)” の例文
日影なおあぶずりのゆたうころ、川口の浅瀬を村の若者二人、はだか馬にまたがりて静かにあゆます、画めきたるを見ることもあり。
たき火 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
やがて、あちらのやまを、海岸かいがんほうへまわるとみえて、一せい汽笛きてきが、たかそらへひびくと、くるまおとがしだいにかすかにえていきます。
とうげの茶屋 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ふもとめて、練絹ねりぎぬを織って流るる川に、渡した橋は、細く解いた鼓の二筋の緒に見えた。山のかえす夕映の、もみじに染まって。……
クルベーとの七年間の花々しい同棲どうせい生活については、彼女はその後折にふれて口のへ出すこともあったし、一番彼女を愛しもし
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
得ず然らば途中の御用心こそ專要せんえうなれど心付るを平兵衞は承知しようちせりといとまつげて立出れば早日は山のかたぶきやゝくれなんとするに道を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
すこし心細くないでもなかったが、ときどき山のからはるか下界げかいの海や町が見えるので、そのたびに彼は元気をとりもどした。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
折から月は全く西のに落ちて、水やそら、黒白も分かぬ沖の方に、さながら砂塵すなぼこりのごとき赭土色のもうもうと立ち迷うを見たり。
片男波 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
あの時の天狗物語も口のには上らず、丹沢山塊の方面で怪しい火の見えたことも、濃霧に襲われたことも、時効にかかっているらしい。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ひところ、院の内や、京わらべの口のに、二人の浮名が、かしましく取沙汰された当時のことは、薄々だが、彼の記憶にも残っている。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
近くきくと騒々そうぞうしい唄のこえも、遠くとおく流れて来るとなんだか寂しい哀れな思いを誘い出されて、お時は暮れかかる軒のを仰いだ。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
まさかした金で売飛ばしもしまいじゃないか。それよりも君こそあの女は邪魔者だ。病院の帰りに誘拐してどこかへ売飛ばしたのだろう
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
したが、これも時代ときよとあきらめるがいぞよ。これさ、うのたかのつて世間せけんくちにか〻るではないか、そんなこははせぬものぢや
但しこんなのはした天狗で、もっと上等の天狗になると、ちゃんと人間の形をして鼻ばかり高いのが出て来るのであります。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
あなたはそうした意味であらゆる人の、口のにおかかりでした。けれど、んな、やっぱりその内心は、今様仙人とおなじ型だったのです。
平塚明子(らいてう) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
どうもこうもござんせぬ。あッし共風情ふぜいものじゃどうにも手に負えねえことが出来ましたんで、ぜひにも殿様にお力を
はるか向ふに薄墨色をしてゐるやまから、夕靄ゆふもやが立ちめて、近くの森や野までが、追々薄絹に包まれて行くやうになつた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
ては半燒酎なほしむらたのんでひにつて、それをみながら大氣焔だいきえんく。留守居るすゐ女中ぢよちうけむまかれながら、ちやれてす。菓子くわしす。
『あれ見よ小松原平左衛門は、臼井の微禄に愛想を尽かし、武士にあるまじく約束を破り、娘を他家へ縁づけたわ』世間の口のもうるさかろう
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
だん/\進んで行くと、突當りの木槿垣むくげがきの下に、山のはなれた許りの大滿月位な、シッポリと露を帶びた雪白の玉菜キャベーヂが、六個むつ七個なゝつ並んで居た。
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
五日のお月さまは、この時雲と山のとのちょうどまん中にいました。シグナルはもうまるで顔色をえて灰色はいいろ幽霊ゆうれいみたいになって言いました。
シグナルとシグナレス (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
数日まえからぎれをつづり縫いしていた母は、ちょうどそれを仕上げて火熨斗ひのしをかけているところだった、座蒲団を細く小さくしたようなものである。
日本婦道記:梅咲きぬ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
で、「ええ、思いませんとも」真面目に言いきりましたが、そういう口のから、へんに肉感的な微苦笑びくしょうが、唇をゆがめるのを、おさえられませんでした。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
月の光も薄くこの山のに満ちた。空の彼方かなたには青い星の光が三つばかり冴えて見えた。灰白い夜の雲も望まれた。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ことばには立派に言って別れたものの、それは神ならぬ人間の本音ほんねではない。余儀ない事情に迫られ、無理に言わせられた表面のくちに過ぎないのだ。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
私の眼があやまりでなくば、ラオチャンドは遂に、冷い理性の捕り児となった事を、行為のしに表した。
ラ氏の笛 (新字新仮名) / 松永延造(著)
初夏の赤い太陽が高い山のに傾いた夕方、私は浴場を出て手拭てぬぐひをさげたまゝ寄宿舎の裏庭を横切つてゐると
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
