“は”のいろいろな漢字の書き方と例文
カタカナ:
語句割合
8.0%
穿7.3%
6.9%
4.5%
3.9%
3.8%
3.6%
3.3%
3.2%
3.1%
(他:4208)52.4%
(注)作品の中でふりがなが振られた語句のみを対象としているため一般的な用法や使用頻度とは異なる場合があります。
それがさ、一件じゃからたまらぬて、乗るとこうぐらぐらして柔かにずるずるといそうじゃから、わっというと引跨ひんまたいで腰をどさり。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
中洲の一番の端——中洲が再び水のなかに没し去らうとするその突端にからうじてひ上つたともいふやうな恰好で、取り附いてゐるのだつた。
赤蛙 (新字旧仮名) / 島木健作(著)
脳貧血のうひんけつを起した伝吉のやっと穴の外へい出した時には、もうただ芽をふいた桑の根がたに伝三の死骸しがいのあるばかりだった。
伝吉の敵打ち (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「色はどうでもね、お父さんが自分で染めてくれた靴なんか滅多めった穿けやしないよ。ありがたいと思って大事にして穿かなくっちゃいけない」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
何か工夫はあるまいかと十年間考えてようやく猿股さるまたを発明してすぐさまこれを穿いて、どうだ恐れ入ったろうと威張ってそこいらを歩いた。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
白髪しろが頭にふちの垂れた黒い帽をて紅い毛糸のぶくぶくした襯衣しやつに汚れた青黒い天鵞絨ビロウド洋袴パンタロン穿
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
生皮をあつかうのはむずかしい仕事であるが、伝吉は少しくその心得があるので、焚き火の前でどうにかこうにかその腹をいて其の皮をいだ。
半七捕物帳:29 熊の死骸 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
丁度旅から帰ってきた鴨下カオルと上原山治と一度会ったとき、不図ふと放った帆村の質問から、にせドクトルの仮面がげはじめたのである。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
お前は古い唐画たうぐわの桃の枝に、ぢつと止つてゐるがい。うつかり羽搏はばたきでもしようものなら、体の絵の具がげてしまふから。
動物園 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
私は彼等から仲間はずれにされないように、苦しげに煙草をふかし、まだひげえていないほおにこわごわ剃刀かみそりをあてたりした。
燃ゆる頬 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
むかしはそんなに樹木じゆもくえてゐたわけでなく、たいていそれらのつかうへには、まる磧石かはらいしせて
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
すると女神めがみ出石川いずしがわの中のしまえていた青竹あおだけってて、目のあらいかごをこしらえました。
春山秋山 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
今日は陰気いんききりがジメジメっています。木も草もじっとだまみました。ぶなの木さえをちらっとも動かしません。
貝の火 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
村の方ではまだ騒いで居ると見えて、折々人声は聞えるけれど、此の四辺あたりはひつそりと沈まり返つて、そよぐ音すら聞えぬ。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
なかにはわすれたやうな、植棄うゑすてたかとおもふ、なんよくのないのさへえて、いつくしくしづかな
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
森林の王鬼王丸が眷族けんぞくひきいて出陣したと早くも聞き伝えた妖精どもが谷々峰々から数を尽くし味方しようとせ加わったのである。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「やよ、右馬介。帰ろう。帰ろうっ。どうやら北の国で戦乱が起ったらしいぞ。遍歴などはしておられぬ。すぐ東国下野しもつけせ戻ろうわい」
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「はっ。……申しおくれました。実は、大御所家康公おおごしょいえやすこうの御一書をたずさえて、小山おやまの陣中からせ参りました」
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その若者は彼と同じ市松の倭衣しずりを着ていたが、くびに懸けた勾玉まがたまや腕にめたくしろなどは、誰よりも精巧な物であった。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
なお、右側の壁だけには、金魚槽の上が深く引込んで横に細長い棚のようになっており、その中によく磨かれたプロペラのようなものがまっていた。
千早館の迷路 (新字新仮名) / 海野十三(著)
