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匍
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は
ふりがな文庫
“
匍
(
は
)” の例文
こう云いながら、女は座敷の中央の四角な
紫檀
(
したん
)
の机へ身を靠せかけて、白い両腕を二匹の生き物のように、だらりと卓上に
匍
(
は
)
わせた。
秘密
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
と、それは
蝋引
(
ろうび
)
きのベル用の電線で、この天井裏を
匍
(
は
)
い廻っている電灯会社の第四種電線とは、全然別種のものであることが判明した。
電気風呂の怪死事件
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
妖精
(
えうせい
)
なんてヂキタリスの花や葉の間や
蕈
(
きのこ
)
のかげや、古壁の隅を
匍
(
は
)
つた
連錢草
(
れんせんさう
)
の下を探したけれど、どこにも見附からないので結局
ジエィン・エア:02 ジエィン・エア
(旧字旧仮名)
/
シャーロット・ブロンテ
(著)
棒同然な物で
大海
(
たいかい
)
を
乗切
(
のっき
)
るのでありますから、虫の
匍
(
は
)
うより遅く、そうかと思うと風の為に追返されますので、なか/\
捗取
(
はかど
)
りませぬ。
後の業平文治
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
春雨あがりの朝などに、軒づたいに土壁を
匍
(
は
)
う青い煙を眺めると、好い陽気に成って来たとは思うが、
食物
(
たべもの
)
の乏しいには閉口する。
千曲川のスケッチ
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
▼ もっと見る
幾たびも飛び出す樫鳥は、そんな私を、近くで見る大きな姿で脅かしながら、葉の落ちた
欅
(
けやき
)
や
楢
(
なら
)
の枝を
匍
(
は
)
うように渡って行った。
冬の蠅
(新字新仮名)
/
梶井基次郎
(著)
小作人たちは
其処
(
そこ
)
で再び彼等独有な、祖先伝来の永遠の労苦を訴へるやうな、地を
匍
(
は
)
ふやうに響く、
陰欝
(
いんうつ
)
な、退屈な
野良唄
(
のらうた
)
を唄ひ出した。
新らしき祖先
(新字旧仮名)
/
相馬泰三
(著)
同時に一時間八
浬
(
ノット
)
の
経済速度
(
エコノミカルスピード
)
の半運転を、モウ一つ半分に落したものだから、七千
噸
(
トン
)
の巨体が
蟻
(
あり
)
の
匍
(
は
)
うようにしか進まなかった。
難船小僧
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
さて、私は一人の
倭人
(
こびと
)
が、
雪山
(
せつざん
)
のように高い、白い白い破損紙の層を背に負って、この大伽藍の中を
匍
(
は
)
うように動き出したのにも驚いた。
フレップ・トリップ
(新字新仮名)
/
北原白秋
(著)
ボッ——と、まっ黒に
匍
(
は
)
い揚がった煙をくぐって、
乳母
(
うば
)
のおたみが、お綱がえぐり抜いた穴から、バタバタと逃げだしてきた。
鳴門秘帖:02 江戸の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
陽春三月の花の
天
(
そら
)
に
遽然
(
きよぜん
)
電光
閃
(
きら
)
めけるかとばかり眉打ち
顰
(
ひそ
)
めたる老紳士の
面
(
かほ
)
を、見るより早く
彼
(
か
)
の一客は、殆ど
匍
(
は
)
はんばかりに腰打ち
屈
(
かが
)
めつ
火の柱
(新字旧仮名)
/
木下尚江
(著)
