“い”のいろいろな漢字の書き方と例文
カタカナ:イ
語句割合
入9.5%
出8.0%
云5.8%
好5.8%
容4.8%
謂4.6%
活4.5%
要4.3%
生3.3%
行3.3%
言2.7%
可2.7%
往2.6%
癒2.3%
忌2.0%
去1.9%
宜1.8%
居1.7%
凍1.4%
美1.4%
良1.2%
射1.2%
淹1.1%
佳1.0%
異1.0%
善0.9%
納0.9%
寝0.7%
煎0.7%
在0.7%
曰0.7%
埋0.7%
井0.6%
逝0.6%
鋳0.6%
亥0.5%
結0.5%
厭0.5%
意0.5%
炒0.4%
快0.4%
焦0.4%
飲0.3%
藺0.3%
否0.3%
坐0.3%
威0.3%
胆0.2%
称0.2%
挿0.2%
囲0.2%
熬0.2%
胃0.2%
医0.2%
苛0.2%
道0.2%
猪0.2%
矣0.2%
衣0.2%
嫁0.2%
愈0.2%
最0.1%
嫌0.1%
諱0.1%
能0.1%
寢0.1%
一0.1%
率0.1%
痛0.1%
帰0.1%
偉0.1%
委0.1%
五0.1%
征0.1%
吉0.1%
適0.1%
網0.1%
入用0.1%
寐0.1%
没0.1%
今0.1%
痊0.1%
夷0.1%
位0.1%
易0.1%
点0.1%
慰0.1%
焙0.1%
緯0.1%
説0.1%
赴0.1%
鑄0.1%
瘥0.1%
命0.1%
来0.1%
醫0.1%
用0.1%
宣0.1%
徃0.0%
告0.0%
飮0.0%
美味0.0%
何0.0%
到0.0%
燻0.0%
伊0.0%
刺0.0%
揷0.0%
沒0.0%
害0.0%
息0.0%
死0.0%
為0.0%
畏0.0%
稱0.0%
蘇0.0%
尉0.0%
帷0.0%
一番好0.0%
差0.0%
幃0.0%
沍0.0%
維0.0%
葦0.0%
内0.0%
冱0.0%
厳0.0%
唯0.0%
嵌0.0%
巣0.0%
座0.0%
揺0.0%
熟0.0%
燥0.0%
盛0.0%
篏0.0%
致0.0%
評0.0%
語0.0%
費0.0%
齋0.0%
ゐ0.0%
幸0.0%
冲0.0%
呍0.0%
彫0.0%
旨0.0%
渭0.0%
灼0.0%
葬0.0%
ひ0.0%
ヶ谷0.0%
五十0.0%
仲々異0.0%
來0.0%
依0.0%
傑0.0%
傷0.0%
儞0.0%
克0.0%
入籍0.0%
加0.0%
升0.0%
収0.0%
収用0.0%
叫0.0%
号0.0%
合0.0%
吩0.0%
喘0.0%
喫0.0%
噎0.0%
圍0.0%
在宅0.0%
如0.0%
妙0.0%
姨0.0%
娘0.0%
媦0.0%
宿0.0%
寧0.0%
将0.0%
将往0.0%
幾0.0%
彙0.0%
徂0.0%
得0.0%
必要0.0%
怖0.0%
思0.0%
怡0.0%
怯0.0%
愈〻道0.0%
愛0.0%
掩0.0%
日出0.0%
椅0.0%
沈0.0%
注0.0%
浴0.0%
清0.0%
渡0.0%
滴0.0%
濰0.0%
火0.0%
炙0.0%
煑0.0%
熱0.0%
牽0.0%
献0.0%
甘0.0%
生活0.0%
甦0.0%
療0.0%
発0.0%
白0.0%
的0.0%
睡0.0%
答0.0%
糸0.0%
縊0.0%
老0.0%
膽0.0%
虐0.0%
蜼0.0%
蝟0.0%
褘0.0%
訓0.0%
譬0.0%
谷0.0%
豕0.0%
賭0.0%
退0.0%
進0.0%
韋0.0%
飯0.0%
𣟗0.0%
(注) 作品の中でふりがなが振られた語句のみを対象としているため、一般的な用法や使用頻度とは異なる場合があります。
(あなたは春陽会(しゅんようかい)へいらしって? 入(い)らしったら、今度知らせて頂戴(ちょうだい)。あたしは何だか去年よりもずっと好(よ)さそうな気がしているの)
文放古 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「これ太郎! どこにいる。お前はまた家の勇を泣かせましたねえ、太郎、さあ私がお前さんをいじめて上げるから、お出(い)でなさい」
百合の花 (新字新仮名) / 小川未明(著)
単に詞(ことば)の上で見るならば、潤いのあるということは、客観的な云(い)い方で味いのあるということは、主観的な云い方であるとも云える。
歌の潤い (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
よしまた行けるとして、従来通りの仏師でやって行って好(い)いものか、その辺のことについて考えて見るに、どうも不安でなりません。
特に現在のいわゆる精密科学の学徒から見れば到底彼らの考える科学の領域に容(い)れることを承認し難いものと考えられるに相違ない。
ルクレチウスと科学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
是等(これら)は謂(い)わば従であり人が主であるから、必要に迫らるれば、随分無理をして、といっても、巧(たくみ)に自然を利用することを忘れないで
峠 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
私も鷄二も城崎の宿の二階に上つて、女中がすゝめてくれるさつぱりとした浴衣に着更へた時は、活(い)き返つたやうな心地を味はつた。
山陰土産 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「ああ、アルバートか」と、弁護士は言い、この訪問客には何も取繕うことは要(い)らないというように、布団の上にぐったりと倒れた。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
唯一の憧れであった蕗子が死んでみれば放浪に出ることなんか意義のないことで、免訴になったところで何の生(い)き効(がい)があるでしょう。
流転 (新字新仮名) / 山下利三郎(著)
行(い)けば行(い)くほど山が深(ふか)くなって、もうどこをどう歩(ある)いているのか、まるで知(し)らない山の中の道(みち)を、心細(こころぼそ)くたどって行くばかりでした。
山姥の話 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
と、子家鴨達(あひるたち)は、今(いま)まで卵(たまご)の殻(から)に住(す)んでいた時(とき)よりも、あたりがぐっとひろびろしているのを見(み)て驚(おどろ)いて言(い)いました。すると母親(ははおや)は
串戯(じやうだん)はよして、些細(さゝい)な事(こと)ではあるが、おなじ事(こと)でも、こゝは大力(だいりき)が可(い)い。強力(がうりき)、と云(い)ふと、九段坂(だんざか)をエンヤラヤに聞(き)こえて響(ひゞき)が悪(わる)い。
怪力 (新字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
「井戸辺(いどばた)に出ていたのを、女中が屋後(うら)に干物に往(い)ったぽっちりの間(ま)に盗(や)られたのだとサ。矢張(やっぱり)木戸が少しばかし開(あ)いていたのだとサ」
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