次には同じようにして吸口すいくちの方をめ込み叩き込むのであるが、これを太鼓のばちのように振り廻す手付きがなかなか面白い見物であった。
喫煙四十年 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
写真帖には肺病で死んだ、美しい夫人の小照が幾枚となくりこまれてあり、彼にとっては寸時もそばを離すことのできない愛妻の記念であった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
かと思えば、桶屋おけやの息子の、竹を削って大桝形おおますがたに組みながら、せっせと小僧に手伝わして、しきりに紙をっているのがある。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
代助が軒燈けんとうしたて立ちまるたびに、守宮やもりが軒燈の硝子がらすにぴたりと身体からだり付けてゐた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
鳥のようにびらりとねたわ、海の中へ、飛込むでねえ——真白まっしろな波のかさなりかさなり崩れて来る、大きな山へ——駈上かけあがるだ。
海異記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そしてもう声なきあけまみれなものを、うるさそうに、片足からね捨てると、柳の多い河ぎしの暗がりへ向って、脱兎のごとく駈け出していた。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これより先地中海の大神ポセイドン、馬や鳥の形に化けて醜女怪メズサを孕ませ、勇士ペルセウスがメの首をねた鮮血より飛馬ペガソス生まれた。
私だからこそ、これに菓子を与え、おかゆを作り、荒い言葉一つかけるではなし、れものにさわるように鄭重ていちょうにもてなしてあげたのだ。
それを考えつめたので、頭は充血しているし、顔はれぼったい。営倉の空から、一晩じゅう、海峡の冷たい風が、針をもつように、吹き落ちてくる。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
僕はそれをつぶして臓腑ざうふをかぶれかかつてゐる腕になすりつけたけれども、赤くれて汁の出て来たところは今度は結痂けつかして行つた。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
それは一切の弱々しいもの、柔軟のもの、骨組みのぐにゃぐにゃしたもの、女らしく繊弱なものをね飛ばすところの、男性的ストアの美を要求する。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
眼を開くと、われながら驚いたくらい、自分の身内に突然ある異常な精力の汪溢おういつするのを感じて、いちはやくね起きて着換えを済ました。
お友達のなかでいちばん背の高いあなたが、子供のようにねてゆくところを、ぼくは、拍子抜ひょうしぬけしたように、ぽかんと眺めていたのです。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
哀れなボースンよ! 年は寄ってるし、子供は多いし、暮らしは苦しいし、かかあは病気だし、この憶病な禿げのおさんに従うことに皆決めた。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
こまだけであろう頂上の禿げた大きな山の姿が頭の上にあった。その山のいただきの処には蒼白あおじろい雲が流れていた。
竈の中の顔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
てっぺんの禿げた頭のまわりも、短くて太い、ブラッシのような疎毛そもうおおわれていて、太陽の下ではその一本ずつがきらきらと光った。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
胸襟きようきんすなははるひらけて臆病とみえむと思へど、無形の猿轡さるぐつわまされて腹のふくるゝ苦しさよ
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
なるほどこの円柱は廻転するらしく、あわがあった。そして根元に近く、黄色い皮服と、変な形の左足の靴とがピョンとみだしていた。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
たちは長い間、汽車にられて退屈たいくつしていた、母は、私がバナナをんでいる傍で経文をしながら、なみだしていた。
風琴と魚の町 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
穂積中佐は返事をせずに、頭の上の空を見上げた。空には柳の枝のあいだに、細い雲母雲きららぐもが吹かれていた。中佐はほっと息をいた。
将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
かかとの堅きたたきに薄寒く響いたとき、黒きものは、黒き咽喉のどから火のをぱっといて、暗い国へごうと去った。
京に着ける夕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そこである日妻を無理に大連の郊外に連れ出しました。誰も居ない川原かわらです。種々と妻を詰問しましたが、如何どうしても実をきません。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
後に負へる松杉の緑はうららかれたる空をしてそのいただきあたりてものうげにかかれる雲はねむるに似たり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
