)” の例文
その外にも、例えば「人の刃物を出しおくれ」「もせぬ事を隠しそこなひ」のような諸篇にも人間の機微な心理の描写が出ている。
西鶴と科学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
吾々三人馬車に乗りやがて其ビヽエン街に達しますと藻西太郎は丁度夕飯を初める所で妻と共に店の次の間で席につこうとて居ました
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
「こんなことでおまへ世間せけんさわがしくてやうがないのでね、わたしところでも本當ほんたうこまつてしまふんだよ」内儀かみさんは巡査じゆんさ一寸ちよつとてさうして
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ただ職人の積りで居るのだから、政治のかんがえと云うものは少しもない。自分でもようとも思わなければ、また私は出来ようとも思わない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
もし損じてはと大事をふんで来たわけですが、今も今とて雲霧にああ言われた仕事の意地——尺取の心はあせらずにいられません。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
れは此樣こん無學漢わからづやだのにおまへもの出來できるからね、むかふのやつ漢語かんごなにかで冷語ひやかしでもつたら、此方こつち漢語かんごかへしておくれ
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
教会へは及ばずながら多少の金を取られてる、さうして家庭かない禍殃わざはひ種子たねかれでもようものなら、我慢が出来るか如何どうだらう
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
致すはこゝのこと林藏はよいとしことほかずき夫故大方然樣さやうな一けんでも御座りませうが主有者ぬしあるものに手を出すの密夫まをとこなどは致ませんが只々たゞ/\ぜに
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
すると磯九郎は自分が大手柄でもたように威張り散らして、頭を振り立てて種々の事を饒舌しゃべり、終に酒に酔ってくだを巻き大気焔を吐き
市村座の尾上菊五郎が、若気の思ひ上りから、色々突拍子もない事を言つたりたりするので、近頃世間の人気が以前ほど思はしくない。
方なくそれはあきらめたが、そのころから割合わりあひに手先の器用きようわたしだつたので、「せう寫眞術しやしんじゆつ」の説明せつめいしたがつて、わたしはとう/\寫眞器しんき自作じさくこゝろざした。
此頃このごろ無闇むやみ金子かねくなつてやうがいから、これ/\ふ事にしてた、これたれが取るとふのがチヤンとわかるね。
はやりっ気で思い立つと足元から火の燃えだした様にせかせかだす癖が有るので始めの一週間ばかりはもうすっかりそれに気を奪われて居た。
秋毛 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
「僕が貴様を責めたのは悪う御座ございました、けれども何乎どうか今御覧になったことを秘密にて下さいませんかお願いですが。」
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
あかりあかるき無料むれう官宅くわんたくに、奴婢ぬひをさへ使つかつてんで、其上そのうへ仕事しごと自分じぶんおもまゝてもないでもんでゐると位置ゐち
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
身動みうごきたくも、不思議なるかな、ちッとも出来んわい。其儘で暫くつ。竈馬こおろぎ、蜂の唸声うなりごえの外には何も聞えん。
何時いつの日曜に散歩でもて見ないかと有仰おつしやツたことがあツて? 何時いつだツてうちにばかり引込むでひといびツてばかりゐらツしやるのぢやありませんか。
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
自分たちのたい三昧ざんまいのことをして、その上おたがいに公然と老伯爵夫人から盗みをすることを競争していた。
と又ぴったりと香爐の蓋を手にとって今にもそれに噛み附くように、ぎりぎりと恐ろしい歯がみをだした。
香爐を盗む (新字新仮名) / 室生犀星(著)
これは白魚河岸のほうの床屋の職人で、二十一になる銀吉という、目のキラリと光る侠気いなせな若いだった。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
おそらく此後こののちからうとおもふ。いまところでは養子やうしやうともかんがへてらぬ。されば生活せいかつあまりあるときには、それをこと/″\そゝいで遺跡ゐせき發掘はつくつるのである。
そりは安全髪剃かみそりだからまつがいい。大工がかんなをかけるようにスースーとひげをそる。いい心持だ。
倫敦消息 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
蝋梅ろうばいうめのようにうつくしくはなをつける樹木じゆもくを『花木かぼく』とよびますが、うめ早春そうしゆん花木中かぼくちゆうでも第一だいいちとして、むかしからあいせられて、庭木にはき盆栽ぼんさいにもたてられるものです。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
かく冗長じょうちょうなる述懐書を獄吏ごくりに呈して、廻らぬ筆にたり顔したりける当時の振舞のはしたなさよ。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
あゝ忠義の爲めとは言ひながら、君を恨ませ、はづかしめて、たり顏なる我はそも何の因果ぞや。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
勉強もなければ発達も仕ない。次第次第しだいしだいなまけ者になり柔弱になり、少しも青年の元気というものが無くなってしまう。不心得ふこころえ千万な事だ。元気は人間の生命といっても好い。
青年の新活動方面 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
