)” の例文
旧字:
彼女は彼のもとに、あまりえもしない詩人生活をした。彼が巡業を主としてゐたので、従つて彼女の生活は放浪的なものであつた。
デボルド―ヷルモオル (新字旧仮名) / 中原中也(著)
わけて義貞はえを好む。見得を大事に思う。で、大将の気を映して、軍は破竹はちくの勢いをしめし、次の日もさらに南下をつづけていた。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
気にしながらえぬものは浮世の義理と辛防しんぼうしたるがわが前に余念なき小春がとし十六ばかり色ぽッてりと白き丸顔の愛敬あいきょうこぼるるを
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
突き出されてできている一軒の部屋から華やかな燈火の橙黄色だいだいいろの光が、雨戸を閉ててない障子一面に、えて鈴江の眼にうつった。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
実は、この甲野八十助は探偵小説家に籍を置いてはいるものの、一向にえない万年新進作家だった。およそ小説を書くにはタネがった。
火葬国風景 (新字新仮名) / 海野十三(著)
俗に金平糖というポツポツの頭髪でありますが、これをどうやっていいか、丸太を使った日には重くなって仕事がえず、板では仕様もない。
見得もえもなくステッキの前にうなだれてしまった。この間、酔っ払った勢いでナグリ倒した救世軍士官の顔が、眼の前にチラ付いて来た。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それも然しうやらうやら収りがついた。が、眇目かための教師はそれなり余り口を利かなかつた。従つて肝腎の授業の批評は一向えなかつた。
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
狭苦しい置屋の店も縁起棚えんぎだなに燈明の光が明々あかあかと照りえて、お勝手で煮る香ばしいおせちのにおいが入口の方まで臭うている。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
よろこびに声をひそめた彼の顔は、ひげの中で彼女の衣の射る絹の光を受けて薄紅にえていた。部屋の中で訶和郎の死体が反絵の腕をすべって倒れる音がした。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
お芝居としちゃあ結構な愁嘆場しゅうたんばかも知れねえが、しょうで見せられると根っからえねえものなんだぜ……お前さんも、そこをよく心得ていなくちゃいけねえ。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
たゞお客の間に評判がいゝというだけで、甲部座員とはいえ、いたってまだ楽屋ではえない身分だった。
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
食卓で彼のそばにすわって、ぎこちないえない様子をして、口を開いて話そうともほとんどしなかった。
ゑりもとばかりの白粉もえなく見ゆる天然の色白をこれみよがしにのあたりまで胸くつろげて、烟草たばこすぱすぱ長烟管ながぎせる立膝たてひざ無沙法ぶさはうさもとがめる人のなきこそよけれ
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
が、それにも拘らず、鶴子にはやはり野田の云つたやうに美しさのどうもえないところがあつた。
朧夜 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
主客はしばらくぐずぐずしていたが、それからはどうした事か、話がえない。とうとう一同寝ると云うことになって、客を二階へ案内させるために、上さんが女中を呼んだ。
鼠坂 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
余りえな過ぎると思ったが、——先刻さっきから言った通り——三輪坊みいぼうがしたお照さんのその話を聞いてからは、自分だけかも知れないが、何とも言われないほど胸がふさいだよ。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ローヤル・コーラル・ソサイティは『ハレルヤ・コーラス』(JB三三)と『天地創造』の「もろもろの天の神のえをあらわし」「御業みわざは成れり」(JB五四)を入れている。
最近移ったばかりの信濃町しなのまちの雪枝のうちの少し手前で、タキシイを乗りて、白いレイスの衿飾えりかざりのある黒いサテンの洋服を着た葉子は、和装の時ほど顔も姿もえないので
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
まるきり型や振事ふりごとの心得のない二葉亭では舞台に飛出しても根ッからえなかったろうが、沈惟敬しんいけいもどきの何とかいう男がクロンボを勤めてるよりも舞台を引緊めたであろう。
二葉亭追録 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
先程からぱっとして色と云う色をえさして居た日は、雲のまぶたの下に隠れて、眼に見る限りの物は沈欝ちんうつそうをとった。松の下の大分黄ばんだ芝生に立って、墓地の銀杏いちょうを見る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
錦花氏のいわれた通り、亀山の仇討は元禄曾我と唄われながらもその割にえないのは、石井兄弟のために少しく気の毒でもある。しかもそういう意味の幸不幸は他にいくらもある。
かたき討雑感 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
子供は泣きみ、舟中ではことに美しくえる人形を抱きよせた。この女らしい優しい思いつきは舟中の客の胸に、いしくも温かいおもいをかもさせ、牛を乗せた船頭は感動していった。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
りきと呼ばれたるは中肉の背恰好せかっこうすらりつとして洗ひ髪の大嶋田おおしまだに新わらのさわやかさ、頸元えりもとばかりの白粉もなく見ゆる天然の色白をこれみよがしにのあたりまで胸くつろげて
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
