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学者である以上、その態度は誠に立派なもので、ことごとく書を信ぜば書無きにかずといった孟子の雄々おおしさを髣髴ほうふつさせるのであります。
新案探偵法 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
ここに於て佐志木作右衛門は、千束島の山善左衛門等とはかったが、結局ながら藩兵に攻められるより兵を挙ぐるにかずとなった。
島原の乱 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
この部分は何も純粋な装飾的附加物ではない。襟の所はすれやすいため、丈夫にする必要があり、それには細かく編むにくはない。
蓑のこと (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
いずれにしても、あるいは人の情けにすがるか、あるいはみずから働いてかして、そのパンを得るまで待つにかなかったであろう。
片帆に片明りするのはるかに印象的なるにかぬ。山焼と舟というやや変った配合も、元禄の作家が早く先鞭を著けていたことになる。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
「いいさ、兄貴とは久しぶりで話すのだ。永い間、仲も悪かったが、こういう時には、やはり兄弟にくものはないよ。ここで飲もう」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
意志の鍛練は何程心理学倫理道徳論を説いても実行しなければ効果皆無、故に小なる事でも実地の鍛練にく方法はないと思う。
教育家の教育 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
この場合、言葉を代用して説明するよりは、一葉の写真を示すにかず、写真に頼るよりは、目のあたり実景を示すに越したことはない。
FARCE に就て (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
要慎にくはない。じっと耳を澄ますと人声が聞こえる、「ここだ」中将はこうささやき、刀を持ち直してがらりと戸を明けた。
知っていることを聞くの気楽なるにかずである。お菓子が出ているようだから、どうぞお菓子を食べながら気楽に聞いて下さい
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
無闇むやみに酒を強いられぬうち腹をこしらえて置くにかずと佐助は別室へ引き退って先に夕飯の馳走ちそうを受けたが御飯ごはんいただきますというのを銚子ちょうし
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
我身に罪は無しとは云え、いずれとも免れぬ場合、いさぎよく伏罪し苦しみを短かくするにくなしと無念をのみ断念あきらめし者ならぬか
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
とうとぶもの。ばかの考え休むにかず。貴公ばかなら考えるがよろしい。利口でいたかったらズンズンお打ち。拙者は負けない、貴公を
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
春は俗を狂せしむるによけれど、秋の士を高うするにかず。花の人を酔はしむると月の人をましむるとは、おのづからあじはひを異にするものあり。
秋窓雑記 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
ころもは禅僧の如くみずから縫い酒は隠士いんしを学んで自ら落葉をいて暖むるにはかじというような事を、ふとある事件から感じたまでの事である。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
じゃあ箪笥たんすへでもしまう積りかな、箪笥といっても、幾つもあるから後になっては分らない。兎も角、お花の跡をつけて見るにくはない。
接吻 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
池田も当惑の気味だったが、用心するにくはないと思って、窓をあけて呼ぶと、柚子は平静な顔で、車のそばへ寄ってきた。
春雪 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
当時の硯友社の生活を知るには『我楽多文庫』の十号から十三号へ掛けて連載された紅葉の「紅子戯語こうしけご」を見るにくはない。
これにくわたしたちの歓びはない。——うちへ帰るのをわすれて、わたしたちは、屡〻平ちゃんと一しょに食ッついて行ったわけである。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
まことに「天の時は地の利にかず、地の利は人の和に如かず」で、和の欠けた国家が隆昌りゅうしょうし、発展したためしはありません。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
自分を推薦讃美せしむるの賢なるにはかない——そう思いついた清次は、京都を出ると直ぐに、それを実行することを忘れませんでした。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
よろしくこれらの権力を打破して分離せる国権を統一するには、欧州文明諸国の如く憲法政治を布くにくはなしという意見を漏らしておった。
東洋学人を懐う (新字新仮名) / 大隈重信(著)
いはく、『三ぐんしやうとして士卒しそつをしてたのしましめ、敵國てきこくをしてあへはからざらしむるは、いづれぞ』と。ぶんいはく、『かず』と。
天下の事に憤慨するよりも、一鉢の朝顔に水を遣る真実味を愛するといった風で、驢背ろはいの安きにかずという亡国の賢人に似たところがある。
... とてもかくてもこの外に、鼠をさがらんにかじ」ト、言葉いまだおわらざるに、たちまち「あっ」と叫ぶ声して、鴨居かもいより撲地はた顛落まろびおつるものあり。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
