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ふりがな文庫
“
泌
(
し
)” の例文
家庭の労働に
泌
(
し
)
みついてゐるせまい感じも暗さもない。見てゐれば、文句なしに、その透明な情熱にまきこまれずにゐられなくなる。
木々の精、谷の精
(新字旧仮名)
/
坂口安吾
(著)
いい
芳香
(
におい
)
が
臓腑
(
はらわた
)
のドン底まで
泌
(
し
)
み渡りましたよ。そうなると香水だか肌の
香
(
におい
)
だか解かれあしません。おまけにハッキリした日本語で
人間腸詰
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
うづ高いほど積まれてゐた
屍体
(
したい
)
からいつのまにか
泌
(
し
)
みだした血あぶらで、床はいちめん足の踏み場もない有様だつたといふことです。
死児変相
(新字旧仮名)
/
神西清
(著)
そういう悲哀の数々が自ずと
泌
(
し
)
み出るので、たとえ、縦横に振舞い、
闊達
(
かったつ
)
に処理するようでも、人の反感を買わないのではあるまいか。
母子叙情
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
懷紙を掛けた、赤い
箱枕
(
はこまくら
)
、八五郎には馴れない
代物
(
しろもの
)
ですが、娘の髮の匂ひか
泌
(
し
)
みて、獨り者の八五郎には、これも妙に惱ましい代物です。
銭形平次捕物控:015 怪伝白い鼠
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
▼ もっと見る
二年間水に漬かり、それから六カ月間陸にあげられていたそれは、どうしても乾かないほど水が
泌
(
し
)
みこんではいたが、全くしっかりしていた。
森の生活――ウォールデン――:02 森の生活――ウォールデン――
(新字新仮名)
/
ヘンリー・デイビッド・ソロー
(著)
その純白なサナトリウムは
灝気
(
こうき
)
に満ちた山の中腹に建っていて、空気は肺に
泌
(
し
)
み入るように冷たいが、陽の光は柔かな
愛撫
(
あいぶ
)
を投げかけてくれる。
苦しく美しき夏
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
けれどもその
時
(
とき
)
聞
(
き
)
いた
歌
(
うた
)
が、
心
(
こころ
)
の
底
(
そこ
)
まで
泌
(
し
)
み
込
(
こ
)
んで
居
(
い
)
たので、それからは、
毎日
(
まいにち
)
、
歌
(
うた
)
をききに、
森
(
もり
)
へ
出
(
で
)
かけて
行
(
ゆ
)
きました。
ラプンツェル
(新字新仮名)
/
ヤーコプ・ルートヴィッヒ・カール・グリム
、
ヴィルヘルム・カール・グリム
(著)
グラチアの眼を通して、ラテン芸術の意義が彼の心に
泌
(
し
)
み込んできた。今まで彼はイタリーの作品には無関心でいた。
ジャン・クリストフ:12 第十巻 新しき日
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
饂飩屋
(
うどんや
)
の横を、嘉三郎は、黙って奥へ
這入
(
はい
)
って行った。庭に栗の木が一本あって、
濡
(
ぬ
)
れ
葉
(
ば
)
がばらばらと、顔に触れた。そして、栗の花の
香
(
か
)
が鼻に
泌
(
し
)
みた。
栗の花の咲くころ
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
春の
茶摘
(
ちゃつみ
)
歌、
五月雨
(
さみだれ
)
頃の田植歌、夏の日盛りの田草取の歌から、秋の哀れも身に
泌
(
し
)
む
砧
(
きぬた
)
の音、さては
機織
(
はたおり
)
歌の如き、
苟
(
いやしく
)
も農事に関する俗歌俗謡の如きものは
夫婦共稼ぎと女子の学問
(新字新仮名)
/
大隈重信
(著)
ただ、私が彼女に「いやらしい」と思われ、憎まれている私であり、まさに間違いなくその私なのを、心に
泌
(
し
)
みるように痛切にかなしがっているのにすぎなかった。
軍国歌謡集
(新字新仮名)
/
山川方夫
(著)
彼
(
かれ
)
には
悲愴
(
ひさう
)
の
感
(
かん
)
の
外
(
ほか
)
に、
未
(
ま
)
だ一
種
(
しゆ
)
の
心細
(
こゝろぼそ
)
き
感
(
かん
)
じが、
殊
(
こと
)
に
日暮
(
ひぐれ
)
よりかけて、しんみりと
身
(
み
)
に
泌
(
し
)
みて
覺
(
おぼ
)
えた。
是
(
これ
)
は
麥酒
(
ビール
)
と、
莨
(
たばこ
)
とが、
欲
(
ほ
)
しいので
有
(
あ
)
つたと
彼
(
かれ
)
も
終
(
つひ
)
に
心着
(
こゝろづ
)
く。
六号室
(旧字旧仮名)
/
アントン・チェーホフ
(著)
二つ買って来たランプの一つは、石油を入れてみると底のハンダ付けの隙間から油が
泌
(
し
)
み出して用をなさない。これでは一時の用にも立ちかねる。これはランプではない。
石油ランプ
