山之口貘
1903.09.11 〜 1963.07.19
著者としての作品一覧
あとの祭り(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
この間の朝、裏の井戸端へ顔を洗いに行くと、近所の人に出会したので、「おはようごさいます。」と、ぼくは挨拶した。すると、その人は、にこにこ顔をして、「今朝は、お早いですね。」と言った …
読書目安時間:約5分
この間の朝、裏の井戸端へ顔を洗いに行くと、近所の人に出会したので、「おはようごさいます。」と、ぼくは挨拶した。すると、その人は、にこにこ顔をして、「今朝は、お早いですね。」と言った …
雨あがり(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
その日、朝は、どしゃ降りなのであったが、午後になると、からりと晴れて、縁側に陽がさした。硝子戸を開け放って、ぼくは机を前にしていた。女房は、ぼくの傍で繕いものをしていた。木戸の風鈴 …
読書目安時間:約4分
その日、朝は、どしゃ降りなのであったが、午後になると、からりと晴れて、縁側に陽がさした。硝子戸を開け放って、ぼくは机を前にしていた。女房は、ぼくの傍で繕いものをしていた。木戸の風鈴 …
池袋の店(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
池袋は、いま、時々刻々に変貌しつつあるのだ。池袋駅東口には、すでに、西武百貨店がその巨体を構え、西口には、東横百貨店が控えているのであるが、東口にはさらに三越や伊勢丹の姿も現われる …
読書目安時間:約4分
池袋は、いま、時々刻々に変貌しつつあるのだ。池袋駅東口には、すでに、西武百貨店がその巨体を構え、西口には、東横百貨店が控えているのであるが、東口にはさらに三越や伊勢丹の姿も現われる …
沖縄帰郷始末記(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
三十五年ぶりで郷里に帰り、ついこのごろになって帰京した。 沖縄での滞在期間一ヵ月に限られているところの岸信介大臣の証明する身分証明を懐にして行ったのであるが、沖縄へ行ってみると、色 …
読書目安時間:約4分
三十五年ぶりで郷里に帰り、ついこのごろになって帰京した。 沖縄での滞在期間一ヵ月に限られているところの岸信介大臣の証明する身分証明を懐にして行ったのであるが、沖縄へ行ってみると、色 …
おきなわやまとぐち(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
おんなじ沖縄出身である旧知の男に出会したところ、かれはぼくに「あなたの放送を聞きましたよ」と言ったが、「しかしあなたの日本語はひどいもんですな、まるでおきなわやまとぐちのまる出しじ …
読書目安時間:約4分
おんなじ沖縄出身である旧知の男に出会したところ、かれはぼくに「あなたの放送を聞きましたよ」と言ったが、「しかしあなたの日本語はひどいもんですな、まるでおきなわやまとぐちのまる出しじ …
声をあげて泣く:――私の処女出版(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
かつて、「むらさき」という雑誌があった。国文学の関係の雑誌で、時々、ぼくの詩を載せてくれたが、編集長の小笹功氏のあっせんで、昭和十三年の八月に、詩集『思弁の苑』を出した。発行所は、 …
読書目安時間:約1分
かつて、「むらさき」という雑誌があった。国文学の関係の雑誌で、時々、ぼくの詩を載せてくれたが、編集長の小笹功氏のあっせんで、昭和十三年の八月に、詩集『思弁の苑』を出した。発行所は、 …
歳末の質屋:都内に約一八〇〇店(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
画家のK女史と記者のTさんとぼくとが、車に同乗。灯のついたばかりの師走の街のざわめきを縫って、城南のとある坂の上で車を止めた。ぼくらは坂の途中の電柱に掲げられている矢印の示す露地に …
読書目安時間:約4分
画家のK女史と記者のTさんとぼくとが、車に同乗。灯のついたばかりの師走の街のざわめきを縫って、城南のとある坂の上で車を止めた。ぼくらは坂の途中の電柱に掲げられている矢印の示す露地に …
