)” の例文
大手町で電車を降り、停留場前のバラック仮建築の内務省の門衛に訊き、砂利を踏んで這入はひつて、玄関で竹草履にきかへてゐると
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
その人が玄関からはいったら、そのあとに行って見るとものは一つ残らずそろえてあって、かさは傘で一隅いちぐうにちゃんと集めてあった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
迦羅奢の声音こわねは、次第に強いものに変って来た。忠興は、自分の愛が、彼女にきちがえられたかと、残念そうに唇をふるわせた。
うかすると自分のいてゐる草履がペツタ/\いふのに、飛上るやうに吃驚びつくりして冷汗ひやあせを出しながら、足の續く限り早足にあるいた。
水郷 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
藤次郎はお店の袢纒はんてんを着て、新しい麻裏をき、紺の匂ひをプンプンさせて居りました。おくやみかた/″\手傳ひに來たのでせう。
野狐禅やこぜん的に悟り顔をすることで、自ら得意としているのだからたまらない、畢竟ひっきょう彼等は、自然主義の精神をきちがえているのである。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
それに、小川をわたったり、草原を歩いたりすることは、何よりも好きなので、今日の遠足にも、ちゃんと牛の皮の深靴をいて来ていた。
黒縮緬くろちりめん羽織はおり唐繻子たうじゆすおびめ、小さい絹張きぬばり蝙蝠傘かうもりがさそばに置き、後丸あとまるののめりに本天ほんてん鼻緒はなをのすがつた駒下駄こまげたいた小粋こいき婦人ふじんが、女
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
身体より大きいひょうの生皮をかついで来る玀々ロロ族にも——纒足てんそくした女のく、小さな桃色の可愛らしい靴を売っている男にも——
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
そして外へ出る時庭に見馴みなれない綺麗な下駄を一足見付けた。彼は畳のような下駄だと思ってこうとすると、母は「これ。」と顎を引いた。
(新字新仮名) / 横光利一(著)
かみを長くしてみたり、赤い着物で外出したり、一本歯の下駄をいたりすることは、馬鹿でもやり得ることで、心の独立をあがめる値いはない。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
後向うしろむきにりてなほ鼻緒はなをこゝろつくすとせながら、なかば夢中むちう此下駄このげたいつまでかゝりてもけるやうにはらんともせざりき。
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
最後にあの乳母車うばぐるま! あれはつい四五日まへから、格子戸かうしどの中にあるやうになつた。見給へ、男女のき物の間におしやぶりも一つ落ちてゐるのを。
わが散文詩 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
粗末そまつきれ下衣したぎしかてゐないで、あしにはなにかず、落着おちついてゐて、べつおどろいたふうく、こちらを見上みあげた。
裏口の戸をガタピシとあけて、そこへ現われたのは、狩衣かりぎぬをつけて、わらはばき、藁靴をいた、五十ばかりの神主体かんぬしていの男。金剛杖を柱に立てかけて
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
かかとのまがった靴をいて、紫色のはかまを引きずって、髪を算盤珠そろばんだまのようにふくらまして勝手口から案内もわずにあがって来た。これは主人のめいである。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
なんでも、警察の方のお調べによると、旦那様のところへやって来た恐ろしいものは、明らかに、一人で、庭下駄をいて来たというのでございます。
幽霊妻 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
けれども、私の傍には厳然と、いささかも威儀を崩さず小坂氏がひかえているのだ。五分、十分、私は足袋と悪戦苦闘を続けた。やっと両方えた。
佳日 (新字新仮名) / 太宰治(著)
下には泥溝どぶ板が敷いてあった。私の下駄はその泥溝板に触れる度にがたがたと音がしたが、女は空気草履ぞうりでもいているのか、なんの音もしなかった。
妖影 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
……と見えたが、驚くことはない、実は金博士が右脚にいていた肉色の超長靴ちょうながぐつが、すぽんと抜けて、ゴンゴラ将軍の手に残っただけのことであった。
おそらくこの種の形を持つものは起原が古く、よく絵にある藤原鎌足ふじわらのかまたり公のかれているくつの形そのままであります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
いつのことだったか、雨が降りそうな日に、私と私の細君とが公設市場の近くまで来た時、理髪屋の前で細君がころんだ、高い歯の下駄げたいていたのだ。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
もっとも新しい下駄でさえきづらいものであるから、新しい物理器械がそう簡単に働いてくれるはずはない。
原子爆弾雑話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
ねえ支倉君、これ以上論ずる問題はないと思うが、ただただ憐憫れんびんを覚えるのは、伸子に操られて鞠沓まりぐつかせられ、具足まで着せられた暗愚な易介なんだよ
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
肩がって、坐り続けた両腿がだるく張った感じだった。道子は立上って廊下を歩き出した。そのまま玄関で下駄をくと、冬晴れの午後の戸外へ出てみた。
快走 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
翌朝久し振りで足駄を買っていてみると、これがまた妙にぎごちないものであった。そして春田のような泥濘ぬかるみの町を骨を折って歩かなければならなかった。
電車と風呂 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
