)” の例文
わたくしはたれの紹介をも求めずに往ったのに、飯田さんはこころよ引見いんけんして、わたくしの問に答えた。飯田さんは渋江道純どうじゅんっていた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
一撃に敵を打ち倒すことには何の痛痒つうようも感じない代りに、らずらず友人を傷つけることには児女に似た恐怖を感ずるものである。
侏儒の言葉 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
身体の中へ打ちこんだ角度が判ると、どの方角から発射したかがれるんですが、御存知ごぞんじですか。殺されたお嬢さんは、心臓の真上を
省線電車の射撃手 (新字新仮名) / 海野十三(著)
政宗も秀吉を、いやなところも無いでは無いが素晴らしい男だ、と思ったに疑無い。人をるは一面に在り、酒を品するは只三杯だ。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ちょっとでもった顔とわかって、恥ずかしさが先にたつ若いふたりがどぎまぎすると、かえって男のほうが気の毒そうにあわてて
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
これはその鼻の野心満々たる表現が、らず識らずの裡に民衆の反感を買っていたのではないかと想像する事が出来るのであります。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
かくて海辺かいへんにとどまること一月ひとつき、一月の間に言葉かわすほどの人りしは片手にて数うるにも足らず。そのおもなる一人は宿の主人あるじなり。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
または元値もとねを損して安物を売る等、様々さまざまの手段を用いてこれに近づくときは、役人は知らずらずして賄賂わいろの甘きわなおちいらざるを得ず。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
こんな話があります。僕はある銀行家をっています。もう古手の事務家ですがね、これが小説を書くという天稟を持っているのです。
今は「四十年前少壮の時、功名いささひそかに期する有り。老来らず干戈かんかの事、ただる春風桃李のさかずき」と独語せしむるに到りぬ。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
知らずらずわたしははみ出されたようなことになってしまった——どうも仕方がない、もう少し、よそを歩いて、また来てみましょう
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
私はいつか知らずらずに、それらの白い小さな花のように何処へともなく私から去っていった少女たちのことを思い出していた。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
イッソ私は、私をよくってくれている日本植物研究者のマキシモヴィッチ氏の許に行かんと企て、これを露国の同氏に紹介した。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
杉野子爵の長男直也なおやは、父に似ぬ立派な青年だった。音楽会で知り合ってから、瑠璃子は知らずらずその人にき付けられて行った。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
だが、それは斎入が物をらないからで、徳川時代の洒落者の多かつた江戸町人の墓石はかいしには、故人が好物の形に似せた墓も少くなかつた。
身体検査にその女の身内熱きか否かをる法あり、大盥おおだらいに水の冷たいのを入れてその中に坐せしむると吸い込む故、それだけ水面が降る。
知らずらずの間に心持を相続していたような痕跡こんせきがありますが、これから亡びるものは永久に、また根こそげなくなるのです。
うねえ、もすこおほきくなりたいの、らずらずのうちに』とつてあいちやんは、『三ずんばかりぢや見窄みすぼらしくッて不可いけないわ』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
母は二度ばかりもお玉ヶ池へたずねて行ったが、主人の其月はいつも留守であったので、一体どんな人であるか、その顔さえも見らない。
半七捕物帳:36 冬の金魚 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
だがそれと同時に、いや寧ろそれよりさきに、わが日本の国史をり、われわれの先祖の事蹟からまなぶべきではないか、そう思ったのです
菊屋敷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
この歌の稍主観的な語は、「わが欲りし」と、「底ふかき」とであって、知らずらずあい対しているのだが、それが毫も目立っていない。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
彼は楯と弓とを投げ捨てて父の傍へった。彼は父の死の理由のすべてをった。彼は血潮の中に落ちている父の耳を見た。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
武内たけのうちつたのは、新著百種しんちよひやくしゆ挿絵さしゑたのみに行つたのがゑんで、ひど懇意こんいつてしまつたが、其始そのはじめより人物にれたので
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
汝等の才にむかひてはかくして語らざるをえず、そは汝等の才は、のち智に照らすにいたる物をもたゞ官能の作用はたらきによりてればなり 四〇—四二
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
氏『さあ、困りましたな。私もべつにっているわけではなし、公式に面会を申込んだって、勿論そりゃあ全然駄目にきまってますし——。』
踊る地平線:04 虹を渡る日 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
