁談 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ところが、そのとき、にいさんの三之助さんのすけが、ほご(ものをかきそこなって、不用ふようになったかみ)を部屋へやいっぱいにひろげて、整理せいりをしていました。
木下君も来た、金子さんや真鍋さんも来てくれた。杉浦さんが学校の毛布を持って来てくれてその上へねかされた。そのうちにんがやって来た。
病中記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
沈黙を守るにかず、無用の言を吐くとも舌に及ばずで、たちまち不測の害をかもすことになる、注意すべきは言葉であるという道徳の箴言しんげんに類した句である。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
半日の合戦に八百八の死骸を積み、張飛のことを、八百八屍将軍と綽名あだなして、黄匪こうひを戦慄させたという勇名のある漢だ。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
読みさしてゆとりあるまのうらぎやが楽しみとふみは読みける
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
寒鴉が影の上におりたちぬ
不器男句集:02 不器男句集 (新字旧仮名) / 芝不器男(著)
あわあわしいら雲がら一面に棚引たなびくかと思うと、フトまたあちこちまたたく間雲切れがして
武蔵野 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
頭髪かみみだしているもの、に一まとわない裸体はだかのもの、みどろにきずついてるもの……ただの一人ひとりとして満足まんぞく姿すがたをしたものはりませぬ。
「へいな、銭のあるはよろしいけんど、うちらのような貧乏人にゃ、たまらんぞな。」
大根の葉 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
演奏会は数千の人を集めて、数千の人はことごとく双手そうしゅげながらこの二人を歓迎している。同じ数千の人はことごとく五はじいて、われ一人を排斥している。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それが此通り消え細る迄にやお上の仕打ちも随分と思ひ切つてごいには酷ごかつたが、片つ方も、亦つこいとも執つこいもんぢやつた。
世界は次第に狭くなつて、やがては私をめ殺しさうだつた。だが私は生きたかつた。生きたかつた! ——然るに、自己をなくしてゐた、即ち私は唖だつた。
我が生活 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
そこで、たんざおの値をきいて、欲しそうになでてはいたが、それは買わないで、買ったのは蒔絵まきえ爪箱つめばこと、糸を七かけ。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
子、子貢にかたって曰く、汝回といずれかまされる。こたえて曰く、は何をえて回を望まん、回は一を聞いて以て十を知る、賜は一を聞いて以て二を知るのみ。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
「若菜は拳銃ピストルで撃たれてんだと言うのに、長島博士は、音波で殺したと言い張るのだ」
音波の殺人 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
上半身に十二の内、、丑、寅、、辰、うまの七つまで、墨と朱の二色で、いともあざやかに彫つてあるのでした。
わたくしは此記の誰が手に成れるかを知らぬが、其人は既に錦橋の門人録をけみしてゐる。を執るものに血判せしめた錦橋の門人録は、或は珍奇なる文書ではなからうか。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
 ——王、太子(将軍の世子)ヲウシナウテ、後宮、マタ子ヲ産ムナシ。僧隆光、進言シテ云フ、人ノニ乏シキ者、ミナ生前多ク殺生ノムクイナリ。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ねむれば三という虫が人間の身から抜け出して、天に昇って隠し事を密告するなどともいっていたが、我国ではそういう後ろ暗いことは言わなかった。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
信玄死してはあめが下に一四三つゐなし。不幸にして一四四はやみまかりぬ。信長の器量人にすぐれたれども、信玄の智にかず、謙信の勇に劣れり。
雨落あまおち敷詰しきつめたこいしにはこけえて、蛞蝓なめくぢふ、けてじと/\する、うち細君さいくん元結もとゆひをこゝにてると、三七さんしち二十一日にじふいちにちにしてくわして足卷あしまきづける蟷螂かまきりはら寄生蟲きせいちうとなるといつて塾生じゆくせいのゝしつた。
