)” の例文
雪の上をって道の方へ出てくると見えたが、その瞬間、ぶるっとふるえたかと思うと、かき消すように、その姿は消えうせたという。
雪魔 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
「税金がまた穴ん中にあの方を突き墜したことになるのね。やっとい上ったところを、頭から無理やりに突き戻して了ったのね。」
蜜のあわれ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
母はお常婆を追ひ返すと、ばた/\走つて来て私の肩を小突き、凄い青筋をむく/\はせ眼を血走らせて、さも憎々しげに罵つた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
獣とも人間ともわからない姿と声で躍ったり、跳ねたり、転がりまわり、いまわり、笑いまわり、泣きまわってお出でになりました。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
わざと岩をぐらつかせたりして、みんなをはら/\させながら、静かにつていつて、やがて、ぱつと金の猫にとびつきました。
金の猫の鬼 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
きながら、雛鳥ひなしてきました。それはばかにおおきくて、ぶきりょうでした。母鳥ははどりはじっとそのつめていましたが、突然とつぜん
三窓でわずか許りの記載をしていた為に一行に遅れていた私は、石滝を横切ると猶予なく其斜面に噛り付いて、遮二無二い登ろうとしたが
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
私は文字通り、有毒虫の流れの中に立っていた。彼等は吃驚びっくりした蜘蛛くもがするように、洞窟の壁をい上り、そして天井からパラパラ落ちた。
血ぶくれになった蚯蚓みみずの胴のようなものが関節ごとに不恰好ぶかっこうにくびれ、ふやけた肉のかたまりとなっていずりまわっている。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
杭も朽ち横に渡した竹も大方は朽ちはてゝゐるのであるが、其處に生えた篠竹やその間にうてゐる蔓草のために辛うじて倒壞を免れてゐる。
庭さきの森の春 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
雨が降ってい出した時には、ちゃんと私を迎えにやって来る。二、三度、大儀そうにとんで、太股ふとももを地につけて止り、赤い眼を私に向ける。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
「出刃、出刃! 出刃を取ってくれ!」土間をいながら、叫んでいる。「浅川の野郎、何処へ行きゃがった。居ねえんだ。殺してやるんだ」
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
朝の光の中で園がそれを見返った時、荒くれてくろずんだその幹に千社札が一枚斜に貼りつけられてあって、その上を一匹の毛虫がっていた。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
大后の幸でませる故は、奴理能美がへる蟲、一度はふ蟲になり、一度はかひこになり、一度は飛ぶ鳥になりて、三くさかはあやしき蟲二七あり。
喬介はすぐ鉄蓋やねの上へい上った。——実際こんな処では、匐っていなければ墜ちてしまう——そして、その上の無数の跡に就いて調べ始めた。
気狂い機関車 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
この最後を待たぬものは全力を出して他の地方にって行き、そこで食物を得ようとするが、しかしその大部分は途上に斃れてしまうのである4
勝代は再び兄を呼んだが、返事がないので、寢床からひ出して襖を開けて更に呼んだ。「お父さんの机の上にある藥を取つて來て呉れんかな。」
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
ひま漏る風に手燭の火の揺れる時怪物のようなわが影は蚰蜒げじげじう畳の上から壁虎やもりのへばり付いた壁の上にうごめいている。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
村田の指さすのを見ると、その納屋の二階の薄暗い片隅に、大型トランク位の鉄製の箱が置かれ、むき出しの天井をっている配電線に結ばれていた。
睡魔 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
「白いものを着たものは木蔭へ隠れよ」という声に、皆はぞろぞろ藪の奥へって行く。陽は燦々さんさんと降りそそぎ藪の向うも、どうやら火が燃えている様子だ。
夏の花 (新字新仮名) / 原民喜(著)
貫一かんいつさん」とひ寄らんとするを、薄色魚子うすいろななこの羽織着て、夜会結やかいむすびたる後姿うしろすがたの女はをどかかつて引据ひきすうれば
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
あわれな声をだして、露ッぽい雑草の中からかまきりみたいに、ゴソゴソといだしてくる男がある。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
母親はそう言っているうちに、涙がじめじめと虫のようにい出して来て、言葉がげなくなった。
(新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
さてまた洞は岩畳み、鬼蔦おにづたあまたひつきたれど、ほとりにえのきの大樹あれば、そを目印めじるしに討入りたまへ
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
私はまだ雨戸を開ける力もなかったから、寝床から出て、飯を炊き、煮えて来るとまたい込む。
