)” の例文
「行列が動き出そうとするとき、乗物のの隙間から、花嫁のすそみ出していることに気が付いて、私が直してやりましたが——」
その儒教倫理(とばかりは言えない。その儒教道徳と、それからややみ出した、彼の強烈な自己中心的な感情との混合体である。)
斗南先生 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「電気学講義録」がポケットからみ出している制服オウバアのえりの中で、茶っポい一重瞼ひとえまぶたの眼がノンキそうにまたたいているのだ。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
なお其袂そのたもとから手巾はんかちーふ取出とりだして、声立てさせじと口にませた。くして冬子は、空屋あきやまで手取てど足取あしどりに担ぎ去られたのであった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
厚い膝頭ひざがしら坐布団ざぶとんからみ出して軽く畳を抑えたところは、血が退いて肉が落ちた孤堂先生の顔に比べると威風堂々たるものである。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「遠くは近江おうみの佐々木が一族と聞いておりますなれど、室町殿滅亡後、母方の里へひそみました由で、吉川家のろくんでおりませぬ」
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あなたは代々織田家の家臣で、代々織田家の扶持をみ、その恩顧を受けている。だから織田家のために不惜身命の覚悟はあるであろう。
夜明けの辻 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
去年の草の立ち枯れたのと、今年生えてやや茎を立て初めたのとがまじりあって、屋敷地からみ出し、道の上までも延びて居る。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
ふすまが開いて閉って、そこに絢爛けんらんな一つくねの絹布きぬぎれがひれ伏した。紅紫と卵黄の色彩のみ合いはまだ何の模様とも判らない。
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
伸子は、芸術家の運命、特色ある性格と環境とのみ合いを、よそごとと思えぬ年齢になっていた。彼女は、待っていた。そして見て。——
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
處々裂けた襖、だらしなく吊下つた壁の衣服、煤ばんで雨漏の痕跡かたがついた天井、片隅に積んだ自分の夜具からは薄汚い古綿がみ出してる。
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
飯も赤ん坊の茶碗ちゃわんほどなのに、手甲盛てこもりやおかわりの二杯以上は許されず、それからみ出せば、お神の横目が冷たくにら
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ぎざぎざになって赤い土からみ出してゐたのです。それは昔山の方から流れて走って来て又火山灰にうづもれた五層の古い熔岩流ようがんりうだったのです。
(新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
さすがは奥地第一の雄藩に禄をむ若侍だけあって、どうやらこの道の相当ごうの者らしいのです。と見えたのはしかし四本目までのことでした。
……『菘翁随筆しゅうおうずいひつ』に、『鶴を飼はんとすれば、粗食を以て飼ふべし。餌以前のものより劣れば、鶴はまずして死す』
顎十郎捕物帳:09 丹頂の鶴 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
大き過ぎる袋で稍始末が悪く、半分以上ポケツトからみ出してゐたとは云へ、余程わたしは夢中になつて蝶々を追ひかけてゐたに違ひなかつたのだ。
或るハイカーの記 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
馬や水牛は草をみながら絶えず尻尾を振っている。小虫の集まるのを防ぐためだ。火を焚いている土人がある。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
投げつけられた箸を拾って見ると、なるほど箸は中ほどのところを虫にまれて二つも大きな穴が開いていた。
光線に突刺された首や、いしばって白くのぞく歯や、盛りあがってみだす内臓や……。一瞬に引裂かれ、一瞬にむかっていどもうとする無数のリズム……。
鎮魂歌 (新字新仮名) / 原民喜(著)
指頭大の穴が三つばかり明いて、その周囲からみ出した繊維がその穴をふさごうとして手を延ばしていた。
浅草紙 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ことに高い方のM百貨店は、僕の先祖代々ろくんだ北越百万石の領主が、東照神君とうしょうしんくん御霊みたま詣での途次とじ、お供先が往来の真ン中で、とびの者と喧嘩になった為めに
青バスの女 (新字新仮名) / 辰野九紫(著)
だが、なぜそうならそうと訳を聞かせておいてから、手に懸けようとはしてくださらぬ。身分こそいやしけれ、わたしも浅野家のろくんだものの娘でござんす。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
まうつちふやつか! どうぢや? 手を拍つことにするだか? うん、よかつぺえ、それぢやあ、ほやほやの花聟どん、お祝ひに一杯やらかすことにすべいか!
