)” の例文
旧字:
表通りの呉服屋と畳表問屋の間の狭い露路の溝板へ足を踏みかけると、かすかな音で溝板の上にねているこまかいものの気配いがする。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
何を他人がましい、あなた、と肩につかまった女の手を、背後うしろざまにねたので、うんにゃ、愚痴なようだがお前にはうらみがある。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その、落ちるところを空に引ッ掴んで、チャリイン! 丹波の突きを下からね上げながら、そくひょうのように躍って横地半九郎へ襲い掛った。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
友人が一緒になる場合の条件などを提げて出て行ってから、二時間ばかり経つと、笹村もたわめられた竹がもとね返るような心持で家へ帰った。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
舗道の三和土たたきへ当る雨が、ねあがって、啓吉の裾へ当って来る。傘が大きいので、啓吉の姿が見えない程低く見えた。
泣虫小僧 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
またまりも、我々がやるようにしては遊ばず、何度ねかえすことが出来るかを見る為に、地面に叩きつけて遊ぶ。
髯の根をうんとおさえて、ぐいと抜くと、毛抜は下へね返り、あごは上へり返る。まるで器械のように見える。
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ぢゃ木さばご附くこなしだぢゃぃ。」たれかがうしろで叫んでゐる。どういふ意味かな。木にとりつくとね返ってうしろのものをたたくといふのだらうか。
台川 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
一寸ちょっと具合の悪いものですな。私達は百人の組を引き受けましたが、この中から見す見す七八十人ねられるのかと思ったら、無慈悲のような心持がしましたよ
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
Aの帽子をね飛ばしたのでイヨイヨ肝魂きもたましいも身に添わなくなったAは、それこそ死に物狂いの無我夢中になって、夜となく昼となく裸体女の幻影に脅やかされながら
キチガイ地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「何ですたい。」と、どかりとソファに身体からだねかえらして、薄い口髭をちょいとひねった。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
彼は、後頭部と肩のあたりに花火が爆発したような震動しんどうを感じて、ぼうっとなった。しかし、この瞬間は彼にとって大事な一瞬であった。彼はまりねるように起き上った。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
だがただ一つ芸術分野の会合等に出ると、自分が朝鮮の文人達のように芸術的な仕事を何もし得ないことにひけ目を感じ、ね返っては彼等を憎々しくさえ思っているのだ。
天馬 (新字新仮名) / 金史良(著)
縁端えんばたにずらり並んだ数十の裸形らぎょうは、その一人が低く歌い出すと、他が高らかに和して、鬱勃うつぼつたる力を見せる革命歌が、大きな波動を描いてでついた朝の空気を裂きつつ、高くねつつ
(新字新仮名) / 徳永直(著)
少しく文字も読め斉家せいかの道に勉力してもらいたい。ねた性質に世界の酸素を交ぜて。おてんばという化合物になったのなんざア好まない。いわば蹈舞の上手より毛糸あみの手内職をして。
藪の鶯 (新字新仮名) / 三宅花圃(著)
洞窟がいくらか狭くなったらしく、話し声がわんわんねかえって聞えた。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
「それはよけれどね返って座席へでも落ちたら難儀でござるな」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「兄貴、まちがいねえ。今のはたしかに、罠弓わなゆみぜた音だぜ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三人は、思わずね上げられたような、声を立てた。
紅毛傾城 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「へッ、ねたのはこっちで」
ウェーヴをけた額は、円くぽこんと盛上って、それから下は、大きな鼻を除いて、中窪なかくぼみに見えた。あごが張り過ぎるように目立った。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
途端とたんに流れにさからって、網のを握っていた叔父さんの右の手首が、蓑の下から肩の上までかえるように動いた。続いて長いものが叔父さんの手を離れた。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「じゃ木さばくこなしだじゃぃ。」だれかがうしろでさけんでいる。どういう意味いみかな。木にとりつくとかえってうしろのものをたたくというのだろうか。
台川 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ほろねた笹村の腕車くるまが、泥濘ぬかるみの深い町の入口を行き悩んでいた。空には暗く雨雲が垂れ下って、屋並みの低い町筋には、湯帰りの職人の姿などが見られた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
というと研屋とぎやの五助、わめいて、むッくとね起きる。炬燵の向うにころりとせ、貧乏徳利を枕にして寝そべっていた鏡研かがみとぎの作平、もやい蒲団ぶとん弾反はねかえされて寝惚声ねぼげごえ
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
富岡は、左の手で、蒲団の中の女の手にふれてみた。そして、静かに、女の横顔をみつめたまゝ強く手を握り締めた。富岡の胸の中には、急に無数の火のぜた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
