)” の例文
編笠から眺めると、土堤沿いの、大きい木蔭に、すだれを立てて茶店があった。樹の背後の土堤の草の中に、馬が二匹、草をんでいた。
三人の相馬大作 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
ここに香坂かごさかの王、歴木くぬぎに騰りいまして見たまふに、大きなる怒り猪出でて、その歴木くぬぎを掘りて、すなはちその香坂かごさかの王をみつ。
我曰ふ、あゝかく人をみあさましきしるしによりてその怨みをあらはす者よ、我に故を告げよ、我も汝と約を結び 一三三—一三五
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
台の上部うえは土間に立つと三尺ほどの高さで、かぶせ板が左右に一寸ほどみ出ているぐあいが、なんのことはない、経机の形だった。
机上きじょうには本や雑誌が散らばっているが、その壁に近く、開封した封筒とその中から手紙らしいものがみ出しているのを見つけた。
流線間諜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
家康が、総攻撃の令を発したときなどは、まさに、窮鼠きゅうそが猫をむの勢いを示し、寄手は、城兵の銃弾に、かなりな犠牲を強いられた。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こぼれたる柱、碎けたる石の間には、放飼はなしがひうさぎうまあり、牛ありて草をみたり。あはれ、こゝには猶我に迫り、我をくるしめざる生物こそあれ。
郷里を思うことはむかしの生活をなつかしむことであった。あたえられた俸禄をんで、無為に暮した日を追想することであった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
数頭の馬が草をんでいた。骨と皮ばかりの痩せ馬であった。どこかの戦場から逃げて来て、ひとりで生活きている馬らしかった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
小室君こむろくんは養父の紹介だから、何とかなるだろうと思って出掛けた。養父は中風ちゅうぶで、もう廃人だけれど、月二百円以上の恩給をんでいる。
秀才養子鑑 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
姉妹の父は、長い間、台湾のさる製糖会社の技師をして、相当な高給をんでいた。退職したときにも、数万円の手当を貰った。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
亂れた髮の上から、猿轡をまされ舞臺の上に引据ゑられて、くれなゐもすそを亂したお村は、顏色を變へてゾツと身顫ひしたやうです。
高い石崖いしがけふちすれすれに建っていて、縁側にいると体が崖の外へみ出しそうな、落ち着きの悪い気がするので、貞之助などは
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
遠くの方にはきらきら光る海峽を背景にして、牧牛の群が靜かに草をんでゐる。牧舍のあたりには小さな人影が動いてゐた。
修道院の秋 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
彼等が皆この草山へ、牛馬をいに来るものたちだと云う事は、彼等のまわりに草をんでいる家畜を見ても明らかであった。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
袖無の裏から、もじゃもじゃしたきつねの皮がみ出している。これは支那へ行った友人の贈り物として君が大事の袖無である。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
されば徳川の禄をんだ藤川庄三郎、ことには若様育ち、あれ程にまで云いかわし、惚れた美代吉を身請をされては何うも友達へ外聞が悪い
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
けだし表面より観察すれば、これらの推譲は煙火をまざる天使の事業にして、とうてい濁世煩悩界の人間の事業にあらず。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
四疊半の茶呑臺ちやぶだいの前に坐つて、髮の伸びたロイド眼鏡のZ・K氏は、綿のみ出た褞袍どてらを着て前跼まへかゞみにごほん/\咳き乍ら、私の用談を聞いた。
足相撲 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
む者が、主を殺させて安閑と生きながらえることができると思われるか、元親公は無下なげに愚かな人じゃ、飴で小供を釣るような申されようじゃ
八人みさきの話 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
僕の所謂表象は、シヨーペンハウエルの云つた止むを得ず、表象がその表象をんで、そのまた表象を苦産するのである
神秘的半獣主義 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
世は上下とも積年の余弊に苦しみつかれている様を見ては、われひと共に公禄こうろくむもの及ばずながらそれぞれ一廉ひとかどの忠義をつくさねばなるまいと
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
令史れいしいへ駿馬しゆんめあり。無類むるゐ逸物いちもつなり。つね愛矜あいきんして芻秣まぐさし、しきりまめましむれども、やせつかれて骨立こつりつはなはだし。擧家きよかこれをあやしみぬ。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
子山羊は、立ちどまっては川っぷちの草をすこしみ、またすこし走っては立ちどまり、無心に遊びながらやってくる。
(新字新仮名) / 新美南吉(著)
成程帽子の下から長い髪の毛がみ出してはゐるが、それは音楽家がベエトオベンの頭を真似た自慢の髪の毛だつた。
