織田作之助
1913.10.26 〜 1947.01.10
“織田作之助”に特徴的な語句
女
私
泛
莫迦
翌
掴
落語家
赧
節約
喋
私
恨
苦
嬉
午
渡御
流行
和尚
如何
歪
構
坊
生国魂
嗤
訊
戎橋
佇
撲
雇
女子
貰
娘
呆
覗
随
弾
憂鬱
挨拶
揉
握
界隈
祀
睨
脆
眇眼
白粉
癪
浴衣
母
襁褓
著者としての作品一覧
秋の暈(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
秋という字の下に心をつけて、愁と読ませるのは、誰がそうしたのか、いみじくも考えたと思う。まことにもの想う人は、季節の移りかわりを敏感に感ずるなかにも、わけていわゆる秋のけはいの立ち …
読書目安時間:約4分
秋という字の下に心をつけて、愁と読ませるのは、誰がそうしたのか、いみじくも考えたと思う。まことにもの想う人は、季節の移りかわりを敏感に感ずるなかにも、わけていわゆる秋のけはいの立ち …
秋深き(新字新仮名)
読書目安時間:約27分
医者に診せると、やはり肺がわるいと言った。転地した方がよかろうということだった。温泉へ行くことにした。 汽車の時間を勘ちがいしたらしく、真夜なかに着いた。駅に降り立つと、くろぐろと …
読書目安時間:約27分
医者に診せると、やはり肺がわるいと言った。転地した方がよかろうということだった。温泉へ行くことにした。 汽車の時間を勘ちがいしたらしく、真夜なかに着いた。駅に降り立つと、くろぐろと …
アド・バルーン(新字新仮名)
読書目安時間:約55分
その時、私には六十三銭しか持ち合せがなかったのです。 十銭白銅六つ一銭銅貨三つ。それだけを握って、大阪から東京まで線路伝いに歩いて行こうと思ったのでした。思えば正気の沙汰ではない。 …
読書目安時間:約55分
その時、私には六十三銭しか持ち合せがなかったのです。 十銭白銅六つ一銭銅貨三つ。それだけを握って、大阪から東京まで線路伝いに歩いて行こうと思ったのでした。思えば正気の沙汰ではない。 …
雨(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間1分
歳月が流れ、お君は植物のように成長した。一日の時間を短いと思ったことも、また長いと思ったこともない。終日牛のように働いて、泣きたい時に泣いた。人に隠れてこっそり泣くというのでなく、 …
読書目安時間:約1時間1分
歳月が流れ、お君は植物のように成長した。一日の時間を短いと思ったことも、また長いと思ったこともない。終日牛のように働いて、泣きたい時に泣いた。人に隠れてこっそり泣くというのでなく、 …
雨(新字新仮名)
読書目安時間:約45分
子供のときから何かといえば跣足になりたがった。冬でも足袋をはかず、夏はむろん、洗濯などするときは決っていそいそと下駄をぬいだ。共同水道場の漆喰の上を跣足のままペタペタと踏んで、ああ …
読書目安時間:約45分
子供のときから何かといえば跣足になりたがった。冬でも足袋をはかず、夏はむろん、洗濯などするときは決っていそいそと下駄をぬいだ。共同水道場の漆喰の上を跣足のままペタペタと踏んで、ああ …
馬地獄(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
東より順に大江橋、渡辺橋、田簑橋、そして船玉江橋まで来ると、橋の感じがにわかに見すぼらしい。橋のたもとに、ずり落ちたような感じに薄汚い大衆喫茶店兼飯屋がある。その地下室はもとどこか …
読書目安時間:約4分
東より順に大江橋、渡辺橋、田簑橋、そして船玉江橋まで来ると、橋の感じがにわかに見すぼらしい。橋のたもとに、ずり落ちたような感じに薄汚い大衆喫茶店兼飯屋がある。その地下室はもとどこか …
大阪の可能性(新字新仮名)
読書目安時間:約15分
大阪は「だす」であり、京都は「どす」である。大阪から京都へ行く途中、山崎あたりへ来ると、急に気温が下って、ああ京都へはいったんだなと感ずるという意味の谷崎潤一郎氏の文章を、どこかで …
読書目安時間:約15分
大阪は「だす」であり、京都は「どす」である。大阪から京都へ行く途中、山崎あたりへ来ると、急に気温が下って、ああ京都へはいったんだなと感ずるという意味の谷崎潤一郎氏の文章を、どこかで …
大阪の憂鬱(新字新仮名)
読書目安時間:約14分
またしても大阪の話である。が、大阪の話は書きにくい。大阪の最近のことで書きたいような愉快な話は殆んどない。よしんばあっても、さし障りがあって書けない。 「音に聴く大阪の闇市風景」な …
読書目安時間:約14分
またしても大阪の話である。が、大阪の話は書きにくい。大阪の最近のことで書きたいような愉快な話は殆んどない。よしんばあっても、さし障りがあって書けない。 「音に聴く大阪の闇市風景」な …
大阪発見(新字新仮名)
読書目安時間:約17分
年中夫婦喧嘩をしているのである。それも仲が良過ぎてのことならとにかく、根っから夫婦一緒に出歩いたことのない水臭い仲で、お互いよくよく毛嫌いして、それでもたまに大将が御寮人さんに肩を …
読書目安時間:約17分