いよいよこれらの写真から音もなく
匍
(
は
)
い出る妖しい波動に、シッカリと身動きも出来ぬほど固く、心を奪われてしまった。
魔像
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
老母が夜具の中から
匍
(
は
)
い出して何かと
横口
(
よこぐち
)
を入れる。夫、妻、いずれの方へ味方をしても同じ事、一場の争論に花が咲く。
監獄署の裏
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
剽盗
(
ひょうとう
)
か、それとも追手か。考える暇もなく激しく闘わねばならなかった。諸公子も侍臣等も大方は討たれ、それでも公は唯独り草に
匍
(
は
)
いつつ逃れた。
盈虚
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
雄吉が
手捕
(
てどり
)
にしてやると言いながら、そっと天幕の後から脱け出して、草叢を
匍
(
は
)
う蛇の如く忍び足で覗い寄りさま、
巧
(
たくみ
)
に八、九尺の距離まで近付くと
大井川奥山の話
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
それをめぐって、十本あまりの、抜きつれた刃が、低く低く、地を
匍
(
は
)
って来る毒蛇の舌のように、チラチラと、ひらめきながら、一瞬一瞬、迫って来る。
雪之丞変化
(新字新仮名)
/
三上於菟吉
(著)
そこでは水は泡こそたてなかつたがよく見ると縞のやうな流線を造つて速く流れてゐた。房一たちはその岩の背に
匍
(
は
)
ひ上つては水の中に滑り滑りしてゐた。
医師高間房一氏
(新字旧仮名)
/
田畑修一郎
(著)
その夜小田原の宿で泊ると、小さいぶつぶつの各々が虫の
匍
(
は
)
うような、いじりがゆさを与えた。彼はこれを幾度も掻いた。掻けば掻くほど、
痒
(
かゆ
)
さが増した。
船医の立場
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
だだっ広い家の踏めばぶよぶよと海のように思われる
室々
(
へやへや
)
の畳の上に
蛞蝓
(
なめくじ
)
の落ちて
匍
(
は
)
うようなことも多かった。
山の手の子
(新字新仮名)
/
水上滝太郎
(著)
するといくらか気が静まって来て、小粒に光りながら
緩
(
ゆる
)
んだ綴目の穴から出て本の背の角を
匍
(
は
)
ってさまよう
蠧魚
(
しみ
)
の
行衛
(
ゆくえ
)
に瞳を
捉
(
とら
)
えられ思わずそこへ
蹲
(
うずく
)
まった。
宝永噴火
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
ゴソゴソと
匍
(
は
)
っている景色が幻の様に目に浮かび、その
幽
(
かす
)
かな物音さえも聞える様で、私は俄に、そんな闇の中に一人でいるのが
怖
(
こ
)
わくなったのでございます。
人でなしの恋
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
軈
(
やが
)
て
今度
(
こんど
)
は、
愛
(
あい
)
ちやんが
其
(
そ
)
の
頭
(
あたま
)
を
下
(
した
)
へやり、
再
(
ふたゝ
)
び
始
(
はじ
)
めやうとすると
針鼠
(
はりねずみ
)
が、
自分
(
じぶん
)
を
仲間外
(
なかまはづ
)
れにしたと
云
(
い
)
つて
大
(
おほい
)
に
怒
(
いか
)
り、
將
(
まさ
)
に
匍
(
は
)
ひ
去
(
さ
)
らうとする
素振
(
そぶり
)
が
見
(
み
)
えました。
愛ちやんの夢物語
(旧字旧仮名)
/
ルイス・キャロル
(著)
「何だって、光線が下から
匍
(
は
)
い上がるんだろう。すっかり世の中が憂鬱になるような、光線じゃないか」
