)” の例文
穂麦ほむぎかんばしい匂がした。蒼白い光を明滅させて、螢が行手を横切って飛んだが、月があんまり明るいので、その螢火はえなかった。
大捕物仙人壺 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
金襴きんらんの帯が、どんなに似合ったことぞ、黒髪に鼈甲べっこうくしと、中差なかざしとの照りえたのが輝くばかりみずみずしく眺められたことぞ。
大橋須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
青黄ろく澄み渡った夕空の地平近い所に、一つ浮いた旗雲には、入り日の桃色が静かに照りえていた。山の手町の秋のはじめ。
卑怯者 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
静かな日の影はうらうらと向う岸の人家に照りえて、その屋並の彼方かなたに見える東山はいつまでも静かな朝霧にめられている。
黒髪 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
その顔も、木々の幹も、不意に赤くえた。城は一瞬に火の海と化し、この山の生木なまきまでバリバリと燃えて来たのである。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、連れてゆかれたのは、奥深い、丸窓を持った一間ひとまだった。軽いしとねに、枕もなまめかしく、ほのかな灯かげが、ろうたくえている。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
翌朝万寿丸は、雪に照りえた、透徹した四囲のもとに、自分の所在を発見した。それはすこぶる危険なところへ、彼女は首を突っ込んでいた。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
樹々は暗くなる程繁り、生籬いけがきや森は、葉が繁り、色が濃くなつて、間にある刈り取つたあとの牧場の太陽えた色と、いゝ對照をしてゐた。
散らばつた新築の借家が、板目に残りの日をうけて赤々とえてゐる。それを取り囲んで方々の生垣いけがき檜葉ひばが、地味な浅緑でつとかたまつてゐる。
姉弟と新聞配達 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
それが夕日にえて、あるときは白く、あるときは赤く、またあるときは黄いろになり、怪塔ロケットを一そうぶきみなものにしてみせました。
怪塔王 (新字新仮名) / 海野十三(著)
新蓮根しんれんこんの出始めなど、青々した葉の上に、白く美しい根を拡げたのが灯にえて綺麗きれいですが、それは一、二軒だけです。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
彼は寝床の中から、竈のほのほに照りえてゐる其のふくよかな彼女の横顔を盗み眺めた。かうして今朝の食事の仕度したくはすつかり彼女の手で出来たのだ。
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
そうして、その丹色にいろが、焔にあぶられた電車の架空線の電柱の赤さびの色や、焼け跡一面に散らばった煉瓦や、焼けた瓦の赤い色とえ合っていた。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
今では髪というと女の世界に限られるようだけれども、結髪の昔は男といえども祭の髪をえたものに相違ない。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
この頃土曜や日曜の朝は、おそい朝食のあと、ぼんやりと食堂の窓から、朝の陽光にえている芝生を眺めて、しばらくの時を過ごすことにしている。
シカゴの雉子 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
傾いた冬の日がアカアカと照りえているその又上に、鋼鉄色の澄み切った空がズーッと線路の向うの、山の向う側まで傾きおおうているばかりであった。
木魂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
汗は垂々たらたらと落ちた。が、はばかりながらふんどしは白い。一輪の桔梗ききょうの紫の影にえて、女はうるおえる玉のようであった。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そういう年は紅葉の色も何となくえない。しかし気候の具合で、三年に一度ぐらいは、遅速があまりなく、一時に全部の樹の紅葉がそろうこともあった。
京の四季 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
シグナルとシグナレスはぱっと桃色ももいろえました。いきなり大きな幅広はばひろい声がそこらじゅうにはびこりました。
シグナルとシグナレス (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
もう、季節きせつは、あきすえでありました。正吉しょうきちは、高橋たかはし見送みおくるため、もんからました。みじかざしは、いろづいた木立こだちや、屋根やねうえに、黄色きいろえていました。
世の中へ出る子供たち (新字新仮名) / 小川未明(著)
しかしその頬にえている紅潮によって、彼もアリョーシャに劣らず興奮していることが察せられた。彼が興奮している理由をアリョーシャはよく知っていた。
その向うの更に高みになっているそばに薄紅葉のしておる樹のあるのが、その竹山に打ちえて見える。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
「くれなゐにほふ」は赤い色に咲きえていること、「した照る道」は美しく咲いている桃花で、桃樹の下かげまで照りかがやくように見える、その下かげの道をいう。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
日は川の方へまわっていて、町の左側の障子にえているのだが、その照り返しが右側の方の家々の中まで届いている。八百屋やおやの店先に並べてあるかきが殊に綺麗きれいであった。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