質札(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
たまに、知らない人から手紙をもらったりすることがあるので、またかとおもって封を切ってみると、なかから出たのは「流質物御通知」なのであった。 「なにひとつ買って着せることも出来ないく …
読書目安時間:約4分
たまに、知らない人から手紙をもらったりすることがあるので、またかとおもって封を切ってみると、なかから出たのは「流質物御通知」なのであった。 「なにひとつ買って着せることも出来ないく …
自伝(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
本名山口重三郎。明治三十六年九月十一日沖縄の那覇の生れである。沖縄県立一中に学んだ。中学の二年生の頃、女性のことを気にするやうになつて、詩を書くことを覚え、詩にこるみたいに初恋にも …
読書目安時間:約4分
本名山口重三郎。明治三十六年九月十一日沖縄の那覇の生れである。沖縄県立一中に学んだ。中学の二年生の頃、女性のことを気にするやうになつて、詩を書くことを覚え、詩にこるみたいに初恋にも …
詩とはなにか(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
詩を書き出してから、すでに四十年に近いのであるが、さてしかし、詩とはなにかと来られると四十年の年月もぐらつくみたいで先ず、当惑をもって答えるしかないのである。ではなんのために詩を書 …
読書目安時間:約11分
詩を書き出してから、すでに四十年に近いのであるが、さてしかし、詩とはなにかと来られると四十年の年月もぐらつくみたいで先ず、当惑をもって答えるしかないのである。ではなんのために詩を書 …
酒友列伝(新字新仮名)
読書目安時間:約13分
十年を一昔とみれば、昔の昔の昔から、ぼくは酒を飲んで来たわけである。飲んで来た酒は主に泡盛で、生れが泡盛の産地の沖縄だからである。十三歳の時、十三祝いの日に酒を飲んで、千鳥足になっ …
読書目安時間:約13分
十年を一昔とみれば、昔の昔の昔から、ぼくは酒を飲んで来たわけである。飲んで来た酒は主に泡盛で、生れが泡盛の産地の沖縄だからである。十三歳の時、十三祝いの日に酒を飲んで、千鳥足になっ …
装幀の悩み(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
ぼくの最初の詩集『思弁の苑』を出版したのは、昭和十三年の八月である。当時は、神保町の巌松堂のなかに、むらさき出版部というのがあって、「むらさき」という雑誌を出していた。ぼくも頼まれ …
読書目安時間:約3分
ぼくの最初の詩集『思弁の苑』を出版したのは、昭和十三年の八月である。当時は、神保町の巌松堂のなかに、むらさき出版部というのがあって、「むらさき」という雑誌を出していた。ぼくも頼まれ …
宝くじ・その後:始めてから十三年(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
池袋のコーヒー店で、I氏を待っている間を、顔見知りの常連の人達が来るたびに、宝くじを買ったことがあるかどうかを一々たずねてみた。 貿易商のSさんは、時に買うことはあるが、当ったこと …
読書目安時間:約5分
池袋のコーヒー店で、I氏を待っている間を、顔見知りの常連の人達が来るたびに、宝くじを買ったことがあるかどうかを一々たずねてみた。 貿易商のSさんは、時に買うことはあるが、当ったこと …
ダルマ船日記(新字新仮名)
読書目安時間:約16分
眼を覚ましてみると、側に寝ていた筈の六さんの姿は見えなかった。 居候のくせに、なぜこうも寝坊するのであろうか。 桝のような船室から首を出して、甲板を見廻わすと、既に、七輪の薬罐が湯 …
読書目安時間:約16分
眼を覚ましてみると、側に寝ていた筈の六さんの姿は見えなかった。 居候のくせに、なぜこうも寝坊するのであろうか。 桝のような船室から首を出して、甲板を見廻わすと、既に、七輪の薬罐が湯 …
チャンプルー(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
