)” の例文
正午までには楽に頂上に着けると小屋の主人がいうので、雨のれたのを幸に、安心して岩の梯子を上るような急な登りにかかった。
金峰山 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
岩松は一生懸命弟の爲に辯解しましたが、結局、弟の上にかゝる疑ひは、容易にれるものでない事を呑込まされただけの事でした。
鳴神なるかみおどろおどろしく、はためき渡りたるその刹那せつなに、初声うぶこえあがりて、さしもぼんくつがえさんばかりの大雨もたちまちにしてあがりぬ。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
「安土退去このかた、光秀の胸に怏々おうおうとしてれやらぬものあることを、おこととしたことが、察してはいなかったのか。——左馬介さまのすけ
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
志保は庭へおりて菊をっていた。いつまでも狭霧さぎりれぬ朝で、道をゆく馬のひづめの音は聞えながら、人も馬もおぼろにしか見えない。
菊屋敷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そのありなしの日照りの雨がれたので、草はあらたにきらきら光り、向うの山は明るくなって、少女はまぶしくおもてをせる。
マリヴロンと少女 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
その連中が門内を覗きこんで、一種異様な臭気を持った煙のれゆく間から本堂のあたりと覚しき跡に眼を移したものは、思わず
仲々死なぬ彼奴 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それはれた青空の一片が曇れる雲の間からちらと覗かれたようなものであった。すぐに年来の生活と習慣の雲が蔽い隠してしまった。
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
時は既望きぼうの夜で、珍らしいほどにれた空の興に浮かれて月を観る人が無かろうはずはないが、月といっても今宵に限ったことはない。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
昨夜ゆうべ豪雨ごううは幸にからりれて、道も大抵乾いて居る。風が南からソヨ/\吹いて、「諸行無常」「是生滅法」の紙幟はたがヒラ/\なびく。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
雲が真ッ赤に染って秋草には露が光っていた。此時靄のれるのに従って打ち仰がれた富士の峯は、意外にもすこぶる無格好のものであった。
富士登山 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
雨がれると水に濡れた家具や夜具やぐ蒲団ふとんを初め、何とも知れぬきたならしい襤褸ぼろの数々は旗かのぼりのやうに両岸りやうがんの屋根や窓の上にさらし出される。
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
雨は高くれ上った。しかし彼は何かおびただしくがっかりしたようで、それからというものは仕事の方に少しも興が乗って来なかった。
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
午後には、やや西の方がれかかって、時が経つにつれて、赤いぼやけた雲の色になった。日が短くて、薄ら寒い空気であった。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
次の朝は綺麗にれた。雨に洗われた山の空気は、まことに清浄それ自身であった。Mさんはよろこんで、早速草鞋わらじをはいた。
可愛い山 (新字新仮名) / 石川欣一(著)
夜は既に明け放れて山霧全くれ、雨足も亦まばらになった。官軍は死屍しかばねを踏んで田原坂に進み、更に一隊は、敵塁の背後に出でようとした。
田原坂合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
雨はれた、人は湯さめがしたようにあつさを忘れた、敷居を越してあふれ込んだ前の大溝の雨溜あまだまりで、しっくいたたきの土間は一面に水を打ったよう。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すると天のたすけでございますか、時雨空しぐれぞらの癖として、今までれていたのがにわかにドットと車軸を流すばかりの雨に成りました。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「まあ、貴方——いいえ、可けませんよ。ちつとお顔に出るまで二三盃続けて召上れよ。さうすると幾らかお気がれますから」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
午後一時頃、余等は賽の河原坂の上に休んで、下界にれ行く霧の壮大なる光景を眺めて立った。薄霧の末には遙かに諏訪湖さえ見えている。
女子霧ヶ峰登山記 (新字新仮名) / 島木赤彦(著)
漸く胸壁の上の草の生えた緩斜面へ着いた頃は夕暮近く、れ間に見える陽に照らされた山の色は非常に冴えて、夜の近い事を指示していた。
一ノ倉沢正面の登攀 (新字新仮名) / 小川登喜男(著)
が、その頃から、鏡玉レンズへやの温度に馴れ、やっと靄がれはじめてきました。と、灌水シャワーのひらいた、夕立のような音がする。
一週一夜物語 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
暇乞いとまごいして帰ろうとすると、停車場ステーションまで送ろうといって、たった二、三丁であるがくまなくれた月の晩をブラブラ同行した。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
れた日曜日オリンピック村を見物する。ここは街から遠くはなれたところ多摩墓地に似た一角の赤松の林に取囲まれたデーベリッツである。
欧洲紀行 (新字新仮名) / 横光利一(著)