身体の蔭になって彼女の腕は静かに動く。とその手は卓子の上をう様にそろそろと進んで行く。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
「そんなら、子供のように、自分で覚えるまで四足でわせとけばいいんだ。しかし、二本の足でやろうと四足でやろうと、とにかく第一のことは、歩くということだ。」
一つの大きな熊の穴を見付けたチャラピタは、身につけてゐた一切のものをそこへ下ろし、ただ鉄砲と弾薬とだけをもつて、四つんばひに、穴の中へひ込んで行きました。
熊捕り競争 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
それが何であるか、人間か動物か、一目見では誰も分らなかつた。まるで四足よつあしひまはつてゐるやうに見えて、何か怪しい野獸やじうのやうに、引掻いたり唸つたりしてゐた。
そして最初に訪ねて来た時分の三百の煮え切らない、変に廻りくどく持ちかけて来る話を、幾らか馬鹿にした気持で、塀いっぱいにいのぼった朝顔を見い/\聴いていたのであった。
子をつれて (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
へば立て、立てば歩めと、我が年のつもるをも思はで育て上げし二十三年の親の辛苦、さては重代ぢゆうだい相恩さうおんの主君にも見換へんもの、世に有りと思ふ其方は、犬にも劣りしとは知らざるか。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
の脇差を帯して家を出て、丁度弘行寺の裏林へ掛りますと、富五郎がこそ/\ってくようですから、なぜかと思ってうしろを振り返える、とたんに出たのは安田一角、面部を深く包み
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
船がずつと湾の中へはいると、長崎のまちがむかうに横たはつてゐるのが見える。長崎の街は、幾つもつらなつた小山のすそにある。そして、木の茂つた小山の原へ、なり高くひあがつてゐる。
日本の女 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
その水平線より少し上の岩の間に穴があってその穴から火が出るのですが、その火が水の上をって上にあがるのです。愚民がこれを見ると全く水の中から火が燃えて出るように見えるのです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
見よ! 眼前にそびえた広海屋本店の、巌丈堅固がんじょうけんご大厦たいかは、すでに一めんに火が廻って、吹き立って来た北風に煽られた火焔は、天井を焼き抜き、ひさしい上って、今しも、さしもの大厦の棟が
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
黄金虫やかまきり位ならまだしも、かえるやとかげなんぞまで平気で部屋の中にい廻らせて喜んでおりますのでございますから、いやもうとんだ変りもので、しつけも何もあったもんではござりませぬ。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
岩の間に小さな路がって下りているのが上から見える。
石ころ路 (新字新仮名) / 田畑修一郎(著)
... ねぢ込みながら、黙つて黙つてと手真似。その拍子に、もともと持ち勝手の悪い空鑵が手からすべり落ちて、構に倒れてフタが開き、その中から一匹の蛇が飛出して縁の下へサツとひ逃げようとする)……畜生……! 
浮標 (新字旧仮名) / 三好十郎(著)
あれ、あんなむしひまわつてゐます。
地下電車メトロから地上へひ上がる。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
かうひぬ、苦熱の息吹いぶき
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
ひゅうひゅうと鉄骨の間をぬってくる烈風の響、ざざざーっと支柱をいのぼる激浪の音に、応える人の声はもみ消されて聞えない。
浮かぶ飛行島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
列車の速力がダンダンゆるくなって来て、蒼白いのや黄色いのや、色々の光線が窓硝子ガラスすべった。やがて窓の外を大きな声が
人間レコード (新字新仮名) / 夢野久作(著)
右側の大磐石は此処から眺めた所では、雪渓がい上っている斜面から横に段を伝って登れそうに想える、それから先は——登って見ての様子だ。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
勝代はふたたび兄を呼んだが、返事がないので、寝床からいだして襖を開けてさらに呼んだ。「お父さんの机の上にある薬を取ってきてくれんかな」
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
これ等の動物をさがす人は四つばいになり、しめった木葉や樹木の片をひっくり返しながら、い廻らねばならぬ。
人家やみちが色づいた野づらをっていたが、さえぎるもののない空は大きな弧を描いて目の前にれさがっていた。
秋日記 (新字新仮名) / 原民喜(著)
やがて機関車が着くと、素速く梯子から機関車のフレームへ飛び移って、乗務員に発見されない様に、汽罐の前方を廻って反対側のフレームいつくばっていたに違いない。
気狂い機関車 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
下半身からしずくの滝を流しながら、木の根につかまっていあがりだした。砂礫がざらざらとこぼれ落ちた。石はもんどりうって川にとびこみ、飛沫ひまつをあげた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
まかりまちがへばがけから海の中に落つこちる覚悟で、ぐら/\する岩をつたつて、がけのふちまでやつて行き、そこに金の猫をそつと置いて、またもどつてきました。
金の猫の鬼 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)