)” の例文
「そんなものはありません。旦那は用心深いから、表も裏も念入りにめて、家中皆んな留守のことにし、窓だけ開けて置きました」
「いつのまに、こんなにはや時間じかんがたったろう。」と、つぶやきながら、れいのレストランのまえへくると、もうみせまっていました。
世の中へ出る子供たち (新字新仮名) / 小川未明(著)
階段をり、階下の校舍の一部を横切り、それから二つのドアを音を立てないやうにうまけて、まためて、別の階段の所まで來た。
ろくに動きまわることもできないほどの狭い低い室も、彼には一王国のように思われた。彼はとびらかぎめ切り、満足して笑った。
あちらこちらと散々迷い歩いたすえ、表戸をめかけている荒物煙草屋へ飛び込んで、ようやく、そこへ行く道筋をきくことができた。
その抽斗がけられたりめられたりする時に抽斗の微分子が諸君の鼻の中を舞い上ったり諸君ののどを舞い下ったりするのである。
曲馬団きょくばだんを出るとぼくはガロフォリのうちへもどったが、うちはすっかりまっていた。近所の人に聞いて様子がすっかりわかった。
ヂュリ おゝ、はやめて、そしてしめてまうたら、わたしと一しょにいてくだされ。もう絶望だめぢゃ! 絶望だめぢゃ、絶望だめぢゃ!
ととつぜん、暴風にそなえるように、うろたえた手下どもは、とびらへ手をかけて、ドーンというひびきとともに、間道門かんどうもんめてしまった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『あゝつ、』といまはしさにはらつて、すはなほして其処等そこらみまはす、とそつ座敷ざしきのぞいた女中ぢよちゆうが、だまつて、スーツと障子しやうじめた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ぴったりと障子をめきって、あるじの源十郎とひとりの年増女としまが、これも何やら声を忍ばせて、しきりに話しこんでいる最中。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
体裁よく言って、次の室との間の襖子からかみを命婦自身が確かにめて、隣室へ源氏の座の用意をしたのである。源氏は少し恥ずかしい気がした。
源氏物語:06 末摘花 (新字新仮名) / 紫式部(著)
川沿かはぞひ公園こうゑん真暗まつくら入口いりぐちあたりから吾妻橋あづまばしはしだもと。電車通でんしやどほりでありながらはやくからみせめる鼻緒屋はなをやちつゞく軒下のきした
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
てついた道に私たちの下駄を踏み鳴らす音が、両側の大戸をめきった土蔵造りの建物にカランコロンとびっくりするようなこだまかえした。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
夜は戸をめて灯の色が暖く、人けも多くなるので、何か拠りどころが有るような気がするが、昼間吹くからッ風は明るいだけに妙に頼りなく
やがて町にはいりましたが通りの家々はもうみんな戸をめてしまって、高い窓から暖かそうな光が、道の雪の上に落ちているばかりでした。
手袋を買いに (新字新仮名) / 新美南吉(著)
うちじゅうのものがごろごろした。降り込む雨をふせぐために、東南に向いた店座敷の戸も半分ほどめてある。半蔵はその居間に毛氈もうせんを敷いた。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
銀之助はしづわかれて最早もう歩くのがいやになり、車を飛ばして自宅うちに帰つた。遅くなるとか、めてもいとかふさに言つたのを忘れてしまつたのである。
節操 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
やがて大胯に船長が入って来て、右も左も見ずに扉を背後にばたんとめると、朝食の用意のしてあるところへと室を突っ切ってまっすぐに進んだ。
中には重そうな戸がまっているのが見えました。やがて、その戸は見る見るうちにすうーっと開いてゆきました。
甚兵衛じんべえ不思議ふしぎに思いましたが、ともかくもさるのいうとおりにして、三日間人形部屋べやふすまめ切ってきました。さるはどこかへ行ってしまいました。
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
再び頓狂な音を立てながらまつてゆく硝子窓のうしろに、ついとその男は顏を引つこめてしまつたからである。
風景 (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
第二の扉のところがまる——という風に、扉は開いたり閉ったりして、やがて五つの扉の全部を通って、樽ロケットは一つの大きな部屋におちついた。
ふしぎ国探検 (新字新仮名) / 海野十三(著)
でも、ドウランのふたが開くことはよくありますから、生徒は気にもかけずに、またふたをめてしまいました。
かしこにいくさを起す狼どものあだこひつじとしてわが眠りゐし處——より我をいだすその殘忍に勝つこともあらば —六
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
潜戸はいきなりぱあんとはげしい音を立ててまった。それは古ぼけた縁の釘が飛んだほどのはげしさであった。
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
それから、母さんとの約束で、鶏小舎とりごやは、僕がいつもめに行くことになってる。僕はまた草むしりもする。どんな草でもいいってわけにいかないからね。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