日本で言えば「羽織の紐にでも触れば」というところです。するとただちに女の一念が届いて、病根の全く癒(い)えたのを直感しました。
こころ合はでも辞(いな)まむよしなきに、日々にあひ見て忌(い)むこころ飽(あ)くまで募(つの)りたる時、これに添はする習(ならい)さりとてはことわりなの世や。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
『これから大阪までいても、何處(どこ)ぞへ泊らんなりまへんよつてな。……大阪から家(うち)へは寂(さみ)しいよつて、私(わたへ)もうよう去(い)にまへんがな。』
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
あなたは三十三間堂も御嫌いか知らないが、私に聞かせるのだからいっしょに行って下すっても宜(い)いでしょうと手詰(てづめ)の談判をする。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
天井から、釣鐘(つりがね)が、ガーンと落ちて、パイと白拍子が飛込む拍子に——御矢(おんや)が咽喉(のど)へ刺(ささ)った。(居(い)ずまいを直す)——ははッ、姫君。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
音も月も凍(い)てついた深夜の衢(まち)、湯島切通しの坂を掛声もなく上って行く四手駕籠一梃、見えがくれに後を慕って黒い影が尾(つ)けていた。
何といっても、あの方は美(い)い男ね、あんな美い男は、ちょっとありませんね。それに比べると田山白雲先生は美い男とはいえないわ。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
生命(いのち)と取換えの事がそれである。どっちかといえば、見ても見ないでもいい芝居を、いくら良(い)いものでも、苦かったら見まいと思う。
当今の劇壇をこのままに (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そのうちに皇子はすきまをねらって、さっと矢をおつがえになり、罪もない忍歯王(おしはのみこ)を、だしぬけに射(い)落としておしまいになりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
西谷と私がそうして打解けて話していることが、娘には大変に嬉しいらしく、何時も娘は私達のところへ茶を淹(い)れて出て来るのであった。
私は津田氏と附合って、こんな佳(い)い半面を見るにつれて、以前ほど都会人というものを、おそろしくも、また、いやでもなくなった。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
それでも、もう一つ異(い)なことは、こんな場合にも手に持っていた手燭の火が消えなかったことで、これは一種の奇蹟でありました。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
医者に何一つ善(い)い事はないが、若い女の手が握られるだけが取柄だと。卜新老は人も知つてる通り若い妾を可愛(かあい)がるので名高い人だ。
しかしながらとにかく君が何ものも納(い)れ得ない心の中に、疲労という感じを覚えだして、これは困った事になったと思ったころだった
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
しかしマタイの言葉によれば、「殿(みや)の幔上(まくうへ)より下まで裂けて二つになり、又地震(ふる)ひて岩裂け、墓ひらけて既に寝(い)ねたる聖徒の身多く甦(よみがへ)」
続西方の人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
夜半(よなか)に咽喉(のど)が煎(い)りつくような気がして、小平太は眼を覚した。気がついてみると、自分はちゃんと蒲団の上に夜着を被(か)けて寝ていた。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
アツシリヤでも早くから犬を珍重して今の「マスチツフ」だの「グレイハウンド」だのといふ奴が在(い)たさうだが、爾(そ)んな事は扨(さ)ておき
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
第一を日葉酢(ヒハス)姫と曰(い)ひ、第二を渟葉田瓊入(ヌハタヌイリ)媛と曰ひ、第三を真砥野(マトヌ)媛と曰ひ、第四を䈥瓊入(アザミヌイリ)媛と曰ひ、第五を竹野(たかの)媛と曰ふ。(垂仁紀)
水の女 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
いちどわが家(や)へ戻って鍬(くわ)を持ち出し、夜もすがら裏藪(うらやぶ)のあたりを歩いていたが、やがて、西久保の山へ上って、その金を埋(い)けていた。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この瓦版を柏原を振出しにして、醒(さめ)ヶ井(い)、番場、高宮(こうみや)、越知川(えちがわ)、武佐(むさ)、守山、草津と、大声をあげあげ呼売りをして歩きました。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
母親は何やらモゾクサしてゐて、「私(わし)もナ、ひよツとすると、此の冬あたりは逝(い)くやも知れンてノ。」と他言(ひとごと)のやうに平気でいふ。
昔の女 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
いまわが呉は、孫将軍が、父兄の業をうけて、ここに三代、地は六郡の衆を兼ね、兵は精にし、粮(ろう)は豊山(ほうざん)を鋳(い)て銅(あかがね)となし、海を煮て塩となす。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「親分親分言うなよ、人聞きが悪い、ああ、これがその青嵐氏からの返事——十四日亥(い)の時、なるほど早いものだなあ、その足は」
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
青銅(からかね)の鳥居をくぐる。敷石の上に鳩が五六羽、時雨(しぐれ)の中を遠近(おちこち)している。唐人髷(とうじんまげ)に結(い)った半玉(はんぎょく)が渋蛇(しぶじゃ)の目(め)をさして鳩を見ている。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
『人のことを、そないに見るのは厭(い)や。』と、お光は自身の身形(みなり)を見𢌞はしてゐる小池の視線を眩(まぶ)しさうにして、身體(からだ)を竦(すく)めた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
「そりや、はあ、さうだが」只(たゞ)此(これ)だけいつて寡言(むくち)な卯平(うへい)は自分(じぶん)の意(い)を得(え)たといふ樣(やう)に始終(しじう)窪(くぼ)んだ目(め)を蹙(しが)めて手(て)からは煙管(きせる)を放(はな)さなかつた。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