怪談女の輪 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
実に甲斐のない、まことにつまらないという程の語である。「わらは」は童男童女いずれにもいい、「老人おいびと女童児をみなわらはも、が願ふ心だらひに」(巻十八・四〇九四)の例がある。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
孝孺はつい聚宝門外しゅうほうもんがい磔殺たくさつせられぬ。孝孺慨然がいぜん、絶命のつくりて戮にく。時に年四十六、詞に曰く
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
雅頌がしょうよりして各国の国風まで収録した詩集であるが、詩はなり、志のく所なりとも称し、孟子にも詩三百一言以てこれをおおえば思い邪なしともいい
婦人問題解決の急務 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
「お尿ッこを、しちまいやがった」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
船の帆もわりにけりな、時津風ときつかぜ
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
種々さま/″\に意見を加えましたが、一方かた/\が頑固な老爺じいさんで肯きませんから、そんならば暇をやろうと万事行届ゆきとゞいた茂木佐平治さんだから多分の手当をてくれ
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
眠るは春の凪日和なぎびより、沖のこがらし吹っ立って、鞺鞳どうどうの浪すさまじき此処は堺の港まち、けの空とぶ綿雲の切間を、のぞく冬月の、影物凄き真夜中ごろ、くるわに近き裏町を黒羽二重くろはぶたえに朱色の下着
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「ここに医学士、とてあるですな。」
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
其の前を礼拝らいはいして過ぐるのを見た、と云われたほど時人じじん尊崇そんそうされた菅三品の門に遊んで、才識日に長じて、声名世にいた保胤は、に応じて及第し、官も進んで大内記だいないきにまでなった。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
不二ヶ嶺にいやきつもる堅雪かたゆきのゆふべはあかくあめに燃えつつ
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
根は山帰来という漢方薬ですが、かし本当のサンキライではありません。これが誰でも知っているナズナ(ペンペン草)この実が三味線のバチに似ているでしょう。
いた男となりや、あぎやんとこれたて、暮すこツたい。吝気しうてしたてちや出来でけんし……丸一年、自分の国の言葉ば使はでん居つて見ろな、あんた、どぎやんあつて思ふ。
牛山ホテル(五場) (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
りそめし生命いのちいとしむ日日なりき紅ばらが獄庭にはに群れて咲きたり
遺愛集:02 遺愛集 (新字新仮名) / 島秋人(著)
時さらず、れがましさや、醜草しこぐさ
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
(劇場の徒の多く相嫉視するを諷するにや。)我等は海神ポセイドンの前に立てり。世にはこれを「バジリカ」とぞいふ。
『僕は先に逃げてまひますよ。』
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
何うも大洋へ押し出してすこしけて来ると、何となく船の安定が悪いように感じて、この第二回の、そして最後の航海に出航する際も、船長は始終ちょっとそれを気にしていたという。
沈黙の水平線 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
「でも、己の書くものは普通の奴には分りゃしないよ。しかし、いちゃん、あたりまえのことを書いただけなんだよ」
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
これもっ九天邪きゅうてんじゃるの使つかいもうけ、十悪を罰するのつらね、魑魅魍魎ちみもうりょうをして以て其奸そのかんるる無く、夜叉羅刹やしゃらせつをして其暴そのぼうほしいままにするを得ざらしむ。いわんや清平せいへいの世坦蕩たんとうのときにおいてをや。
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ささげて愛する仕方とだ。おれは後者のようなみったれた心をもちたくないものだ!