このごろの泡盛屋では、琉球料理を食べさせるようになったので琉球出身のぼくなどにとっては何よりである。戦前の泡盛屋では、泡盛だけが琉球で、つまみものなどはほかの飯屋と変わらなかったが …
読書目安時間:約6分
このごろの泡盛屋では、琉球料理を食べさせるようになったので琉球出身のぼくなどにとっては何よりである。戦前の泡盛屋では、泡盛だけが琉球で、つまみものなどはほかの飯屋と変わらなかったが …
月見草(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
現在のところに住んで、まる六年になる。東京都練馬区なのであるが、山手線の池袋駅からは、私鉄で十五分くらいのところで、まだまだたんぼや畑など私鉄の窓からもながめられて、いわゆる武蔵野 …
読書目安時間:約3分
現在のところに住んで、まる六年になる。東京都練馬区なのであるが、山手線の池袋駅からは、私鉄で十五分くらいのところで、まだまだたんぼや畑など私鉄の窓からもながめられて、いわゆる武蔵野 …
つまり詩は亡びる(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
かつて、アンドレ・ジイドのソヴィエットへの関心を知るや否や、それを以て直ちに、赤化したアンドレ・ジイドと見なしたかのような観方をした人々が、日本の国にあったと記憶する。 彼等は、ジ …
読書目安時間:約5分
かつて、アンドレ・ジイドのソヴィエットへの関心を知るや否や、それを以て直ちに、赤化したアンドレ・ジイドと見なしたかのような観方をした人々が、日本の国にあったと記憶する。 彼等は、ジ …
梯梧の花(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
ぼくが、まだ、おっぱいをのんでいたころのある日のことである。母のおっぱいに吸いついたのであったが、すぐに、おっぱいを突っ放して、ぼくは泣き出してしまった。ぼくのことを離乳させるため …
読書目安時間:約5分
ぼくが、まだ、おっぱいをのんでいたころのある日のことである。母のおっぱいに吸いついたのであったが、すぐに、おっぱいを突っ放して、ぼくは泣き出してしまった。ぼくのことを離乳させるため …
夏向きの一夜(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
争えないもので、顔までがいつのまにやらそういう顔つきになってしまったのであろう。夜は云うまでもないが、昼間でも、街を歩いていると、ぼくはよくおまわりさんから誰何されたのである。それ …
読書目安時間:約4分
争えないもので、顔までがいつのまにやらそういう顔つきになってしまったのであろう。夜は云うまでもないが、昼間でも、街を歩いていると、ぼくはよくおまわりさんから誰何されたのである。それ …
野宿(新字新仮名)
読書目安時間:約16分
あとになって、きいたことなのであるが、ずっと前にそこに住んでいたうちの娘さんが、毒をのんで便所のなかで死んでいたという噂のある家なのである。近所のおかみさんの話によると、この家に引 …
読書目安時間:約16分
あとになって、きいたことなのであるが、ずっと前にそこに住んでいたうちの娘さんが、毒をのんで便所のなかで死んでいたという噂のある家なのである。近所のおかみさんの話によると、この家に引 …
初恋のやり直し(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
小学校の六年生になってからのこと、ぼくは机の前に座っていても、それは父や兄などの手前で、勉強しているふりをしているにすぎなかった。ある少女のことに気をとられていたからなのである。少 …
読書目安時間:約4分
小学校の六年生になってからのこと、ぼくは机の前に座っていても、それは父や兄などの手前で、勉強しているふりをしているにすぎなかった。ある少女のことに気をとられていたからなのである。少 …
貧乏を売る(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
この間のことである。蛇皮線の大家と云われている人が、東京を引揚げて沖縄へ帰ることになり、その送別会が催されたが、場を変えて二次会になり、新橋のある泡盛屋にぼくはいた。ぼくは二年ばか …
読書目安時間:約12分
