)” の例文
たかが熊本君ごときに、酒を飲む人の話は、信用できませんからね、と憫笑を以て言われても、私には、すぐにね返す言葉が無い。
乞食学生 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ね返す力がないわけではないのに、ひつきりなしに先手を打たれるのは、必ずしも年齢の差によるものとばかりは思はれなかつた。
双面神 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
うずを巻いている処、波状はじょうになった処、ねた処、ぴったりと引っいた処と、その毛並みの趣が、一々実物の趣が現わされている。
今の場合、自分は、認定で送れるのだと云われても、ただ常識で、そんな不合理なことがあるか! とねかえすばかりなのであった。
刻々 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
彼らの身体からだに、そのときあつい血がきあがって来た。じかれたようにとび出したのは阿賀妻であった。彼は流れの中に駈けこんだ。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
薪割りから水汲みと、越後から来た飯炊男めしたきおとこのように実を運んでも、笹の雪、しなうと見せて肝腎なところへくるとポンとねかえす。
盛り上がる古桐の長い胴に、あざやかに眼をませと、への字に渡す糸の数々を、幾度か抑えて、幾度かねた。曲はたしか小督こごうであった。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それが今、手が柄に掛ると同瞬どうしゅん、そのままね上げればいいのだ。刀は、みずから糸を断ち、羽織のすそを潜って、眼前に躍り出る。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「いいえ、孔子様だけ。孔子様が右の手をこんな風に握つて、小指をこんなにねてゐます。」と、言つて、学校へ行きました。
愚助大和尚 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
兄にも妹にもね付けられて、内田は失望した。その失望から彼は根もないことを捏造ねつぞうして、赤座兄妹を傷つけようとたくらんだ。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それに若い時、ね火で怪我けがをしたとかいうことで、右の一眼がつぶれているため、その片目の人相が、いかにも一くせありげに見られる。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
をとこすそ見出みだししかば、ものをもはず一嘴ひとくちばし引咬ひつくはへてばせば、美少年びせうねんはもんどりつて、天上てんじやう舞上まひあがり、雲雀ひばり姿すがたもなかりしとぞ。
妙齢 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
私はいつの間にか新橋を渡り、芝口の通りを真っ直ぐにぴちゃぴちゃ泥をね上げながら金杉橋の方まで歩いてしまいました。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
度々来ているうち、その事もなげな様子と、それから人の気先をね返す颯爽さっそうとした若い気分が、いつの間にか老妓の手頃な言葉がたきとなった。
老妓抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「女ではない、力のある男だ。お吉ほどの丈夫さうな女が、死物狂ひになつても、下から風呂の蓋をね上げられないほどの力のある人間だ」
脱ぎしをとってまたすれば、よけいな世話を焼かずとよし、腹掛け着せい、これは要らぬ、と利く右の手にてね退くる。
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
蛇が動き出して、客間の軒へ移りましたので、棒を入れてねましたら、ばたりと庭へ落ちました。それは一間足らずの青大将だったのです。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
わたしはむろん、きっぱりとねつけました。すると、『きさまじゃ分からん、直接西村に談判するんだ。それで承知しなきゃ殴り殺してやる』
五階の窓:03 合作の三 (新字新仮名) / 森下雨村(著)
種吉は、娘の頼みをねつけるというわけではないが、別れる気の先方へ行って下手へたに顔見られたら、どんな目で見られるかも知れぬと断った。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
染八の首級くびは、碇綱いかりづなのように下がっている釣瓶つるべの縄に添い、落ちて来たが、地面へ届かない以前まえに消えてしまった。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一息に語りつづけてしまった弁信の長物語に、抑えつけていた者もあきれたらしいが、言葉が途切れると急にね返って
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しかし、彼は三度の入学試験に、三度ともねられた。今の彼の心には、田園生活がとぐろを巻いているのであった。
土竜 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
怒牛角をひらめかして馬でも人でも突き刺し、ね上げて、その落ちて来るのを待って角に懸けて振り廻す——こう言った、馬血人血淋漓りんりたるところが
別れの座なりを二つ三つ交わした後上り口まで行った助五郎は、ずかずかと引っ返して来て、何を思ったものか矢庭にお神棚の下の風呂敷をね退けた。
助五郎余罪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
そこへまた、なにかみなりのやうに怒鳴どなこえがしたかとおもふと、小牛こうしほどもあるかたこほりかたまりがピユーツとちてきて、真向まつこうからラランのからだをばした。
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
