)” の例文
机が二つ九十度の角を形づくるように据えて、その前に座布団がいてある。そこへ据わって、マッチを擦って、朝日を一本飲む。
あそび (新字新仮名) / 森鴎外(著)
下には黄金色きんいろをしたかわらいてすこしの塵もなかった。老嫗は青年を伴れて遊廊かいろうを通って往った。遊廊の欄干も皆宝石であった。
賈后と小吏 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
汝もし信ぜずば今夜新しい葉をむしろの下にいて、別々に臥して見よ、明朝に至り汝の榻下とうかの葉は実するも、鬼の臥所ふしどの葉はむなしかるべしと言うて別れ出た。
水に強いと云うかつらわたり二尺余のりぬき、鉄板てっぱんそこき、其上に踏板ふみいたを渡したもので、こんな簡易かんい贅沢ぜいたくな風呂には、北海道でなければ滅多めったに入られぬ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
石で床をきつめたその不気味な広いへやは、息窒いきづまるような沈黙でおしつけられていた。屍体のそばには、今までそれを包んでいたらしい、血痕の附着した敷布があった。
青蠅 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
梅のほかには一木いちぼく無く、処々ところどころの乱石の低くよこたはるのみにて、地はたひらかせんきたるやうの芝生しばふの園のうちを、玉の砕けてほとばしり、ねりぎぬの裂けてひるがへる如き早瀬の流ありて横さまに貫けり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
待合の建物があまり瀟洒しょうしゃでもなく、雰囲気ふんいきも清潔でないので、最初石畳のき詰まった横町などへ入ってみた時には、どこも鼻のつかえるようなせせっこましさで少し小綺麗こぎれいうちはまた
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
二重瞼ふたえまぶたに寄る波は、寄りてはくずれ、崩れては寄り、黒いひとみを、見よがしにもてあそぶ。しげき若葉をる日影の、錯落さくらくと大地にくを、風は枝頭しとううごかして、ちらつくこけの定かならぬようである。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
こう思って暫くたたずんで居ると、やがて吾妻橋の方の暗闇くらやみから、赤い提灯ちょうちんの火が一つ動き出して、がらがらがらと街鉄がいてつき石の上を駛走しそうして来た旧式な相乗りのくるまがぴたりと私の前で止まった。
秘密 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その間おもな部分には皆石がいてあった。
赤帽が縦側の左の腰掛の真ん中へ革包を置いて、荒い格子縞の駱駝らくだ膝掛ひざかけそばいた。洋服の男は外へ出た。大村が横側のうしろに腰掛けたので、純一も並んで腰を掛けた。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
乾坤けんこんの白きに漂ひて華麗はなやかに差出でたる日影は、みなぎるばかりに暖き光をきて終日ひねもす輝きければ、七分の雪はその日に解けて、はや翌日は往来ゆきき妨碍さまたげもあらず、処々ところどころ泥濘ぬかるみは打続く快晴のそらさらされて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
退紅色の粗いかたの布団を掛けた置炬燵おきごたつを脇へ押し遣って、きりの円火鉢の火を掻き起して、座敷の真ん中にいてある、お嬢様の据わりそうな、紫縮緬むらさきちりめんの座布団の前に出した。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)