年中夫婦喧嘩をしているのである。それも仲が良過ぎてのことならとにかく、根っから夫婦一緒に出歩いたことのない水臭い仲で、お互いよくよく毛嫌いして、それでもたまに大将が御寮人さんに肩を …
鬼(新字新仮名)
読書目安時間:約14分
はじめのうち私は辻十吉のような男がなぜそんなに貧乏しなければならぬのか、不思議でならなかった。 人は皆彼のことを大阪人だと言っている。大阪生れだという意味ではない。金銭にかけると抜 …
読書目安時間:約14分
はじめのうち私は辻十吉のような男がなぜそんなに貧乏しなければならぬのか、不思議でならなかった。 人は皆彼のことを大阪人だと言っている。大阪生れだという意味ではない。金銭にかけると抜 …
可能性の文学(新字新仮名)
読書目安時間:約37分
坂田三吉が死んだ。今年の七月、享年七十七歳であった。大阪には異色ある人物は多いが、もはや坂田三吉のような風変りな人物は出ないであろう。奇行、珍癖の横紙破りが多い将棋界でも、坂田は最 …
読書目安時間:約37分
坂田三吉が死んだ。今年の七月、享年七十七歳であった。大阪には異色ある人物は多いが、もはや坂田三吉のような風変りな人物は出ないであろう。奇行、珍癖の横紙破りが多い将棋界でも、坂田は最 …
髪(新字新仮名)
読書目安時間:約17分
マルセル・パニョルの「マリウス」という芝居に、ピコアゾーという妙な名前の乞食が出て来るが、この人物はトガキによれば「この男年がない」ということになっている。若いのか年寄りなのかわか …
読書目安時間:約17分
マルセル・パニョルの「マリウス」という芝居に、ピコアゾーという妙な名前の乞食が出て来るが、この人物はトガキによれば「この男年がない」ということになっている。若いのか年寄りなのかわか …
蚊帳(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
彼の家は池の前にあった。蚊が多かった。 新婚の夜、彼は妻と二人で蚊帳を釣った。永い恋仲だったのだ。蚊帳の中で螢を飛ばした。妻の白い体の上を、スイスイと青い灯があえかに飛んだ。 痩せ …
読書目安時間:約6分
彼の家は池の前にあった。蚊が多かった。 新婚の夜、彼は妻と二人で蚊帳を釣った。永い恋仲だったのだ。蚊帳の中で螢を飛ばした。妻の白い体の上を、スイスイと青い灯があえかに飛んだ。 痩せ …
勧善懲悪(新字新仮名)
読書目安時間:約59分
ざまあ見ろ。 可哀相に到頭落ちぶれてしまったね。報いが来たんだよ。良い気味だ。 この寒空に縮の単衣をそれも念入りに二枚も着込んで、……二円貸してくれ。見れば、お前じゃないか。……声 …
読書目安時間:約59分
ざまあ見ろ。 可哀相に到頭落ちぶれてしまったね。報いが来たんだよ。良い気味だ。 この寒空に縮の単衣をそれも念入りに二枚も着込んで、……二円貸してくれ。見れば、お前じゃないか。……声 …
昨日・今日・明日(新字新仮名)
読書目安時間:約25分
当時の言い方に従えば、○○県の○○海岸にある第○○高射砲隊のイ隊長は、連日酒をくらって、部下を相手にくだを巻き、○○名の部下は一人残らず軍隊ぎらいになってしまった。 彼は蓄音機とい …
読書目安時間:約25分
当時の言い方に従えば、○○県の○○海岸にある第○○高射砲隊のイ隊長は、連日酒をくらって、部下を相手にくだを巻き、○○名の部下は一人残らず軍隊ぎらいになってしまった。 彼は蓄音機とい …
木の都(新字旧仮名)
読書目安時間:約18分
大阪は木のない都だといはれてゐるが、しかし私の幼時の記憶は不思議に木と結びついてゐる。 それは生国魂神社の境内の、巳さんが棲んでゐるといはれて怖くて近寄れなかつた樟の老木であつたり …
読書目安時間:約18分
大阪は木のない都だといはれてゐるが、しかし私の幼時の記憶は不思議に木と結びついてゐる。 それは生国魂神社の境内の、巳さんが棲んでゐるといはれて怖くて近寄れなかつた樟の老木であつたり …
郷愁(新字新仮名)
読書目安時間:約17分
夜の八時を過ぎると駅員が帰ってしまうので、改札口は真っ暗だ。 大阪行のプラットホームにぽつんと一つ裸電燈を残したほか、すっかり灯を消してしまっている。いつもは点っている筈の向い側の …
読書目安時間:約17分
夜の八時を過ぎると駅員が帰ってしまうので、改札口は真っ暗だ。 大阪行のプラットホームにぽつんと一つ裸電燈を残したほか、すっかり灯を消してしまっている。いつもは点っている筈の向い側の …
経験派(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
彼は小説家だった。下手な小説家だった。その証拠に実感を尊重しすぎた。 彼は掏摸の小説を構想した。が、どうも不安なので、掏摸の顔を見たさに、町へ出た。 ところが、一人も掏摸らしい男に …
読書目安時間:約1分
彼は小説家だった。下手な小説家だった。その証拠に実感を尊重しすぎた。 彼は掏摸の小説を構想した。が、どうも不安なので、掏摸の顔を見たさに、町へ出た。 ところが、一人も掏摸らしい男に …
競馬(新字新仮名)
読書目安時間:約25分
