)” の例文
「聞きゃ、道成寺を舞った時、腹巻の下へ蛇をめた姉さんだと云うじゃないか。……その扱帯しごきが鎌首をもたげりゃかったのにさ。」
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ところが案外、いい加減に聞いていられないことをいい出しそうなので、急に女のような優しくて厚い唇が、難しく大きくまった。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
煙草を銜え、飛行服のバンドをめ直し乍ら、池内いけうち操縦士が、折から発動機エンジンの点検をえて事務所に帰って来た、三枝さえぐさ機関士に訊ねた。
旅客機事件 (新字新仮名) / 大庭武年(著)
そしてあれが起こったのだ、おれが抱きめて、まだそれ以上になにをするつもりもなかったとき、おさんの躯の芯のほうで音がした。
おさん (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
女はあっと云って、めた手綱を一度にゆるめた。馬は諸膝もろひざを折る。乗った人と共に真向まともへ前へのめった。岩の下は深いふちであった。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼は熱病患者のようにがたがたと顫え、前代未聞の怖るべき猛毒に犯されたと自ら考えている胸を、痙攣的にめつけるのだった。
またしばしば刑罰のむちをふるってわれわれのとかく遊惰に流れやすい心を引きめる「厳父」としての役割をも勤めるのである。
日本人の自然観 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
俄盲目にはかめくらかんるいけれども、もらつた手拭てぬぐひきず二重ふたへばかりいて、ギユツとかためますと、くすり効能かうのう疼痛いたみがバツタリ止まりました。
そして荒寥こうりょうたる土地のうえに落ちて来る暗澹たる夜の淋しさをひしひしと感じて、胸をめられるような思いがするのだった。
初雪 (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
白絣しろがすりを着てメリンスの帯をめた子は、それにも頓着せず、急いで川のしたの方にりて行つた。其処そこにはもう十六になる兄が先に行つて居た。
(新字旧仮名) / 田山花袋(著)
それがいへかへればたゞちくるしい所帶しよたいひとらねばならぬ。そこにおつぎのこゝろ別人べつにんごと異常いじやうめられるのであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「あぶなかッたら人の後に隠れてなるたけ早く逃げるがいいよ」とかぶとの緒をめてくれる母親が涙をぜて忠告する。
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
みぞおちから肋骨あばらの辺を堅くめ附けている丸帯と、骨盤の上をくくっている扱帯しごきの加減で、私の体の血管には、自然と女のような血が流れ始め
秘密 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
同じ秩父銘撰の着物の半襟のかかったのに、引ッかけに結んだ黒繻子の帯のゆるみ心地なのを、両手でキュウとめ直しながら二階へ上って行く。
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
佐分利はその劇なるを知りながらかかつたのは、大いに冒険の目的があつて存するのだらうけれど、木乃伊ミイラにならんやうにふんどしめて掛るが可いぜ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
今や汝あやしみ、あやしみてしかして物言はず、されどさとき思ひに汝のめらるゝ強ききづなを我汝の爲に解くべし 四九—五一
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
今迄め付られていた胸が一時に拡がるような快感がある。午前四時頃から起きたので、六時四十分には出懸けられた。
黒部川を遡る (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
それから自分も長椅子に腰をおろすと、モスリンの肩掛かたかけをぎゅっとめ直しただけで、それきりばたき一つしなければ眉毛ひとすじ動かさなかった。
「榜ぎいでな」という具合に流動の節奏を以てめて、それが第二句と結句である点などをも注意すべきである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
或る日すてが寝ている間に袴野は赤ん坊を抱き上げようとして、耳さといすてに発見された。何する、と、すては叫んで赤ん坊を自分のむねに抱きめた。
これは最初を、「イ」と口をめておいて、やがて徐ろに明るく大きく「ヤサ、カァ」と開き上げて行く。
樹木とその葉:07 野蒜の花 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
でも天網恢々てんまうくわい/\でも、何處かにくゝりがあつたのでせう、その晩、鍵屋の息子半次郎が、手代の伊與之助に刺し殺され、伊與之助は神妙に其場から自訴しました。
看護婦がゴム管で政枝の腕をめて血止めをすると、医師は急いで傷口の縫い合せにとりかかった。
勝ずば (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ただ緊箍咒きんそうじゅ(悟空の頭にめられている金の輪で、悟空が三蔵法師の命に従わぬときにはこの輪が肉にい入って彼の頭をめ付け、堪えがたい痛みを起こすのだ。)
すこぶるせた体を、ぎゅっとめあげるような着こなしで、バンドにつき眼鏡をさげている。
桜の園 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「金目の懸つた竿だけに溺死おぼれじぬ場合にも心が残つて、あんなにしつかり握りめてゐたのだらうて。」