先まで見渡すと、鉄色の筋が二本えない草の中を真直まっすぐつらぬいている。しかし細い筋が草に隠れて、行方知ゆきがたしれずになるまで眺め尽しても、建物らしいものは一軒も見当らなかった。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
世界のひとかけにすぎない、この船が、厖大ぼうだいな人間社会にもどろうとして船路をいそいでいるすがたはなんとおもしろいではないか。船はまさに人間の発明力のえある記念塔ではないか。
船旅 (新字新仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
珍しくうららかに浅碧あさみどりをのべし初春の空は、四枚の障子に立て隔てられたれど、悠々ゆうゆうたる日の光くまなく紙障にえて、余りの光は紙を透かして浪子が仰ぎしつつ黒スコッチのくつしたを編める手先と
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
名匠はわれわれの知らぬ調べを呼び起こす。長く忘れていた追憶はすべて新しい意味をもってかえって来る。恐怖におさえられていた希望や、認める勇気のなかった憧憬どうけいが、えばえと現われて来る。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
はたたびの夕まぐれ、えのこるくも湿しめり
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
しかしダミアはどうにもえなかった。
巴里の唄うたい (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
あなたのイデオロギーにえあれ。
みやらびたちの前に踊りえたであらう
首里城 (新字旧仮名) / 世礼国男(著)
義貞自身も、はや他日の将軍のえを身に擬して半ば鎌倉を呑んでいた。一日ごとに地位の一階段をのぼってゆく自分に思えた。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
俗に金平糖こんぺいとうというポツポツの頭髪でありますが、これをどうやっていか、丸太を使った日には重くなって仕事がえず、板ではしようもない。
閉めて置いたと思った窓の雨戸がすっかり明いていて、障子の上にはあかあかと朝日が照りえているのだった。
深夜の市長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
中身をパックリと自分のおとがいの上へもって行ったところを見ると、色男も食い気に廻って、さっぱりえない。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
燈明の火が明るく輝き、紫の幕が、華やかにえ、その奥から、真鍮しんちゅうびょうを持ったほこらの、とぼそが覗いていた。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
たとえば山崎長之輔扮するところの仕事師と河原市松扮するところの芸妓とが相合傘あいあいがさで雨の中を出て来る底の色もようの道具位にしかつかわれずえないことおびただしい。
上野界隈 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
真夏の太陽の光りを受けて真赤まっかえた赤土の断崖を仰ぎ、突然に現れた激流を見下して、そうして、馬車が高い崖路がけみちの高低でかたかたときしみ出す音を聞いてもまだ続いた。
(新字新仮名) / 横光利一(著)
常見てはありとも見えぬあたりに、春来ればすももや梅が白く、桃が紅く、夏来れば栗の花が黄白く、秋は其処此処に柿紅葉、白膠木ぬるで紅葉もみじ、山紅葉が眼ざましくえる。雪も好い。月も好い。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
もちろん俄仕込にわかじこみで、粒揃つぶぞろいの新橋では座敷のえるはずもなく、借金がえる一方なので、河岸かしをかえて北海道へと飛び、函館はこだてから小樽おたる室蘭むろらんとせいぜい一年か二年かで御輿みこしをあげ
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
同じ団体のバッハの『クリスマス聖譚曲』の「神にえあれ」と「感謝に充ちて」(JH六三)も逸するわけに行かない。この大曲の一部分ではあるが、宗教楽に興味を持つものには尊いレコードだ。
えしぶく麝香の真珠またま、——
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「実は表へまわって見ると、御大名の御屋敷のお迎いが辻駕籠もめずらしい。奥女中の指には撥胝がある。どうもこれじゃあ芝居にならねえ。おめえは一体どこから化けて来たんだ。偽迎いも偽上使もいいが、役者の好い割にゃあ舞台がちっともえねえじゃあねえか」
半七捕物帳:07 奥女中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
長篠ながしの大捷たいしょうを博してからまだ一ヵ月、人生最高な会心事とゆるし、ひそかに男児の胸に四隣を圧しる武威を大列に耀かがやかして、しかも京都へのえある途中にあるのである。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
其が朝露をびる時、夕日にえて白金色に光る時、人は雲雀と歌声うたごえきそいたくなる。五日は檞餅かしわもちの節句だ。目もさむる若葉の緑から、黒い赤い紙のこいがぬうと出てほら/\おどって居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
お里の今の婿の英三は、一向にえない田舎医者。
(新字新仮名) / 海野十三(著)
「よしよし、道庵が入るならば芝居がえる」
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
えあかる思より
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
秀吉の風采がえないといっても、或いは、こういう人々の中だけに、よけい見劣るのかもしれない。何といっても、その日の清洲会議に列した程の者は、時代の一流級ぞろいである。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)