朝からどんより曇っていたが、雨にはならず、低い雲が陰気に垂れた競馬場を黒い秋風が黒く走っていた。午後になると急に暗さが増して行った。しぜん人も馬も重苦しい気持に沈んでしまいそうだっ …
読書目安時間:約25分
朝からどんより曇っていたが、雨にはならず、低い雲が陰気に垂れた競馬場を黒い秋風が黒く走っていた。午後になると急に暗さが増して行った。しぜん人も馬も重苦しい気持に沈んでしまいそうだっ …
好奇心(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
殺された娘、美人、すくなくとも新聞の上では。それが宮枝には心外だ。宮枝はその娘を知っている。醜い娘、おかめという綽名だ。 あたしの方がきれいだ。あたしの方が口が小さい。おかめなんて …
読書目安時間:約2分
殺された娘、美人、すくなくとも新聞の上では。それが宮枝には心外だ。宮枝はその娘を知っている。醜い娘、おかめという綽名だ。 あたしの方がきれいだ。あたしの方が口が小さい。おかめなんて …
婚期はずれ(新字新仮名)
読書目安時間:約17分
友恵堂の最中が十個もはいっていた。それが五百袋も配られたので、葬礼の道供養にしては近ごろよくも張り込んだものだと、随分近所の評判になった。いよいよ配る段になると、聞き伝えて十町遠方 …
読書目安時間:約17分
友恵堂の最中が十個もはいっていた。それが五百袋も配られたので、葬礼の道供養にしては近ごろよくも張り込んだものだと、随分近所の評判になった。いよいよ配る段になると、聞き伝えて十町遠方 …
猿飛佐助(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間2分
千曲川に河童が棲んでいた昔の話である。 この河童の尻が、数え年二百歳か三百歳という未だうら若い青さに痩せていた頃、嘘八百と出鱈目仙(千)人で狐狸かためた新手村では、信州にかくれもな …
読書目安時間:約1時間2分
千曲川に河童が棲んでいた昔の話である。 この河童の尻が、数え年二百歳か三百歳という未だうら若い青さに痩せていた頃、嘘八百と出鱈目仙(千)人で狐狸かためた新手村では、信州にかくれもな …
四月馬鹿(新字新仮名)
読書目安時間:約22分
はしがき 武田さんのことを書く。 ——というこの書出しは、実は武田さんの真似である。 武田さんは外地より帰って間もなく「弥生さん」という題の小説を書いた。その小説の書出しの一行を読 …
読書目安時間:約22分
はしがき 武田さんのことを書く。 ——というこの書出しは、実は武田さんの真似である。 武田さんは外地より帰って間もなく「弥生さん」という題の小説を書いた。その小説の書出しの一行を読 …
実感(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
文子は十七の歳から温泉小町といわれたが、 「日本の男はみんな嘘つきで無節操だ。……」 だからお前の亭主には出来ん——という父親の言落を素直にきいているうちにいつか二十九歳の老嬢にな …
読書目安時間:約1分
文子は十七の歳から温泉小町といわれたが、 「日本の男はみんな嘘つきで無節操だ。……」 だからお前の亭主には出来ん——という父親の言落を素直にきいているうちにいつか二十九歳の老嬢にな …
終戦前後(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
小は大道易者から大はイエスキリストに到るまで予言者の数はまことに多いが、稀代の予言狂乃至予言魔といえば、そうざらにいるわけではない。まず日本でいえば大本教の出口王仁三郎などは、少数 …
読書目安時間:約6分
小は大道易者から大はイエスキリストに到るまで予言者の数はまことに多いが、稀代の予言狂乃至予言魔といえば、そうざらにいるわけではない。まず日本でいえば大本教の出口王仁三郎などは、少数 …
十八歳の花嫁(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
最近私の友人がたまたま休暇を得て戦地から帰って来た。○日ののちには直ぐまた戦地へ戻らねばならぬ慌しい帰休であった。 久し振りのわが家へ帰ったとたんに、実は藪から棒の話だがと、ある仲 …
読書目安時間:約2分
最近私の友人がたまたま休暇を得て戦地から帰って来た。○日ののちには直ぐまた戦地へ戻らねばならぬ慌しい帰休であった。 久し振りのわが家へ帰ったとたんに、実は藪から棒の話だがと、ある仲 …
勝負師(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
池の向うの森の暗さを一瞬ぱっと明るく覗かせて、終電車が行ってしまうと、池の面を伝って来る微風がにわかにひんやりとして肌寒い。宵に脱ぎ捨てた浴衣をまた着て、机の前に坐り直した拍子に部 …
読書目安時間:約10分
池の向うの森の暗さを一瞬ぱっと明るく覗かせて、終電車が行ってしまうと、池の面を伝って来る微風がにわかにひんやりとして肌寒い。宵に脱ぎ捨てた浴衣をまた着て、机の前に坐り直した拍子に部 …
神経(新字新仮名)
読書目安時間:約28分
