)” の例文
家庭の労働にみついてゐるせまい感じも暗さもない。見てゐれば、文句なしに、その透明な情熱にまきこまれずにゐられなくなる。
木々の精、谷の精 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
いい芳香におい臓腑はらわたのドン底までみ渡りましたよ。そうなると香水だか肌のにおいだか解かれあしません。おまけにハッキリした日本語で
人間腸詰 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
うづ高いほど積まれてゐた屍体したいからいつのまにかみだした血あぶらで、床はいちめん足の踏み場もない有様だつたといふことです。
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)
そういう悲哀の数々が自ずとみ出るので、たとえ、縦横に振舞い、闊達かったつに処理するようでも、人の反感を買わないのではあるまいか。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
懷紙を掛けた、赤い箱枕はこまくら、八五郎には馴れない代物しろものですが、娘の髮の匂ひかみて、獨り者の八五郎には、これも妙に惱ましい代物です。
二年間水に漬かり、それから六カ月間陸にあげられていたそれは、どうしても乾かないほど水がみこんではいたが、全くしっかりしていた。
その純白なサナトリウムは灝気こうきに満ちた山の中腹に建っていて、空気は肺にみ入るように冷たいが、陽の光は柔かな愛撫あいぶを投げかけてくれる。
苦しく美しき夏 (新字新仮名) / 原民喜(著)
けれどもそのときいたうたが、こころそこまでんでたので、それからは、毎日まいにちうたをききに、もりかけてきました。
グラチアの眼を通して、ラテン芸術の意義が彼の心にみ込んできた。今まで彼はイタリーの作品には無関心でいた。
饂飩屋うどんやの横を、嘉三郎は、黙って奥へ這入はいって行った。庭に栗の木が一本あって、がばらばらと、顔に触れた。そして、栗の花のが鼻にみた。
栗の花の咲くころ (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
春の茶摘ちゃつみ歌、五月雨さみだれ頃の田植歌、夏の日盛りの田草取の歌から、秋の哀れも身にきぬたの音、さては機織はたおり歌の如き、いやしくも農事に関する俗歌俗謡の如きものは
夫婦共稼ぎと女子の学問 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
ただ、私が彼女に「いやらしい」と思われ、憎まれている私であり、まさに間違いなくその私なのを、心にみるように痛切にかなしがっているのにすぎなかった。
軍国歌謡集 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
かれには悲愴ひさうかんほかに、だ一しゆ心細こゝろぼそかんじが、こと日暮ひぐれよりかけて、しんみりとみておぼえた。これ麥酒ビールと、たばことが、しいのでつたとかれつひ心着こゝろづく。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
二つ買って来たランプの一つは、石油を入れてみると底のハンダ付けの隙間から油がみ出して用をなさない。これでは一時の用にも立ちかねる。これはランプではない。
石油ランプ (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
太陽の光線でピリピリとみ、涙がポロポロとこぼれて眼をあけつづけることができない。昨日強烈な紫外線の中を、眼鏡をかけずに歩いていたので雪盲にかかったのだ。
が、湿つぽいにほひのみこんだ同じやうに汚ならしい六つ七つのへやは、みんなふさがつてゐた。
哀しき父 (新字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
己の体にはブランデエの酔いがまわって来て、襟元から汗がびっしょりとみ出て居るので、己はしばら眩暈めまいのするような、息の詰まるような気持ちに襲われたが、その気持ちが又
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
一通り挨拶がすむと祖母はすぐ操さんの着物に汗がみ出ているのを認めた。
母「あゝ寒いてえ、年イ取ると風が身にみるだ、そこをってくんろよ、んだか今年に成って一時いちじに年イ取った様な心持がするだ、ひどく寒いのう、多助やぴったり其処そこを閉ってくんろよ」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
この様子は真直ぐに彼自身の胸へひびいてみこんで来た。
あめんちあ (新字新仮名) / 富ノ沢麟太郎(著)
すもゝちる京の夕かぜ又もむひととせ見たる美くしき窓
恋衣 (新字旧仮名) / 山川登美子増田雅子与謝野晶子(著)
にほのめきてにぞむ。
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
み出づるごと薫るなれ。
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
すでに棲む人の姿はなく、壁は落ち、羽目板は外れて、夜風は身にみて吹き渡り、床の隙間に雑草がのびて、風吹くたびにその首をふつた。
閑山 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
おうぎの影一つ動かない深海の底のような静寂さが、一人一人の左右の鼓膜からシンシンとみ込んで来るのであった。
二重心臓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
