)” の例文
一生懸命にこの家をまもつたのだから、急にどいてくれと云はれても、どくところはないし、そんな事は、道にづれてゐると云つた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
つまり表通りや新道路の繁華な刺戟しげきに疲れた人々が、時々、刺戟をずして気分を転換する為めにまぎれ込むようなちょっとした街筋——
(新字新仮名) / 岡本かの子(著)
向う側の其の深い樹立こだちの中に、小さく穴のふたづしたやうに、あか/\と灯影ひかげすのは、聞及ききおよんだ鍵屋であらう、二軒のほかは無いとうげ
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
今まで人間並みずれた苦しい生活へ追いこまれたことを、自分達だけの不運だと思ってあきらめかけていた人達の心に、温かい希望を感じさせた。
鋳物工場 (新字新仮名) / 戸田豊子(著)
今度のところも倉田工業のある同じ地区にも拘らず、ゴミ/\した通りからずれた深閑とした住宅地になっていた。
党生活者 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
おばこ来るかやと田圃たんぼんづれまで出て見たば、コバエテ/\、おばこ来もせでのない煙草たんばこ売りなの(なのはなどの意)ふれて来る。コバエテ/\
春雪の出羽路の三日 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
ずれを「武蔵野」の一部にれるといえば、すこしおかしく聞こえるが、じつは不思議はないので、海を描くに波打ちぎわを描くも同じことである。
武蔵野 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「フェミストクリュス!」と、マニーロフが、召使の捲きつけたナプキンが顎に引っかかっているのを一心にずそうとしている上の子に向って声をかけた。
二回程海岸と草地の間を往復したらしく、消された足跡は、み出したり重複したりして沢山着いていた。
死の快走船 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
くるまの幌をずさせ夫人は紫陽花あじさい色に澄みわたった初夏の空に、パラソルをぬっとかざしていた。
南方郵信 (新字新仮名) / 中村地平(著)
この深夜に人間が案内も乞わず戸締とじまりずして御光来になるとすれば迷亭先生や鈴木君ではないにきまっている。御高名だけはかねてうけたまわっている泥棒陰士どろぼういんしではないか知らん。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さりとも一のがれがたければ、いつしかあつうりて、むね動悸どうきのくるしうるに、づしてはまねどもひとしらぬうちにとにはでゝいけ石橋いしばしわたつて築山つきやま背後うしろ
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「先生! 雨戸を一つずせませんか、台にするんだから。」と、弟の方の少年が云った。やがて譲吉も手伝って雨戸が一つ、縁側の上に置かれ、そして、その中央に不完全なネットが張られた。
大島が出来る話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
私の愛猫あいびょうフク子もまたこの足に迷って死んだ。或夜、裏長屋から一本の蛸の足を盗んで帰る途中、長屋の井戸の屋根が腐っていたため、踏みずして落ち込んでしまった。その時彼女は臨月だった。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
ずされてのめるところを拳骨で突上げた。
骸骨島の大冒険 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
或るところまで、強く首を締めあげてみたが、それを一歩通り越すまでの激しさには到らないのだ。ゆき子は、革のバンドをづして、それを腰に巻いた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
しかしその市のくる処、すなわち町ずれはかならず抹殺してはならぬ。僕が考えには武蔵野の詩趣を描くにはかならずこの町はずれを一の題目だいもくとせねばならぬと思う。
武蔵野 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
猫が鼠をとるようにとは、かくさえすればずれっこはござらぬと云う意味である。女さかしゅうしてと云う諺はあるが猫さかしゅうして鼠そこなうと云う格言はまだ無いはずだ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それを、なお背後に近い電車の交叉点でポールをずしでもするのでしょうか、まるでわたくしを誘惑するようにちら/\とあのマグネシューム性の光りが闇の前景に反射します。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
どうもこれは馬車が道をずれて、すっかり耕やされた畠の中へ乗りこんだらしいと感づいた。どうやらセリファンも、それと気がついたらしいが、一向そんなことは口に出さなかった。
潮時しほどきづした後は、退屈なものなのだと、ゆき子は汚れた手拭ひで、ゆつくりからだを洗つた。煤けた狭い風呂場のなかで、躯を洗つてゐる事が、嘘のやうな気がした。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
その風が突然余の顔を吹いた時、はっと思ったら、つい踏みずして、すとんと落ちた。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
すると、梅麿は浴衣を雪子の手からすつとづして、なほ兄に向つていつた。
過去世 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
(これはまるでつくりごとのようだけれども)私の詩集を読んで眼鏡めがねずして先生は泣いていられました。私はその時、先生のお家で一生女中になりたいと思った位です。
文学的自叙伝 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
新吉は恨みがましく眼を閉じて、ともすれば自分を引き入れようとする娘の浮いた調子をだん/\持て扱い兼ねてずしつゝ、外ずしつゝ、踊りは義理に拍子だけ合せるようになって仕舞った。
巴里祭 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
模様の蔓と葉が中世紀特有のしつこく武骨な絡みかたをしていて血でもにじみ出そうで色は黒かった。その時は有り合せの硝子皿に取りつけてあったがずしての皿の提手とってにすることもできた。
豆腐買い (新字新仮名) / 岡本かの子(著)