)” の例文
ただ、その証拠しょうこに、もはや、このオルガンの音色ねいろうみうえをころがっても、さかなが、波間なみまねるようなことはなかったのであります。
楽器の生命 (新字新仮名) / 小川未明(著)
それから、ね上がる。寝台の鉄具かなぐにぶつかる。椅子いすにぶつかる。暖炉だんろにぶつかる。そこで彼は、勢いよく焚口たきぐちの仕切り戸をける。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
実生活の圧迫を逃れたわが心が、本来の自由にね返って、むっちりとした余裕を得た時、油然ゆうぜんみなぎり浮かんだ天来てんらい彩紋さいもんである。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
山母はこれはたいへんだと水がめからね上がって外へ走り出ようとすると、踏み台のベゴの糞でずらのめってステンところんだ。
東奥異聞 (新字新仮名) / 佐々木喜善(著)
「うん、持っているとも」そういって大辻老はわきの下へ手をやったが、うわーッと一声ひとこえ、たちまちね上った。「岩の足型がないッ」
地中魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そのため、いまにも地面じめんにさわりそうです。ズルスケはこのガンめがけて、思いきり高くねあがりました。が、またまた失敗しっぱいです。
竹童はすばやくねかえって、チャリン! とそれを引ッぱずした。が、それはけんの法ではなく、いつも使いなれているぼう呼吸いきだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
良平はひとりいらいらしながら、トロッコのまわりをまわって見た。トロッコには頑丈がんじょうな車台の板に、ねかえった泥がかわいていた。
トロッコ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
太い雨が竿さおあたる、水面は水煙を立てて雨がねる、見あげると雨の足が山の絶頂から白い糸のように長く条白しまを立てて落ちるのです。
女難 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
馬追ひは、或る夜、どこでどうしたのであるか、長いねる脚の片方を失つて飛んで来た。長い触角の一本も短く折れてしまつてゐた。
ありの性急な活動を、歩きながら踊ってるように見える足長蜘蛛ぐもを、横っ飛びにね回るいなごを、重々しいしかもせかせかした甲虫かぶとむし
いつやらの暴風に漁船が一艘ね上げられて、松林の松のこずゑに引つかかつてゐたといふ話のある此砂山には、土地のものは恐れて住まない。
妄想 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
ね起きてみますと、それはさながらに外国の映画に出て来る名探偵じみた風采の男でした。年の頃は四十四、五でしたろうか。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
『リーン、リーン』小さな鉄のシャンデリアが、三、四十センチばかりねあがりました。こうして、喜劇が始まることになったのです。
腕をくるくるふりまわしながら飛んだりねたり、ヘッピリ腰でのぞきこむかと思うと急に威勢よくコンチハと大きな声で戸をあけたり
二十七歳 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
あまりの猛勢にぜひなく白刃しらはを抜いて、一刀の下に斬り捨てんと振りかざせば、その刃を飛びくぐって、ねつき、うなりつけるすさまじさ。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ねかへさうとすれば、はゝおほきなこええたからだが、澤庵漬たくあんづけのやうに細つこいあたしの上に乘つて、ピシヤンコにつぶしてしまふ。
お灸 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
だが、たちまち彼の笑声がしずまると、彼の腹は獣を入れた袋のように波打ち出した。彼はがばとね返った。彼の片手は緞帳のひだをひっつかんだ。
ナポレオンと田虫 (新字新仮名) / 横光利一(著)
そうかと思うと、ぽこんとね上るように高く水の上に現われ出ました。何んだか曲泳きょくおよぎでもしているのではないかと思われるほどでした。
溺れかけた兄妹 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
大将の鬼は旦那座だんなざから一足びに土間へね下りようとして、囲炉裏いろりにかけた自在鉤じざいかぎに鼻のあなを引っかけてしまった。すると
鬼退治 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
敵の艇は水を切って彼の眼前一町ほどのところをあざやかに漕いでゆく。三番がスプラッシュをして櫂で水をね上げるのまではっきり見える。
競漕 (新字新仮名) / 久米正雄(著)
お友達のなかでいちばん背の高いあなたが、子供のようにねてゆくところを、ぼくは、拍子抜ひょうしぬけしたように、ぽかんと眺めていたのです。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
眼を開くと、われながら驚いたくらい、自分の身内に突然ある異常な精力の汪溢おういつするのを感じて、いちはやくね起きて着換えを済ました。
透き通って見える白い帆布ほぬのの上を、動物とも人間とも見分けのつかぬ奇怪な黒影が、丸くなって、飛ぶがごとくねるがごとく走って行く。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
床の間の掛軸が、バラ/\と吹きまくられて、ね落ちると、ガタ/\とはげしい音がして、鴨居かもいの額が落ちる、六曲の金屏風きんびょうぶが吹き倒される。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