その結果はらずらず恐ろしき罪をも犯すに至るのである。ヨブは二十七節において、三友のオルソドクシーの恐ろしさを説いたのである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
清岡が君江をったのは君江が始めて下谷したやいけはたのサロン、ラックという酒場の女給になったその第一日の晩からであった。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そして三十九歳の時、初めて朝倉家で細川藤孝(幽斎)とり、四十一歳の時、初めて織田信長に会ってそれに仕えることになったのである。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
にんじんは、相手の人物をっていた。こんな生優なまやさしいことでは、びくともしない。なんでも来いと覚悟をしているからだ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
丘の突角は次第に左の方へ遠退とおのいて行って、私は知らずらずの間に、ほとんど不意に林の中から渺茫びょうぼうたる海の前景のほとりに立たされてしまった。
母を恋うる記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
青木は酔っていたものだから、知らずらず相手の調子に乗せられて、彼の身の上を語っていたが、流石さすがにふと気づいて、変な顔をして尋ねた。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
天然を講究する人一草一木のを知り、人事を観察する人一些事一微物の真面目しんめんぼくり、人間心中間一髪かんいっぱつの動機を観る者は絶無にして僅有きんゆうなり。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
それから馬場が音楽学校の或る先輩に紹介されてった太宰治とかいうわかい作家と、三人であなたの下宿をたずねることになっているのですよ。
ダス・ゲマイネ (新字新仮名) / 太宰治(著)
客観写生に熟練して来ると、知らずらず作者の個性が隠そうとしても隠すことが出来なくなり、その鋭鋒えいほうが客観描写という袋を突いて出て来る。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
相手は全く見ずらずの婦人ではあったが、日頃近い根岸の姪を通して先方さきの人となりや周囲の事情を知り得るという何よりの好い手掛りがあった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
彼は彼の作物がどんなものだかをおそらくらなかったろう。またそれらの品をかくも悦ぶ人たちがこの世にいることを夢にも思わなかったであろう。
思い出す職人 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
月下の美人生面せいめんにしてわが名をる。馭者たる者だれか驚かざらんや。渠は実にいまだかつて信ぜざりし狐狸こりの類にはあらずや、と心はじめて惑いぬ。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しからば夢はまた吾人ごじんの平素らず識らずに思う心のかがみと称してもよかろう。かく考えると、睡眠すいみんを利用して修養の用に供することができそうである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
こんなことを少し物をった女である夫人は見苦しがって、冷淡に見ていることで守は腹をたてて、わしの秘蔵子をほかの娘ほどに愛さないとよく恨んだ。
源氏物語:52 東屋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
また先生のおしえしたがいて赤十字社病院にいりたる後も、先生来問らいもんありてるところの医官いかんに談じ特に予が事をたくせられたるを以て、一方ひとかたならず便宜べんぎを得たり。
らず、この語まことしかるや。孟子曰く、否、これ君子の言に非ず、斉東の野人の語なり。ぎょう老いてしゅんせつせるなり。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
隣の新入生は、いかにも物り顔に答えた。次郎は、なぜかいやな気がして、それっきりうつむいてばかりいた。
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
これが恐らくは、母の膝に乗り腕に抱かれていても、なお人生には不安のあることをったはじめであったろう。
かれ、太素は杳冥えうめいたれども、本つ教に因りてくにはらみ島を産みたまひし時をり、元始は綿邈めんばくたれども、先の聖にりて神を生み人を立てたまひし世をあきらかにす。
生活に打ち込まれた一本のくさびがどんなところにまでひずみを及ぼして行っているか、彼はそれに行き当るたびに、内面的に汚れている自分をってゆくのだった。
ある心の風景 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
万善ばんぜんを期するため、たがいにらない密偵部員が二人、めいめい自分だけと思って、見え隠れについていく。
戦雲を駆る女怪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
女も笑って生き残っている若々しさの仲間なので、その同類相求める心持ちが、知らずらず発動して、さっきのように唱歌会員の二人を見送ったのである。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
みずかららずしてやはり宗教的だったので、アーダの申し出を不敬なことだと思わずにはいられなかった。
と云いながら思わずらず縁台から下へ落ち、大地に両手を突いてパラ/\/\と涙を流しまするを見て
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
余初めて書を刊して、またいささか戒むるところあり。今や迂拙うせつの文を録し、恬然てんぜんとしてずることなし。警戒近きにあり。請う君これをれと。君笑って諾す。
将来の日本:02 序 (新字新仮名) / 田口卯吉(著)