ねる音すなわち「ン」で表わす音とか、つまる音、すなわち促音そくおん、そういうものが現れるようになったのは
古代国語の音韻に就いて (新字新仮名) / 橋本進吉(著)
太子のあの気性で手酷てひどね付けて、もしこれ以上の圧迫でも太子の身に加わるようなことがあってはと、二人ともそれをひどく案じ切っているのであった。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
「露助……それよりも僕は猫みたいな氣がしたぜ、眼が變に光つて、髭がぴんと横つちよにねてて……」
猫又先生 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
女房が何かねだると、末造はいつも「馬鹿を言うな、手前なんぞは己とは違う、己は附合があるから、為方なしにしているのだ」と云ってね附けたのである。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
くさむらの中からぬっとり出して来て笠をけ、脇差わきざしを抜いて見得を切るあの顔そっくり。その顔で癇癪玉かんしゃくだまを破裂させるのだから、たいがいの者がぴりぴりした。
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
機敏に眼を働かして、品物をる指の怪しげな働き方を監視し、いざとなれば、素早く、意地のきたないはえを追うように、その指を退けようと身構えている。
仙台河岸へ船をもやって一服ってると、船の中へザブリと水が跳ね込んだから、何だと思って苫をねて向うを見ると、頭巾を冠った侍がなげえのを引抜ひっこぬいて立って
蝋燭の火は元宵げんしょう(正月)の晩のようにパチパチとほとばしったが、彼の思想も火のように撥ね迸った。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
私ははじめて見る藁屋根や、破れた土壁や、ぎりぎり音のする釣瓶つるべなどがひどく気にいつて伯母さんとそこへ菓子を買ひにゆくのが大きな楽しみのひとつになつた。
銀の匙 (新字旧仮名) / 中勘助(著)
そして、ホールの人人のサッと裂け開いた中へ流れ込むと、時を移さず急調子に鳴りひびいたバンドに合せ、踊りねる小鹿の群れのような新鮮な姿態で踊りつづけた。
罌粟の中 (新字新仮名) / 横光利一(著)
「や、かえるな。いよいよ去るな」と、善吉はね起きて障子を開けようとして、「またお梅にでもめッけられちゃア外見きまりが悪いな」と、障子の破隙やぶれからしばらく覗いて
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
あいちやんはれは奇妙きめうだとおもつて、近寄ちかよつてじつてゐますと、やがて其中そのなか一人ひとりふことには、『をおけよ、なんだね、五點フアイブ!こんなにわたし顏料ゑのぐねかして!』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
その雨の音をねのけるように、空色の壁の向うでは、今もまた赤児あかごが泣き続けている。………
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
私は、リード夫人の指圖した部屋の中へ連れ込まれて、腰掛こしかけの上へ投げ出されてゐた。私は、盲動的に、バネのやうにね起きようとしたが、二組の手がすぐ取り押へた。
どういうね方がおもしろいとか、そのほか筆に力を入れるとか入れないとか、太いとか細いとか、そういった外観を飾る技術工作が一番重大事件のように考えられて来る。
現代能書批評 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
皆無言で、そして泥汁どろね上げぬ樣に、極めて靜々と、一足毎に氣を配つて歩いて居るのだ。兩側の屋根、低い家には、時に十何年前の同窓であつた男の見える事がある。
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
更紗さらさ掻巻かいまきねて、毛布をかけた敷布団の上に胡座あぐらを掻いたのは主の新造で、年は三十前後、キリリとした目鼻立ちの、どこかイナセには出来ていても、真青な色をして
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
爺さんの言ふのでは、これまで女に申込むで、一度だつてねつけられた事は無かつた。もしか今度のはなしがうまくまとまれば、ちやうど十五度目の結婚になる訳だつたのださうだ。
自動車は、また、八寸置きに布片の目じるしをくゝりつけた田植縄の代りに木製の新案特許のわくを持って来た。釣瓶つるべはポンプになった。浮塵子うんかがわくと白熱燈が使われた。
浮動する地価 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
その上に密生してむらがっている細かい枝までがこの木特有の癖を見せて、屈曲して垂れさがり、そのさきを一せいにねあげる。柘榴の木立こだちの姿はそういうところに、魅力がある。
国際通りへ出ると、折から国際劇場の松竹少女歌劇の昼の部がねたところらしく、そのお客らしい華やかな少女の群が舗道をいっぱいに埋めて、田原町の方へと流れて行く。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
鍬は音を立てないように、しかしめまぐるしく、まだ固まり切らない墓土をね返した。
死屍を食う男 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
つづいて、水をね返して逃出す音が、忍び笑いの声と交って聞え、それが静まると、また元の静寂に返った。疲れているので、午後の水浴をしている娘どもにからかう気も起らない。
それらの無数に起伏して異った中心を作る諸性が互にたすけ合い、埋め合せ、もしくは互にね返し、闘争して、不断の流転を続けることに由って私の自我は成長し、私の生活は開展する。
母性偏重を排す (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
一男にもこれというあてはなかったけれども、わざとかえすように彼は答えた。
秋空晴れて (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)