今年の正月、私は一歩も外へ出なかった。訪ねて来る人もない。ラジオを掛けっ放しにしたまま、浮浪者の小説を書きながら三※日を過した。土蜘蛛のようにカサカサの皮膚をした浮浪者を書きながら …
読書目安時間:約28分
今年の正月、私は一歩も外へ出なかった。訪ねて来る人もない。ラジオを掛けっ放しにしたまま、浮浪者の小説を書きながら三※日を過した。土蜘蛛のようにカサカサの皮膚をした浮浪者を書きながら …
青春の逆説(新字新仮名)
読書目安時間:約5時間27分
お君は子供のときから何かといえば跣足になりたがった。冬でも足袋をはかず、夏はむろん、洗濯などするときは決っていそいそと下駄をぬいだ。共同水道場の漆喰の上を跣足のままペタペタと踏んで …
読書目安時間:約5時間27分
お君は子供のときから何かといえば跣足になりたがった。冬でも足袋をはかず、夏はむろん、洗濯などするときは決っていそいそと下駄をぬいだ。共同水道場の漆喰の上を跣足のままペタペタと踏んで …
世相(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間5分
凍てついた夜の底を白い風が白く走り、雨戸を敲くのは寒さの音である。厠に立つと、窓硝子に庭の木の枝の影が激しく揺れ、師走の風であった。 そんな風の中を時代遅れの防空頭巾を被って訪れて …
読書目安時間:約1時間5分
凍てついた夜の底を白い風が白く走り、雨戸を敲くのは寒さの音である。厠に立つと、窓硝子に庭の木の枝の影が激しく揺れ、師走の風であった。 そんな風の中を時代遅れの防空頭巾を被って訪れて …
俗臭(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間10分
最近児子政江はパアマネントウェーヴをかけた。目下流行の前髪をピンカールしたあれである。明治三十年生れの、従ってことし四十三歳の政江はそのため一層醜くなった。つまりは、なか/\に暴挙 …
読書目安時間:約1時間10分
最近児子政江はパアマネントウェーヴをかけた。目下流行の前髪をピンカールしたあれである。明治三十年生れの、従ってことし四十三歳の政江はそのため一層醜くなった。つまりは、なか/\に暴挙 …
それでも私は行く(新字新仮名)
読書目安時間:約3時間2分
先斗町と書いて、ぽんと町と読むことは、京都に遊んだ人なら誰でも知っていよう。 しかし、なぜその町——四条大橋の西詰を鴨川に沿うてはいるその細長い路地を、先斗町とよぶのだろうか。 「 …
読書目安時間:約3時間2分
先斗町と書いて、ぽんと町と読むことは、京都に遊んだ人なら誰でも知っていよう。 しかし、なぜその町——四条大橋の西詰を鴨川に沿うてはいるその細長い路地を、先斗町とよぶのだろうか。 「 …
武田麟太郎追悼(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
武田さんは大阪の出身という点で、私の先輩であるが、更に京都の第三高等学校出身という点でもまた私の先輩である。しかも、武田さんは庶民作家として市井事物一点張りに書いて来た。その点でも …
読書目安時間:約7分
武田さんは大阪の出身という点で、私の先輩であるが、更に京都の第三高等学校出身という点でもまた私の先輩である。しかも、武田さんは庶民作家として市井事物一点張りに書いて来た。その点でも …
起ち上る大阪:――戦災余話(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
この話に「起ち上る大阪」という題をつけたが、果して当っているかどうか分らない。或は「起ち上れ大阪」と呼び掛けるか、「大阪よ起ち上れ」と叫ぶ方が、目下の私の気持から言ってもふさわしい …
読書目安時間:約10分
この話に「起ち上る大阪」という題をつけたが、果して当っているかどうか分らない。或は「起ち上れ大阪」と呼び掛けるか、「大阪よ起ち上れ」と叫ぶ方が、目下の私の気持から言ってもふさわしい …
旅への誘い(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
喜美子は洋裁学院の教師に似合わず、年中ボロ服同然のもっさりした服を、平気で身につけていた。自分でも吹きだしたいくらいブクブクと肥った彼女が、まるで袋のようなそんな不細工な服をかぶっ …
読書目安時間:約12分
喜美子は洋裁学院の教師に似合わず、年中ボロ服同然のもっさりした服を、平気で身につけていた。自分でも吹きだしたいくらいブクブクと肥った彼女が、まるで袋のようなそんな不細工な服をかぶっ …
中毒(新字新仮名)
読書目安時間:約20分
スタンダールは彼の墓銘として「生きた、書いた、恋した」 という言葉を選んだということである。 スタンダールについて語る人は、殆んど例外なしに、この言葉を引用している。まことにスタン …
読書目安時間:約20分
スタンダールは彼の墓銘として「生きた、書いた、恋した」 という言葉を選んだということである。 スタンダールについて語る人は、殆んど例外なしに、この言葉を引用している。まことにスタン …
聴雨(新字旧仮名)
