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匐
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は
ふりがな文庫
“
匐
(
は
)” の例文
雪の上を
匐
(
は
)
って道の方へ出てくると見えたが、その瞬間、ぶるっと
慄
(
ふる
)
えたかと思うと、かき消すように、その姿は消えうせたという。
雪魔
(新字新仮名)
/
海野十三
、
丘丘十郎
(著)
「税金がまた穴ん中にあの方を突き墜したことになるのね。やっと
匐
(
は
)
い上ったところを、頭から無理やりに突き戻して了ったのね。」
蜜のあわれ
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
母はお常婆を追ひ返すと、ばた/\走つて来て私の肩を小突き、凄い青筋をむく/\
匐
(
は
)
はせ眼を血走らせて、さも憎々しげに罵つた。
途上
(新字旧仮名)
/
嘉村礒多
(著)
獣とも人間ともわからない姿と声で躍ったり、跳ねたり、転がりまわり、
匐
(
は
)
いまわり、笑いまわり、泣きまわってお出でになりました。
少女地獄
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
わざと岩をぐらつかせたりして、みんなをはら/\させながら、静かに
匐
(
は
)
つていつて、やがて、ぱつと金の猫にとびつきました。
金の猫の鬼
(新字旧仮名)
/
豊島与志雄
(著)
▼ もっと見る
と
鳴
(
な
)
きながら、
雛鳥
(
ひな
)
が
匐
(
は
)
い
出
(
だ
)
してきました。それはばかに
大
(
おお
)
きくて、ぶきりょうでした。
母鳥
(
ははどり
)
はじっとその
子
(
こ
)
を
見
(
み
)
つめていましたが、
突然
(
とつぜん
)
醜い家鴨の子
(新字新仮名)
/
ハンス・クリスチャン・アンデルセン
(著)
三窓で
僅
(
わず
)
か許りの記載をしていた為に一行に遅れていた私は、石滝を横切ると猶予なく其斜面に噛り付いて、遮二無二
匐
(
は
)
い登ろうとしたが
黒部川奥の山旅
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
私は文字通り、有毒虫の流れの中に立っていた。彼等は
吃驚
(
びっくり
)
した
蜘蛛
(
くも
)
がするように、洞窟の壁を
匐
(
は
)
い上り、そして天井からパラパラ落ちた。
日本その日その日:03 日本その日その日
(新字新仮名)
/
エドワード・シルヴェスター・モース
(著)
血ぶくれになった
蚯蚓
(
みみず
)
の胴のようなものが関節ごとに
不恰好
(
ぶかっこう
)
にくびれ、ふやけた肉のかたまりとなって
匐
(
は
)
いずりまわっている。
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
杭も朽ち横に渡した竹も大方は朽ちはてゝゐるのであるが、其處に生えた篠竹やその間に
匐
(
は
)
うてゐる蔓草のために辛うじて倒壞を免れてゐる。
庭さきの森の春
(旧字旧仮名)
/
若山牧水
(著)
雨が降って
匐
(
は
)
い出した時には、ちゃんと私を迎えにやって来る。二、三度、大儀そうにとんで、
太股
(
ふともも
)
を地につけて止り、赤い眼を私に向ける。
博物誌
(新字新仮名)
/
ジュール・ルナール
(著)
「出刃、出刃! 出刃を取ってくれ!」土間を
匐
(
は
)
いながら、叫んでいる。「浅川の野郎、何処へ行きゃがった。居ねえんだ。殺してやるんだ」
蟹工船
(新字新仮名)
/
小林多喜二
(著)
朝の光の中で園がそれを見返った時、荒くれて
黝
(
くろ
)
ずんだその幹に千社札が一枚斜に貼りつけられてあって、その上を一匹の毛虫が
匐
(
は
)
っていた。
星座
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
大后の幸でませる故は、奴理能美が
養
(
か
)
へる蟲、一度は
匐
(
は
)
ふ蟲になり、一度は
殼
(
かひこ
)
になり、一度は飛ぶ鳥になりて、三
色
(
くさ
)
に
變
(
かは
)
る
奇
(
あや
)
しき蟲
二七
あり。
古事記:02 校註 古事記
(その他)
/
太安万侶
、
稗田阿礼
(著)
喬介は
直
(
すぐ
)
に
鉄蓋
(
やね
)
の上へ
匐
(
は
)
い上った。——実際こんな処では、匐っていなければ墜ちてしまう——そして、その上の無数の跡に就いて調べ始めた。
気狂い機関車
(新字新仮名)
/
大阪圭吉
(著)
この最後を待たぬものは全力を出して他の地方に
匐
(
は
)
って行き、そこで食物を得ようとするが、しかしその大部分は途上に斃れてしまうのである4
人口論:01 第一篇 世界の未開国及び過去の時代における人口に対する妨げについて
(新字新仮名)
/
トマス・ロバート・マルサス
(著)
勝代は再び兄を呼んだが、返事がないので、寢床から
匐
(
は
)
ひ出して襖を開けて更に呼んだ。「お父さんの机の上にある藥を取つて來て呉れんかな。」