それにえあたしゃそこらにてた、れた草鞋わらじもおんなじような、水茶屋みずぢゃや茶汲ちゃくむすめ百夜ももよみちかよったとて、おまえって、昔話むかしばなしもかなうまい。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
小さい時からお乳母日傘んばひがらかさで大きくなったのは申すまでもありません、祖母の小さい時の、記憶の一つだと云う事ですが、お正月か何かの宮参りにいた木履ぽっくり
ある恋の話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
素足すあしも、野暮な足袋たびほしき、寒さもつらや」といいながら、江戸芸者は冬も素足をならいとした。粋者すいしゃの間にはそれを真似まねて足袋をかない者も多かったという。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
「わたくしは、まだ、わが手で、自分のきものを、揃えたことがありませぬ。かご屋、はき物を——」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
栄養栄養と、この流行に災いされ、栄養薬を食って栄養食の生活なりと、き違えをしているらしい。
味覚馬鹿 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
その日、彼は、お芳にもらった靴をわざわざいて行くことにしたが、靴はまだ十分に新しかった。
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
一人いちにんは黒の中折帽のつば目深まぶか引下ひきおろし、鼠色ねずみいろの毛糸の衿巻えりまきに半面をつつみ、黒キャリコの紋付の羽織の下に紀州ネルの下穿したばき高々と尻褰しりからげして、黒足袋くろたびに木裏の雪踏せつた
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
山裾の小川沿いに、正面の街道から、田のあぜづたいに、敵が近づいてきた。だん袋をいて、陣笠をかむり、兵児帯へこおびに、刀を差して、肩から白い包を背負った兵であった。
近藤勇と科学 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
まず彼女は、白繻子しろじゅすの訪問服の上から木鼠きねずみの毛皮外套を着て、そして、スキイをいた。帽子には、驚くべきアネモネのぬいとりがあった。耳環みみわ真珠の母マザア・オヴ・パアルの心臓形だった。
踊る地平線:11 白い謝肉祭 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
もっともこれをき違えるようなら庶務課長は勤まらない。三味線がまぎれのない註釈を加えている。
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
小袖からはさびしい山道を一里ばかりも離れていたが、冬になると雪がひどいので、男の子も女の子も竹の皮でこしらえた靴見たいな物をいて、手拭てぬぐいですっぽりと頬冠ほおかむりをして
大きいと言えばすぐに長さ三尺の四尺のと書かなければ承知せぬが、かりにこれに相応するような大足の持主があるにしても、そんな物をいて山の中があるけたものでない。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
今しも石垣いしがきの岸から二人の潜水夫が異様な甲冑かつちうを頭にすつぽり冠つて、だぶ/\の潜水服を着て、便器のやうな形の大きい靴をきながら船渠の底へもぐらうとしてゐる所だつた。
ある職工の手記 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
謙虚についてもきちがいはありませんから御安心下さい。自らを大切にし尊ぶことから生じる自重のみが謙虚への本道です。相対的に世俗的にへりくだることではないのだから。
が乗客はまだいずれも雪国らしいぎょうさんな風姿なりをしている。藁沓わらぐついて、綿ネルの布切で首から頭から包んだり、綿の厚くはいった紺の雪袴もんぺ穿いたり——女も——していた。
贋物 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
御存じでせう、其穢多は今でも町はづれに一団ひとかたまりに成つて居て、皆さんの麻裏あさうらつくつたり、靴や太鼓や三味線等をこしらへたり、あるものは又お百姓して生活くらしを立てゝ居るといふことを。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
午食を使って間もなく、踏みぬいた草鞋わらじきかえた。次第にばまり細くなる流れを逆にさかのぼっていた。この尾根を越えてしまえば目ざしている土地に出ることが出来るであろう。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
これも平生へいぜい下駄げたをはいたものでありませうが、この時分じぶんひとおほくは草履ぞうり草鞋わらぢのほかにかはつくつたくつき、またこんなかたち下駄げたあめふりなどにはいてゐたことがわかります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
そして長靴を軍靴にき換えた。網扉を押すとき、彼は部屋の様子を記憶に刻み込むようにも一度しげしげと振り返った。脱ぎ捨てられた長靴は、ひとつは立ちひとつは床にたおれていた。
日の果て (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
赤靴をき頭髪を分けをり年頃二十六、七歳位運転手風の好男子なり、男の黒つぽき外套がいとうのかくしと女のお召コートのたもとには各々遺書一通あり、なお女のコートの袂には白鞘しろさやの短刀をかくしあり。
芳川鎌子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「ええ、星田さんのいてらっしゃるのと、同じ型の靴です。恐ろしい男はその靴を履いて、京子さんの死体を鎌倉の二階家に運んだのです。ですから、星田さんと同じ靴跡がついていた——」
この靴を逆さまにいて追う者の眼をごまかし無難に逃げおおせるという事よくあるやつで、『義経記』五の六章に、義経吉野を落る時、弁慶誰も命惜しくば靴をさかしまに履きて落ちたまえと勧め
「草履は此處にございます、血が附いて居りますが、新らしい草履で、若旦那はこれをいて逃出す氣だつたに違ひありません」
『パーシウス、いてごらん、』とクイックシルヴァが言いました。『これから先の道中、君はいくらでも望み通り足が軽くなるだろう。』