読書目安時間:約25分
午後から少し風が出て来た。床の間の掛軸がコツンコツンと鳴る。襟首が急に寒い。雨戸を閉めに立つと、池の面がやや鳥肌立つて、冬の雨であつた。火鉢に火をいれさせて、左の手をその上にかざし …
読書目安時間:約25分
午後から少し風が出て来た。床の間の掛軸がコツンコツンと鳴る。襟首が急に寒い。雨戸を閉めに立つと、池の面がやや鳥肌立つて、冬の雨であつた。火鉢に火をいれさせて、左の手をその上にかざし …
妻の名(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
朝から粉雪が舞いはじめて、ひる過ぎからシトシトと牡丹雪だった。夕方礼吉は雪をふんで見合に出掛けた。雪の印象があまり強すぎたせいか、肝賢の相手の娘さんの印象がまるで漠然として掴めなか …
読書目安時間:約1分
朝から粉雪が舞いはじめて、ひる過ぎからシトシトと牡丹雪だった。夕方礼吉は雪をふんで見合に出掛けた。雪の印象があまり強すぎたせいか、肝賢の相手の娘さんの印象がまるで漠然として掴めなか …
天衣無縫(新字新仮名)
読書目安時間:約26分
みんなは私が鼻の上に汗をためて、息を弾ませて、小鳥みたいにちょんちょんとして、つまりいそいそとして、見合いに出掛けたといって嗤ったけれど、そんなことはない。いそいそなんぞ私はしやし …
読書目安時間:約26分
みんなは私が鼻の上に汗をためて、息を弾ませて、小鳥みたいにちょんちょんとして、つまりいそいそとして、見合いに出掛けたといって嗤ったけれど、そんなことはない。いそいそなんぞ私はしやし …
電報(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
私は気の早い男であるから、昭和二十年元旦の夢をはや先日見た。田舎道を乗合馬車が行くのを一台の自動車が追い駈けて行く、と前方の瀬戸内海に太陽が昇りはじめる、馬車の乗客が「おい、見ろ、 …
読書目安時間:約6分
私は気の早い男であるから、昭和二十年元旦の夢をはや先日見た。田舎道を乗合馬車が行くのを一台の自動車が追い駈けて行く、と前方の瀬戸内海に太陽が昇りはじめる、馬車の乗客が「おい、見ろ、 …
東京文壇に与う(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
豪放かつ不逞な棋風と、不死身にしてかつあくまで不敵な面だましいを日頃もっていた神田八段であったが、こんどの名人位挑戦試合では、折柄大患後の衰弱はげしく、紙のように蒼白な顔色で、薬瓶 …
読書目安時間:約8分
豪放かつ不逞な棋風と、不死身にしてかつあくまで不敵な面だましいを日頃もっていた神田八段であったが、こんどの名人位挑戦試合では、折柄大患後の衰弱はげしく、紙のように蒼白な顔色で、薬瓶 …
土足のままの文学(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
僕は終戦後間もなくケストネルの「ファビアン」という小説を読んだ。「ファビアン」は第一次大戦後の混乱と頽廃と無気力と不安の中に蠢いている独逸の一青年を横紙破りの新しいスタイルで描いた …
読書目安時間:約3分
僕は終戦後間もなくケストネルの「ファビアン」という小説を読んだ。「ファビアン」は第一次大戦後の混乱と頽廃と無気力と不安の中に蠢いている独逸の一青年を横紙破りの新しいスタイルで描いた …
土曜夫人(新字新仮名)
読書目安時間:約3時間35分
キャバレエ十番館の裏は、西木屋町に面し、高瀬川が流れた。 高瀬川は溝のように細い。が、さすがに川風はあり、ふと忍びよる秋のけはいを、枝垂れた柳の葉先へ吹き送って、街燈の暈のまわりに …
読書目安時間:約3時間35分
キャバレエ十番館の裏は、西木屋町に面し、高瀬川が流れた。 高瀬川は溝のように細い。が、さすがに川風はあり、ふと忍びよる秋のけはいを、枝垂れた柳の葉先へ吹き送って、街燈の暈のまわりに …
猫と杓子について(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
「エロチシズムと文学」というテエマが僕に与えられた課題であります。しかし、僕は「エロチシズムと文学」などというけちくさい取るに足らぬ問題について、口角泡を飛ばして喋るほど閑人でもな …
読書目安時間:約7分
「エロチシズムと文学」というテエマが僕に与えられた課題であります。しかし、僕は「エロチシズムと文学」などというけちくさい取るに足らぬ問題について、口角泡を飛ばして喋るほど閑人でもな …
ひとりすまう(新字新仮名)
読書目安時間:約42分
奇妙なことは、最初その女を見た時、ぼくは、ああこの女は身投げするに違いないと思い込んで了ったことなのだ、——と彼は語り出した。彼が二十一歳の時の話という。 ——その女を見たのは、南 …
読書目安時間:約42分
奇妙なことは、最初その女を見た時、ぼくは、ああこの女は身投げするに違いないと思い込んで了ったことなのだ、——と彼は語り出した。彼が二十一歳の時の話という。 ——その女を見たのは、南 …
