修道院の秋しゅうどういんのあき
「好いかよう……」 と、若い水夫の一人が、間延びのした太い聲で叫びながら船尾の纜を放すと、鈍い汽笛がまどろむやうに海面を掠めて、船は靜かに函館の舊棧橋を離れた。 港の上にはまだ冷冷とした朝靄が罩め渡つて、雨上りの秋空は憂ひ氣に暗んでゐた。騷 …