これでお気弱な後深草の長い鬱積もいッぺんにれたわけだ。しかしこうなると、また、お人のいい帝には、お人のいいための欠陥が出ざるをえない。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし、その季節以外は時偶ときたまれて、Rim-bo-ch'eリム・ボー・チェ(紅蓮峰)ほか外輪四山の山巓さんてんだけが、ちらっと見えることがある。
人外魔境:03 天母峰 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
眉は迫った、すすき尾花の山のは、おおきないのししの横に寝たさまに似た、その猪の鼻と言おう、中空なかぞら抽出ぬきんで
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
日影なおあぶずりのゆたうころ、川口の浅瀬を村の若者二人、はだか馬にまたがりて静かにあゆます、画めきたるを見ることもあり。
たき火 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
近くきくと騒々そうぞうしい唄のこえも、遠くとおく流れて来るとなんだか寂しい哀れな思いを誘い出されて、お時は暮れかかる軒のを仰いだ。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
……ひとみ水晶すゐしやうつたやうで、薄煙うすけむりしつとほして透通すきとほるばかり、つき射添さしそ
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「もう一ぺんってごらん。」とおかあさんがった。「そして返事へんじをしなかったら、横面よこッつらっておやり。」
「塾の中だけのむずかしさなら、かえってりあいがあって楽しみですけれど、外からいろいろ干渉かんしょうされたりするのは、いやですわね。」
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
それをめぐって、十本あまりの、抜きつれた刃が、低く低く、地をって来る毒蛇の舌のように、チラチラと、ひらめきながら、一瞬一瞬、迫って来る。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
取り亂した化粧部屋にはただひとり三歳みつつ四歳よつつの私が𢌞まはりながら何ものかを探すやうにいらいらと氣をあせつてゐた。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
それが、すべてのものをよみがへらす春に蘇つて、この孤兒院こじゐんひ込み、ぎつしり詰つてゐる教室と寄宿舍にチブスを吹きこんだ。
客——でもないが、鍛冶屋富五郎が来ているあいだに、ちょっと家のまえの往来でもいておこうと、喜左衛門の女房はほうきを持って表へ出た。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
おおいなる門を入りて、赤土あかつちの色きれいにきたる一条ひとすじの道長き、右左、石燈籠いしどうろう石榴ざくろの樹の小さきと
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
貝塚かいづか即ち石器せきき時代人民のめより宗教上しうけふじやうの物を發見はつけんすとは如何にも誠しからず聞こゆべしと雖も
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
くもったりれたりするそらのぼったり下ったりするおか、緑が茂って、小麦がれて、余の今の周囲も其時にて居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
すると晩方ばんがたそられて、かなたにはなつ赤銅色しゃくどういろくもがもくもくと、あたまをそろえていました。
遠くで鳴る雷 (新字新仮名) / 小川未明(著)
これはちょうど、あかまみれのきたな着物きものを、きゅうににきせかえられたように、奇妙きみょうなぐあいでありました。
花のき村と盗人たち (新字新仮名) / 新美南吉(著)
種吉は、娘の頼みをねつけるというわけではないが、別れる気の先方へ行って下手へたに顔見られたら、どんな目で見られるかも知れぬと断った。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
「それに、血のねやうも少いぢやないか。障子越しに人間を突いたら、こんなことぢやあるまい——これぢやまるで後で血をなすつたやうなものだ」
別れの座なりを二つ三つ交わした後上り口まで行った助五郎は、ずかずかと引っ返して来て、何を思ったものか矢庭にお神棚の下の風呂敷をね退けた。
助五郎余罪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
そこでわたしたちもまたなつかしい冬の休息所を見捨みすてて、またもやれない漂泊ひょうはくの旅に出て行かなければならなかった。
坊主ばうずてるよりは余程よほどましぢやと、思切おもひきつてもどらうとして、いしはなれておこした
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
つかてて、みはりながらも、すぐそれなりにうと/\する。呼吸いきを、ともしびはるゝやうにえる。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
列車の速力がダンダンゆるくなって来て、蒼白いのや黄色いのや、色々の光線が窓硝子ガラスすべった。やがて窓の外を大きな声が、