こういう静かな時刻というのも、あるにはあったのか。彼はその孤独な鳥の姿がしみじみと眼にみるのだった。
冬日記 (新字新仮名) / 原民喜(著)
心からこれを唱へれば、懺悔さんげの心がいつか自分の過去現在未来に渡つてみ入り、悪業が自然と滅して行く
老主の一時期 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
かれには悲愴ひそうかんほかに、まだ一しゅ心細こころぼそかんじが、こと日暮ひぐれよりかけて、しんみりとみておぼえた。これは麦酒ビールと、たばことが、しいのであったとかれつい心着こころづく。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
モーツァルトの絢爛けんらんさもブラームスの端正さもないが、なつかしさと優しさと、み出る愛情と輝く美しさは、人間に音楽あって以来、かつて例を見ざるたぐいのものである。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
なんの物音もしません。しんしんとみこむ夜気を、千恵の頭はむしろ涼しいやうに感じます。
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)
けれども王子おうじやさしくはなしかけて、一いたうたが、ふかこころんで、かおるまでは、どうしてもやすまらなかったことをはなしたので、ラプンツェルもやっと安心あんしんしました。
舁「わっちも寒さが身にみて、動けそうもござりやせん」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ものさびしさのにぞむ。
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
さういふ声のみるがやうな自然さに逢ふと、私もつひに本能的な恐怖をもつて、私の裡の世間を怖れるのであります。
女占師の前にて (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
それにしても、この澄みきった時刻がこんなにかなしく心にみるのはどうしたわけなのだろう……。
美しき死の岸に (新字新仮名) / 原民喜(著)
それから釜山の事務所に帰って、銭湯せんとうに飛込むと、何か知らピリピリと足にみるようだから、おかしいなと思い思い、上框あがりかまち燈火あかりの下に来てよく見ると……どうだ。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それは年老いた此の都市からみ出る老廃物のごく小量の分け前にしか過ぎないのだから。
水に沈むロメオとユリヤ (新字旧仮名) / 神西清(著)
牧歌が切れて濃いキャフェが室内の朝の現実のにおいとなって強く新吉の鼻にみて来た。
巴里祭 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
たましひにしもらめ。
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
蒼空は私にみた。私は瑠璃色の波にむせぶ。私は蒼空の中を泳いだ。そして私は、もはや透明な波でしかなかつた。私は磯の音を私の脊髄にきいた。
火葬場で見た時とちがって、今は明るい光線の下に細々とした骨が眼にみるようだった。壺に納まった骨は静かに墓の底に据えられ、余りの骨は穴のなかにばらかれた。
死のなかの風景 (新字新仮名) / 原民喜(著)
眼の前の電柱に片手を支えると、その掌に、照りつけた太陽の熱がピリピリとみ込んだ。
童貞 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
おしろい気なき襟元へしみ/\とみ渡るかな夜の冷たさ
かろきねたみ (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
その部屋の空気には霧雨のやうな花粉が流れてゐて、麻油にはそれが眼や足の裏にみて仕様がなかつた。麻油はむつつりして黙り込んでゐたのである。
小さな部屋 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
シンシンとみ渡る頭の痛みと重ね合わせて、チラチラと思い出しつづけたのであった。
木魂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
崩れた庭に残っている青い水をたたえた池の底なしのかおつきを。それは僕のなかにあるような気もする。それから突然ギョッとしてしまう、骨身にみるばかりの冷やりとしたものに。
鎮魂歌 (新字新仮名) / 原民喜(著)
旅は人の心を空ッポにするものぢやよ。そのくせひどく感動しやすくなるもんだから、貴公のやうな鈍愚利どんぐりでも時あればむやうに酒が恋しくなるかも知れん。
そうして彼の耳の傍まで来て鼓膜の底の底までみ渡ったと思うと、そのままフッツリと消えてしまったが、しかし彼はその声を聞くと、スッカリ安心したかのように眼を閉じて
木魂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
とりわけ私のやうにぐうたらな落伍者の悲しさが影身にまでみつくやうになつてしまふと、何か一つの純潔とその貞節を守らずには生きてゐられなくなるものだ。
いづこへ (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
……息が詰まったかと思う腰の痛さを、頭の中心までみ渡らせながら彼は、咄嗟とっさに半身を起してマキリを構えた。眼の前、一けんばかり向うの闇の中にうずくまっている白い物体にむかって身構えた。
白菊 (新字新仮名) / 夢野久作(著)