酒井嘉七（さかいかしち）
1903 〜 1946
著者としての作品一覧
ある完全犯罪人の手記（新字新仮名）
読書目安時間：約18分
○月○日 私はいつものように、まだ川の面や町全体に深い靄のかかっているうちに朝の散歩を急いだ。人に顔を見られることを、これほど嫌うようになったのも、精神的な病気が昂進しているためで …
京鹿子娘道成寺（新字新仮名）
読書目安時間：約50分
序 筆者が、最近、入手した古書に、「娘道成寺殺人事件」なるものがある。 記された事件の内容は、絢爛たる歌舞伎の舞台に、『京鹿子娘道成寺』の所作事を演じつつある名代役者が、蛇体に変じ …
静かな歩み（新字旧仮名）
読書目安時間：約13分
「あすの朝迄に一人殺して下さい。いゝですか。九時に報告に来て下さい。私は今晩ここで徹夜しますから朝までずつとゐます。報酬は先に渡しておきます。」 と、札束を机の上へ投げる音がする。 …
撮影所殺人事件（新字新仮名）
読書目安時間：約6分
あなたは、勿論、エキストラって御存じでしょう。——活動写真撮影のときに、臨時に雇われて、群衆になったりする——あれですよ。私は聖林にいる時分から、これが本職だったのです。私が千九百 …
空飛ぶ悪魔：――機上から投下された手記――（新字新仮名）
読書目安時間：約10分
「ボーイング単座機の失踪。 坂譲次氏は愛機、四十——年型ボーイング機Ｊ・Ｂ３Ａ５を駆って、昨十三日午後十時、大阪国際飛行場を離陸したまま、行方不明になった。 同機は最高速力毎時三百 …
ながうた勧進帳：（稽古屋殺人事件）（新字新仮名）
読書目安時間：約26分
師匠の名は杵屋花吉と申されました。年は二十三、まだ独身でございました。何んでも、七つか、八つの時から、長唄のお稽古を始められたのだそうでございまして、十七の春には、もう、立派な名取 …
両面競牡丹（新字新仮名）
読書目安時間：約25分
奈良坂やさゆり姫百合にりん咲き ——常磐津『両面月姿絵』 港の街とは申しますものの、あの辺りは、昔から代々うち続いた旧家が軒をならべた、静かな一角でございまして、ご商売屋さんと申し …