これらの川魚(かわざかな)は、底(そこ)の浅(あさ)いたらいの中(なか)に、半分(はんぶん)白(しろ)い腹(はら)を見(み)せて、呼吸(こきゅう)をしていました。その隣(となり)では、甘(あま)ぐりを大(おお)なべで炒(い)っていました。
とびよ鳴け (新字新仮名) / 小川未明(著)
白い瓜の白い皮の下には白い快(い)い肉が包まれて居ますし、青い瓜の青い皮の下にはほんのりと青い爽かな潤ひを持つて居ます。
白瓜と青瓜 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
或る宗徒の一団七、八百人の隊は、残暑の陽(ひ)がかんかん焦(い)りつける炎天へ、半裸体のまま刀槍(とうそう)を手に揮(ふる)って、城中から突き出し
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いいえ、野暮(やぼ)な人間ですからさっぱり飲(い)けないんです。だが、きょうは少し飲みましょうよ。顔でも紅(あか)くしていねえと景気が付きませんや」
半七捕物帳:03 勘平の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
枕元の刀を把(と)って斬るつもりの伊織は、もんどり打って、刀と共に転(まろ)び、さっと動いた藺(い)すだれに、むささびの影が黒く止まっていた。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
余(よ)は曾(かつ)て如此(かくのごと)き事を試(こゝろ)みし事なし、否(い)な試(こゝろ)みて其(その)甚(はなは)だ馬鹿気(ばかげ)切(きつ)たる事を認(みと)めたれば全然(ぜん/\)之を放棄(はうき)せり、道(みち)を行(おこな)ふ事(こと)是(こ)れ道(みち)を説(と)く事なり
問答二三 (新字旧仮名) / 内村鑑三(著)
それを京都の外一歩も踏み出さぬ公卿(くげ)たちが、歌人は坐(い)ながらに名所を知るなどと称して、名所の歌を詠むに至りては乱暴もまた極まれり。
人々に答ふ (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
王朝はすでに地方官が武力を用いて威(い)を拡(ひろ)めはじめた時代になっていた。陸奥守(むつのかみ)から常陸介(ひたちのすけ)になった男の富などがそれである。
沈香(じんこう)、麝香(じゃこう)、人参(にんじん)、熊(くま)の胆(い)、金箔(きんぱく)などの仕入、遠国から来る薬の注文、小包の発送、その他達雄が監督すべきことは数々あった。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
山浦環は、又の名を内蔵助(くらのすけ)とも称(い)った。まだ二十歳(はたち)ぐらいで、固く畏(かしこ)まって坐った。黒い眸(ひとみ)には、どこかに稚気(ちき)と羞恥(はにか)みを持っていた。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『いつお亡くしになりましたの?』傍に坐つてゐた妻はかう口を挿(い)れた。
ある日 (新字旧仮名) / 田山花袋、田山録弥(著)
四方の壁際までにはやっとその光りが泳ぎ着く位で、四囲(い)は灰色の壁が朦朧(もうろう)と浮き出てストーブの火もいつしか消えていた。
点 (新字新仮名) / 小川未明(著)
庭(には)の油蝉(あぶらぜみ)が暑(あつ)くなれば暑(あつ)くなる程(ほど)酷(ひど)くぢり/\と熬(い)りつけるのみで、閑寂(しづか)な村落(むら)の端(はし)に偶(たま/\)遭(あ)うた※弟(きやうだい)はかうして只(たゞ)餘所々々(よそ/\)しく相對(あひたい)した。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
それも一つはかならず胃(い)の薬である、金持ちの家は薬代にも困らぬが、まずしき家では一日分の薬価は一日分の米代に相当する。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
そのうちに、喉(のど)が渇いて来た。劉も、曹孟徳か誰かが、前路に梅林ありと云つて、軍士の渇を医(い)したと云ふ事は知つてゐる。
酒虫 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
いましがたまでの何か自分にも訣(わけ)の分らないような気分が私にはだんだん一種の苛(い)ら立(だ)たしさに変り出したように見えた。
風立ちぬ (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
しかしことさらに「道(い)う」という語を選んだところに、我々は言語による表現の重んぜられていることを看取しなくてはならぬ。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
黒犬に腿(もも)を咬(か)まれて驚いたなどという下らない夢を見る人は、窹(さ)めていても、蚤(のみ)に猪(い)の目を螫(さ)されて騒ぐくらいの下らない人なのである。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
天子より以(もっ)て庶人に至るまで、一に是(こ)れ皆身を修むるをもって本(もと)を為(な)す。その本乱れて末治まる者は否(あら)じ矣(い)
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
常(つね)には、一飯(ぱん)一衣(い)を分けあって起き伏(ふ)しする友であるが、いまは、御岳の神縄をかりて捕りおさえにきた小幡民部。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その頃ではもう嫁(い)き遲れの二十二、非凡の美しさで、娘姿に薹(とう)も立ちませんが、はたの者に氣を揉ませることは一と通りではありません。
少しく安堵(あんど)の思ひをなし、忍び忍びに里方へ出でて、それとなく様子をさぐれば、その痍(きず)意外(おもいのほか)重くして、日を経(ふ)れども愈(い)えず。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
僧は最(い)と懇(ねんご)ろに道を教ふれば、横笛世(よ)に嬉しく思ひ、禮もいそ/\別れ行く後影(うしろかげ)、鄙には見なれぬ緋の袴に、夜目にも輝く五柳の一重(ひとへ)。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
僕も今までこんな世話はした事はないが、もし当人同士が嫌(い)やでないなら中へ立って纏(まと)めるのも、決して悪い事はないからね——それでやって来たのさ
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
されば最後に彼は「これをもて我れ自ら恨み(自己を諱(い)み嫌い)、塵と灰との中にて悔ゆ」と悔改(くいあらため)の涙を出すに至ったのである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
