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急駛
溪、直徑
大凡七八町、岩石の奇なるものを
屏風岩、
硯岩、
烏帽子岩、
蓮華石、
浦島釣舟岩と爲し、其水の
來るや、沈々として聲無く、其色の深碧にして
急駛せる、
座ろにわれの心を惹きぬ。
わが最初の
寓目の感は
如何、われは唯
前山の麓に沿うて
急駛奔跳せる一道の大溪と
傍に起伏出沒する數箇の溪石とを認めしに過ぎざりしと
雖も、しかもその
鏘々として金石を鳴らすが如き音は
面白く
発りし一座も
忽ち
白けて、
頻に
燻らす
巻莨の煙の、
急駛せる車の
逆風に
扇らるるが、飛雲の如く窓を
逸れて
六郷川を
掠むあるのみ。