人が箱の蓋をしっかりめるのを忘れたと見え、いっもとちがって、蒼白あおじろい光りが上の方からさして来ます。
椰子蟹 (新字新仮名) / 宮原晃一郎(著)
「おつかあ、さむかなかつたか、らねえでた」いひながら大戸おほどをがら/\とめた。くらくなつたいへうちにはかまどのみがいきほひよくあかく立つた。おつぎは
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
そして、入口のドアがパタンとまったとき、ルミちゃんは、なんだかゾーッと、からだが寒くなってきました。なんともいえない、恐ろしい気がしたのです。
魔法人形 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
えきのどの家ももう戸をめてしまって、一面いちめんの星の下に、棟々むねむねが黒くならびました。その時童子はふと水のながれる音を聞かれました。そしてしばらく考えてから
雁の童子 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
私はその言葉の意味を考えたが、そのうちに二人は、今めたばかりのドアを、音もなく開いて出て行った。
幽霊と推進機 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
陰気ではあるが家並やなみの悪くない抜け道にあったが、家はまったくめ切って、窓に貸間の札もみえない。
ルイザはナポレオンに引きられてよろめいた。二人の争いは、トルコの香料のにおいを馥郁ふくいくき散らしながら、寝台の方へ近づいて行った。緞帳がめられた。
ナポレオンと田虫 (新字新仮名) / 横光利一(著)
戸外では、いつか雨が降り出していて、湿った軒燈けんとうに霧のような水しぶきがしていました。兄さんは土間へ降りて硝子戸をめ、カナキンのカアテンを引きました。
(新字新仮名) / 林芙美子(著)
それを突っかけてすぐ庭に出ることが出来る、夜分やぶんこそ雨戸あまどめて家と庭との限界をきびしくしますが、昼はほとんど家と庭との境はないといってよいほどであります。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
桝屋の前で駕籠をおりると、表をめた店の前に、佐吉が若い男と立ち話をしていた。おしのはこの一年半ばかり来なかったので、彼はちょっとわからなかったらしい。
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そっと覗込んで、小声で、「もうお休みなすったの?」といいながら、中へ入って又そっと跡をめたのは、十二時過で遠慮するのだったかも知れぬが、私は一寸ちょっと妙に思った。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
そこにはいつもの理髪店が、客の来ない椅子いすを並べて、白昼の往来を眺めているし、さびれた町の左側には、売れない時計屋が欠伸あくびをして、いつものように戸をめている。
猫町:散文詩風な小説 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
今夜はもう五ツ(午後八時)を過ぎているので、海辺の茶店はまっていた。北から数えて五つ目の茶店の前で、下総屋の番頭吉助は立ちどまってそっと左右を見まわした。
半七捕物帳:31 張子の虎 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
よめになんどおもひもらぬことなりことばかはすもいまはしきに疾々とく/\かへらずやおかへりなされエヽなにをうぢ/\老婆ばあさま其處そこめなさいとことばづかひも荒々あら/\しくいかりの面色めんしよくすさまじきを
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
どこかしことなく江戸中残らずの木戸が、もうまってしまっているのだということだった。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
透明人間とうめいにんげんがくるって……そいつはたいへんだ。おいっ! ドアをめろ、ドアを閉めろ!」
と、自分も逃げて来たように言って、八千代さんはそこらの障子をめてくれてそばへ来た。
遠藤(岩野)清子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
白々とまった。男はそのときやっと安心したように目をやると、また仕事台にむかった。
香爐を盗む (新字新仮名) / 室生犀星(著)
不器用なるは芸をす事能わざる故選びに念入る事の由、その選ぶ術は、まず一人をるべきほどの戸棚を造り、戸をめる時自ずから栓下りて開けざるごとくして中に食物を置き
うなりニキタはをぱたり。そうしてめたててやはりそこに仁王立におうだち
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
そのうちあめます/\ふかくなつた。いへつゝんで遠いおときこえた。門野かどのて、すこさむい様ですな、硝子戸がらすどめませうかといた。硝子戸がらすどあひだ二人ふたりかほそろえてにはの方をてゐた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
危険が切迫したので雷門も戸をめてしまったから、いよいよ一方口になって、吾妻橋の方へ人は波を打って逃げ出し、一方は花川戸、馬道方面、一方は橋を渡って本所へとげて行く。
それだけなら不思議はないんですが、庭へ廻つてみると、障子がめきつてあります。声をかけると家内より先に「お帰りなさい」といふその医者の返事が、部屋の中から聞えるんです。
クロニック・モノロゲ (新字旧仮名) / 岸田国士(著)