入江のほとり
(旧字旧仮名)
/
正宗白鳥
(著)
隙
(
ひま
)
漏る風に手燭の火の揺れる時怪物のようなわが影は
蚰蜒
(
げじげじ
)
の
匐
(
は
)
う畳の上から
壁虎
(
やもり
)
のへばり付いた壁の上に
蠢
(
うごめ
)
いている。
雨瀟瀟
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
村田の指さすのを見ると、その納屋の二階の薄暗い片隅に、大型トランク位の鉄製の箱が置かれ、むき出しの天井を
匐
(
は
)
っている配電線に結ばれていた。
睡魔
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
「白いものを着たものは木蔭へ隠れよ」という声に、皆はぞろぞろ藪の奥へ
匐
(
は
)
って行く。陽は
燦々
(
さんさん
)
と降り
灑
(
そそ
)
ぎ藪の向うも、どうやら火が燃えている様子だ。
夏の花
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
「
貫一
(
かんいつ
)
さん」と
匐
(
は
)
ひ寄らんとするを、
薄色魚子
(
うすいろななこ
)
の羽織着て、
夜会結
(
やかいむすび
)
に
為
(
し
)
たる
後姿
(
うしろすがた
)
の女は
躍
(
をど
)
り
被
(
かか
)
つて
引据
(
ひきすう
)
れば
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
あわれな声をだして、露ッぽい雑草の中からかまきりみたいに、ゴソゴソと
匐
(
は
)
いだしてくる男がある。
鳴門秘帖:04 船路の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
母親はそう言っているうちに、涙がじめじめと虫のように
匐
(
は
)
い出して来て、言葉が
継
(
つ
)
げなくなった。
馬
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
さてまた洞は岩畳み、
鬼蔦
(
おにづた
)
あまた
匐
(
は
)
ひつきたれど、
辺
(
ほと
)
りに
榎
(
えのき
)
の大樹あれば、そを
目印
(
めじるし
)
に討入りたまへ
こがね丸
(新字旧仮名)
/
巌谷小波
(著)
私はまだ雨戸を開ける力もなかったから、寝床から出て、飯を炊き、煮えて来るとまた
匐
(
は
)
い込む。
夜の靴:――木人夜穿靴去、石女暁冠帽帰(指月禅師)
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
身体の蔭になって彼女の腕は静かに動く。とその手は卓子の上を
匐
(
は
)
う様にそろそろと進んで行く。
水晶の栓
(新字新仮名)
/
モーリス・ルブラン
(著)
「そんなら、子供のように、自分で覚えるまで四足で
匐
(
は
)
わせとけばいいんだ。しかし、二本の足でやろうと四足でやろうと、とにかく第一のことは、歩くということだ。」
ジャン・クリストフ:09 第七巻 家の中
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
一つの大きな熊の穴を見付けたチャラピタは、身につけてゐた一切のものをそこへ下ろし、
只
(
ただ
)
鉄砲と弾薬とだけをもつて、四つんばひに、穴の中へ
匐
(
は
)
ひ込んで行きました。
熊捕り競争
(新字旧仮名)
/
宮原晃一郎
(著)
それが何であるか、人間か動物か、一目見では誰も分らなかつた。まるで
四足
(
よつあし
)
で
匐
(
は
)
ひまはつてゐるやうに見えて、何か怪しい
野獸
(
やじう
)
のやうに、引掻いたり唸つたりしてゐた。
ジエィン・エア:02 ジエィン・エア
(旧字旧仮名)
/
シャーロット・ブロンテ
(著)
そして最初に訪ねて来た時分の三百の煮え切らない、変に廻り
冗
(
くど
)
く持ちかけて来る話を、幾らか馬鹿にした気持で、塀いっぱいに
匐
(
は
)
いのぼった朝顔を見い/\聴いていたのであった。
子をつれて
(新字新仮名)
/
葛西善蔵
(著)
匐
(
は
)
へば立て、立てば歩めと、我が年の
積
(
つも
)
るをも思はで育て上げし二十三年の親の辛苦、さては
重代
(
ぢゆうだい
)
相恩
(
さうおん
)
の主君にも見換へんもの、世に有りと思ふ其方は、犬にも劣りしとは知らざるか。
滝口入道
(旧字旧仮名)
/
高山樗牛
(著)
彼
(
か
)
の脇差を帯して家を出て、丁度弘行寺の裏林へ掛りますと、富五郎がこそ/\
匐
(
は
)
って
行
(
ゆ
)
くようですから、なぜかと思って
後
(
うしろ
)
を振り返える、とたんに出たのは安田一角、面部を深く包み
真景累ヶ淵
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
船がずつと湾の中へはいると、長崎の
街
(
まち
)
がむかうに横たはつてゐるのが見える。長崎の街は、幾つも
連
(
つらな
)
つた小山の
裾
(
すそ
)
にある。そして、木の茂つた小山の原へ、