いくらがない芸人でも、女から手切てぎれを貰って引込むような男だと、高をくくられたのが口惜くやしいから、金は突返つっかえして、高慢ちきな横面よこつら足蹴あしげにして飛出そうと立ちかかる途端
あぢさゐ (新字新仮名) / 永井荷風(著)
貴様はなぜ返事をないのだ。なぜその証拠が云われぬのだ。さ、その証拠を云え。その仔細わけを云え。なぜその三ツの者が悪魔なのだ。なぜこの鏡と鸚鵡が悪魔の片われなのだ。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
かつまたおな一國一城いつこくいちじやうあるじるにも猛者もさ夜撃朝懸ようちあさがけとはたちちがふ。色男いろをとここなしは、じやうふくんで、しめやかに、ものやさしく、にしみ/″\としたふう天晴武者振あつぱれむしやぶりであるのである。
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
自分の子たちもさういふしつけのい育て方をしましたので、二人の子達も子供らしい遊びもいたづらも相当に居乍いながらよく子供にありがちな肉体的な暴露などはありませんでした。
秋の夜がたり (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
にん武士ぶしかたなしに、左右さいうかへりみつゝ、すこしづつ死體したいそば近寄ちかよつてた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
ぢや、ちよつとかけた仕事がありますから……。あ、お昼はどうなさいます。
ママ先生とその夫 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
もううなつてると、るべきかねらうと最初さいしよかんがへもなくなるし、またそれがめに葉書代はがきだいつひやすのはそんだといふやうかんがへもなし、是非ぜひともなければならない日課につくわとして
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
モーそのころわたくしにはなかなにやら味気あじけなくかんじられてょうがないのでした。
だが安心あんしんしなよ。おいらの借りようッてな、二十五りょうの三十りょうのという、だいそれたわけのもんじゃねえ。ほんの二か一りょうせきやまだ。それもたねかけでるようなけちなこたァしやァしねえ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
お前のた事もんな御存じなのだよ、そればかりではない——
礫心中 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「だんだんこッたらごとばかしていられなくなるど。」
不在地主 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
あたしはこんなことをに来たのではない。
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「おつうだつていまえこともあらな、そんだがおつかゞくつちや衣物きものしくつてもこればかりはやうがねえのよな」女房にようばうはいつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
今度こんどお客がとまつたら茗荷めうがはせよう、さうしたら無闇むやみに物を忘れてくだらう、ナニ此方こつち泥坊どろばうたのぢやアないからつみにはならねえや。
(和)茗荷 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
世の中には結構な音楽よりも、とぼけて世間話でもて聴かせた方が、ずつと利益ためになる人があるのを検校はよく知つてゐた。
ついては乃公おれがお前に云付いいつけてこの原書を訳させると、うことによう、そのつもりでなさいといって、ソレカラ私は緒方の食客生しょっかくせいになって
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
目科は其声高しと叱り鎮めて「いや此傷は、なにたいした事でも有ますまいが何分にも痛むので幸い貴方が医学生だから手当をて貰おうと思いまして」
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
コレ吉兵衛きちべえ談義流の御説諭をおれに聞かせるでもなかろう、御気の毒だが道理と命と二つならべてぶんなげのしち様、昔は密男まおとこ拐帯かどわかしてのけたが
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
おのれが配分はいぶんたのを今さら忘れもしまいと一々其せつ手續てつゞきを云立るに段右衞門ヱヽ夏蠅うるさい女め種々いろ/\なことをこしらへておれ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ぷーんとあいの香のたかいあわせつけ糸を抜いたばかりなのを着込んで、今日も、灯ともし頃から、わざと人目離れた場末の新石場しんいしば金子屋かねこやへ出かけてゆくと
春の雁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
是非ぜひ吾助ごすけ拜見はいけんたければ、此頃このごろ姉樣ねえさまにおねがひなされ、おてをいたゞきてたまはれ、かならず、屹度きつと返事へんじ通路つうろ此處こヽにをしへ、一日いちにち二日ふつか
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
出やうがはやいと魔劫まごふれないから何時いつかはこれをもつて居るものにわざはひするものじや、一先ひとまづ拙者が持歸もちかへつて三年たつのち貴君あなた差上さしあげることにたいものぢや
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
いつの間にか上った鶏が熱つそうに、あっちころがし、こっちへころがしてこぼれた薯を突ついて居る。
農村 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
はじめて萱原かやはら分入わけいつたとき活東子くわつとうしんだ。望蜀生ぼうしよくせい如何どうしたのか、りつきもない。狹衣子さごろもし役者やくしやつて、あのどろしやくつたでお白粉しろしいきつゝあり。