湯氣ゆげ)” の例文
新字:湯気
浴室よくしつまどからもこれえて、うつすりと湯氣ゆげすかすと、ほかの土地とちにはあまりあるまい、海市かいしたいする、山谷さんこく蜃氣樓しんきろうつた風情ふぜいがある。
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
いま餘波なごりさへもないそのこひあぢつけうために! そなた溜息ためいきはまだ大空おほぞら湯氣ゆげ立昇たちのぼり、そなた先頃さきごろ呻吟聲うなりごゑはまだこのおいみゝってゐる。
わたしあがつて、をりからはこばれて金盥かなだらひのあたゝな湯氣ゆげなかに、くさからゆるちたやうななみだしづかにおとしたのであつた。
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
火鉢ひばちにはちひさななべけてあつて、そのふた隙間すきまから湯氣ゆげつてゐた。火鉢ひばちわきにはかれつねすわところに、何時いつもの坐蒲團ざぶとんいて、其前そのまへにちやんと膳立ぜんだてがしてあつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
火の側の小さな圓い卓子テエブルの上に置かれた陶器の茶碗や光つた急須きふすが、どんなに美しく見えたらう! 飮物の湯氣ゆげ燒麺麭トーストの香りが、どんなにかかうばしかつたらう! だが、その燒麺麭は
此時このとき、われにかへこゝろ、しかも湯氣ゆげうち恍惚くわうこつとして、彼處かしこ鼈甲べつかふくしかうがい行方ゆくへおぼえず、此處こゝ亂箱みだればこ緋縮緬ひぢりめんにさへそでをこぼれてみだれたり。おもていろそまんぬ。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
火鉢ひばちあかいのも、鐵瓶てつびんやさしいひゞきに湯氣ゆげてゝゐるのも、ふともたげてみた夜着よぎうらはなはだしく色褪いろあせてゐるのも、すべてがみなわたしむかつてきてゐる——このとし
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
夕食デイナーは、二個の、大きな錫張すゞばりの器で出された。その器からは惡臭のある脂のつよい白い湯氣ゆげが立つてゐた。見ると、この食物は、平凡な馬鈴薯じやがいもと古くさい肉の變な切屑とを一緒に煮てあつた。
ゴウーンとあめこもつて、修禪寺しゆぜんじくれつのかねが、かしらをつと、それ、ふツとみなえた。……むく/\と湯氣ゆげばかり。せきつりをする、番傘ばんがさきやくも、けやきくらくなつて、もうえぬ。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
うかとおもふと、一人ひとりで、おもひにねるか、湯氣ゆげうへに、懷紙ふところがみをかざして、べにして、そつうでてたことなどもある、ほりものにでもしよう了簡れうけんであつた、とえるが
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ヒガネとむ、西風にしかぜさむきがたう熱海あたみ名物めいぶつなりとか。三島街道みしまかいだう十國峠じつこくたうげあり、今日こんにちかぜ氣候きこう温暖をんだん三度さんどくもごと湯氣ゆげいてづるじつ壯觀さうくわん御座候ござさふらふ後便こうびん萬縷ばんる敬具けいぐ
熱海の春 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
湯氣ゆげかすみつたやうにたなびいて、人々ひと/″\裸像らざうときならぬ朧月夜おぼろづきよかげゑがいた。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
大火鉢おほひばちがくわん/\とおこつて、鐵瓶てつびんが、いゝ心持こゝろもちにフツ/\と湯氣ゆげててる。銅壺どうこには銚子てうしならんで、なかにはおよぐのがある。老鋪しにせ旦那だんな新店しんみせ若主人わかしゆじん番頭ばんとうどん、小僧こぞうたちも。
祭のこと (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あらうことか、奧方おくがたうづまきかゝる湯氣ゆげなかで、芝居しばゐ繪比羅ゑびらほゝをつけた。
銭湯 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
半纏はんてんいだあとで、ほゝかぶりをつて、ぶらりとげると、すぐに湯氣ゆげとともにしろかたまるこしあひだけて、一個いつこたちまち、ぶくりといた茶色ちやいろあたまつて、そしてばちや/\とねた。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
湯氣ゆげあたゝかく、したなる湯殿ゆどの窓明まどあかりに、錦葉もみぢうつすがごといろづいて、むくりと二階にかいのきかすめて、中庭なかにはいけらしい、さら/\とみづおとれかゝるから、内湯うちゆ在所ありかかないでもわかる。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さつとおとして、やなぎ地摺ぢずりに枝垂しだれたが、すそからうづいてくろわたつて、れるとおもふと、湯氣ゆげしたやうな生暖なまぬるかぜながれるやうに、ぬら/\と吹掛ふきかゝつて、どつくさあふつてつたが、すそ
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
やがて湯氣ゆげれば掛茶屋かけぢややなりけり。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)