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金と銀との花の盞から静かにこぼれ落ちる金と銀との花の芬香ふんかうは、大気の動きにつれて、音もなくあたりにとほり、また揺曳する。
水仙の幻想 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
繃帶ほうたいかわいてれば五六にちてゝいてもいが、液汁みづすやうならば明日あすにもすぐるやうにと醫者いしやはいつたのであるが
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
江戸木板画の悲しき色彩が、全く時間の懸隔けんかくなく深くわが胸底きょうていみ入りて常に親密なるささやきを伝ふる所以ゆえんけだし偶然にあらざるべし。
浮世絵の鑑賞 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
前の年よりも一しお厳しい、一しお身にみる寒さが、絶えず彼女を悩ました。彼女は寒さにふるえる手を燃えさかる焔にかざした。
初雪 (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
これが石油を襤褸ぼろまして、火を着けて、下からほうげたところですと、市川君はわざわざくずれた土饅頭どまんじゅうの上まで降りて来た。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その時代にはあらゆる欠陥を持ちながらも、その蔭に一種の美しさをたたえた感情が、日本国民の中に、広くみわたっていた。
日本のこころ (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
木の幹がその特殊な皮はだをこれ見よがしに葉漏りの日の光にさらして、その古い傷口からは酒のような樹液がじんわりとみ出ていた。
フランセスの顔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
小径の途中の土の層から大溝のみ水がれ出て、音もなく平に、プールの葭簾をで落し、金網かなあみを大口にぱくりと開けてしまっている。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
青眼先生は仕方なしに、薬籠の中から油薬を出して、繃帯一面にませて、こうやっておけばすぐに痛くないように繃帯が取れるであろう。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
と、市川義平太は、役宅の裏玄関まで——長い暗い大廊下を幾曲りもする間——唇にみるからい涙に顔をしかめながら夢中で駈けて来た。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
往来ゆききの人もまれであった。向うの産科病院の門、珈琲店コーヒーてん、それから柳博士や千村教授がしばらく泊っていた旅館の窓、何もかも眼にみた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
余は一個の浮浪ふろう書生しょせい、筆一本あれば、住居は天幕てんまくでもむ自由の身である。それでさえねぐらはなれた小鳥の悲哀かなしみは、其時ヒシと身にみた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
縁側に腰かけて、ジャピイの頭をでてやりながら、目にみる青葉を見ていると、情なくなって、つちの上に坐りたいような気持になった。
女生徒 (新字新仮名) / 太宰治(著)
この裂には石の粉と、あの人の汗とがみ込んでいるのですよ。あの人が、この裂の仕事着で、どんなに固く私を抱いて呉れたことでしょう。
セメント樽の中の手紙 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
と、その液体の匂いであろうかそれとも鉢の花の匂いであろうか、こころよ牛蒡ごぼうにおいのような匂が脳にとおるように感じた。
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
だが、塊の眞中まんなか程に知覺のある點があつたり、まだ、一二ヶ所位は物のみ透る隙間もあるんですがね。さう、それでまだ望みがありますかね。
もっともこのかみ合わせがかなりぎしぎしときしるので、その減摩油としては行燈あんどんのともし油を綿切れにませて時々急所急所に塗りつけていた。
糸車 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
初夏とは云っても、おくれた梅雨つゆの、湿しめりがトップリ、長坂塀ながいたべいみこんで、そこを毎日通っている工場街の人々の心を、いよいよ重くして行った。
夜泣き鉄骨 (新字新仮名) / 海野十三(著)
父の死後便たよりのない母親の辛苦心労を見るに付け聞くに付け、小供心にも心細くもまた悲しく、始めて浮世の塩が身にみて、夢の覚たような心地。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
森の中からはオーケストラベルやジロフォンにまじって何とも云えずきれいな音いろが、とけるようにみるように風につれて流れて来るのでした。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
玉江嬢は料理法を習うに熱心なり「鮎のすしはどうしてこしらえます」お登和嬢「あれは鮎を開いて骨を抜いて塩を当てて塩がみたら上等の酢へ漬けて二、 ...