其後(そのご)何(なん)と思(おも)へばとて答(こた)へる物(もの)は松(まつ)の風(かぜ)で、何(ど)うも仕方(しかた)が無(な)からうでは御座(ござ)んせぬか、さて夫(それ)からが本文(ほんもん)で御座(ござ)んすとて笑(わら)ふに、福(ふく)が能(い)い加減(かげん)なこしらへ言(ごと)
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
我彼に曰ふ、我は汝の欺くをしる、ブランカ・ドーリアは未だ死なず、彼食(く)ひ飮み寢(い)ねまた衣(ころも)を着るなり 一三九—一四一
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
仮初(かりそめ)にも一匹(いつぴき)の男子たる者が、金銭(かね)の為に見易(みか)へられたかと思へば、その無念といふものは、私は一(い)……一生忘れられんです。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「何しに悲しき見送り奉らん、我をばいかにせよとて棄てゝは昇り給ふぞ、具して率(い)ておはせね」と泣く。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
(猿の耳を引張れば、猿は引つかく。)え、え、痛(い)てえ、痛てえ。こん畜生、だしぬけに引つ掻きやあがつたな。
権三と助十 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
ケッタカ、ケッタカ。蹴ってやる。おどれや。もう健帰(い)にくされ、健はうちの子(こお)とちがうがい、健家(く)い帰にくされ。
大根の葉 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
露西亜(ろしあ)の作家が平凡生活を書き、暗黒描写をして、尚お以上の愉悦の感興を与うるのを偉(い)とするものである。
若き姿の文芸 (新字新仮名) / 小川未明(著)
たとえ一枚でも天下の通宝を土に委(い)してはならないという護惜(ごしゃく)も手つだって、草の根をわけ、石の塊りを起して、収拾にかかっているところへ
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この間、旅先から手紙を寄越(よこ)しなすったそうだが、なぜもっと早く来ないのかって、お家様も噂(うわさ)をしていたのさ。船が出るのは五(い)ツ刻(つ)だから、まだちょっと間がある。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二千に足らぬ兵と留守城のまもりをあずかった夏目吉信は、玄黙口のやぐらの上にのぼって、兵馬の去って征(い)った闇のかなたを、身じろぎもせずに見まもっている。
死処 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
昨日より吉(い)いという日は別に来なかった。熱い茶を啜(すす)った後のいくらかハッキリとした心持で彼は自分の机に対って見た。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その前は学校の近くの旅館にいたり、高燥なH街の某軍人の家などにおいて貰っていたが、最後に腰をすえたこの家が一番気に適(い)っている。
日蔭の街 (新字新仮名) / 松本泰(著)
大気は死んだようにそよりともせず、長い蜘蛛の網(い)が栗の梢から地上に力なく垂れ下がったまま、じっと揺れずにいた。
決闘 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
けれども、負ける場合、どうかを考える丈の落付きは入用(い)る。その意味で、自分は、実にヤワであったのだ。
此の御方を母とし、御前様(おんまへさま)を夫と致候て暮し候事も相叶(かな)ひ候はば、私は土間に寐(い)ね、蓆(むしろ)を絡(まと)ひ候(さふらふ)ても、其楽(そのたのしみ)は然(さ)ぞやと、常に及ばぬ事を恋(こひし)く思居りまゐらせ候。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
日は全く没(い)りしほどに山深き夜のさま常ならず、天かくすまで茂れる森の間に微なる風の渡ればや、樹端(こずゑ)の小枝(さえだ)音もせず動きて
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
今(い)まこれを再言すれば、東京専門学校をして政党以外に在て独立せしめんと欲する、これなり(大喝采)。余は本校の議員にして立憲改進党員なり。
祝東京専門学校之開校 (新字新仮名) / 小野梓(著)
文政七年の元日は、棕軒正精が老中の劇職を辞して、前年春杪以来の病が痊(い)えたので、丸山の阿部邸には一種便安舒暢(べんあんじよちやう)の気象が満ちてゐたかとおもはれる。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
その後よき関白ありて関東と御一和の事も調(ととの)い候わば、その節妙なり。その内夷(い)事も日々禍深く相見え候に付き、好機会の出る事もあらん。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
びッくりさせる、不粋(ぶすい)なやつ、ギャーッという五位(い)鷺(さぎ)の声も時々、——妙に陰気(いんき)で、うすら寒い空梅雨(からつゆ)の晩なのである。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この類の夢想を計れば枚挙(まいきょ)に遑(いとま)あらず。みな事の難易と時の長短とを比較せずして、時を計ること寛に過ぎ、事を視ること易(い)に過ぎたる罪なり。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
浪子は手匣(てばこ)より母の写真取り出(い)でて床にかけ、千鶴子が持(も)て来し白菊のやや狂わんとするをその前に手向(たむ)け、午後には茶など点(い)れて、幾の昔語りに耳傾けしが、今は幾も看護婦も罷(まか)りて
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
余はいささかこれをもってなんじの老境を慰(い)し、なんじの笑顔を開くの着歩なりと信ず。ゆえに余は謹んでこの冊子を余が愛しかつ敬する双親(そうしん)の膝下(しっか)に献ず。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
腦天を焙(い)りつける太陽が宛然(まるで)火の樣で、習(そよ)との風も吹かぬから、木といふ木が皆死にかかつた樣に其葉を垂れてゐた。
二筋の血 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
子の緯(い)はその時五歳であったが、くると手を引いたり抱いたりして可愛がった。緯が七八歳になった時には、燈下で読書を教えた。緯もまた聡明であった。