遠近も、高低も、カーブも、スロープも、心ゆくばかり明快にうつるのみではない、雪に照りえている自分の一枚の白衣びゃくえが、鶴の羽のようにかがやくのを認めました。
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この色がえてよかろうという母のこころ遣いから、朱いろ、総塗り、無紋の竹胴たけどうをきっちりと胸につけて、下着も白の稽古けいこ襦袢じゅばん鉢巻はちまきも巾広の白綸子しろりんずはかまも白の小倉袴こくらばかま
山県有朋の靴 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
三日月みかづきあわひかりあお波紋はもんおおきくげて、白珊瑚しろさんごおもわせるはだに、くようにえてゆくなめらかさが、秋草あきぐさうえにまでさかったその刹那せつな、ふと立上たちあがったおせんは
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
ところどころに置いた雪洞ぼんぼりに、釘かくしがえて、長いお廊下は、ずっとむこうまで一です。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そのとき温室は一面にぱっと燃えたって、真紅の照りかえしがきらきらと五彩にえわたるありさまは、さながら細かにみがきをかけた大きな宝石を見るようでありました。
高くのぼっていた黒煙が、吹きなびかされて板屋の上は、金色にえ冴えて見えた。
討たせてやらぬ敵討 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
一体花火は暗い所によくゆるものであるから、今日は化学が進歩して色々のものが工夫されているが、同時に囲りが明るくされているので、かえってよく環境かんきょうと照映しないうらみがある。
亡び行く江戸趣味 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
山の祖神おやのかみの翁はまだ山に近付かないさきから山の林種はこれ等で装われていることを、ゆる山緑の色調で見て取った。この様子の山なら草木の種類はまだ他にたくさん宿っている筈だ。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
白い木肌がま夏の陽にえて、河畔のかげろうのなかで激しく光ったりした。川を隔てたこちらから、遠く見ると、何か神聖な供物のようである。古びた船着き場の屋並のなかに白く屹立きつりつしていた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
その境界に植えた鈴懸すずかけの葉に電燈のえていた。
女の怪異 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
はてしなく埋もれて、紫水晶むらさきずゐしやうの色にゆる園生そのふ
あなゆし、もろもろの皇子みこたちや、その皇兄いろせや。
新頌 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
色こそ君が面わに照りゆらめ。
独絃哀歌 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
れしうるほひえて
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
しかすがにあやゆれば
わなゝき (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
みどりゆる唐錦からにしき
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
城楼でときの太鼓が鳴った。こよいに限り夜空もあかあかとかがりえ、今朝の初日の出がまだ沈みきらずにあるようだった。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、燭台の燈火がえた。で、あたかも老女たちの頭は、小長い無数の銀の線を、い合わせてできた畸形きけいな球が、四つかたまっているように見えた。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あかい絹の意である。うらうらと霞む長閑のどかな日の下に、水に浸してざぶざぶと洗う、その絹の紅が日にえてまばゆいような感じがする、という趣を詠じたものと思われる。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
その名さえゆかりもあるというところから、意気もあい、当時の人気作家、花形の青年たちは、毎夜のように、紅葉もみじふすまの照りゆる、燈火ともしびのもとに集まったのだった。
大橋須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
はげしい太陽たいようが、そのあつみのあるえて、黄色きいろはなは、えるようにえました。
へちまの水 (新字新仮名) / 小川未明(著)
きらり、きらりと月輪の士の抜き連れるごとに、鋩子ぼうしに、はばき元に、山の陽が白くえた。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
仏頂寺弥助は、勇仙からつきつけられた色縮緬の胴巻に、赭顔しゃがんを火のようにえらせて
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
芙蓉ふようはな清々すがすがしくもいろめて、西にしそらわたった富岳ふがくゆきえていた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
まわりが年の暮の晩らしゅう光るように照りえている。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
わだつみの豊旗雲とよはたぐものあかねいろ大和やまと島根しまね春花はるはな
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)