山谿に生くる人々:――生きる為に――
(新字新仮名)
/
葉山嘉樹
(著)
蟹はいかに縦に
匍
(
は
)
うことを理想としたとても、身体の性質がこれを許さねば致し方がない。それよりはいかに最もよく横に匍うべきかを研究したほうが利益が多い。
人道の正体
(新字新仮名)
/
丘浅次郎
(著)
僕は恐る恐るその上を渡つて行つたが、そこへ猛風が何ともいへぬ音をさせて吹いて来た。僕は転倒しかけた。うしろから歩いて来た父は、
茂吉
(
もきち
)
匍
(
は
)
へ。べたつと匍へ。
念珠集
(新字旧仮名)
/
斎藤茂吉
(著)
グロニャールは
短艇
(
ボート
)
の
傍
(
そば
)
に残って見張りの役を承わり、ルバリュは大通りに面した、新築の家の鉄門に張り込み、ルパンと二人の部下とは暗の中を
匍
(
は
)
って門口まで忍んだ。
水晶の栓
(新字新仮名)
/
モーリス・ルブラン
(著)
私は、手を合わせ、
匍
(
は
)
いつくばって私を拝まんばかりの大チャンが、よく理解できなかった。
軍国歌謡集
(新字新仮名)
/
山川方夫
(著)
手入などをあまりせぬ、蔓の
匍
(
は
)
うに任せた朝顔を描いた点は、この万乎の句と同じである。
古句を観る
(新字新仮名)
/
柴田宵曲
(著)
そんな雨がちょっと
小止
(
おや
)
みになり、峠の方が薄明るくなって、そのまま晴れ上るかと思うと、峠の向側からやっと
匍
(
は
)
い上って来たように見える
濃霧
(
のうむ
)
が、峠の上方一面にかぶさり
美しい村
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
いくつにも距てておる、私達は、ヘッスラーの意見で、ずっと右寄りに、グロース・ラウテラールホルンの方に近いクーロアールを登ってゆく、まるで蟻でも
匍
(
は
)
って行くように。
スウィス日記
(新字新仮名)
/
辻村伊助
(著)
悴
(
せがれ
)
がモー学校を卒業しましたから安心だというが学校を卒業したのは社会に対する
初声
(
うぶごえ
)
を
挙
(
あ
)
げたので、まだ
匍
(
は
)
う事も立つ事も出来ない人間を野放しに置かれて
溜
(
た
)
まるものでない。
食道楽:冬の巻
(新字新仮名)
/
村井弦斎
(著)
室生はまだ陶器の
外
(
ほか
)
にも庭を作ることを愛してゐる。石を据ゑたり、竹を植ゑたり、
叡山苔
(
ゑいざんごけ
)
を
匍
(
は
)
はせたり、池を掘つたり、
葡萄棚
(
ぶだうだな
)
を掛けたり、いろいろ手を入れるのを愛してゐる。
野人生計事
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
私がもたれている石垣の割れ目からひとりでに生れて来た子供のように、彼は私の肩に
匍
(
は
)
い上がって来る。私が石垣の続きだと思っているらしい。なるほど、私はじっとしている。
博物誌
(新字新仮名)
/
ジュール・ルナール
(著)
だから
匍
(
は
)
ひ出してくると飛び退いて、乾いた石の上に腰をおろし直した。それほど、あん子の成長はみづみづしく大きかつた。あん子は何時も癖になつてゐるおもちやを投げ棄てた。
神のない子
(旧字旧仮名)
/
室生犀星
(著)
スチームへ尻をあてがって新聞を読んでいた預金部長の
禿
(
はげ
)
は、眼鏡越しにギロリと彼女を覗き、直ぐに
不躾
(
ぶしつけ
)
を取り戻すかのように、めめずのような笑皺を泥色した唇の周りへ
匍
(
は
)
わせた。
罠を跳び越える女
(新字新仮名)
/
矢田津世子
(著)
海に臨んだ岡の
片岨
(
かたそば
)
に、
葛
(
くず
)
の葉の
匍
(
は
)
い渡った所は方々にあった。越後の海府なども汽車で夏通ると、山はこれ一色で杉も
槲
(
かしわ
)
も覆いつくし、深紅の葛の花ばかりが
抽
(
ぬ
)
け出して咲いている。
雪国の春