ヒント(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
彼は十円持って喫茶店へ行き、一杯十円の珈琲を飲むと、背を焼かれるような後悔に責められた。 隣のテーブルでは、十二三の少年が七つ位の弟と五つ位の妹を連れて、メニューにあるだけのものを …
読書目安時間:約1分
彼は十円持って喫茶店へ行き、一杯十円の珈琲を飲むと、背を焼かれるような後悔に責められた。 隣のテーブルでは、十二三の少年が七つ位の弟と五つ位の妹を連れて、メニューにあるだけのものを …
文学的饒舌(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
最近「世界文学」からたのまれて、ジュリアン・ソレル論を三十枚書いたが、いくら書いても結論が出て来ない。スタンダールはジュリアンという人物を、明確に割り切っているのだが、しかし、ジュ …
読書目安時間:約10分
最近「世界文学」からたのまれて、ジュリアン・ソレル論を三十枚書いたが、いくら書いても結論が出て来ない。スタンダールはジュリアンという人物を、明確に割り切っているのだが、しかし、ジュ …
報酬(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
家には一銭の金もなく、母親は肺病だった。娘の葉子は何日も飯を食わず、水の引くようにみるみる痩せて、歩く元気もなかったが、母親と相談して夜の町へ十七歳の若さを売りに行くことにした。母 …
読書目安時間:約1分
家には一銭の金もなく、母親は肺病だった。娘の葉子は何日も飯を食わず、水の引くようにみるみる痩せて、歩く元気もなかったが、母親と相談して夜の町へ十七歳の若さを売りに行くことにした。母 …
放浪(新字新仮名)
読書目安時間:約47分
大阪は二ツ井戸「まからんや」呉服店の番頭は現糞のわるい男や、云うちゃわるいが人殺しであると、在所のお婆は順平にいいきかせた。 ——「まからんや」は月に二度、疵ものやしみつきや、それ …
読書目安時間:約47分
大阪は二ツ井戸「まからんや」呉服店の番頭は現糞のわるい男や、云うちゃわるいが人殺しであると、在所のお婆は順平にいいきかせた。 ——「まからんや」は月に二度、疵ものやしみつきや、それ …
放浪(新字新仮名)
読書目安時間:約48分
身に覚えないとは言わさぬ、言うならば言うてみよ、大阪は二ツ井戸「まからんや」呉服店の番頭は現糞のわるい男、言うちゃわるいが人殺しであると、在所のお婆は順平にいいきかせた。 ——「ま …
読書目安時間:約48分
身に覚えないとは言わさぬ、言うならば言うてみよ、大阪は二ツ井戸「まからんや」呉服店の番頭は現糞のわるい男、言うちゃわるいが人殺しであると、在所のお婆は順平にいいきかせた。 ——「ま …
僕の読書法(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
僕は視力が健全である。これはありがたいものに思っている。むしろ己惚れている。 己惚れの種類も思えば数限りないものである。人は己惚れが無くてはさびしくて生きておれまい。よしんばそれが …
読書目安時間:約7分
僕は視力が健全である。これはありがたいものに思っている。むしろ己惚れている。 己惚れの種類も思えば数限りないものである。人は己惚れが無くてはさびしくて生きておれまい。よしんばそれが …
星の劇場(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
「歩哨に立って大陸の夜空を仰いでいるとゆくりなくも四ッ橋のプラネタリュウムを想いだした……」と戦地の友人から便りがあったので、周章てて四ッ橋畔の電気科学館へ行き六階の劇場ではじめて …
読書目安時間:約1分
「歩哨に立って大陸の夜空を仰いでいるとゆくりなくも四ッ橋のプラネタリュウムを想いだした……」と戦地の友人から便りがあったので、周章てて四ッ橋畔の電気科学館へ行き六階の劇場ではじめて …
蛍(新字新仮名)
読書目安時間:約22分
登勢は一人娘である。弟や妹のないのが寂しく、生んでくださいとせがんでも、そのたび母の耳を赧くさせながら、何年かたち十四歳に母は五十一で思いがけず姙った。母はまた赧くなり、そして女の …
読書目安時間:約22分
登勢は一人娘である。弟や妹のないのが寂しく、生んでくださいとせがんでも、そのたび母の耳を赧くさせながら、何年かたち十四歳に母は五十一で思いがけず姙った。母はまた赧くなり、そして女の …
道(新字新仮名)
読書目安時間:約17分
今もそのアパートはあるだろうか、濡雑巾のようにごちゃごちゃした場末の一角に、それはまるで古綿を千切って捨てたも同然の薄汚れた姿を無気力に曝していた。そのあたりは埋立地のせいか年中じ …
読書目安時間:約17分
今もそのアパートはあるだろうか、濡雑巾のようにごちゃごちゃした場末の一角に、それはまるで古綿を千切って捨てたも同然の薄汚れた姿を無気力に曝していた。そのあたりは埋立地のせいか年中じ …
道なき道(新字新仮名)
読書目安時間:約17分