両人の名誉は相く程の位置に居りて〈定〉家以後歌の門閥を生じ探幽以後画の門閥を生じ両家とも門閥を生じたる後は歌も画も全く腐敗致候。
再び歌よみに与ふる書 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
かず十全の日を待ちて、遺憾無く興趣を釣り、悠々塵外の人となりて、神を養ひ身を休め、延年益寿の真訣しんけつを得んには。
研堂釣規 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
益〻無々君の言文一致の説に感じ、文章の言語にかざるをわきまえ、且さきに無々君が圓朝氏の技を賛する過言に非るを知る。
松の操美人の生埋:01 序 (新字新仮名) / 宇田川文海(著)
目をばまさる鏡とせんとてわがかの水(人をしてそのなかにて優れる者とならしめん爲流れいづる)のかたに身をかゞめしその早さにはかじ 八五—八七
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
たとへ人の偶然事のみとして雲煙看過するの事件も、仔細しさいに観来れば奥底必ず不動の磐坐ばんざのあるありて、未だかの長汀波上の蜃気楼台しんきろうだいからず。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
そんな次第で、いろんな面白からぬことを避けるためには、便宜上この問題の局を、ただ【ある局】というだけにとどめておくにくはないだろう。
外套 (新字新仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
おもへらく、天朝より教書を開板して天下に頒示するにかずと。余おもへらく、教書を開板するに一策なかるべからず。
留魂録 (新字旧仮名) / 吉田松陰(著)
しかして寛厚はそうかざるも、其の惻隠そくいんの意に至っては、各条に散見せりと評せしめ、余威は遠く我邦わがくにに及び、徳川期の識者をしてこれを研究せしめ
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「兎に角あの震災の最中にじゃ、竹槍や抜刀を持った自警団の百人は、五人の武装した兵隊にかなかったのじゃ」
琥珀のパイプ (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
この調子で行けば完全に占領されるのに三年とはかかるまい、むしろ日本は、カラフトをすてて北海道をかためるにかず、と、彼は中央に復命した。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
謂わんや、お由羅や、将曹の如き、蠅にもかぬ。その虫を相手に、二十人の、三十人の集まって、一体、何を斉彬公のおためにしようと、申すのだ。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
むしろ徒歩にかずとそのまま焼餅坂を上り、市ヶ谷小学校の前からぶら/\と電車通りを歩いていたのだが、いつかあの白い海鼠餅なまこもちを組立てたような
早稲田神楽坂 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
その行ないすでに奇にして、その心また奇なりといえども、いまだこの言の奇なるにはかず、と馭者は思えり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
弟子を見ることは師にかずといえば、彼の人となりはお身も大かた存じておろう。彼は才智に慢ずる癖がある。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
もって将相となり、政事一変し、東方に雄視す、などという論調でもって日本を讃美し、そうして結論は、「遊学の国にいたりては、西洋は日本にかず」
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「十室のゆう、必ず忠信きゅうがごとき者あり。丘の学を好むにかざるなり。」という師の言葉を中心に、子貢は
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
前述のとおりサクラソウでさえ、自家結婚を避けて他家結婚を歓迎かんげいしているではないか。言い古した言葉だが、「人にして草にかざるべけんや」である。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
せめては令見みせしめの為にも折々くぎを刺して、再び那奴しやつはがいべしめざらんにかずと、昨日きのふは貫一のぬからず厳談せよと代理を命ぜられてその家に向ひしなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
千百の言葉は一団の飯にも及ばず、娓々びびげん滴々てきてきみづにもかぬ場合である。けれども今の自分の此の言葉は言葉とのみではない。直ちに是自分の心である。
日本大地震 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
調子の高い良書について習うにかずと知る上は、初めからその方に近寄って行った方がよいと思います。
もうこの上、日本から日本人としての純粋小説が現れなければ、むしろ作家は筆を折るにくはあるまい。
純粋小説論 (新字新仮名) / 横光利一(著)
「温和は過激にまさる、」——「名誉は生命よりも貴し、」——「邪悪なるは善良なるにかず、」などと。
独乙ドイツことわざに曰く「屋上のはとは手中のすゞめかず」と。著者の屋上の禽とは此諺の屋上の鳩を意味するもの。果して然らば少しく無理の熟語と謂はざるからず。
舞姫 (新字旧仮名) / 石橋忍月(著)
何卒なにとぞ右の儀、高等二学年修了以上の方々及び其父兄へ御懇話の上、一人にても二人にてもおつかわ被下くださらば、邦家ほうか中等教育の為め、光栄これにくもの無之候これなくそうろう頓首再拝とんしゅさいはい
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
この上は脅して連れてくにかずとうなずき、伯父さんの晋齋を笠に着て引立てようとはいたすものゝ、なんぼ悪者でもおのれの惚れている婦人を手荒く扱いかねますので