足掻あがいたところで、然う違うものじゃない。四年修了の折、○○大学の予科を受けて、二人ともねられた。この時は僕は一寸発心したけれど、菊太郎君に引き摺られてしまった。
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
そういうとずんだ声が、くるッとふりむいた。——
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
僕はそれよりも健康で精力にち切れさうな肉体を二つ野の上に並べて、枝の鳥のやうに口笛を吹きかはすだけで
夏の夜の夢 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
びゅうびゅう口笛を吹く者や、唱歌をうたう者、読本と首っ引きの者、復習をしてなかったと、泣きそうになっている者や、まるで教室は豆がぜたようだ。啓吉は気が弱くて
泣虫小僧 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
「あすこには昔の友人がいるから、ねられたら何が悪かったか訊いてやろう」
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
たまには敲きそこなった弾丸が流れてしまう事もあるが、大概はポカンと大きな音を立ててね返る。その勢は非常に猛烈なものである。神経性胃弱なる主人の頭をつぶすくらいは容易に出来る。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
世間は他人ひとごとどころではないと素気なくね返す。彼はいきり立ち武者振むしゃぶりついて行く。気狂いみているとて今度は体を更わされる。あの手この手。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
血腥ちなまぐさいことにならなければよいがと云う気持ちと一緒に、隆吉が思いきりよく、新しい嫁を選んでくれればいいと云った様々な思いが、千穂子の頭の中をあぶるようにぜているのだ。
河沙魚 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
僕は府立を受けて、直ぐにねられてしまった。歯が立たない。尤も僕ばかりじゃなかった。大勢受けたけれど、副級長の鮫島君が入っただけで、他は全滅だった。次に僕は私立を受けた。
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
とまで言ったが、それではあまり同情者に対してまともにね返し過ぎるとでも思ったのか
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
二ツの七輪から火の粉がさかんにぜている。さかんな火勢だ。熱い茶を何杯も貰う。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
と安達君はねるように立ち上って、階段へ急いだ。奥さんも続いて下りた。
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ついに煩しさに堪え兼ねた逸作は、雛妓をねのけて居ずまいを直しながらきっぱり言った。
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「実は去年高商を受けてねられたんです。又やるかも知れません」
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
陽にあたると、紙はすぐくるりとねあがる。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
その言葉は別だん、力のこもつた云ひ方ではなかつたが、母親には電気のやうに触れた。母親には、何か無理に力一ぱい自分がへし曲げてゐたものに最後にね返されたやうに感じた。
蝙蝠 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
「一高や高商でねられた怪我人ですよ」
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
うき世の豆のぜかえり
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
そのお弁当を二つも貰って食べ抹茶も一服よばれたのち、しばらくの休憩をとるため、座敷に張りめぐらした紅白だんだらの幔幕まんまくを向うへね潜って出る。そこは庭に沿った椽側えんがわであった。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
と雅男はねつけた。
変人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
母親には、何か無理に力一ぱい自分がへし曲げていたものに最後にね返されたように感じた。(やっぱりそうか)と母親は観念すると、たちまちそこに宿命に素直になる歓びさえ覚えた。
蝙蝠 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
かの女の小児型の足が二つまりのようにずんだ。よく見ればそれに大人おとなの筋肉の隆起りゅうきがいくらかあった。それを地上に落ち付けると赭茶あかちゃ駒下駄こまげたまわりだけがくびれて血色を寄せている。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
それは一応絶望の人の言葉には聞えたが、そのひびきには人生の平凡を寂しがるうらみもなければ、絶望からね上って将来の未知を既知きちページって行こうとする好奇心こうきしんも情熱も持っていなかった。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
池上は、その腫れぼったい眼を伏せて、軽く峰のある高い鼻の両側に視線を落しました。ねて島の影のように薄い近代的の眉はやゝひそまり、情熱的な濡れて赤い唇は苦く前歯で噛まれていました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)