その時、寿子はまだ九つの小娘であった。 父親が弾けというから、弾いてはいるものの、音楽とは何か、芸術とはどんなものであるか、そんなことは無論わかる道理もなく、考えてみたこともなかっ …
読書目安時間:約17分
その時、寿子はまだ九つの小娘であった。 父親が弾けというから、弾いてはいるものの、音楽とは何か、芸術とはどんなものであるか、そんなことは無論わかる道理もなく、考えてみたこともなかっ …
民主主義(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
彼は人気者になら誰とでも会いたがった。しかし、人気者は誰も彼に会おうとしなかった。いうまでもなく彼は一介の無名の市井人だった。 野坂参三なら既にして人気者であり、民主主義の本尊だか …
読書目安時間:約1分
彼は人気者になら誰とでも会いたがった。しかし、人気者は誰も彼に会おうとしなかった。いうまでもなく彼は一介の無名の市井人だった。 野坂参三なら既にして人気者であり、民主主義の本尊だか …
夫婦善哉(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間2分
年中借金取が出はいりした。節季はむろんまるで毎日のことで、醤油屋、油屋、八百屋、鰯屋、乾物屋、炭屋、米屋、家主その他、いずれも厳しい催促だった。路地の入り口で牛蒡、蓮根、芋、三ツ葉 …
読書目安時間:約1時間2分
年中借金取が出はいりした。節季はむろんまるで毎日のことで、醤油屋、油屋、八百屋、鰯屋、乾物屋、炭屋、米屋、家主その他、いずれも厳しい催促だった。路地の入り口で牛蒡、蓮根、芋、三ツ葉 …
眼鏡(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
三年生になった途端に、道子は近視になった。 「明日から、眼鏡を掛けなさい。うっちゃって置くと、だんだんきつくなりますよ」 体格検査の時間にそう言われた時、道子はぽうっと赧くなった。 …
読書目安時間:約4分
三年生になった途端に、道子は近視になった。 「明日から、眼鏡を掛けなさい。うっちゃって置くと、だんだんきつくなりますよ」 体格検査の時間にそう言われた時、道子はぽうっと赧くなった。 …
面会(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
ある朝、一通の軍事郵便が届けられた。差出人はSという私の旧友からで、その手紙を見て、はじめて私はSが応召していることを知ったのである。Sと私は五年間音信不通で、Sがどこにどうしてい …
読書目安時間:約4分
ある朝、一通の軍事郵便が届けられた。差出人はSという私の旧友からで、その手紙を見て、はじめて私はSが応召していることを知ったのである。Sと私は五年間音信不通で、Sがどこにどうしてい …
夜光虫(新字新仮名)
読書目安時間:約2時間15分
裸の娘 その日、朝から降り出した雨は町に灯りがつく頃ふとやみそうだったが、夜になると急にまた土砂降りになった。 その雨の中で、この不思議な夜の事件が起ったのである。 不思議といえば …
読書目安時間:約2時間15分
裸の娘 その日、朝から降り出した雨は町に灯りがつく頃ふとやみそうだったが、夜になると急にまた土砂降りになった。 その雨の中で、この不思議な夜の事件が起ったのである。 不思議といえば …
薬局(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
その男は毎日ヒロポンの十管入を一箱宛買いに来て、顔色が土のようだった。十管入が品切れている時は三管入を三箱買うて行った。 敏子は釣銭を渡しながら、纒めて買えば毎日来る手間もはぶける …
読書目安時間:約1分
その男は毎日ヒロポンの十管入を一箱宛買いに来て、顔色が土のようだった。十管入が品切れている時は三管入を三箱買うて行った。 敏子は釣銭を渡しながら、纒めて買えば毎日来る手間もはぶける …
雪の夜(新字新仮名)
読書目安時間:約23分
大晦日に雪が降った。朝から降り出して、大阪から船の著く頃にはしとしと牡丹雪だった。夜になってもやまなかった。 毎年多くて二度、それも寒にはいってから降るのが普通なのだ。いったいが温 …
読書目安時間:約23分
大晦日に雪が降った。朝から降り出して、大阪から船の著く頃にはしとしと牡丹雪だった。夜になってもやまなかった。 毎年多くて二度、それも寒にはいってから降るのが普通なのだ。いったいが温 …
妖婦(新字新仮名)
読書目安時間:約14分
神田の司町は震災前は新銀町といった。 新銀町は大工、屋根職、左官、畳職など職人が多く、掘割の荷揚場のほかにすぐ鼻の先に青物市場があり、同じ下町でも日本橋や浅草と一風違い、いかにも神 …
読書目安時間:約14分
神田の司町は震災前は新銀町といった。 新銀町は大工、屋根職、左官、畳職など職人が多く、掘割の荷揚場のほかにすぐ鼻の先に青物市場があり、同じ下町でも日本橋や浅草と一風違い、いかにも神 …
吉岡芳兼様へ(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
