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三が日の晴着はれぎすそ踏み開きてせ来たりし小間使いが、「御用?」と手をつかえて、「なんをうろうろしとっか、はよ玄関に行きなさい」
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
あわてて二階へせ上って、かいがいしく雨戸を繰りはじめましたが、兵馬はなにげなく二階を見上げますと、いま戸を立てた女は
中にも堀部安兵衛は、大石と離れてさえ決行しようとしていただけに、明くる朝すぐに発足ほっそくして、潮田うしおだ又之丞とともに江戸にせ下った。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
いましも船首甲板せんしゆかんぱんける一等運轉手チーフメート指揮しきしたに、はや一だん水夫等すいふら捲揚機ウインチ周圍しゆうゐあつまつて、つぎの一れいとも錨鎖べうさ卷揚まきあげん身構みがまへ
寧子は西の空へ想いをせた。長浜を落ちる前夜、あわただしく一書をかいて中国の良人へ持たせてやった使いの消息もあれきりだった。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
通胤はとっさにせ寄り、男の裂き捨てた紙片を拾うと、人々から離れて、道ばたの杉の巨木のかげへはいり、手早く紙片をつぎ合せてみた。
城を守る者 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
五銭の飛びのりがまず大快楽おおたのしみなり。車夫は水をまきはてて夕方のけしきをうっかりと見ている目の前へ。ガラガラガラとせくる一りょうの人力車。
藪の鶯 (新字新仮名) / 三宅花圃(著)
若僧はもの言いもてなお下手に歩み出づる時、あわただしげにせ来たれる僧徒妙海と妙源とに行きあう。四者佇立ちょりつ
道成寺(一幕劇) (新字新仮名) / 郡虎彦(著)
そうして写生文の方には初めは俳句の側のものばかりであったが、中頃から和歌の側のものもせ参じてあたかも両者が半分位ずつの割合となった。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
紅葉もみじ火のごとく燃えて一叢ひとむらの竹林を照らす。ますます奥深く分け入れば村きわまりてただ渓流の水清く樹林の陰よりずるあるのみ。帰路夕陽せきよう野にみつ
小春 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
彼のおもて嬉々きゝと輝きつ、ひげの氷打ち払ひて、雪をつて小児こどもの如くせぬ、伯母の家はの山角の陰に在るなり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
ニナール姫は、さういふが早いか、足で一つ、ブレツのおなかをポンとけると、矢のやうに、向ふに高くそびえるギンガンれいの方をさして、せ去りました。
ラマ塔の秘密 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
毛利の方でも、一寸ちょっと迷ったが例の小早川隆景たかかげ、秀吉の大量を知って、此上戦うの不利を説いたので、秀吉後顧の憂いなくして京師にせ上ることが出来た。
山崎合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
すると、包囲線をめがけてせて来る汚れた短衣や、縁なし帽がバタバタ人形をころばすようにそこに倒れた。
パルチザン・ウォルコフ (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
中隊長は指揮刀を幾度か動かそうとして躊躇ちゅうちょした。そして遂に、その多数の黒影が、百米突メートルあまりに近づいたとき、斥候の一人がせ戻って来て報告した。
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
これらすべての色彩が、おのおの速度を異にして、入り乱れ、せちがい、流動するがごとくに動くのである。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
だがそれは、自分たちが始めて考え出したことだと思ってはいけない。このわしもやはり夢をみたり、思いをせたり、あこがれをいだいたりしたことがある。
生命の次ほど大変なことに思っていたこと故、見舞いにせ附けた人たちをば非常にまたよろこんだものである。
何處からともなく吹きまくつて來る一陣の呵責かしやくの暴風に胴震ひを覺えるのも瞬間、自らの折檻せつかんにつゞくものは穢惡あいあくな凡情にせ使はれて安時ない無明の長夜だ。
崖の下 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
エレーン! 放せってば! (振りもぎって、舞台へせ入り、きょろきょろとセレブリャコーフを捜す)
やがて金眸が首級くびを噬み切り、これを文角が角に着けて、そのまま山をくだり、荘官しょうやが家にと急ぎけり、かくて黄金丸は主家に帰り、くだんの金眸が首級くびを奉れば。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
三浦、上総の両介はすぐに支度を整えて東国にせ下った。泰親はかさねて屋敷のうちに調伏の壇をしつらえた。泰忠その他の弟子たちも壇にのぼる人になった。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
昔、乃木将軍の幕僚として日露の役にせ参じ帰って来てから軍服で高座へ押し上がり、「突貫」や「凱旋」という時局落語に一躍人気者となってしまったこの人。
随筆 寄席風俗 (新字新仮名) / 正岡容(著)
刑事や警官が扉の前にせ集って来た。扉はドーンと開く。松ヶ谷学士は先頭になって飛び込んだ。
国際殺人団の崩壊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と嘘をつかい、人をせて其の筋へ届け、御検屍ごけんしもすんでうちに引取り、何事もなく村方へ野辺の送りをしてしまいましたが、伴藏が殺したと気が付くものは有りません。