陸判 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
前にも既に説(い)うごとく、この人形は亡き母として姉妹(あねいもと)が慕い斉眉(かしずく)物なれば、宇宙の鬼神感動して、仮に上﨟の口を藉(か)りかかる怪語を放つらんと覚えず全身粟生(あわだ)てり。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
遠祖ファイト・バッハはハンガリーに赴(い)ってパン屋を開いているうち、十六世紀の中頃ルーテル派の信仰を護(まも)るために
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂、野村あらえびす(著)
「何と云ふ弱蟲! 鑄(い)かけの利かない古鍋、地金としてだつて誰も引取り手はあるまいな……」自分は、自嘲する。
湖畔手記 (旧字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
さきにはポツジヨ我にマリアの病を告げて、その病は瘥(い)えぬと云へり。されど病は再發して、マリアは既に死し、家人は我に祕して、こよひそを葬るなり。
二人の兄たちは、急に人数がふえて、狭苦しくなったので、新しい家(うち)をたててもらおうと思って、木を伐れとイワンに命(い)いつけたところでした。
イワンの馬鹿 (新字新仮名) / レオ・トルストイ(著)
「これではどうせ——三浜(みはま)さん、来(い)らっしゃらないと思ったもんですから、参詣(おまいり)を先に済ませて、失礼でしたわ。」
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼(かれ)の老躯(らうく)は日毎(ひごと)に空腹(くうふく)から來(く)る疲勞(ひらう)を醫(い)する爲(ため)に食料(しよくれう)を攝取(せつしゆ)する僅(わづか)な滿足(まんぞく)が其(そ)の度毎(たびごと)に目先(めさき)の知(し)れてる彼(かれ)を拉(らつ)して其(そ)の行(ゆ)く可(べ)き處(ところ)に導(みちび)いて居(ゐ)るのである。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
そしてそこに用(い)らないものを預けて、江(え)の島(しま)のほうまで車を走らした。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
『女の方は——ったって、首も何もくっついちゃあいないといって宣(い)いだろう、ぼんのくぼの甘皮一枚で僅かに胴と続いてるだけの話だ……』
新「あの師匠の枕元でお飯(まんま)を喫(たべ)ると、おち/\咽喉(のど)へ通りませんから、何処かへ徃(い)ってお飯を喫べようと思うが、一人では極りが悪いから一緒に往っておくんなさいませんか」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
妻にそう女中は告(い)って、堅気な家はきゅうくつなんでしょうとも云った。
童子 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
「お時さんは飮(い)けるんやよつて。」と、お駒は道臣が自分に獻(さ)した盃をお時の前へ置いて、波々と注いだ。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
私共は、斯うやって丁度寒くも暑くもないものを着、おなかが一杯に成るお美味(い)しいものを食べさせて戴き、楽しい学校に通って勉強しています。
私の見た米国の少年 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
キヨメをエタと云ふは何(い)かなる詞ぞ。穢多。根本は餌取と云ふべき歟。餌と云ふはしゝむら鷹の餌を云ふなるべし、其れを取る物を云ふなり。
エタ源流考 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
そんなことを期(あて)にしてぐずぐずしているうちには、欣さんが食うに窮(こま)ってくる。私の仕送りを頼みにしている身の上なのだから、お金が到(い)かなかった日には、どんなに窮るだろう。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
粗朶(そだ)がぶしぶしと燻(い)ぶるその向座(むこうざ)には、妻が襤褸(ぼろ)につつまれて、髪をぼうぼうと乱したまま、愚かな眼と口とを節孔(ふしあな)のように開け放してぼんやり坐っていた。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
ルオフ・メリコフ——三十二歳、白系韃靼人(はくけいだったんじん)。ギリシャ正教徒(せいきょうと)。前近衛(このえ)中隊長。英(えい)独(どく)仏(ふつ)伊(い)西(せい)の各国語に通じ、少しくビルマ語をも解す。兄はビルマ在住の貿易商。
戦雲を駆る女怪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
左右に命じて、やにわに、何濤(かとう)の両腕を捉(とら)えさせ、その額(ひたい)に“○州へ流罪”と、一字空けの流人彫(るにんぼり)を刺(い)れさせたのだ。まるで、値段未定の半罪人の札を貼りつけたようなものである。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
式台の端の花揷(い)けに昼顔が揷けてある。水をやらないものだから、花が、みな、のたりと首を垂れている。
キャラコさん:06 ぬすびと (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
雲のはたてに月沒(い)りて
花守 (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
已(すで)にして大夫(たいふ)鮑氏(はうし)・高(かう)・國(こく)の屬(ぞく)、之(これ)を害(い)み、景公(けいこう)に譖(しん)す。景公(けいこう)、穰苴(じやうしよ)を退(しりぞ)く。苴(しよ)、疾(やまひ)を發(はつ)して死(し)す。田乞(でんきつ)・田豹(でんへう)の徒(と)、此(これ)に由(よ)つて高(かう)・國(こく)等(ら)を怨(うら)む。
赤い鷲の顔が、生きもののようにかがやき、機関砲の火が、怒った猛鳥の息(い)ぶきかと思われる。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
わっしがこのまま死(い)ってしまうと、お綱は、とうとう一生知らずにいるでしょう……
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
炉(いろり)の附近(まわり)に四人の男女が控えて為(い)た。男は怪量を上座(じょうざ)へ請(しょう)じてから四人を揮(ふ)り返った。
轆轤首 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