上枝ほつえに八尺の勾璁の五百津の御統の玉を取りけ、中つ枝に八尺やたの鏡を取りけ、下枝しづえ白和幣しろにぎて青和幣あをにぎてを取りでて一五、この種種くさぐさの物は、布刀玉の命太御幣ふとみてぐらと取り持ちて
ゆく秋つごもりの夕野辺のべのわかれおくれる。積信院へよする。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「死骸を仰向あふむきにして見ると、首筋にも指の跡がある。——匕首が突つ立つてゐるから、うつかりだまされたが、あれは刺される前に、男の強い力でめ殺されてゐたんだ」
あすよりは 春菜はるなまむとめしに、きのふも 今日けふも ゆきりつゝ
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
水薬すゐやくみしつくゑ
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
(十二) 孔子は死後、魯の城北ののほとりに葬られた。弟子皆に服すること三年、相訣あいわかれて去ろうとする時に非常に悲しんで、また留まる者もあった。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
少年はまた空気銃をとり上げ、今度は熱心にまとを狙う。三発、四発、五発、——しかし的は一つも落ちない。少年はぶ銀貨を出し、店の外へ行ってしまう。
浅草公園:或シナリオ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
余は湯壺ゆつぼわきに立ちながら、身体からだめす前に、まずこの異様の広告めいたものを読む気になった。真中に素人しろうと落語大会と書いて、その下に催主さいしゅ裸連はだかれんと記してある。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
明眸絳脣めいぼうかうしん香肌かうき白き事の如し。女王マリア・ルイザ、その美をねたみ、遂に之を鴆殺ちんさつせしむ。人間じんかんとどめ得たり一香嚢の長恨ある、かの楊太真やうたいしんいづれぞや。侯爵夫人に情郎じやうらうあり。
深みと 落ちたぎつ 清き河内に 朝去らず 霧立ち渡り 夕されば 雲居棚引き 雲居なす 心もぬに 立つ霧の 思ひ過さず 行く水の 音も清けく 万代に 言ひ続ぎ行かむ 河し絶えずは
二、三の山名について (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
では書肆と契約なしに手をけたのかとくと、全く左様さうでもないらしい。と云つて、本屋の方が丸で約束を無した様にも云はない。要するに曖昧であつた。たゞ困つてゐる事丈は事実らしかつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
その彼が、結局自分も彼らと同じ能力の所有者だったということを、そうしてさらにいとうべき遼東りょうとうだったということは、どうしてやすやすと認められよう。
戯作三昧 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「何だ、おばうか。親分てえ奴があるかい」
またきて倭建やまとたけるの命に、「東の方十二道とをまりふたみちの荒ぶる神、またまつろはぬ人どもを、言向けやはせ」と詔りたまひて、吉備きびおみ等が祖、名は御鉏友耳建日子みすきともみみたけひこを副へて遣す時に、比比羅木ひひらぎ八尋矛やひろぼこを給ひき。
こうと道衍とはもとよりたがいに知己たり。道衍又かつて道士席応真せきおうしんを師として陰陽術数いんようじゅっすうの学を受く。って道家のを知り、仙趣の微に通ず。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
一日太孫をして詞句しく属対ぞくたいをなさしめしに、おおいかなわず、ふたたび以て燕王えんおうていに命ぜられけるに、燕王の語はすなわち佳なりけり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
吾妻はばし川地のおもてながめ居りしが、忽如たちまちあをりて声ひそめつ「——ぢや、又た肺病の黴菌ばいきんでもまさうといふんですか——」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
ワツと泣きる声を無理に制せる梅子は、ヒシとばかり銀子をいだきつ、燃え立つ二人の花の唇、一つに合して、ばし人生のきを逃れぬ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
昨夜チラとその悪相談を小耳に挟んだので、どうかしてお前さんにらせて上げたいと、種々手を廻して、やっと尋ねあてたのが紀州屋敷。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ああそうでござんしたか。今笊組の連中が、この先の小桜屋へ五、六人連れで来ているところ……であの首尾をらせに、こッそり一座を抜けて来たものですよ」
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