この切実な思いは胸にせまってめつけて来た。彼らの家中にとって、そのトウベツの地には起死回生の想いがこもっていた。えて、女や子供だけの念願ではなかった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
墨を磨ってしまって、偶然のようにこっちへ向く。木村よりは三つ四つ歳の少い法学博士で、目附鼻附のまった、余地の少い、敏捷びんしょうらしい顔に、金縁の目金を掛けている。
あそび (新字新仮名) / 森鴎外(著)
外面そともは又外面で、士卒各々かぶとの緒をめ、鉄砲の火縄に火をささぬばかりにし、太刀たちを取りしぼって、座の中に心を通わせ、イザと云えばオッと応えようと振い立っていた。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
瑠璃子は、一寸拍子抜けを感じながらも、冷たく引きめた顔を、少しも緩めなかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
遠く行く情人の足を蹈みとゞまらすもの、猛く勇む雄士ますらをの心を弱くするもの、情たがよろこび薄らぎたる間柄をめ固うするもの、涙のほかには求めがたし。人世涙あるは原頭に水あるが如し。
山庵雑記 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
彼は力足ちからあしめるようにして歩きだした。見ると、もう吉良家の裏門に近く来ている。かねて小豆屋善兵衛の探知によって、家老小林の宅が裏門に近い所にあるとは聞いていた。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
まね樣々さま/″\饗應もてなしゐる内天一坊には白綾しらあや小袖こそで紫純子むらさきどんす丸蔕まるぐけわざにはへ出て小鳥ことり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
私の背後からはまる麦稈帽むぎわらぼうに金と黒とのリボンをひらひらさして、白茶しろちゃの背広に濃い花色のネクタイを結んだ、やっと五歳と四ヶ月の幼年紳士がとてもいさぎよく口をへの字に引きめて
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
悪足掻わるあがきもまた一段で、襦袢じゅばんがシャツになれば唐人髷とうじんわげも束髪に化け、ハンケチで咽喉のどめ、鬱陶うっとうしいをこらえて眼鏡を掛け、ひとりよがりの人笑わせ、天晴あっぱれ一個のキャッキャとなり済ました。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
相手の本質をぐいぐいとめ上げなければやまぬ往年の気魄きはくは殆ど見られない。
である、気が晴ればれする、うちにもどこか引きまるところがあって心が浮わつかない。断行するにも沈思するにも精いっぱいできる。感情も意志も知力もその能を尽くすべき時である。
小春 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
が、その時投げ出していた足をお重の鼻先に突き出して黙ってお重をめつけていた。お重は顔を赤くして、口を堅く引きめて、じっとそれを見ていたが漸く怒をおさえ得たらしい様子で
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
上唇を少しめて聊か形を変え、爾して微かに口の両脇の筋を詰めてキリリとした締まりを見せました、全体筋を詰めたりゆるめたりする事は世間の医者には出来ませんが、是も電気作用で
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
無い時もあった。此のような生活をしながらも、目に見えぬ何物かが次第に輪をせばめて身体をめつけて来るのを、私は痛いほど感じ始めた。歯ぎしりするような気持で、私は連日遊びほうけた。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
と、彼女が、一そう強く、手を引きしめると、雪之丞も、めかえして
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
ばア様は私の室の前を、steal, stole, stolen と声高こわだかに言つて通つて行く。私は無念の唇を噛みながらも、のさばるばア様をうしようもなく、たゞ/\おど/\した。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
胸をめつけられるようにその不自然な静寂を感じるのであった。
乳房 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
お蔦 (お君をひしと抱きめ、儀十等に敵意の眼を向ける)
一本刀土俵入 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
私は身体からだ中の毛穴が自然おのずと引きまるように感じた。
あやかしの鼓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
どぎつい愛は心とろかす失神で私をひどくめつけた。
「こっちのお乳をおかずにして、こっちのおおきい方をおまんまにして食べるんだって、」とぐッとめ附けて肩をすぼめ、笑顔で身顫みぶるいをして
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この大任を与えられたのは、時あって、めぐり会った武士最高のさち! ほまれ! そう思うにつけ五体の肉のまるのを禁じ得なかった。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
発作の時ずたずたに裂いてしまった鼠色ねずみいろの服のうえから、り込みの大きいごわごわのズックの狭窄衣が、ぴっちりと胴体をめつけている。
自分のたなごころのなかに彼女の手をにぎめていると、わたくしのこの胸には、それまで想像だもしなかったほどの愉しい気持ちがみなぎって来るのでした。
(新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)