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
太陽の光線でピリピリと
泌
(
し
)
み、涙がポロポロとこぼれて眼をあけつづけることができない。昨日強烈な紫外線の中を、眼鏡をかけずに歩いていたので雪盲にかかったのだ。
春の遠山入り:(易老岳から悪沢岳への縦走)
(新字新仮名)
/
松濤明
(著)
が、湿つぽい
匂
(
にほ
)
ひの
泌
(
し
)
みこんだ同じやうに汚ならしい六つ七つの
室
(
へや
)
は、みんなふさがつてゐた。
哀しき父
(新字旧仮名)
/
葛西善蔵
(著)
己の体にはブランデエの酔いが
循
(
まわ
)
って来て、襟元から汗がびっしょりと
泌
(
し
)
み出て居るので、己は
暫
(
しばら
)
く
眩暈
(
めまい
)
のするような、息の詰まるような気持ちに襲われたが、その気持ちが又
小僧の夢
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
一通り挨拶がすむと祖母はすぐ操さんの着物に汗が
泌
(
し
)
み出ているのを認めた。
何が私をこうさせたか:――獄中手記――
(新字新仮名)
/
金子ふみ子
(著)
母「あゝ寒いてえ、年イ取ると風が身に
泌
(
し
)
みるだ、そこを
閉
(
た
)
ってくんろよ、
何
(
な
)
んだか今年に成って
一時
(
いちじ
)
に年イ取った様な心持がするだ、
酷
(
ひど
)
く寒いのう、多助やぴったり
其処
(
そこ
)
を閉ってくんろよ」
真景累ヶ淵
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
この様子は真直ぐに彼自身の胸へひびいて
泌
(
し
)
みこんで来た。
あめんちあ
(新字新仮名)
/
富ノ沢麟太郎
(著)
李
(
すもゝ
)
ちる京の夕かぜ又も
泌
(
し
)
むひととせ見たる美くしき窓
恋衣
(新字旧仮名)
/
山川登美子
、
増田雅子
、
与謝野晶子
(著)
香
(
か
)
にほのめきて
身
(
み
)
にぞ
泌
(
し
)
む。
白羊宮
(旧字旧仮名)
/
薄田泣菫
、
薄田淳介
(著)
泌
(
し
)
み出づるごと薫るなれ。
有明集
(旧字旧仮名)
/
蒲原有明
(著)
すでに棲む人の姿はなく、壁は落ち、羽目板は外れて、夜風は身に
泌
(
し
)
みて吹き渡り、床の隙間に雑草がのびて、風吹くたびにその首をふつた。
閑山
(新字旧仮名)
/
坂口安吾
(著)
扇
(
おうぎ
)
の影一つ動かない深海の底のような静寂さが、一人一人の左右の鼓膜からシンシンと
泌
(
し
)
み込んで来るのであった。
二重心臓
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
こういう静かな時刻というのも、あるにはあったのか。彼はその孤独な鳥の姿がしみじみと眼に
泌
(
し
)
みるのだった。
冬日記
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
心からこれを唱へれば、
懺悔
(
さんげ
)
の心がいつか自分の過去現在未来に渡つて
泌
(
し
)
み入り、悪業が自然と滅して行く
老主の一時期
(新字旧仮名)
/
岡本かの子
(著)
彼
(
かれ
)
には
悲愴
(
ひそう
)
の
感
(
かん
)
の
外
(
ほか
)
に、まだ一
種
(
しゅ
)
の
心細
(
こころぼそ
)
き
感
(
かん
)
じが、
殊
(
こと
)
に
日暮
(
ひぐれ
)
よりかけて、しんみりと
身
(
み
)
に
泌
(
し
)
みて
覚
(
おぼ
)
えた。これは
麦酒
(
ビール
)
と、
莨
(
たばこ
)
とが、
欲
(
ほ
)
しいのであったと
彼
(
かれ
)
も
終
(
つい
)
に
心着
(
こころづ
)
く。
六号室
(新字新仮名)
/
アントン・チェーホフ
(著)
モーツァルトの
絢爛
(
けんらん
)
さもブラームスの端正さもないが、
懐
(
なつ
)
かしさと優しさと、
泌
(
し
)
み出る愛情と輝く美しさは、人間に音楽あって以来、かつて例を見ざる
比
(
たぐい
)
のものである。
楽聖物語
(新字新仮名)
/
野村胡堂
、
野村あらえびす
(著)
なんの物音もしません。しんしんと
泌
(
し
)
みこむ夜気を、千恵の頭はむしろ涼しいやうに感じます。
死児変相
(新字旧仮名)
/
神西清
(著)
けれども
王子
(
おうじ
)
は
優
(
やさ
)
しく
話
(
はな
)
しかけて、一
度
(
ど
)
聞
(
き
)
いた
歌
(
うた
)
が、
深
(
ふか
)
く
心
(
こころ
)
に
泌
(
し
)
み
込
(
こ
)
んで、
顔
(
かお
)
を
見
(
み
)
るまでは、どうしても
気
(
き
)
が
安
(
やす
)
まらなかったことを
話
(
はな
)
したので、ラプンツェルもやっと
安心
(
あんしん
)
しました。
ラプンツェル
(新字新仮名)
/
ヤーコプ・ルートヴィッヒ・カール・グリム
、
ヴィルヘルム・カール・グリム
(著)
舁「
私
(
わっち
)
も寒さが身に
泌
(
し
)
みて、動けそうもござりやせん」