翌日、李陵りりょう韓延年かんえんねんすみやかにくだれと疾呼しっこしつつ、胡軍の最精鋭は、黄白のを目ざして襲いかかった。その勢いに漢軍は、しだいに平地から西方の山地へと押されて行く。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
将軍および成安侯韓延年の率いる各八百人だが、それぞれ黄と白とのをもって印としているゆえ、明日胡騎こきの精鋭をしてそこに攻撃を集中せしめてこれを破ったなら
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
(七一)これふるにかならさざるところもつてし、これとどむるにあたはざるところもつてするものあやふし。
(一三)關令くわんれい尹喜ゐんきいはく、『まさかくれんとす、ひてめにしよあらはせ』と。ここおい老子らうしすなは書上下篇しよしやうかへんあらはし、道徳だうとくふこと五千餘言よげんにしてれり。をはところし。
「楽師のがはじめて演奏した時にきいた関雎かんしょの終曲は、洋々として耳にみちあふれる感があったのだが——」
現代訳論語 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
楽長のは斉に去った。亜飯あはんかんに去った。三飯のりょうさいに去った。四飯のけつしんに去った。鼓師つづみし方叔ほうしゅくは河内に逃げた。鼓師つづみしは漢に逃げた。
現代訳論語 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
五銭玉と引換えに一袋のあんパンをツカむと、イキナリ自分の口へもっていったその顔! 泣き叫ぶ背の子や、両手にあらそってがみつく子供達を振りもぎって
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
女房は相変らず力無い眼をうッすらと開けたまま窓にがみついていて、子供達は窮屈きゅうくつそうに眠っていた。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
旅の侍はこれを聞くと、パッと二、三歩飛び退ざって、刀のつかへ手を掛けた。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
右門は思わず飛び退さった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
だから私ね、私は無駄でもやらずには居られないというと其ならおやりなさるもよいが、効はありますまいとはっきり云いなさるんでもの、私悲しくてね、泣いたわ
吾背子わがせこをなこの山の喚子鳥君喚びかへせ夜の更けぬに (巻十、雑)
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
「はアて?」と帆村はあごを指先で強くした。これは彼の癖で、なにかむずヶ敷いことにぶつかったとき、それを解くためには是非これをやらないと智慧袋の口が開かない。
流線間諜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
此日このひくわいみやびなりしをおもして、詩を作らう、詩を作らう、和韻わゐんに人をおどろかしたいものともだへしが、一心いつしんつては不思議ふしぎ感応かんおうもあるものにて、近日きんじつ突然とつぜんとして一詩たり
隅田の春 (新字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
よろしく京及び諸国をして天神地祇てんしんちぎ名山大川にはみづか幣帛へいはくを致さむべし。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
紅蓮こうれん白蓮はくれんかぐわしきにかず
愛卿伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
蜥蜴類は長尾驢カンガルーのごとく、尾と後の二脚のみでね歩き、い行くもの少なからず、ってスプールスが南米で見た古土人の彫画ほりえに、四脚の蜥蜴イグアナを二脚にたもあった由。
鄱銀はぎん ををまぬかれ難く、莱石らいせき し易し。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
太郎木原へ、吉田と名のつて乘込んだ天狗は二千兩ほど掻き集めた處へ、水戸領田伏の浪人宿から呼出しあり、吉田は似せ者と分つた。
天狗塚 (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
と、後になっては、かずかずのらせを思い当るのだ。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(と従者、おれし一枝の鈴蘭の花を女子に渡す、女子無音に受け取り、唇にあつ)
レモンの花の咲く丘へ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
奥山おくやますがぬぎふるゆきなばしけむあめなふりそね
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
真綱はこれを憤慨して、「ちり起るの路は行人こうじん目をおおう、枉法おうほうの場、孤直こちょく何の益かあらん、職を去りて早く冥々めいめいに入るにかず」
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
