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湯氣
浴室の
窓からも
此が
見えて、
薄りと
湯氣を
透すと、ほかの
土地には
餘りあるまい、
海市に
對する、
山谷の
蜃氣樓と
言つた
風情がある。
今は
餘波さへもない
其戀を
味つけうために!
卿の
溜息はまだ
大空に
湯氣と
立昇り、
卿の
先頃の
呻吟聲はまだ
此老の
耳に
鳴ってゐる。
私は
起き
上つて、
折から
運ばれて
來た
金盥のあたゝな
湯氣の
中に、
草の
葉から
搖ぎ
落ちたやうな
涙を
靜かに
落したのであつた。