葉子の心のすみからすみまでを、溜飲りゅういんの下がるような小気味よさが小おどりしつつせめぐった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
自分の偉人の行動を論議することをみずからがえんじなかったとはいえ、その晩、晴れやかな顔付と輝かしい考えしか存すべからざる時に、氏がそういう厭なことに思いをせたのは
息苦しさとに堪えかね、わたくしは出口を求めて自動車のせちがう広小路へ出た。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
雨戸あまど引きあけると、何ものか影の如くった。白は後援を得てやっと威厳いげんを恢復し、二足三足あとおいかけてしかる様に吠えた。野犬が肥え太った白を豚と思って喰いに来たのである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
見聞いたすべく、ニールの彼方までせ参じようと存じて居るのでございます。
青白き公園 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
そういう駒に打ち乗って、丹生川平の男達が、今や丘からせ下り、森林の中を突破して、宮川茅野雄と醍醐弦四郎とが、切り合っている曠野の方へ、無二無三に押し出そうとしている。
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あくる日、匇々さうさう筆を取つて一首のソネツトを得、使をせて晩翠君に送りぬ。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
ケプラーが大公からの書類をもってせつけて助けたというのが終末です。
その晩は例の竹が、枕元で婆娑ばさついて、寝られない。障子しょうじをあけたら、庭は一面の草原で、夏の夜の月明つきあきらかなるに、眼をしらせると、垣もへいもあらばこそ、まともに大きな草山に続いている。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
は如何にとて皆々せまどひ、御酒肴ごしゅこう取りあへず奥座敷にしょうじ参らするうち、妾も化粧をあらためて御席にまかり出で侍りしが、の御仁体を見奉みたてまつるに、半面は焼けただれてひとへに土くれの如く
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
汽車はおおらかな野原の傾斜を素直ぐにせ下ってゆく。
みなかみ紀行 (新字新仮名) / 若山牧水(著)
夫人の想いは、遠く夫君の胸にせているのであった。
葵原夫人の鯛釣 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
「あらまア! あんないたずらを」と娘はせよッて
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
またたく間に、山ノ宿からせつけた、田圃の小家——
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
慎九郎はたたらを踏んで、焔の外側をせめぐった。
討たせてやらぬ敵討 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
牡丹に唐獅子竹にとらとら追ふてしるは和藤内わとうない
住吉祭 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
大日輪の𢌞めぐる氣重き虚空こくう鞭うつて
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
淺瀬にせ散る鮎と見えて
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
こういうかけ声をしながら、息せききってせつけて来るものがあるのですから、源松は、その行手をおもんぱからないわけにはゆきません。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「もうお帰りのころであろうに」玉日は、黄昏たそがれになると、草庵のひさしから夕雲をながめて、旅にある良人おっとの上へ、うっとりと心をせた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼女は、一郎を抱き上げて家の中へせこんだ。竹三郎は磨いた煙槍エンチャンをくわえて、赤毛布の上に横たわり、酒精アルコールランプを眺めながら、恍惚状態に這入ろうとしていた。
武装せる市街 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
そういう其村君のような人も門下生の一人として集まって来たという事が如何に当時各種の人が居士の門下にせ集まったかという事を物語るに足ると考えたからである。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
「姉さんですか」剛一は自転車を投じてせ寄れり、梅子はヒシといだき着きぬ「剛さん——」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
初めて知るわが身の素性すじょうに、一度ひとたびは驚き一度は悲しみ、また一度は金眸きんぼうが非道を、切歯はぎしりして怒りののしり、「かく聞く上は一日も早く、彼の山へせ登り、仇敵かたき金眸をみ殺さん」
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
苦痛と、いうべからざるいたましきのために、武男が目は閉じぬ。人のうめく声。物の燃ゆる音。ついで「火災! 火災! ポンプ用意ッ!」と叫ぶ声。同時にせ来る足音。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)