施無畏とは、無畏(むい)を施すということで、元来、仏さまのことを一般に施無畏と申しますが、ここでは観音さまを指(さ)すのです。畏(い)とは恐れるという字です。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
『それだから其(そ)れが學科(がくくわ)と稱(い)はれるのです』とグリフォンが注意(ちうい)しました、『然(さ)うして毎日々々(まいにち/\)習(なら)ひくづしになつて行(ゆ)くのです』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
四人もさすがにおどろいて介抱したが、もう蘇(い)きなかった。
半七捕物帳:28 雪達磨 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それによって、玄徳は、中山府(ちゅうざんふ)(河北省・定県)の安喜県(あんきけん)の尉(い)という官職についた。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
家貧きが上に幼時怙恃(こじ)を失い諸方に流浪し、山本緑陰の家に食客となること三年。上野寛永寺に入って独学し、文政年間始めて駒込に僦居(しゅうきょ)し帷(い)を下(くだ)して徒に授けた。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
縊死(くびくくり)が楽だというけれどというので、いやですわ、洟(はな)を出すのがあるといいますもの、水へはいるのが形骸(かたち)を残さないで一番好(い)いと思うと言いますと、そうかしら、薬を服(の)むのは苦しいそうだね。
江木欣々女史 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「今急(と)くこの水門(みなと)に往きて、水もちて汝が身を洗ひて、すなはちその水門の蒲(かま)の黄(はな)七を取りて、敷き散して、その上に輾(こ)い轉(まろ)びなば、汝が身本の膚(はだ)のごと、かならず差(い)えなむ」
枕山が求むる莫(なか)れ杜牧(とぼく)兵を論ずるの筆。かつ検せよ淵明が飲酒の詩。小室に幃(い)を垂れて旧業を温めん。残樽(ざんそん)断簡これ生涯。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
免職が種の悶着はここに至ッて、沍(い)ててかじけて凝結し出した。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
維(い)あたれる歳次(さいじ)、治承(じしょう)元年丁(ひのと)の酉(とり)、月の並びは十月(とつき)二月(ふたつき)、日の数、三百五十余カ日、吉日良辰(りょうしん)を選んで、かけまくも、かたじけなく、霊顕は日本一なる熊野(ゆや)三所権現、飛竜大薩埵(ひりゅうだいさった)の教令(きょうりょう)のご神前に
「葦(い)といいます、父は徐城(じょじょう)で醤油を売っておりました。歿くなって三年になります」
蓮香 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
後鎖縶(さしつ)されて逍遙城(しょうようじょう)に内(い)れらるゝや、一日(いちじつ)帝の之を熟視するにあう。高煦急に立って帝の不意に出(い)で、一足(いっそく)を伸(のば)して帝を勾(こう)し地に踣(ばい)せしむ。帝大(おおい)に怒って力士に命じ、大銅缸(だいどうこう)を以(もっ)て之を覆(おお)わしむ。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
冱(い)てついた街道をあの盲人の杖がこつ、こつ、こつと叩く音だ。私たちが息を殺して坐っている間に、その音はだんだんだんだんと近づいて来た。やがて杖で宿屋の入口の扉を強く敲いた。
前穂高の厳(い)かつい岩壁を仰いで、沢を登ると、残雪に近くなるかして、渓水がちょろちょろ糸のように乱れはじめ、大岩の截(き)っ立てたところから、滝となって落ちている、もう沢を行かれないので
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
即(すなは)ち日本人(にほんじん)の姓名(せいめい)は唯(い)一不(ふ)二である。姓(せい)と名(めい)と連續(れんぞく)して一つの固有名(こゆうめい)を形(かたち)づくる。
誤まれる姓名の逆列 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
その小包を開いて見ると、細い額椽(がくぶち)に嵌(い)れた、八号ばかりの油絵と、一冊の本とが這入っていた。
仙人掌の花 (新字新仮名) / 山本禾太郎(著)
この糸は、蝶鳥の翼よりも美しいが、蜘蛛(くも)の巣(い)より弱く見えるがよ——。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
謙遜な奉仕の天使、彼等が我等と共に在るの日、高慢な我等は微笑を以て其弱点(じゃくてん)を見つゝ十分に尊敬を払(はら)わず、当然の事の如く座(い)ながらにして其心尽(こころづく)しの奉仕を受け易(やす)い。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎、徳冨蘆花(著)
そうで無いにしても表で暴れて家を揺(ゆすぶ)ると家が潰れるでしょう、奴の力は大した者だから、やアというと家(うち)に地震が揺(い)って打潰(ぶっつぶ)されて了(しま)います、何(なん)にしても家(うち)にいると面倒だから迯(に)げて下さい、え
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
実の熟(い)った丹波王母珠(ほおずき)ほど紅うして、罪もなき高笑いやら相手もなしの空示威(からりきみ)、朋輩の誰の噂彼の噂、自己(おのれ)が仮声(こわいろ)のどこそこで喝采(やんや)を獲たる自慢
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
燥(い)るがごと疼(うづ)くいたでに
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
堪(た)えがたいほど切ないものを胸に盛(い)れて忍んでいた。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
父は店先でトン/\と桶の箍(たが)を篏(い)れてゐたし、母は水汲に出て行つた後で私は悄然と囲炉裏の隅に蹲つて、もう人顔も見えぬ程薄暗くなつた中に、焚火の中へ竹屑を投げ入れては
二筋の血 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
耶蘇基督(イエスクリスト)と云ふお方の御誕生日を、御一所にお祝ひ致(い)たさうと思つたからです、貴所方(あなたがた)も皆(みん)な生れなすつた日がある、其日になると、阿父(おとつ)さんや、阿母(おつか)さんが、今日は誰の誕生日だからと
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