可
(
か
)
なり高く
匐
(
は
)
ひあがつてゐる。
日本の女
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
その水平線より少し上の岩の間に穴があってその穴から火が出るのですが、その火が水の上を
匐
(
は
)
って上に
騰
(
あが
)
るのです。愚民がこれを見ると全く水の中から火が燃えて出るように見えるのです。
チベット旅行記
(新字新仮名)
/
河口慧海
(著)
見よ! 眼前に
聳
(
そび
)
えた広海屋本店の、
巌丈堅固
(
がんじょうけんご
)
な
大厦
(
たいか
)
は、すでに一めんに火が廻って、吹き立って来た北風に煽られた火焔は、天井を焼き抜き、
廂
(
ひさし
)
を
匐
(
は
)
い上って、今しも、さしもの大厦の棟が
雪之丞変化
(新字新仮名)
/
三上於菟吉
(著)
黄金虫やかまきり位ならまだしも、
蛙
(
かえる
)
やとかげなんぞまで平気で部屋の中に
匐
(
は
)
い廻らせて喜んでおりますのでございますから、いやもうとんだ変りもので、
躾
(
しつけ
)
も何もあったもんではござりませぬ。
なよたけ
(新字新仮名)
/
加藤道夫
(著)
岩の間に小さな路が
匐
(
は
)
って下りているのが上から見える。
石ころ路
(新字新仮名)
/
田畑修一郎
(著)
... ねぢ込みながら、黙つて黙つてと手真似。その拍子に、もともと持ち勝手の悪い空鑵が手からすべり落ちて、構に倒れてフタが開き、その中から一匹の蛇が飛出して縁の下へサツと
匐
(
は
)
ひ逃げようとする)……畜生……!
浮標
(新字旧仮名)
/
三好十郎
(著)
あれ、あんな
虫
(
むし
)
が
匐
(
は
)
ひまわつてゐます。
コドモノスケッチ帖:動物園にて
(新字旧仮名)
/
竹久夢二
(著)
地下電車
(
メトロ
)
から地上へ
匐
(
は
)
ひ上がる。
晶子詩篇全集
(新字旧仮名)
/
与謝野晶子
(著)
香
(
かう
)
匐
(
は
)
ひぬ、苦熱の
息吹
(
いぶき
)
。
思ひ出:抒情小曲集
(旧字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
ひゅうひゅうと鉄骨の間をぬってくる烈風の響、ざざざーっと支柱を
匐
(
は
)
いのぼる激浪の音に、応える人の声はもみ消されて聞えない。
浮かぶ飛行島
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
列車の速力がダンダン
緩
(
ゆる
)
くなって来て、蒼白いのや黄色いのや、色々の光線が窓
硝子
(
ガラス
)
を
匐
(
は
)
い
辷
(
すべ
)
った。やがて窓の外を大きな声が
人間レコード
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
右側の大磐石は此処から眺めた所では、雪渓が
匐
(
は
)
い上っている斜面から横に段を伝って登れそうに想える、それから先は——登って見ての様子だ。
黒部川奥の山旅
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
勝代はふたたび兄を呼んだが、返事がないので、寝床から
匐
(
は
)
いだして襖を開けてさらに呼んだ。「お父さんの机の上にある薬を取ってきてくれんかな」
入江のほとり
(新字新仮名)
/
正宗白鳥
(著)
これ等の動物をさがす人は四つばいになり、
濡
(
しめ
)
った木葉や樹木の片をひっくり返しながら、
匐
(
は
)
い廻らねばならぬ。
日本その日その日:03 日本その日その日
(新字新仮名)
/
エドワード・シルヴェスター・モース
(著)
人家や
径
(
みち
)
が色づいた野づらを
匐
(
は
)
っていたが、
遮
(
さえぎ
)
るもののない空は大きな弧を描いて目の前に
垂
(
た
)
れさがっていた。
秋日記
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
やがて機関車が着くと、素速く梯子から機関車の
框
(
フレーム
)
へ飛び移って、乗務員に発見されない様に、汽罐の前方を廻って反対側の
框
(
フレーム
)
に
匐
(
は
)
いつくばっていたに違いない。
気狂い機関車
(新字新仮名)
/
大阪圭吉
(著)
下半身からしずくの滝を流しながら、木の根につかまって
匐
(
は
)
いあがりだした。砂礫がざらざらとこぼれ落ちた。石はもんどりうって川にとびこみ、
飛沫
(
ひまつ
)
をあげた。
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
まかりまちがへば
崖
(
がけ
)
から海の中に落つこちる覚悟で、ぐら/\する岩をつたつて、
崖
(
がけ
)
のふちまでやつて行き、そこに金の猫をそつと置いて、また
匐
(
は
)
ひ
戻
(
もど
)
つてきました。
金の猫の鬼
(新字旧仮名)
/
豊島与志雄
(著)
匐
漢検1級
部首:⼓
11画
“匐”を含む語句
匍匐
蛇行匍匐
腹匐
匐進
匍匐出
匍匐膝行
匍匐臥
匐上
匐枝
匐登
匐行
匐隱
葡匐委蛇
進退匍匐廻