思ったよりは高名で、現に、この頃も藤屋に泊った、何某侯なにがしこうの御隠居の御召に因って、上下かみしもで座敷をた時、(さてもな、鼓ヶ嶽が近いせいか、これほどの松風は、東京でも聞けぬ、)
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
得手吉とは男勢の綽号あだなだが猴よくこれを露出するからの名らしく、「神代巻」に猿田彦の鼻長さ七、『参宮名所図会』に猿丸太夫は道鏡の事と見え
衣服、玩好がんこう、遊戯、一も彼のくものなし。机上一硯いっけん、一筆、蕭然しょうぜんたる書生のみ。最も読書を好み手に巻をてず、その抄録しょうろくしたるもの四十余巻ありという。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
しばらくありて、右の小鳥は辺およびいん部に爪牙の跡を得、血を垂れ、来たりて小生に向かい哀を請うがごとし。
妖怪報告 (新字新仮名) / 井上円了(著)
かく蛇を霊怪ふしぎ視したなるミヅチを、十二支のに当て略してミと呼んだは同じく十二支のをネズミの略ネ、ぼうを兎の略ウで呼ぶに等し。
風の暴頻あれしき響動どよみに紛れて、寝耳にこれを聞着ききつくる者も無かりければ、誰一人いでさわがざる間に、火は烈々めらめら下屋げやきて、くりやの燃立つ底より一声叫喚きようかんせるはたれ、狂女は嘻々ききとして高く笑ひぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
... しんもつきみす、じんけんや』と。(三〇)左右さいう(三一)これへいせんとほつす。(三二)太公たいこういはく、『義人ぎじんなり』と。たすけてらしむ。武王ぶわうすでいんらんたひらげ、天下てんかしう(三三)そうとす。
ちょうど北の方の千島、カムサツカ、北海道の山奥あたりからき上げて来る熊の皮屋から皮を仕入れて、あと月の半ばに東京へ着いたんです……。
糸が一ちょうするたびに、みなはハッときもをひやした。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
いつも席順はりである。教師等も教員会議の時に時々は清吉の身の上に話が及ぶと、あれは、天性てんせい足らないから仕方がないと、ほとんど問題にもしない人がある。
蝋人形 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「凡百ノ技、こうニ始マリ、拙ニ終ル、ニ出デテ不思ふしニ入ル、故ニ巧思極マル時ハすなはチ神妙ナリ。神妙ナル時ハ則チ自然ナリ。自然ナルモノハ巧思ヲ以テ得ベカラズ、歳月ヲ以テ到ルベカラズ……」
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
……その時田沼は感激して、涙を流したということだ。……それだのに私のお父上が、この世を辞してからというものは、千たい沙汰の限りの態だ。
十二神貝十郎手柄話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一時の豪気ごうきは以て懦夫だふたんおどろかすに足り、一場の詭言きげんは以て少年輩の心を籠絡ろうらくするに足るといえども、具眼卓識ぐがんたくしき君子くんしついあざむくべからずうべからざるなり。
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
言葉さへわからねえ様な役人が来て、御維新ごいしんおれたと言はぬばかりに威張り散らす、税は年増しに殖える、働き盛を兵隊に取られる、一つでもいことはえので
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
肩をめむとあへぎゆく。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
小野さんの靴は、湿しめっぽい光をはばかるごとく、地に落すかかと洋袴ズボンすそに隠して、小路こうじ蕎麦屋そばや行灯あんどんまで抜け出して左へ折れた。往来は人のにおいがする。地にく影は長くはない。丸まって動いて来る。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
然してその兄高田あげだを作らば、汝が命は下田くぼだつくりたまへ。その兄下田を作らば、汝が命は高田を營りたまへ一七。然したまはば、吾水をれば、三年の間にかならずその兄貧しくなりなむ。
ますます、かえって、抱きめる手に、力がはいるばかり——
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
ことにその題目が風月の虚飾を貴ばずして、ただちに自己の胸臆きょうおくくもの、もって識見高邁こうまい、凡俗に超越するところあるを見るに足る。
曙覧の歌 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
たけとこむしろが三四まいこれ近所きんじよふるいのを一まいぐらゐづつれた。さうしてからやうや蒲團ふとんはこばれた。それはかれがぎつしりとこしくゝつた財布さいふちからであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
みづか以爲おもへらく、かずと。かん削弱さくじやくせらるるを數〻しばしばしよもつ韓王かんわういさむ、韓王かんわうもちふることあたはず。
