)” の例文
泥も、藤から嵐のように飛び濺いでは空中でオギアオギアと鳴く小さいものになり、あちらにいこちらに爬い、地面一杯になった。
不周山 (新字新仮名) / 魯迅(著)
霧は次第に濃く群がってその草原の上をっている。其処此処に大小の小屋が眼に這入る、今の草刈どもの泊る小屋に違いない。
木曽御嶽の両面 (新字新仮名) / 吉江喬松(著)
私は恐る恐る陰気なかくれ場所を抜け出し、石垣に足をかけて、水路をい上がった。誰も見ている者はない。
動物園の一夜 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
森の中の木々に大濤おおなみの渦を捲いて、ガサガサひどい音をさせる、遠くから見ると、大蛇おろちっているのかとおもう、かくて青々と心まで澄んだ水の傍まで来ては
梓川の上流 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
自分の体のうみを吸つて太つたうじの白いのがうようよ動いてゐるのが見える。学士は平生からふ虫が嫌ひである。あの蛆が己の口に、目に、鼻に這ひ込むだらうと思つて見る。
鼠色の雲が五、六本の白くされた枯木の立っている百貫山の一角を掠めて、のろのろい廻っていた。いつか飛行機射撃演習の行われた地点であるという。この狭い谷間で見られるものはそれだけだ。
黒部川を遡る (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
かくて果てしなき風と雲との爭ひ、その中を、せめてもの呪文じゆもんの聲を張り上げ、鉢を鳴らして、人間は、はね飛ばされじとひまはつてゐる。
山岳美観:02 山岳美観 (旧字旧仮名) / 吉江喬松(著)
水溜の中を蛇のうねつてゐるやうに、太い竹の根が地中をつてゐた。日の光が何処からか洩れて、其処まで射し込んで、不思議な色に光つてゐた。
五月雨 (新字旧仮名) / 吉江喬松(著)
途方に暮れて立つてゐると、S君が漸く流木の端へ両手をかけてひ上つて来た。脚絆も草鞋も濡れてゐる。
伊良湖の旅 (新字旧仮名) / 吉江喬松(著)
思ひ切つてまた、砂の崩れる岩角を横に伝つてふやうにして進んで行つた。なるべく下を見ないやう、木の根でもあればそれに縋りつき、地へ手を突き込むやうにして通つて行つた。
伊良湖の旅 (新字旧仮名) / 吉江喬松(著)
半時間ばかりも見てゐるうちに、日が西に廻つて、冷たさがその光の中をふように広がつて来た。今夜の泊るべき当てもないので、先きの男と分れて、教へられた道を左へ左へと歩いて行つた。
伊良湖の旅 (新字旧仮名) / 吉江喬松(著)