御たより拝見しました。 拙作を随分細かく読んで下すって、これでは作者たるものうっかり作品が書けぬという気がしました。もっとも、うっかり書いたというわけでもないのですが。 自作を語る …
読書目安時間:約4分
御たより拝見しました。 拙作を随分細かく読んで下すって、これでは作者たるものうっかり作品が書けぬという気がしました。もっとも、うっかり書いたというわけでもないのですが。 自作を語る …
四つの都(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間3分
『四つの都』は川島雄三氏の第一回演出作品であるが、同時に私にとっても第一回シナリオである。更に言うならば、川島氏も私も共に大正生れである。つまりお互いの感受性、物の考え方に世代的な …
読書目安時間:約1時間3分
『四つの都』は川島雄三氏の第一回演出作品であるが、同時に私にとっても第一回シナリオである。更に言うならば、川島氏も私も共に大正生れである。つまりお互いの感受性、物の考え方に世代的な …
夜の構図(新字新仮名)
読書目安時間:約2時間6分
ホテルを出ると雨が降っていた事。 三五二号室の女の代りに四二一号室の女に外科手術をする事。 並んで第一ホテルを出ると雨であった。鋪道の濡れ方で、もう一時間も前から降っていたと判った …
読書目安時間:約2時間6分
ホテルを出ると雨が降っていた事。 三五二号室の女の代りに四二一号室の女に外科手術をする事。 並んで第一ホテルを出ると雨であった。鋪道の濡れ方で、もう一時間も前から降っていたと判った …
六白金星(新字旧仮名)
読書目安時間:約38分
楢雄は生れつき頭が悪く、近眼で、何をさせても鈍臭い子供だつたが、ただ一つ蠅を獲るのが巧くて、心の寂しい時は蠅を獲つた。蠅といふ奴は横と上は見えるが、正面は見えぬ故、真つ直ぐ手を持つ …
読書目安時間:約38分
楢雄は生れつき頭が悪く、近眼で、何をさせても鈍臭い子供だつたが、ただ一つ蠅を獲るのが巧くて、心の寂しい時は蠅を獲つた。蠅といふ奴は横と上は見えるが、正面は見えぬ故、真つ直ぐ手を持つ …
わが文学修業(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
本当に小説の勉強をはじめたのは、二十六の時である。それまでは専ら劇を勉強していた。小説は殆んど見向きもしなかったようである。ドストイエフスキイやジイドや梶井基次郎などを読んだほかに …
読書目安時間:約6分
本当に小説の勉強をはじめたのは、二十六の時である。それまでは専ら劇を勉強していた。小説は殆んど見向きもしなかったようである。ドストイエフスキイやジイドや梶井基次郎などを読んだほかに …
わが町(新字新仮名)
読書目安時間:約3時間9分
マニラをバギオに結ぶベンゲット道路のうち、ダグバン・バギオ山頂間八十キロの開鑿(さく)は、工事監督のケノン少佐が開通式と同時に将軍になったというくらいの難工事であった。 人夫たちは …
読書目安時間:約3時間9分
マニラをバギオに結ぶベンゲット道路のうち、ダグバン・バギオ山頂間八十キロの開鑿(さく)は、工事監督のケノン少佐が開通式と同時に将軍になったというくらいの難工事であった。 人夫たちは …
わが町(新字新仮名)
読書目安時間:約52分
マニラをバギオに結ぶベンゲット道路のうち、タグパン・バギオ山頂間八十粁の開鑿は、工事監督のケノン少佐が開通式と同時に将軍になったというくらいの難工事で、人夫たちはベンゲット山腹五千 …
読書目安時間:約52分
マニラをバギオに結ぶベンゲット道路のうち、タグパン・バギオ山頂間八十粁の開鑿は、工事監督のケノン少佐が開通式と同時に将軍になったというくらいの難工事で、人夫たちはベンゲット山腹五千 …
私の文学(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
私の文学——編集者のつけた題である。 この種の文章は往々にして、いやみな自己弁護になるか、卑屈な謙遜になるか、傲慢な自己主張になりやすい。さりげなく自己の文学を語ることはむずかしい …
読書目安時間:約5分
私の文学——編集者のつけた題である。 この種の文章は往々にして、いやみな自己弁護になるか、卑屈な謙遜になるか、傲慢な自己主張になりやすい。さりげなく自己の文学を語ることはむずかしい …
“織田作之助”について
織田 作之助(おだ さくのすけ、1913年(大正2年)10月26日 - 1947年(昭和22年)1月10日)は、日本の小説家。戦後、太宰治、坂口安吾、石川淳らと共に無頼派、新戯作派と呼ばれ「織田作(おださく)」の愛称で親しまれる。『夫婦善哉』で作家としての地位を確立。
(出典:Wikipedia)
(出典:Wikipedia)
“織田作之助”と年代が近い著者
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富永太郎(没後100年)
エリザベス、アンナ・ゴルドン(没後100年)
徳永保之助(没後100年)
後藤謙太郎(没後100年)
エドワード・シルヴェスター・モース(没後100年)