人間レコード (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そうして自身は制服のままお台場の突角とっかくに立って海上を見渡していると、やや暫くしてから足下の石垣をゾロゾロい登って来る者が居る。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
村田の指さすのを見ると、その納屋の二階の薄暗い片隅に、大型トランク位の鉄製の箱が置かれ、むき出しの天井をっている配電線に結ばれていた。
睡魔 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
水鳥みづどりかもいろ青馬あをうま今日けふひとはかぎりしといふ 〔巻二十・四四九四〕 大伴家持
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
神変夢想流のたか使い——鷹の翼を撃つがごとく、左右を一気に払って間髪かんぱつを入れない栄三郎、もはや今は近よる者もないと見て、
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
と答へて去る。山風やまかぜさつとおろして、の白き鳥またちおりつ。黒きたらいのふちに乗りてづくろひして静まりぬ。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
むすめは、おおきくなりましたけれど、姿すがたわっているので、ずかしがってかおそとしませんでした。
赤いろうそくと人魚 (新字新仮名) / 小川未明(著)
おばあさんのかげかくれて、子供こどもみみまでにしながら、だまって、ずかしがっていました。
角笛吹く子 (新字新仮名) / 小川未明(著)
はや温泉場おんせんばへいって、病気びょうきをなおしてからはたらくということをかんがえると、ずかしいのもわすれて
石をのせた車 (新字新仮名) / 小川未明(著)
仙台の殿様が伽羅きゃらの下駄をいたという時代、はるかへだたっては天保年間のお女郎は、下駄へ行火あんかを仕掛けたと言う時代です。
時代のついた古い洋服——それもフロックがあるかと思えば背広があり、そうかと思うと中年の婦人のつけるスカートをモーニングの下にいています。
崩れる鬼影 (新字新仮名) / 海野十三(著)
フロツクコートに黒の山高帽子やまたかばうしいただき、玉柄ぎよくえのステツキをたづさへ、仏蘭西製ふらんすせいくつ
七福神詣 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
胸に「アア、これは、大変なことをしてしまった」という思いが一杯になって、自分の所業をずかしく感じ、あなへも入りたく思ったのである。
しかるに君が既に千金をてて贋品をっているということになると、君は知らなくても自分は心にじぬという訳にはゆかぬではないか。
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
自分はしかし今はその尊敬すべき学者がそうしないではいられなかった事情を察することができて、自分の大人気なかったことをむしろじている。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
飯も赤ん坊の茶碗ちゃわんほどなのに、手甲盛てこもりやおかわりの二杯以上は許されず、それからみ出せば、お神の横目が冷たくにらみ、
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「遠くは近江おうみの佐々木が一族と聞いておりますなれど、室町殿滅亡後、母方の里へひそみました由で、吉川家のろくんでおりませぬ」
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大き過ぎる袋で稍始末が悪く、半分以上ポケツトからみ出してゐたとは云へ、余程わたしは夢中になつて蝶々を追ひかけてゐたに違ひなかつたのだ。
或るハイカーの記 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
彼のおもて嬉々きゝと輝きつ、ひげの氷打ち払ひて、雪をつて小児こどもの如くせぬ、伯母の家はの山角の陰に在るなり、
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
そこで彼等は、遠慮心も、好奇心も打忘れて、バラバラと例の木蓮の枝のところまでせ寄ったが、そのうちの一人が、その瞬間に神尾の姿を見て、
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そうして写生文の方には初めは俳句の側のものばかりであったが、中頃から和歌の側のものもせ参じてあたかも両者が半分位ずつの割合となった。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
さつきは雨脚あめあししげくつて、宛然まるで薄墨うすゞみいたやう、堤防どてだの、石垣いしがきだの、蛇籠じやかごだの
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
セエラの顔にはさっとべにかれました。青鼠色あおねずみいろの眼には、たった今、大好きなお友達を認めたというような表情が浮びました。
長刃、低く横ざまにいて来て、さながら鋼白色こうはくしょく大扇たいせん末広形すえひろがたの板のごとくに、右近の手に一過した。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)