立留たちとゞまつて四方しはうきつてあ
鬼桃太郎 (旧字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
それでいて、あたりはーんとしているのです。そこを通る車はひとりでにすっかり速力をおとして、殆ど止る位にして通る。いかにも大きい都会の出来事の感じです。
事務室のまん中の大机には白い大掛児タアクワルを着た支那人シナじんが二人、差し向かいに帳簿をらべている。一人ひとりはまだ二十はたち前後であろう。もう一人はやや黄ばみかけた、長い口髭くちひげをはやしている。
馬の脚 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
いずれにしろ稚純な心には非情有情の界を越え、の区別をみする単直なものが残っているであろう。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
材能さいのう伎芸ぎげいを以て奉承するは男芸者の職分である。廉恥を棄てて金銭を貪るものとするは、そのあえてせざる所である。紫玉が花山を排したのは曲が花山にあったのである。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
きたり辛苦しんくさこそなるべけれど奉公大切ほうこうだいじつとたまへとおほせられしがみゝのこりてわすられぬなりれほどにおやさしからずばれほどまでにもなげかじとがたきづなつらしとてひとひまには部屋へやのうちにづみぬいづおとらぬ双美人そうびじんしたはるゝうれしかるべきを
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
それから二十年ばかりたつたのち、彼は雪国ゆきぐにの汽車の中に偶然、彼女とめぐり合つた。窓の外が暗くなるのにつれ、めつたくつ外套ぐわいたうの匀ひが急に身にしみる時分だつた。
鬼ごつこ (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ヒソヒソとい進んで行くのであったが、そのうちに闇夜の草花の水っぽい、清新な芳香においが、生娘きむすめの体臭のように、彼の空腹にみ透って来た。
白菊 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「怪我でもすると詰まらねえ。もういい加減にしましょうよ。伊豆屋の見舞なら、これからうちへ引っ返して握り飯の支度でもさせた方がようござんす。どうせめった後でなけりゃあ行かれやしません」
半七捕物帳:29 熊の死骸 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
山東省川の某山村の街路にある涼亭りゃんちん。それは街路の真中に屋根をこしらえ、左右の柱に添えて石台を置いて腰掛けとしたもので、その中を抜けて往来する者が勝手に休んでいけるようになっている。
帰舟かえりは客なかりき。醍醐だいごの入江の口をいずる時彦岳嵐ひこだけあらしみ、かえりみれば大白たいはくの光さざなみくだけ、こなたには大入島おおにゅうじまの火影はやきらめきそめぬ。静かに櫓こぐ翁の影黒く水に映れり。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
と、熱くささやいて、そして、自分の言葉に、酔いれるかのように、もたれかかったが、千世は身をすくめたまま、答えられぬ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
その底から滲染み出る狂おしいねがいが
原爆詩集 (新字新仮名) / 峠三吉(著)
朱を刷いたような艶々した赭ら顔は年がら年中高麗狛こまいぬのように獅子噛み、これが、生れてからまだ一度もほころびたことがない。
顎十郎捕物帳:02 稲荷の使 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
車は平坦な甃石路いししきみちを走りだした。石をいた平坦な路は郊外にはあまりないので、城内だろうかと思ったが何しろ扉が締っているので解らなかった。
賈后と小吏 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
且述作の事たる、功あれば又あやまちがある。こと一たび口より発し、文一たび筆に上るときは、いかなる博聞達識を以てしても、醇中じゆんちゆうを交ふることを免れない。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
戦災にかかってからは、いや更に荒されたまま、びらされたままになっていた頭脳が、ここにようやく本然の調子を取り戻す機会を得たことになる。
頼春のいた両眼から、喜びの涙が降るようにこぼれた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
誰か知道らん恩情永くへだた
愛卿伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
養家やうか大藤村おほふぢむら中萩原なかはぎはらとて、わたすかぎりは天目山てんもくざん大菩薩峠だいぼさつたうげ山〻やま/\峰〻みね/\かきをつくりて、西南せいなんにそびゆる白妙しろたへ富士ふじは、をしみておもかげをめさねども