夕立のれた時には、もう薄暮の色が広い川の上に蔽ひかかつて居た。渡良瀬川わたらせがは思川おもひがはを入れて、段々大きな利根川の会湊点くわいそうてんへと近づいて行つた。
(新字旧仮名) / 田山花袋(著)
けれども、お勢は何とも云わず、また向うを向いてしまッたので、やや顔をらして、きまりわるそうに莞爾々々にこにこしながら
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
いつまで待っても、れそうもなければ、正午一行と別れ、予とフ氏とは、嘉門次父子を先鋒せんぽうとし、陸地測量部員の他、前人未知の奥穂高を指す。
穂高岳槍ヶ岳縦走記 (新字新仮名) / 鵜殿正雄(著)
その間に月が変って十月になり、長い間降りつづいた秋霖あきさめれると、古都の風物は日に日に色を増して美しくびてゆくのがさやかに眼に見えた。
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
ただ私の胸にも昨夜以来モヤモヤとわだかまっているこの妙な気持を幾分でもらさなければ、どうしても気がすまなかった。
逗子物語 (新字新仮名) / 橘外男(著)
時雨といへば矢張やはり其時、奈良の春日かすがやしろで時雨にあひ、その時雨のれるのをまつあひだ神楽かぐらをあげたことがあつた。
一番気乗のする時 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
こんな日に限って、夕方になるとよくれて来る。山の頂がくっきりと浮き出して来て、雲は細長い帯のようになってその麓に静かによこたわっている。
由布院行 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
皆天には霧の球、地には火山の弾子だんし、五合目にして一天の霧やうやれ、下によどめるもの、風なきにさかしまにがり、故郷を望んで帰りなむを私語さゞめく。
霧の不二、月の不二 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
そして、變化へんくわのない街道かいだう相變あいかはらず小川をがは沿うて、たひら田畑たはたあひだをまつぐにはしつてゐた。きりほとんあがつて、そらには星影ほしかげがキラキラとした。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
かわやの縁に立って眺めると、雪もやがてれるとみえ、中空にはほのかな光さえ射している。ああ静かだと貞阿は思う。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
明和めいわ戊子ぼし晩春、雨れ月朦朧もうろうの夜、窓下さうかに編成し、以て梓氏ししあたふ。題して雨月物語うげつものがたりふと云ふ。剪枝畸人せんしきじん書す。
それがれて、日にされるとき、地面からも、屋根からも、春の記憶を新にすべき湿気がむらむらと立ちのぼった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
好機は得離く失ひ易し、天気の変らざる内、明日にも出でゝおもいらし、年頭の回礼は、三日四日に繰送らんか。
元日の釣 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
二人の男の顔を見比べて「もう程なうお着きだつしやろ。ま、雨がれてお出迎へするにもほんまに結構だつせ」
やがあめまつたれるとともに、今度こんど赫々かく/\たる太陽たいようは、ごと吾等われらうへてらしてた。印度洋インドやうちう雨後うご光線くわうせんはまた格別かくべつで、わたくしころされるかとおもつた。
何時れるとも知れぬ長雨にあって、やはりこうして降る雨をみつめていた、子供の時の気持ちを思い出した。
雨の回想 (新字新仮名) / 若杉鳥子(著)
すると、朝靄がようやくれた通りには、朝帰りの客を運ぶ自動車が静かに砂利石を敷いて走って居り、その傍らの路傍にはカニが遊んでいたそうである。
宮崎の町 (新字新仮名) / 中村地平(著)
雨はからりとれたが、風の強い日であつた。女中は、照国丸といふ船が、朝九時に出船しますと、夜明け頃、火鉢の火を運びに来た時に知らせてくれた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
間もなく空がれた。嬌娜はしぜんと生きかえったが、孔生が傍に死んでいるのを見て大声をあげて泣いた。
嬌娜 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ドリスがいかに巧みに機嫌を取ってくれても、歓楽の天地のしきいの外に立って、中に這入る事の出来ないうらみらすには足らない。詰まらない友達が羨ましい。
原隊の町へ出発を明日にひかえた日は、夜来の雨が美しくれ上って、この頃毎日のように村の上空をよぎる飛行機が、高いところで眩しい弧を描くのだった。
和紙 (新字新仮名) / 東野辺薫(著)
昨夜来さくやらいしきりにり来る雨は朝に至りて未だれず、はるかに利根山奥をのぞむに雲烟うんえん濛々もう/\前途漠焉ばくえんたり、藤原村民の言の如く山霊さんれい果して一行の探検たんけんを拒むかとおもはしむ
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
雨の降るのを幸いに十三日一日は宿に閉籠って休憩きゅうけいをして、その次の十四日には雨もれたから、加藤木下両氏と共に多少の散歩をした位で、十五日になってから
利尻山とその植物 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
霧のれた山はおりおり頂を見せる。足下に流るる水を筆洗ひっせんに汲んで鼠色の雲を画き浅緑の岩を画く。
白峰の麓 (新字新仮名) / 大下藤次郎(著)
霧はもう名残もなくれて、澄みに澄んだ秋の山村さんそんの空には、物を温めるやうな朝日影が斜めに流れ渡つてゐた。村は朝とも昼ともつかぬやうに唯物静かであつた。
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
どうでえ! 喧嘩に強い奴あ恋にも強いぞ。長の思いのれる夕べだ。哲別ジェベ速不台スブタイ酒宴さかもりの支度をしろ。花嫁花婿のために、祝言しゅうげんの席を設けろ、あっはっはっは。