如才なきお吉は吾夫をかゝる俗僧(づくにふ)にまで好く評(い)はせんとてか帰り際に、出したまゝにして行く茶菓子と共に幾干銭(いくら)か包み込み、是非にといふて取らせけるは、思へば怪しからぬ布施の仕様なり。
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
かの諸比丘観見して、すなわち語(い)いていわく長老、仏比丘を制して不浄を行うを得ざるにあらずや、彼答えて言う、仏人の女を制して、畜生を制せず、時に諸比丘仏の所に往き云々〉
……どちらを向いてもお金の費(い)ることばかりで、方途(ほうず)が知れません……実りが悪いし、種物を売り出せば幾度も税金を掛けられ、元を削って売らなければ腐れるばかりです
故郷 (新字新仮名) / 魯迅(著)
生命の火をも齋(い)はふまで
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
瑠璃(るり)色の風が今にも吹いて来るのを待ちかまへ(え)てゐ(い)るぢ(じ)ゃないか。
ぼろぼろな駝鳥 (新字旧仮名) / 高村光太郎(著)
あの小さな素朴(そぼく)な頭が無辺大の夢で逆(さか)まいてゐ(い)るぢ(じ)ゃないか。
ぼろぼろな駝鳥 (新字旧仮名) / 高村光太郎(著)
問ひて曰はく、「今天つ日高の御子虚空つ日高、上(うは)つ國(くに)一九に幸(い)でまさむとす。誰は幾日に送りまつりて、覆(かへりごと)奏(まを)さむ」と問ひき。
そこより入り幸(い)でまして、走水(はしりみづ)の海八を渡ります時に、その渡の神、浪を興(た)てて、御船を𢌞(もとほ)して、え進み渡りまさざりき。
わが軍陣の前に焚き、光焔天に冲(い)らしめむ。
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
最も高きその巨木、雲霧つらぬき天に冲(い)る
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
だが子どもは呍(い)つた
雲 (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
びんばふだと呍(い)ふか
雲 (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
「その彫青(いれずみ)、いったい、どうしたんですか? いつ、どこで、誰から彫(い)れて貰ったんですか?」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
「お前も、彫(い)れんか」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
姉は茶を淹(い)れる。土産の包を開くと、姉の好きな好きなシュウクリーム。これはマアお旨(い)しいと姉の声。で、暫(しばら)く一座はそれに気を取られた。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
お湯をさしに上ると、二人でお旨(い)しそうにおさつを食べているところでしたッて……
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
「——折も折、渭(い)の津(つ)のお城に、何ぞ不吉なことがなければいいが……」こう思う不快さに目をつぶった。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何かに要(い)るからでござンしょうが、廈門(アモイ)船や西班牙(スペイン)船から長崎沖で密買した火薬を、この阿波の由岐(ゆき)港に荷揚げをしてコッソリと、渭(い)の津(つ)の山へ運びこむってえ噂が、もっぱら評判でございますよ
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雨期あけの灼(い)りつけるような直射のしたは、影はすべてうす紫に、日向(ひなた)の赭土は絵具のように生々しい。それがコンデロガを発つ探検第一日の前日だった。
人外魔境:01 有尾人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
土の反射と、直射で灼(い)りつくような熱気には、騾(らば)の幌車(ほろぐるま)にいてもマヌエラは眠ってしまう。やがてゆくと、白蟻が草を噛(か)みきったあとがある。兵隊蟻の、襲撃を避けるため不毛の地にしてしまう。
人外魔境:01 有尾人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
聞いてみると、その青がえるは親の言うことを聞かないで、親が川へ埋めてくれろと言えば山と言うし、山へ葬(い)けてくれろと言えば川と言ったそうな。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そんな親不孝なやつですけれど、親が死んだ時は、親の言うとおり山へ葬(い)けてやりました。それで、雨でも降りそうになると、親の墓が流れる流れるって泣いているんだそうです。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
燕(つばめ)が父(とう)さんのところへ來(き)て何(なに)を言(い)ふかと思(おも)ひましたら、こんなことを言ひ(い)ました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
止せ……汝(われ)まで其様(そんな)ことをいうから娘(あま)がいう事を肯(き)かねえ、宜く考(かんげ)えて見ろよ、熊(くま)ヶ谷(い)石原(いしはら)の忰を家(うち)へよばる都合になって居るじゃアねえか、親父のいた時から決っているわけじゃアねえか
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「百伝ふ」は枕詞で、百(もも)へ至るという意で五十(い)に懸け磐余(いわれ)に懸けた。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
上潮に末廣の長い尾を曳く川蒸汽は、仲々異(い)なものであつた。銀座の通り、新橋のステイション、勸工場にも幾度か入つた。二重橋は天子樣の御門と聞いて叩頭(おじぎ)をした。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
それ、死の像(かたち)はやがて死を來(い)たし、生の姿は
頌歌 (旧字旧仮名) / ポール・クローデル(著)
世界の美術の本場のような仏国のことで観(み)る人の目も高いから、もし、拙劣(つまら)ないものを出しては第一自分の店の名に係るので、算盤(そろばん)ずくでなく傑(い)いものばかりを選り抜くつもりで
傷(い)た振(ぶ)るる、苦患(くげん)の声か。
哀詩数篇 (新字旧仮名) / 漢那浪笛(著)
「儞(い)三が作り仕へまつれる大殿内(とのぬち)には、おれ四まづ入りて、その仕へまつらむとする状を明し白せ」といひて、横刀(たち)の手上(たがみ)握(とりしば)り五、矛(ほこ)ゆけ矢刺して六、追ひ入るる時に
「けれども有物(あるもの)だから、所好(すき)なら飲んでもらはう。お前さんも克(い)くのだらう」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