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
圭一郎は蒲團から
匍
(
は
)
ひ出たが、足がふら/\して
眩暈
(
めまひ
)
を感じ昏倒しさうだつた。
業苦
(旧字旧仮名)
/
嘉村礒多
(著)
やがてそれが終り、煙が地の上を低く
匍
(
は
)
って、すべてのものがその新しい傷口を吸う時になってみると個人は巨大な機構、機械時代の大組織の中に、冷たくその肌を密着していたのである。
美学入門
(新字新仮名)
/
中井正一
(著)
我が暮らす日の長く又重きことは、ダンテが地獄にて
負心
(
ふしん
)
の人の
被
(
き
)
るといふ
鍍金
(
めつき
)
したる鉛の上衣の如くなりき。夜に入れば、又我禁斷の果に
匍
(
は
)
ひ寄りて、その惡鬼に我妄想の罪を
數
(
せ
)
めらる。
即興詩人
(旧字旧仮名)
/
ハンス・クリスチャン・アンデルセン
(著)
何だか、ぬらぬらしたものが、彼の皮膚の上に
匍
(
は
)
いまわるような気がした。
謎の女
(新字新仮名)
/
平林初之輔
(著)
私は三十年このかた来る日も来る日も同じ時刻に
臥床
(
ふしど
)
を
匍
(
は
)
い出した。三十年このかた同じ料理屋へいって、同じ時刻に同じ料理を食った。ただ料理を運んで来るボーイが違っていただけである。
ある自殺者の手記
(新字新仮名)
/
ギ・ド・モーパッサン
(著)
この加速度的な生活の
目眩
(
めまぐ
)
ろしさは、人々が垂れこめて、深く思索にふける余裕を与えない。人々は我知らず、生活の苦しさから
匍
(
は
)
い出んとして、瞬間的な享楽を求める。街にはシネマがある。
大衆文芸作法
(新字新仮名)
/
直木三十五
(著)
出来上りましたのは一面に
匍
(
は
)
つた朝顔の花の青白く光つて透き通る美しさの限りもなく思はれる燈籠でした。その晩軒に吊して置きますと通る人で振返つて賞めて行かないものはない程でした。
私の生ひ立ち
(新字旧仮名)
/
与謝野晶子
(著)
それはまるで部屋じゅうを蛇が
匍
(
は
)
いまわっているような音であった。けれど眼をあげて見て彼はほっとした。というのは、懸時計が今まさに鳴り出そうとしているのだと気がついたからである。
死せる魂:01 または チチコフの遍歴 第一部 第一分冊
(新字新仮名)
/
ニコライ・ゴーゴリ
(著)
……天幕の後ろに博士の
匍
(
は
)
い出したあとがあるんです。コンパスやリュックサックもなくなっているし……。漁夫たちを追いかけて、隧道へ入って行ったのだとすると、われわれ全体の破滅です。
地底獣国
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
たべものの事ばかり気にしている。僕はこのごろ、一個の生活人になって来たのだ。地を
匍
(
は
)
う鳥になったのだ。天使の翼が、いつのまにやら無くなっていたのだ。じたばたしたって、はじまらぬ。
正義と微笑
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
汚れた壁に
匍
(
は
)
ひ付いた、
葡萄葉
(
ぶだうば
)
の、さやさやさやぐを聴いてゐた。
ランボオ詩集
(新字旧仮名)
/
ジャン・ニコラ・アルチュール・ランボー
(著)
ああ、わたしのほとりに
匍
(
は
)
ひよるみどりの椅子のささやきの小唄
藍色の蟇
(新字旧仮名)
/
大手拓次
(著)
そこへ、するすると
意地
(
いぢ
)
の
惡
(
わる
)
い
蚯蚓
(
みゝず
)
が
匍
(
は
)
ひだしてきました。
ちるちる・みちる
(旧字旧仮名)
/
山村暮鳥
(著)
地下工事の泥水の穴の中から
匍
(
は
)
い出して来たのだ。
赤兵の歌
(新字新仮名)
/
江森盛弥
(著)
匍
漢検1級
部首:⼓
9画
“匍”を含む語句
匍匐
腹匍
匍伏
匍上
蛇行匍匐
匍出
横匍
匍匐出
匍匐膝行
匍匐臥
匍廻
匍松
匍足類
匍這
四匍
進退匍匐廻