この間のことである。蛇皮線の大家と云われている人が、東京を引揚げて沖縄へ帰ることになり、その送別会が催されたが、場を変えて二次会になり、新橋のある泡盛屋にぼくはいた。ぼくは二年ばか …
暴風への郷愁(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
郷里の沖縄から、上京したのは大正十一年の秋のことであったがその年の冬に、はじめて、ぼくは雪を見た。本郷台町の下宿屋の二階で、部屋の障子を開けっ放して、中庭に降りつもる雪の白さを、飽 …
読書目安時間:約4分
郷里の沖縄から、上京したのは大正十一年の秋のことであったがその年の冬に、はじめて、ぼくは雪を見た。本郷台町の下宿屋の二階で、部屋の障子を開けっ放して、中庭に降りつもる雪の白さを、飽 …
鮪に鰯(新字新仮名)
読書目安時間:約54分
これはおどろいたこの家にも テレビがあったのかいと来たのだが 食うのがやっとの家にだって テレビはあって結構じゃないかと言うと 貰ったのかいそれとも 買ったのかいと首をかしげるのだ …
読書目安時間:約54分
これはおどろいたこの家にも テレビがあったのかいと来たのだが 食うのがやっとの家にだって テレビはあって結構じゃないかと言うと 貰ったのかいそれとも 買ったのかいと首をかしげるのだ …
山之口貘詩集(旧字旧仮名)
読書目安時間:約39分
うしろを振りむくと 親である 親のうしろがその親である その親のそのまたうしろがまたその親の親であるといふやうに 親の親の親ばつかりが むかしの奧へとつづいてゐる まへを見ると ま …
読書目安時間:約39分
うしろを振りむくと 親である 親のうしろがその親である その親のそのまたうしろがまたその親の親であるといふやうに 親の親の親ばつかりが むかしの奧へとつづいてゐる まへを見ると ま …
楽になったという話(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
とにかく、靴も高くなった。にも拘わらず、僕は一足の新らしい靴を買ってしまったのである。僕の状態を知っている側の人に言われるまでもなく、身分には不想応な感じもするのであるが、十三円五 …
読書目安時間:約5分
とにかく、靴も高くなった。にも拘わらず、僕は一足の新らしい靴を買ってしまったのである。僕の状態を知っている側の人に言われるまでもなく、身分には不想応な感じもするのであるが、十三円五 …
私の青年時代(新字新仮名)
読書目安時間:約16分
人間は、生れてしばらくの間を赤ん坊と言われ、そのうちに幼年、少年、青年、壮年、老年という順を経て、墓場に永住することになるわけである。このなかで人間にとって一番の人気ある年代は青年 …
読書目安時間:約16分
人間は、生れてしばらくの間を赤ん坊と言われ、そのうちに幼年、少年、青年、壮年、老年という順を経て、墓場に永住することになるわけである。このなかで人間にとって一番の人気ある年代は青年 …
“山之口貘”について
山之口 貘(やまのくち ばく、1903年(明治36年)9月11日 - 1963年(昭和38年)7月19日)は、沖縄県那覇区(那覇市)東町大門前出身の詩人である。本名は、山口 重三郎(やまぐち じゅうさぶろう)。197編の詩を書き4冊の詩集を出した。
上京後、職を転々としながら放浪生活を送る。金子光晴の知己を得て詩誌「歴程」に参加。生活苦を風刺的にユーモアを交えてうたった。第1詩集『思弁の苑』(1938年)のほか、『鮪に鰯』(1964年)など。
(出典:Wikipedia)
上京後、職を転々としながら放浪生活を送る。金子光晴の知己を得て詩誌「歴程」に参加。生活苦を風刺的にユーモアを交えてうたった。第1詩集『思弁の苑』(1938年)のほか、『鮪に鰯』(1964年)など。
(出典:Wikipedia)
“山之口貘”と年代が近い著者
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木下利玄(没後100年)
富永太郎(没後100年)
エリザベス、アンナ・ゴルドン(没後100年)
徳永保之助(没後100年)
後藤謙太郎(没後100年)
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