)” の例文
女はそれがまんざらでもないらしくあしらいながいて彼に引き寄せられまいとしてジョーンの左腕にすがって居るようにも見える。
決闘場 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そのうえいることはあるまいと思っていると、そのけったいな男が、突然きょろきょろと四方あたりを見廻して、落着かないことおびただしい。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
若しお前たちの母上の臨終にあわせなかったら一生恨みに思うだろうとさえ書いてよこしてくれたお前たちの叔父上にいて頼んで
小さき者へ (新字新仮名) / 有島武郎(著)
それで彼は、彼のめちゃな言葉を聞いて給仕ボーイ嘲笑ちょうしょう的な様子をしたのを、ひどく気に病みながらも、いて平気でいようとつとめた。
問題の長持は、おせいがいて貰い受けて、彼女からひそかに古道具屋に売払われた。その長持は今何人なんぴとの手に納められたことであろう。
お勢登場 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
お前が、さも新吉の凄じい権幕におびえたように、神経のこわばった相形そうぎょういて微笑わらいを見せながら、そういって私の部屋に入って来た。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
いやに儀式ばった挨拶あいさつを来る人たちへいられたり、着たくもない妙な仰々ぎょうぎょうしい着物を着せられるのであるそれが泣くほどつらかった。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
その逼迫ひっぱくしている急場の足もとをつけこみ、故意になまけてはそれを揶揄やゆし、むちいられれば俄然不平を鳴らすというふうであった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大「暫くお待ちを……此の身の出世ばかりでなく、く申す大藏もいさゝかお屋敷へ対して功がござる、それゆえいて願いますわけで」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
男は黒き夜を見上げながら、いられたる結婚のふちより、是非に女を救い出さんと思い定めた。かく思い定めて男は眼をずる。——
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
古来より梵語をいて翻訳せずして、陀羅尼は、陀羅尼のままに、真言は、真言のままに、呪は、呪のままによみ伝えてきたのです。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
彼のうちにまた彼の上に司教からともされた仮借なき光明が、盲目ならんと欲する彼をいて眩惑げんわくさしたことも、幾度であったろう。
このたび福原への御幸をい、四方に板垣をめぐらし、入口を一つだけ開けた三間四方の粗末な板屋を作り、ここに法皇を押しこめた。
それ大雪おほゆきのために進行しんかうつゞけられなくなつて、晩方ばんがた武生驛たけふえき越前ゑちぜん)へとまつたのです。ひて一町場ひとちやうばぐらゐは前進ぜんしん出來できないことはない。
雪霊続記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
すると博士は、怒ったような顔になって、しばらくうなっていたが、やがていて自分の気分をほぐすように、広い額をとんとんと叩き
人造人間の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そのあひだうか牡蠣舟かきぶね苔取のりとり小舟こぶねも今は唯ひて江戸の昔を追回つゐくわいしやうとする人のにのみいさゝかの風趣を覚えさせるばかりである。
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
これではいけない、と思う一方、木曾自身にも残った所員たちの気持がわかるような気もし、いて注意を与える気にもなれなかった。
宇宙爆撃 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
人にあまえるような愛、人にいるような愛、人を弱くしようとする愛、人をたかぶらせる愛、それらが私の生活になかったといえるか。
語られざる哲学 (新字新仮名) / 三木清(著)
後になってその話を悪友の一人にしたら「そうか、そんなに面白いものなら、いて禁止するまでのこともないだろう」と言った。
南画を描く話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
いましめてから私は平常の通り診察にかかったが、彼女は別にお見舞に行こうとする私をいて止めようとする気色も見せなかった。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
眉山はいて一葉の写真を手に入れたのちに、他から出たうわさのようにして、眉山一葉結婚云々と言触いいふらしたのでうとまれてしまった。
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「相談つて、別に、その必要ないと思うわ。そんなこと、母さんの勝手じやないの。でも、誰からもいられずにでなけれや、いやよ」
光は影を (新字新仮名) / 岸田国士(著)
いずれにしてもそう感ずることが、即ち若返りの徴でなくてはならない。鶴見はいてそう思ってみた。それがまた彼を力づけた。
「それでもまだ御相談が整わぬようでしたらこれ以上いてお願いもしたくありませんから、また脇の方を探すと申しております」
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
思い切りていえば、己を以て人をいしのみ、しこうして他をしてその強いらるるを覚えしめざるは、彼が血性と献身的精神とによるのみ。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
しかしこれが東京辺の風習だと親が息子に嫁をい付ける事もすくないけれども郷里くにの風では全く親の一量見で息子の嫁をめるのだ。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
