)” の例文
法華寺で思わず長座をしたので、われわれはまたあわてて車を西にせた。法華寺村を離れると道は昔の宮城のなかにはいる。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
わが本隊の五艦は今や全速力をもって敵の周囲をせつつ、幾回かめぐりては乱射し、めぐりては乱射す。砲弾は雨のごとく二艦に注ぎぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
其身斗満の下流に住みながら、翁の雄心ゆうしんはとくの昔キトウスの山を西に越えて、開闢かいびゃく以来人間を知らぬ原始的大寂寞境の征服にせて居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
されどとかくする中、さしもの雷雨もいささか勢弱りければ、夜に入らぬ中にとてまた車をせ、秩父橋といえるをわたる。
知々夫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ここ一時間を無事に保たば、安危あんきの間をする観音丸かんのんまるは、つつがなく直江津にちゃくすべきなり。かれはその全力を尽して浪をりぬ。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
久振の日和で近くの港から出た上り下りの帆前船が一面に夕映のした海をせて居た。湿つた風が海面から吹き上げて来て後の松林の中に消えた。
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
明けがたはたいがい、屋根のうえや家の側面を上がりさがりしてせまわる赤リス(Sciurus Hudsonius)によって目を醒まされた。
車はせ、景は移り、境は転じ、客は改まれど、貫一はかはらざる悒鬱ゆううついだきて、る方無き五時間のひとりつかれつつ、始て西那須野にしなすのの駅に下車せり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
苦しそうに救いを求める叫び声が空に充ち充ちて、カンテラを提げた人や、怪我人を抱えた人が右往左往にせちがっていました。そうして夥しい叫喚と、呻吟と、哀泣。
此時遥かの山の陰から此隊商を目宛めあてとして汗馬に鞭をあて乍らしって来る一人の男がある。
喇嘛の行衛 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
されば駿河湾の暖流しるところに近い浅間神社のほとり、かしわや、さかきや、藪肉桂やぶにっけいなどの常緑濶葉樹かつようじゅが繁茂する暖地から、山頂近くチズゴケやハナゴケなど、寒帯の子供なるこけ類が
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
風は帆綱に鳴り、白帆は十分風をはらんだ。船はひらめ飛沫しぶきを飛ばしてせた。かもめは鳴いて大空に輪をいた。そうしてあなたは、海の風に髪をなぶらせつつ、何処どこまでもと、ひた駛せに駛せた。
少年・春 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
駒光くこう何ぞするが如きや。
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
右に畝傍山・香久山、左に耳無山みみなしやま、その愛らしい小丘の間を汽車はせて行く。いにしえの藤原の京、飛鳥の京の旧跡は指呼の間に横たわっていた。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
父は折々後を向いて沖の方を眺めるに違ひない、そして穏かな、日光に光つた海を沖へ/\とせて行く此の小舟の中の私を思ひやつて居るであらう。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
わが本隊は敵の横陣に対して大いなる弧をえがきつつ、かつ射かつせて、一時三十分過ぎにはすでに敵を半周してその右翼を回り、まさに敵の背後うしろでんとす。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
豪徳寺ごうとくじ附近に来ると、自動車はひとかく入れた馬の如く、決勝点けっしょうてんを眼の前に見る走者そうしゃの如く、ながら眼をみはり、うんと口を結んで、疾風の如くせ出した。余は帽子に手をえた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
残念ながらふるい。切棄きりすてても思想は皦々きょうきょうたり。白日の下に駒をせて、政治は馬上提灯の覚束おぼつかないあかりにほくほく瘠馬やせうまを歩ませて行くというのが古来の通則である。
謀叛論(草稿) (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
虫の音は、花の色は、すべての宇宙の美は、虚無でない、虚無でない「美」の底に悲哀が包まれたるは何の意味であるか。銀座の通りを行く。数十百の電車は石火の一刹那にせ違う。
霊的本能主義 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
自動車の意志は、さながら余に乗りうつって、臆病者おくびょうものも一種の恍惚エクスタシーに入った。余は次第に大胆だいたんになった。自動車が余を載せて駈けるではなく、余自身が自動車を駆ってせて居るのだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
わが海軍の精鋭と、敵の海軍の主力と、共に集まりたる彼我の艦隊は、大全速力もてせ違い入り乱れつつ相たたかう。あたかも二りゅうの長鯨を巻くがごとく黄海の水たぎって一面のあわとなりぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)