“紫(し)” の例文
窃におもんみるに曾某は、もと一飲賭の無頼、市井の小人、一言の合、栄、聖眷(せいけん)を膺(う)け、父は紫(し)、児は朱(しゅ)、恩寵極まりなし。
続黄梁 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そこで、紫(し)たんざおの値をきいて、欲しそうになでてはいたが、それは買わないで、買ったのは蒔絵(まきえ)の爪箱(つめばこ)と、糸を七かけ。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
サルオガセがぶら下ったり、山葡萄(やまぶどう)が絡(から)んだり、其(それ)自身(じしん)針葉樹林の小模型(しょうもけい)とも見らるゝ、緑(りょく)、褐(かつ)、紫(し)、黄(おう)、さま/″\の蘚苔(こけ)をふわりと纏(まと)うて居るのもある。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎、徳冨蘆花(著)
紫(し)たんの角(かく)の茶盆の上には幾個の茶碗を俯伏(うつぶ)せて、菓子を装(も)りたる皿をも置けり。
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ただ詩人と画客(がかく)なるものあって、飽(あ)くまでこの待対(たいたい)世界の精華を嚼(か)んで、徹骨徹髄(てっこつてつずい)の清きを知る。霞(かすみ)を餐(さん)し、露を嚥(の)み、紫(し)を品(ひん)し、紅(こう)を評(ひょう)して、死に至って悔いぬ。彼らの楽は物に着(ちゃく)するのではない。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)