後の業平文治
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
物
(
もの
)
さびしさの
身
(
み
)
にぞ
泌
(
し
)
む。
白羊宮
(旧字旧仮名)
/
薄田泣菫
、
薄田淳介
(著)
さういふ声の
泌
(
し
)
みるがやうな自然さに逢ふと、私もつひに本能的な恐怖をもつて、私の裡の世間を怖れるのであります。
女占師の前にて
(新字旧仮名)
/
坂口安吾
(著)
それにしても、この澄みきった時刻がこんなにかなしく心に
泌
(
し
)
みるのはどうしたわけなのだろう……。
美しき死の岸に
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
それから釜山の事務所に帰って、
銭湯
(
せんとう
)
に飛込むと、何か知らピリピリと足に
泌
(
し
)
みるようだから、おかしいなと思い思い、
上框
(
あがりかまち
)
の
燈火
(
あかり
)
の下に来てよく見ると……どうだ。
爆弾太平記
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
それは年老いた此の都市から
泌
(
し
)
み出る老廃物のごく小量の分け前にしか過ぎないのだから。
水に沈むロメオとユリヤ
(新字旧仮名)
/
神西清
(著)
牧歌が切れて濃いキャフェが室内の朝の現実のにおいとなって強く新吉の鼻に
泌
(
し
)
みて来た。
巴里祭
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
魂
(
たましひ
)
にしも
泌
(
し
)
み
入
(
い
)
らめ。
白羊宮
(旧字旧仮名)
/
薄田泣菫
、
薄田淳介
(著)
蒼空は私に
泌
(
し
)
みた。私は瑠璃色の波に
噎
(
むせ
)
ぶ。私は蒼空の中を泳いだ。そして私は、もはや透明な波でしかなかつた。私は磯の音を私の脊髄にきいた。
ふるさとに寄する讃歌:――夢の総量は空気であつた――
(新字旧仮名)
/
坂口安吾
(著)
火葬場で見た時とちがって、今は明るい光線の下に細々とした骨が眼に
泌
(
し
)
みるようだった。壺に納まった骨は静かに墓の底に据えられ、余りの骨は穴のなかにばら
撒
(
ま
)
かれた。
死のなかの風景
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
眼の前の電柱に片手を支えると、その掌に、照りつけた太陽の熱がピリピリと
泌
(
し
)
み込んだ。
童貞
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
おしろい気なき襟元へしみ/\と
泌
(
し
)
み渡るかな夜の冷たさ
かろきねたみ
(新字旧仮名)
/
岡本かの子
(著)
その部屋の空気には霧雨のやうな花粉が流れてゐて、麻油にはそれが眼や足の裏に
泌
(
し
)
みて仕様がなかつた。麻油はむつつりして黙り込んでゐたのである。
小さな部屋
(新字旧仮名)
/
坂口安吾
(著)
シンシンと
泌
(
し
)
み渡る頭の痛みと重ね合わせて、チラチラと思い出しつづけたのであった。
木魂
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
崩れた庭に残っている青い水を
湛
(
たた
)
えた池の底なしの
貌
(
かお
)
つきを。それは僕のなかにあるような気もする。それから突然ギョッとしてしまう、骨身に
泌
(
し
)
みるばかりの冷やりとしたものに。
鎮魂歌
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
旅は人の心を空ッポにするものぢやよ。そのくせひどく感動しやすくなるもんだから、貴公のやうな
鈍愚利
(
どんぐり
)
でも時あれば
泌
(
し
)
むやうに酒が恋しくなるかも知れん。
木枯の酒倉から:――聖なる酔つ払ひは神々の魔手に誘惑された話――
(新字旧仮名)
/
坂口安吾
(著)
そうして彼の耳の傍まで来て鼓膜の底の底まで
泌
(
し
)
み渡ったと思うと、そのままフッツリと消えてしまったが、しかし彼はその声を聞くと、スッカリ安心したかのように眼を閉じて
木魂
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
とりわけ私のやうにぐうたらな落伍者の悲しさが影身にまで
泌
(
し
)
みつくやうになつてしまふと、何か一つの純潔とその貞節を守らずには生きてゐられなくなるものだ。
いづこへ
(新字旧仮名)
/
坂口安吾
(著)
……息が詰まったかと思う腰の痛さを、頭の中心まで
泌
(
し
)
み渡らせながら彼は、
咄嗟
(
とっさ
)
に半身を起してマキリを構えた。眼の前、一
間
(
けん
)
ばかり向うの闇の中に
跼
(
うずく
)
まっている白い物体に
対
(
むか
)
って身構えた。
白菊
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
泌
常用漢字
中学
部首:⽔
8画
“泌”を含む語句
泌々
分泌
分泌物
内分泌腺
劉泌
泌尿科
湄泌河
皮膚泌尿科