たちは長い間、汽車にられて退屈たいくつしていた、母は、私がバナナをんでいる傍で経文をしながら、なみだしていた。
風琴と魚の町 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
就中なかんづく茶山は同じく阿部家の俸をむ身の上であるので、其まじはりが殊に深かつた。それゆゑ山陽は江戸に来たとき、本郷真砂町の伊沢の家で草鞋わらぢを脱いだ。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
「国に道が行われている時、仕えて祿ろくむのは恥ずべきことではない。しかし、国に道が行われていないのに、その祿を食むのは恥ずべきである。」
現代訳論語 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
丁度牛や馬の群れがずっと野の果ての方で草をんでいたので、彼女はそちらへ気を配りながら、思い切ってそれに近づけるだけ近づいて行って見た。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
書の全体は、甚だしく、変色し、処々は紙魚しみにさえまれている。従って、相当の年代を経たものと観察される。
京鹿子娘道成寺 (新字新仮名) / 酒井嘉七(著)
とう安禄山あんろくざんが乱をおこした時、張巡ちょうじゅん睢陽すいようを守って屈せず、城中の食尽きたので、彼はわが愛妾を殺して将士にましめ、城遂におちいって捕われたが
うりめば子等こども思ほゆ、くりめば況してしぬばゆ、何処いづくよりきたりしものぞ、眼交まなかひにもとなかかりて、安寝やすいさぬ」
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
自分は眼前の問題にとらわれてわれ知らず時間を費やした。来て見れば乳牛の近くに若者たちもいず、わが乳牛は多くは安臥してみ返しをやっておった。
水害雑録 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
妓輩の主人生時は貴人とを成すが、一旦命しゅうすれば最卑民中にすらとどまるを許されず、口に藁作りのたづなませ、死んだ時のままの衣服で町中引きずり
「功にましめて志に食ましめず」とは、「実地の仕事次第によりてこそ物をも与うべけれ、その心になんと思うとも形もなき人の心事をば賞すべからず」
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
森君は、余程奥の方にはいり込んだらしく、少しばかり外にみ出していた靴の先もやがて見えなくなった。
贋紙幣事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
日のあたる原のかたへに欅立ち、欅のかげに斑牛ひとり居りけり。繋がれてただねんねんと草みにけり。
その飢えにませたり食んだりする——ついでに言っておくが、恋というものにかぎって、食えば食うほど飢えを感ずるもので、恋の飽食ということは、結局
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
眼前にひろがる蒼茫そうぼうたる平原、かすれたようなコバルト色の空、懸垂直下けんすいちょっか、何百米かの切りたったがけの真下は、牧場とみえて、何百頭もの牛馬が草をんでいる。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
遠く廣く兩側はたゞ野原ばかりで、今は家畜もそこで草をんではゐない、そして時々生垣の間を飛びまはる小さな茶色の鳥が散り忘れた朽葉のやうに見えた。
が、その甲斐あって、慶応三年という頃になると、長男源介は、すでに二十歳に達してろく十九石をむ一人前の武士となり、長女アサも十八歳の娘盛りになった。
御萩と七種粥 (新字新仮名) / 河上肇(著)
春さきの小川の淀みの淵を覗いていると、いくつもふなが泳ぎ流れて来て、新茶のような青い水の中に尾鰭おひれひらめかしては、杭根くいねこけんで、また流れ去って行く。
(新字新仮名) / 岡本かの子(著)
……われわれの血にながれている伝統のちからは根づよい、父祖代々、幕府の扶持をんで来て、相恩の御しゅくんというものを観念の根本にもっているわれらは
菊屋敷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
しばしば田作りをみ荒らすを憎み、それを呪詛じゅそして無力ならしめようとするだけであるが、次のような発端の数句があって、それが是からの問題になるのである。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
小指の爪を一寸あまりも長く伸ばした老僧のてのひらは、其の奉書包みに全く掩はれつくして、包みがまだ兩方へみ出してゐたが、小指の爪の先きだけは少し見えてゐた。
ごりがん (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
都のちまたには影を没せる円太郎馬車の、寂然せきぜんと大道に傾きて、せたる馬の寒天さむぞらしてわらめり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
そのリズムはまるで、この大地の力が、草をむ牛のからだを通して、地殻の中から脈打っているというふうに思えるのである。むろん大地が牛を生んだのに相違ない。
乳と蜜の流れる地 (新字新仮名) / 笠信太郎(著)
幕府の禄をむということは有志家などから見るとよほど不思議に見えるけれども、そうでない。
笏はそう言って、足跡に蝟集あつまっているうじうじしている馬陸やすでを指さした。——馬陸は、足跡の輪廓の湿りを縫いながら、蠢乎しゅんことして或る異臭をみながら群れていた。
後の日の童子 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
空には晩春のようにまだ雲雀レルヘが鳴いている、しかしクーライエンは聞えなかった。牛も山羊もみなアルプへ追い上げられて、雪の消えた高原に山草をんでいるのだろう。