日頃、政務に追われ、怱忙そうぼうの日を送っている俗情は、どこか遠い山のへ消えさってゆく感じだったのである。
霧の蕃社 (新字新仮名) / 中村地平(著)
ことにもこれをいわずして、家内、目を以てするの家風を養成すること最も必要にして、この一策は取りも直さず内行防禦の胸壁とも称すべきものなり。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
見渡す限りの湖面には、縮緬ちりめんの様な小波さざなみが立って、山のを上った日光が、チカチカと白く反射しています。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「まだ、お月さんが山のに出たばかりです。あれがもっとこの庭の真上に見えてくるまでお待ちなさい」
もぐらとコスモス (新字新仮名) / 原民喜(著)
既にこの頃は夜は全く明け放れて、今日の暑さを思わせるような太陽が、山のを可なり高く昇っている。
桶狭間合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
二人は帽子を手に取って、外套がいとうを引っ掛けて、はたの方へ行く道に掛かった。空はほとんど晴れ切っている。遠い山のに色々な形をした白い霧が掛かっている。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
後拾遺集恋一、「恋そめし心をのみぞうらみつる人のつらさを我になしつゝ」、続千載集恋五、「つらくのみ見ゆる君かな山のに風まつ雲のさだめなき世に」
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
其処そこへこの涙でございませう? わたしは悲しいと思ふよりも、取りつきに困つてしまひましたから、出来るだけ母を見ないやうに、兄のゐる側へ坐りました。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
うしておつぎもいつかくちのばつたのである。それでも到底たうてい青年せいねんがおつぎとあひせつするのは勘次かんじ監督かんとくもと白晝はくちう往來わうらいで一べつしてちがその瞬間しゆんかんかぎられてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
水筒に残った水を飲みわけ、山のに残る陽の光に力づけられながら、そこからさまよいだした。三十分ほど下ると、ネヴェというたちのわるい濡れ雪にぶっつかった。
白雪姫 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
地上へ近づくにしたがって、西の山のに沈みかけた月の光で、ぼんやり下の景色が見て取れました。今度はどこへいくのかしらと、王子は眼を見張って眺めました。
夢の卵 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
三上は小倉を盗み見しては飲み、かつ、その年増としまの女を捕えて悪ふざけしていた。が、小倉は黙って食っていた。小倉の相手の女はとりつきがなくて、困っていた。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
はや下晡ななつさがりだろう、日は函根はこねの山のに近寄ッて儀式とおり茜色あかねいろの光線を吐き始めると末野はすこしずつ薄樺うすかばくまを加えて、遠山も、毒でも飲んだかだんだんと紫になり
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
でも大胆な馬賊はいちばん街づれにちかい家を二三十軒も襲つて大きな三つの皮袋に、お金や貴金属類を集めこれを馬の鞍の両側にと自分の腰にしつかりと結びつけた。
小熊秀雄全集-15:小説 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
貞阿もこの冬はじめて奈良にしばらく腰を落着けて、鶴姫のうわさが色々とあらぬ尾鰭おひれをつけて人の口ののぼっているのに一驚を喫したが、工合ぐあいの悪いことには今夜の話相手は
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
三人は相当の挨拶あいさつを取りかわして別れた。一ちょうほど来てから急に行く手が明るくなったので、見ると光明寺裏の山のに、夕月が濃い雲の切れ目から姿を見せたのだった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
西宮は二人の様子に口の出しを失い、酒はなし所在はなし、またもや次の間へ声をかけた。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
もっと悪い噂は行人こうじんや村家の物をかすめ取るということが、あたりの人の口のに上っていた。
野に臥す者 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
圓明寺ゑんみやうじすぎげたやう赭黒あかぐろくなつた。天氣てんきには、かぜあらはれたそらずれに、しろすぢけはしくえるやまた。とし宗助そうすけ夫婦ふうふつて日毎ひごとさむはうせた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
幸いにその夜はある山のに着きましてまた例の雪がまばらに積って居る草の原に宿りました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
油多き「ふ」を食い、うろこの輝き増したるを紙より薄き人の口のにのぼせられて、ぺちゃぺちゃほめられ、数分後は、けろりと忘れられ、笑われ、冷き血のまま往生おうじょうとげむか。
HUMAN LOST (新字新仮名) / 太宰治(著)
夫人は山のに出た夕月を見つゝ、自分が日比野の家へ入つてから、東京の家も、土蔵だけ残して、便利で明るい現代風の建物に改築したことや、良人おっとの母親も満足して死に
蝙蝠 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
やま味鳬あぢ群騒むらさわくなれどわれはさぶしゑきみにしあらねば 〔巻四・四八六〕 舒明天皇
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
いつか見えないしから明るんで、地は地の色を草は草自身の色をとり戻すように、彼女の周囲のあらゆる事物は、まったく「いつの間にか」彼等自身の色と形とをもって
地は饒なり (新字新仮名) / 宮本百合子(著)