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
何ものかが次第にんでくるようにも思われ、また何ものかが生れ出ようとして悩んでいるようにも思われる。抱いた夢はひなえさねばならない。
夫人の身体をおおうている金紗縮緬きんしゃちりめんのいじりかゆいような触感が、衣服きもの越しに、彼の身体にみるように感ぜられた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
手につばをつけてその上をこするとよく消えましたから、わたしはさっそく手拭てぬぐいに湯をませてお腹の上に描かれたメデューサの首を拭い取ってしまいました。
メデューサの首 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
りょう一は、いえかえると、友吉ともきちからもらった草花くさばなはちえて、如露じょろみずをやりました。きよらかなしずくがあいだつたって、したくろつちなかみていきます。
僕が大きくなるまで (新字新仮名) / 小川未明(著)
昔は美しくもあつたでせうが、世帶の苦勞が骨のずゐまでみ込んで、薄汚なく女盛りを過した中年女は、平次に取つても決して樂しい相手ではありません。
雨のみこむ土の下に、土葬をしたゆき子の、あの時のおもかげが、富岡の胸に焼きついてゐるのだ。それにしても、あの強い、一つの生命は、ほろびた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
婬鬼の迷信は中古まで欧州で深く人心にみ込み、碩学高僧真面目にこれをふせぐ法を論ぜしもの少なからず。
これで見ると、夜の明けて後の事がどの様だろうと、恐れと絶望とが益々深く人心にみ込むは是非も無い。
暗黒星 (新字新仮名) / シモン・ニューコム(著)
女を買うということが、こんなにも暗く彼の生活へ、夢に出るまで、み込んで来たのかと喬は思った。現実の生活にあっても、彼が女の児の相手になっている。
ある心の風景 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
朝とは云え五月末の太陽、八時になると相当に暑い、四人ながら汗にんでいる。どーん、と太鼓の音
相馬の仇討 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
ぼつぼつ疲れかげんになってきたはぎのあたりへ、ズボンをとおして、ひやりとしたものがみ込んでくる。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
「まあ眉間から血が出て。」と懐紙ふところがみにて押拭おしぬぐう、優しさと深切が骨身にみこむ、鉄はぶるぶる。「もう、可うございます。いえもう何ともありません。」と後退あとずさり
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
み入らずにはおかなかった異種文明の勢力の大きさの、想像に絶したものがあることが考えられる。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
モニカは雨水をきれませて菊丸の口の中へ絞りこみ、どこかに生きているしるしがないかと、じっと顔をながめていたが、もう生きかえるあてがないことがわかると
呂宋の壺 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
最も人にみ入る情趣をもつところで、日光や中禪寺の人々が「よろこびの花」といふよしの躑躅花(この花が咲けばやがて多くの遊覽者が入込んで土地がにぎやかに潤ふ)
華厳滝 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
御者ぎよしや鼻唄はなうたばし途断とぎれて、馬のに鳴る革鞭むちの響、身にみぬ、吉田行なるうしろなる車に、先きの程より対座の客のおもて、其の容体ようだいいぶかしげにながめ入りたる白髪の老翁
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
われはその接吻の渾身こんしんの血にみ渡る心地して、あわたゞしく我手を引き退け、酒店の軒に馳せ入りぬ。
ごくめづらしいれいではありますが、あかつたものさへかけられるのであります。しかしかたはどれもやはらかいしつですから、みづれるとたいていはします。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
われ、かなしき心にその美酒うまざけみ渡る心地ならめ。二郎は歓然として笑いまた月を仰ぎぬ。
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
この男には「自分は不具者かたはもの、自分は普通の人間と肩を並べることが出来ぬ不具もの」といふ考が、小児こどもの中からその頭脳にみ込んで居て、何かすぐれた事でも為ようと思ふと
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
その痛さ加減というものは実に全身にみ渡ったです。そうすると娘が泣き出す。女房が泣き出す。一人の男がそれを押えるという始末で実に落花狼藉らっかろうぜきという有様に立ち至った。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
即ち墨液が網状をなしてみて、ある厚さの間に交わるが故に、自然に一種の深みと暖かみとを含むのである、表装をした上で、水墨の絵は三割程もその濃度を加えるというのは
水墨 (新字新仮名) / 小杉放庵(著)
そして新鮮なものは、新鮮なもののように、さっと煮て、他に少し濃く塩気をつけて、中はだしをまさないでそのものの持ち味と香気とが充分に出されるようでなければいけません。
しかしながら蕪村の場合は、侘びが生活の中からにじみ出し、ねぎの煮えるにおいのように、人里恋しい情緒の中にみ出している。なおこの「侘び」について、巻尾に詳しく説くであろう。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
ずらりと並んだ舞子たちが、キラキラと光った鉦をそろえてたたくのだ、チャンチキチン、コンコン、というのだ。これが馬鹿に華やかで気に入って、心の底へみ込んでしまったのであった。
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
さうでせう? あんなに華やかな色ばかりで画いてあつても、全体の気分には、丁度大理石そのもののつやのやうな寂しい心持が底を流れてゐるでせう? み出るやうだと言つてもいゝかな。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
その度に秋の涼しさは膚にむ様に思うて何ともいえぬよい心持であった。何だか苦痛極って暫く病気を感じないようなのも不思議に思われたので、文章に書いて見たくなって余は口で綴る。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
思ひ胸に迫りて、吁々あゝ太息といきに覺えず我れにかへりてかうべぐれば日はなかば西山せいざんに入りて、峰の松影色黒み、落葉おちばさそふ谷の嵐、夕ぐれ寒く身にみて、ばら/\と顏打つものは露か時雨しぐれか。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
心細さがしんから骨身にみとおってじっとしてはいられない心持である。扉にもガラスがはめてあって、今暮れかかろうとする庭土を低く這って、冷たいもやが流れているのが見えるのである。
(新字新仮名) / 島木健作(著)