錨を上げたり、下したりする度に、コンクリート・ミキサの中に投げ込まれたように、皆はね上り、ぶッつかり合わなければならなかった。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
「何んだ八、相變らずそゝつかしいぜ。いきなりドブ板を二枚ね返し、野良犬を蹴飛ばして格子をはづすのは大した藝當だ」
始終しゞゆうくるつたやうにまはつてた二ひき動物どうぶつは、きはめてかなしげにもまたしづかにふたゝすわみ、あいちやんのはうながめました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
上ると土砂降どしゃぶりになった。庭の平たいかめの水を雨が乱れ撲って、無数の魚児の噞喁げんぎょうする様にね上って居たが、其れさえ最早見えなくなった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
小初は、み台のやぐらの上板に立ち上った。うでを額にかざして、空の雲気を見廻みまわした。軽く矩形くけいもたげた右の上側はココア色に日焦ひやけしている。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ホラ大変!、母も武も驚ろいたことといつたら、ねるやら、るやら、もがくやらで、四百もある魚のことですから、舟もゆるばかりでした。
鼻で鱒を釣つた話(実事) (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
ところが、立派りつぱひかりのあるはずのはち螢火ほたるびほどのひかりもないので、すぐに註文ちゆうもんちがひといつてねつけられてしまひました。
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
すこぶるよろしい」とね起きてスリッパを穿き、寝間着をぎゅっとつかみながら彼は答えた、「実によろしい。だがたった一つ、そらここが——」
硫酸を浴びたものだから、苦しがって鳴きながら室中ね廻った。此物音に驚いて、森川さんは薬室の戸を明けた。猫は森川さんの顔に飛付いた。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
田舎政治家の煽動せんどう演説におだてられて、中学生的無邪気の感激でね廻るような文学は、何等の叙事詩エピックでもなく叙事詩的エピカルなものでもありはしない。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
もすそを乱して一旦は倒れたが又たちまね起きて、脱兎だっとの如くに表へ逃げ出そうとするのを、𤢖は飛びかかって又引据ひきすえた。お葉もう見てはられぬ。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
斗樽とだるにはにごつたやうな甘酒あまざけがだぶ/\とうごいてる。神官しんくわんしろ指貫さしぬきはかまにはどろねたあとえて隨分ずゐぶんよごれてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
私たちの店は今も申す通り、大きい店の袖にあったね出しの店です。この方が割方わりかた安くてかえって都合がよろしい。
異常の恐怖に襲われて、われはあわててね起きつつモルガンの走り行きたる方角を打ち見やれば、ああ、二度とは見まじき怖ろしの有様なりしよ。
はばからず声を放つて泣きたりしが、たちまちガパとね起きつ、足を踏みしめ、手を振つて、天地も動けと、呼ばはりぬ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
善の皮肉にかくれたる至悪のね起るが如き電光一閃の妙変に至りては、極めて趣致あるところ、極めて観易からざるところ、達士も往々この境に惑ふ。
心機妙変を論ず (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
その網の中には、きらきらと光りながらねているのでそれと分るような、小さな魚が二三匹ひっかかっていた……
三つの挿話 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
すなわち仲間の大勢とともにみんなのする通りに飛びねまた歌っているということが、まず大きな楽しみであり心強さであった期間がしばらくつづき
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
朝早いうちははだしではたらき、彫刻家のように、露の多い、ぼろぼろこぼれる砂をねかした。しかし時刻がうつるにつれて日はわたしの足を焼いた。
自分がかじとって漕ぎ回り小さな魚が銀色に光ってボートのなかにねていくつとはなし入ってくるのを眺めているときはどんなに平和な静かな心だろう。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
撲たれて既に死に臨むにおよびてきづなはなれし牡牛の歩む能はずしてかなたこなたにぬることあり 二二—二四
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
そしてそう思ってみると、ぴんと口髯くちひげの上へねたこのドクトルの、型で押し出したような顔のどこかに、梢家こずえけの血統らしい面影も見脱みのがせないのであった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
芝居がねると、その辺まで歩こうじゃありませんか、と御牧が云い出して、尾張町の方へ六人がつながって行く途々みちみち、幸子と二人少し離れて歩きながら
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「なあに心配しんぱいありません。どうせチュウリップしゅの中の景色けしきです。いくらねてもいいじゃありませんか。」
チュウリップの幻術 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
人は自分が財産を得たと聞いて飛び上りねまはり快哉くわいさいを叫びはしない。人は責任を感じ仕事を考へ始める。