一切の恩愛義理をも犠牲ぎせいにしようとするような人間に対しては、利害一途で、相い争わせ、相いませ、骨髄まで傷つけ合せるのこそ、最大苦痛をあたえることだと
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
血走ったぐりぐりする眼で草をんでいるが、人が近づくと遠くの方からちゃんと知っていて、だんだん頭を地面に下げる。うっかりすると、角を持ち上げてぬっと迫ってくる。
石ころ路 (新字新仮名) / 田畑修一郎(著)
筆者の祖先は代々黒田藩のろくんでいた者だから黒田様の事はあまり云いたくない。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
病室からながめられる生理学教室の三階の窓、密閉された部屋へや、しごき帯、……なんでもかでもが自分の肉を毒蛇どくじゃのごとく鎌首かまくびを立てて自分を待ち伏せしているように思えた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
名馬はもはや昔に戻らぬ姿のまま、怒り狂う宗盛の前でまぐさをんでいた。
まして僻陬へきすうの地にあるそれらのものを見出すことはほとんど望み難いからです。それに大部分はつまらない作として物置のような所に放置せられ、守る僧もなく虫のむに任せてあるからです。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
見る見るうちに霧にみ取られて、半分位持って行かれてしまったかと思ったが、また繋ぎ合わされて立っている、西にあいたけ(赤石山脈)が立ち、東に富士山が、二筋ばかりの白い雪を放射して
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
葉をめば馬も醉ふとふ春日野の馬醉木あしびが原の春すぎにけり
いづこに氷をまむとして賣る店を見ず
むさゝびの小鳥る枯野かな
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
「行列が動き出さうとする時、乘物のの隙間から、花嫁のすそみ出して居ることに氣が附いて、私が直してやりましたが——」
処々裂けた襖、だらしなく吊下つた壁の衣服、煤ばんで雨漏の痕跡かたがついた天井、片隅に積んだ自分の夜具からは薄汚い古綿がみ出してる。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
ぎざぎざになって赤い土からみ出していたのです。それはむかし山の方から流れて走って来てまた火山灰にうずもれた五層の古い熔岩流ようがんりゅうだったのです。
(新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
子供の運命が自身の寿命と生活力の届かないところへみ出ることは、誰しも苦痛であつた。母性愛はそれに比べると動物的なものらしいのであつた。
チビの魂 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
そして道端の青草を見出すと、乗手の存在も忘れて草をみ、どんなに私が苛立いらだっても素知らぬ風を示すに至った。
ゼーロン (新字新仮名) / 牧野信一(著)
町はどこを見ても、木口も壁も新しくて、ぎらぎらと眼を射るし、空地へ出ると、まだ埋めきれない土の下から、よしあしの根が枯れてみ出している。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
子羔。しかし、もう無駄ですよ。かえって難に遭うこともないとは限らぬし。子路が声をらげて言う。孔家のろくむ身ではないか。何のために難を避ける?
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
したがってその住居は特別に広く半分なかば以上は岩窟から外へみ出して造られているのであった。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
このあたりはもはや二千六百フィートの標高。山毛欅ヘエトルの林の奥のお花畑には羊の群が草をみ、空をきりひらくアルプスの紙ナイフは、白い象牙の鋩子ぼうしを伸べる。光る若葉山杜鵑やまほととぎす
すると、すぐ足許のところを、白木の大きなはこが流れており、函からみ出た玉葱たまねぎがあたりにただよっていた。私は函を引寄せ、中から玉葱をつかみ出しては、岸の方へ手渡した。
夏の花 (新字新仮名) / 原民喜(著)
千太は親方の指図だからいやとは云われません。もちろん相当の金轡かねぐつわまされたんでしょう。
声をかけられるその瞬間まで、彼は酒造家の相沢を何となくでつぷり肥つて、木綿縞のあはせの袖口から肉づきのいゝ手首をみ出させた、紺の前掛でもした男を想像してゐたのだつた。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
大禄みながらなかなか勘定高うてな、この十年来、兎角お墨付をないがしろに致し、ここを通行致すみぎりも、身が他行たぎょう致しておる隙を狙うとか、乃至は夜ふけになぞこっそりと通りぬけて
観覧車も今はげきとして鉄骨のペンキも剥げて赤鏽あかさびが吹き、土台のたたきは破れこぼちてコンクリートの砂利がみ出している。殺風景と云うよりはただ何となくそぞろに荒れ果てた景色である。
障子の落書 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
むさゝびの小鳥み居る枯野かな
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
ものまざればみじめに青ざめ
供養 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
ついばませ ませ給ひて
髪切虫 (新字新仮名) / 夢野久作(著)