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
神※の※の字は音「ぎ」にして示扁しめすへんに氏の字を書く。普通に(氏の下に一を引く者)の字を書くは誤なり。祗は音「し」にして祗候しこうなどの祗なり。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
めて出て行ッたばかりのところで、小万を始め此糸このいと初紫はつむらさき初緑名山千鳥などいずれも七八分のいを催し、新造しんぞのお梅まで人と汁粉しることに酔ッて、頬から耳朶みみたぶを真赤にしていた。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
二五近衛院このゑのゐんゆづりましても、二六藐姑射はこややまたまはやしめさせ給ふを、思ひきや、二七麋鹿びろくのかよふ跡のみ見えて、まうでつかふる人もなき深山みやま二八おどろの下に神がくれ給はんとは。
狭心症ノ発作ニ似タ痛ミガ激シク胸ヲメツケタ。………アレカラ既ニ二時間以上経ッテイル筈ダガ、マダ血壓ガ下ラナイト見エル。
瘋癲老人日記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
私は纔かに残つてゐる封建時代の石垣のところに来て、誰にも見られぬやうにそこに草をいて坐した。
あさぢ沼 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
その冴え冴えと振りかざ白無垢衣しろむくえの、しわの折れ方までが、わけもなく魂を織り込もうとするのに魅せられるであろう、水を打ったようにんみりとした街道の樹もふるえ、田の面の水も
雪の白峰 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
御覽ごらんなさい、眞紅まつかおびめてむすめますよ。』
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
心魂こころも今は空になり、其処そこ此処ここかと求食あさるほどに、小笹おざさ一叢ひとむら茂れる中に、ようやく見当る鼠の天麩羅てんぷら。得たりと飛び付きはんとすれば、忽ち発止ぱっしと物音して、その身のくびは物にめられぬ。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
毎年としのはは梅者うめは開友さけども空蝉之うつせみの世人君よのひときみ羊蹄春無有来はるなかりけり」の歌のシの仮名にやはり羊蹄の字が用いてあるのを指したものでしょう。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
均斉きんせいのとれた四筋肉きんにくの見事さ。春とは見ちがえるばかり背丈ぜいも育っている。
それが大がいきよくに一時間乃一時間半、一二度は三時間餘にも及んだことがあるのだが
小石だもはらひし三五福田ふくでんながら、さすがにここは寺院遠く、三六陀羅尼だらに三七鈴錫れいしやくこゑも聞えず。立は三八雲をしのぎてみさび、三九道にさかふ水の音ほそぼそとみわたりて物がなしき。
を取って占い、われは隗生に借金した覚えなし、隗生自分の金を隠しおき、わが易占を善くするを知って、われがここに来るをってその在り処を妻子に告げしむるよう謀らい置いたのだ
虎に似て角あるをというと言って、むつかしい文字ばかりならべ居る。
「しかしわずかに五年ばかりの間にこのような建物を押し立てたり、このように信者を集めたり、よくたものでございますな」
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
天皇ここに畏みて白したまはく、「恐し、我が大神、うつしおみまさむとは、らざりき」と白して、大御刀また弓矢を始めて、百官の人どものせる衣服きものを脱がしめて、拜み獻りき。
不良ふりやう少女せうぢよ沒落ぼつらく」といふ標題みだしもとに、私達わたしたち前後ぜんごしての結婚けつこんを×あたりに落書らくがきされてから、みなもうまるねんすごしました。Kさんがまづ母となり、あなたも間もなく母となりました。
冬を迎へようとして (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
保寿院殿浄如貞松大姉は直温の妻にして瑞仙の家第四世の女主啓、窪田氏である。以上の六は正面につてある。梅嶽真英童子は直温の子洪之助である。此一諡だけは左側面に彫つてある。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
非局部性ひきよくぶせい大地震だいぢしんおほ太平洋側たいへいようがは海底かいていり、地震ぢしん規模きぼ廣大こうだいなると陸地りくち震原しんげんからとほいために、はたまた海底地震かいていぢしん性質せいしつとして震動しんどう大搖おほゆれであるが、しかしながら緩漫かんまんである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
獏は哺乳類のうちの奇蹄目きていもくで獏科の動物だ。形はさいに似て、全身短毛をもっておおわれ、尾は短く、鼻及び上唇は合して短き象鼻ぞうびの如くサ。前肢まえあしに四、後肢に三趾を有す。
獏鸚 (新字新仮名) / 海野十三(著)