“陥(は)” の例文
旧字:陷
とさ、斯う思って居る中に早や外から入口の戸を犇々(ひしひし)と締める音が聞こえる、サア大変だ。余は医学士に一ぱい陥(は)められた。
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
其の代り手前(てめえ)を横須賀へ女郎に陥(は)めて、己もそれだけ友達に顔向けの出来るようにしなければならねえ、覚悟しろ此の坊主太(ふて)え奴と、まア斯ういう訳になるのだ
私はこの死骸の堡塁の中で、曾ての中学時代に陥った記憶のある、あの虚無的な、底抜けの懐疑感の中へ今一度、こうして深々と陥(は)まり込んでしまったのであった。
戦場 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そないして、だんだん私は抜き差しならん深みい陥(は)まって行きましてんけど、「こいではいかん」思たところで、もうそうなったらどないすることも出来しません。
卍 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
あゝ失策だ! 出発点で! 何たる拙(まず)いこの狼〔狽〕! すっかり羂(わな)に陥(は)まったのだ。向ふは平然この動揺を看取する。早く自然を取り戻さう。一秒遅れゝば一秒の敗、山を想はう。
疑獄元兇 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
維新後は両刀を矢立(やたて)に替えて、朝夕算盤(そろばん)を弾(はじ)いては見たが、慣れぬ事とて初の内は損毛(そんもう)ばかり、今日に明日(あす)にと喰込(くいこん)で、果は借金の淵(ふち)に陥(は)まり、どうしようこうしようと足掻(あが)き踠(もが)いている内
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
ところで信乃がいよいよ明日は滸我(こが)へ旅立つという前晩、川狩へ行って蟇六(ひきろく)の詭計に陥(は)められて危(あぶ)なく川底へ沈められようとし、左母二郎(さもじろう)に宝刀を摩替(すりか)えられようとした神宮川(かにはがわ)というは古名であるか
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)