それ以上いもしなかったが、庸三はそれを機会きっかけに、逗子事件のその後の進展について知りたいような好奇心もいくらかそそられた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
我強がづよくも貫一のなほものいはんとはせざるに、やうやこらへかねたる鴫沢の翁はやにはに椅子を起ちて、ひてもその顔見んと歩み寄れり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
さあそこでそのころは、牛でも馬でも、もうみんな、殺される前の日には、主人から無理にいられて、証文にペタリと印をしたもんだ。
フランドン農学校の豚 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
いてその醜さを見ようとする者は、茶室の床の間へ百燭光の電燈を向けるのと同じく、そこにある美をみずから追い遣ってしまうのである。
陰翳礼讃 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そんな兵隊の並んだやうな町は美しくは無い、ひて西洋風にしたいなら、むしろ反対に軒の高さどころか、あらゆる建築の様式を
妄想 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
かはつた土地で知るものは無し、ひて是方こちらから言ふ必要もなし、といつたやうな訳で、しまひには慣れて、少年の丑松は一番早く昔を忘れた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
いて手向かいすれば斬ってしまえと、父からかねて云い付けられているので、長三郎は一寸も退かなかった。彼は迫るように又訊いた。
半七捕物帳:69 白蝶怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
此御歌は人のひたる物ほしみして身を亡すにたとへたまへるにや。此皇子の御歌にはさる心なるも又見ゆ。大友大津の皇子たちの御事などを
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
同時に、私は、今日の私の言葉が、君らを強制して、盲従もうじゅういるような結果にならないことを、心からいのらずにはいられない。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
アンドレイ、エヒミチはひてこゝろ落着おちつけて、なんの、つきも、監獄かんごくれが奈何どうなのだ、壯健さうけんもの勳章くんしやうけてゐるではないか。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
そして或る他の別な詩人等は、いて言語に拳骨げんこつを入れ、田舎いなか政治家の演説みたいに、粗野ながさつな音声で呶鳴どなり立てている。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
断ればなお付け込んでいるものですからてやりましたが、もうその辺ではセラのお医者ということは非常な名声になって居りまして
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
しかかれ自分じぶんからはなはだしくいつゝあるらしいのをこゝろたしかめてひては追求つゐきうしようといふ念慮ねんりよおこなかつた。勘次かんじたゞ不便ふびんえた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
いて説明を附けようとすれば、ドストエフスキイの悪霊あくりょうの主人公であるところのスタブローギンのある行動の話を持ち出さねばなるまい。
厨房日記 (新字新仮名) / 横光利一(著)
律義者りちぎものの主翁はじぶんの家の客を恐ろしい処へやって、もし万一のことがあっては旅籠はたごとしてのきずにもなると思ったのでいて止めようとした。
山寺の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
楽とアクシヨンとは、到底整合を求むべきものにあらず。いて之を求むれば、劇を変じて舞蹈となすべきのみ。我劇は往々にして、此弊に陥れり。
劇詩の前途如何 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
が、早くも少女時代に飛び出して結婚している。もちろん、相手は貴族でもなんでもない。いていえば、兵営の貴族だった。
戦雲を駆る女怪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
神は光明の道を以て世界を造りかつ導き給う、しかるにいて心中の懐疑を以てその道を暗くするものは誰ぞというのである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
「否、立派な健康体です。いて名をつければ仮病けびょうですな。これは学生時代からの痼疾こしつだから、もう快癒かいゆの見込はありません」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
一つの曲目が終わって皆が拍手をするとき私は癖で大抵の場合じっとしているのだったが、この夜はことにいられたように凝然としていた。
器楽的幻覚 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
痛々しいやうな氣がして親達も祝言もひられず、いづれ來年にでもなつたらと、彦太郎夫婦はそれをもどかしく樂しく眺めてゐるのでした。
立上るや否やその身体つきには何かたゝかなごついものが現れ、稍前屈みに、それと共に前方を見据ゑるやうな恰好になつて帰つて行つた。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
それをもいて振り落して全く新しい天地を見出そうとつとめているのである。その努力の効果は決してあだでない事は最近の作品が証明している。
母もおぼつかない挨拶だと思うような顔つきをしていたがさすがになおいてとも言いかね、やがてややかたぶいた月を見て
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)