私は養家に入籍(い)る前の名刺を 事務机から
わがひとに与ふる哀歌 (新字旧仮名) / 伊東静雄(著)
と南(みなみ)の亭主(ていしゆ)は一旦(たん)橋渡(はしわた)しをすれば後(あと)は再(ふたゝ)びどうならうともそれは又(また)其(そ)の時(とき)だといふ心(こゝろ)から其處(そこ)は加(い)い加減(かげん)に繕(つくろ)うて遁(にげ)るやうに歸(かへ)つた。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
経世の学に志すものは詩を悪(にく)んで可なり。詩は淫せずんば堂に升(い)らず。堂に升らずんば為さざるに如かず。詩は千万人を犠牲にして一人の天才を得て初めて成るものなればなり。
偏奇館漫録 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
銀(しろがね)の玉をあまたに筥(はこ)に収(い)れ荷緒(にのお)かためて馬馳(はし)らする
曙覧の歌 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
収用(い)れる大広間の彼方此方(あちこち)の卓に陣取って自国の言葉で喋舌(しゃべっ)っている。
闘牛 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と叫(い)う声、広岡の家より聞えつ。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
襟足(えりあし)を見せるところに媚態がある。喜田川守貞(きたがわもりさだ)の『近世風俗志』に「首筋に白粉ぬること一本足と号(い)つて、際立(きわだ)たす」といい、また特に遊女、町芸者の白粉について「頸(くび)は極(きわめ)て濃粧す」といっている。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
写真を頼むと安く受け合(い)れたが、六、七年も音沙汰を聞かぬ。
吩(い)ひつかつてきた口上を思ひだしたのであらう、お妙は障子を開け放してから、急須に湯をさして茶を注ぎながら、さう言つた。すぐ目の前にまつしろな襟足がみえる。さうして、動く手首がみえる。
木々の精、谷の精 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
彼は、山田申楽の二十余名が、いよいよこの地の奉仕(ほうじ)もおえたので、大和の春日へ寄って伊賀へ帰る——というのを領境まで見送っての帰り、馬上、ふウふウ喘(い)いながら戻って来た。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
遠慮なく、箸(はし)をとっていて、二人とも揃って箸を置いたが、お悦さんの方は一口飲み込むと、酒は一滴も喫(い)けない婦(おんな)の、白く澄ました顔色(かおつき)で
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
噎(い)きれる宵を庭向ふの家で
山の手歳事記 (新字旧仮名) / 正岡容(著)
合(あは)せ目(め)を細目(ほそめ)に開(あ)けて、其處(そこ)に立(た)つて、背後(うしろ)に、月(つき)の影(かげ)さへ屆(とゞ)かぬ、山(やま)又(また)山(やま)の谷々(たに/″\)を、蜘蛛(くも)の圍(い)の如(ごと)く控(ひか)へた、星(ほし)に屆(とゞ)く黒(くろ)き洞穴(ほらあな)の如(ごと)き大(おほい)なる暗闇(くらがり)を翼(つばさ)に擴(ひろ)げて、姿(すがた)は細(ほそ)き障子(しやうじ)の立棧(たちざん)。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
『在宅(い)るとも、何(なん)か用だろうか。』
郊外 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
彼は平戸に如(い)き、平戸藩の重臣葉山左内に介し、山鹿素水を見、肥後に入り宮部鼎蔵の家を主として、その徒及び横井小楠の社中と交れり。彼嘗(かつ)て曰く
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
なお、田螺(たにし)を妙(い)りつけて旅先で用うれば水あたりのうれいがない。笠の下へ桃の葉をしいてかぶれば日射病にかからない。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
五十歳の時より自ら十八姨(い)と称ししばしば民家に来れど飲食せず、毎(つね)に人に好(よ)き事を作(な)せよと教ゆ、もし悪事を為(な)さば我常に猫児三、五箇(ひき)して汝を巡検し来り報ぜしめんと語るとたちまち見えぬ
あの娘(こ)の事なら、器用にあきらめた方がいいよ、町内の良い娘(い)が一人ずつ片付いて行くのを心配(しんぺえ)していた日にゃ、命が続かねえぜ
いわくこれを媦(い)と名づけ、地下にありて死人の脳を食うと、媦いわく、かの童子を陳宝と名づく、雄を得る者は王、雌を得る者は伯たりと。
人麿の歌に、「古にありけむ人も吾が如(ごと)か妹(いも)に恋ひつつ宿(い)ねがてずけむ」(巻四・四九七)というのがある。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
……これは寧(い)っその事、思い切って、アルマ、マチラの二人を呼び出して、同時にレミヤに引き合わせた方が早道になりはしまいか。
霊感! (新字新仮名) / 夢野久作(著)
紇は財宝と美女を将(い)て山をおりたが、美女達はそれぞれその夫を探して帰らした。
美女を盗む鬼神 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
その中の黄牛(あめうし)に田器を負わせて田舎に将往(い)かんとすとあって、田舎の二字をいつの頃よりかイナカと訓ませている。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
馴(な)れない料理人(れうりにん)が、むしるのに、幾(い)くらか鎧皮(よろひがは)が附着(くつゝ)いて居(ゐ)たでせうか。一口(ひとくち)触(さは)つたと思(おも)ふと、舌(した)が切(き)れたんです。鬼殻焼(おにがらやき)を退治(たいぢ)ようと言(い)ふ、意気(いき)が壮(さかん)なだけ実(じつ)に悲惨(ひさん)です。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
私は一介の痴漢にちがひはないがそれを正統にうけとるために、私は敬語を使用しあなたは訊問的語彙(い)を眞向から振り翳してゐられる。
帆の世界 (旧字旧仮名) / 室生犀星(著)
余は此母子が好(す)きになった。明治三十四年中、ゴルドン将軍伝を書く時、余はゴルドンを描(えが)く其原稿紙上に乃木将軍の面影(おもかげ)がちらり/\と徂(い)ったり徠(き)たりするを禁じ得なかった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎、徳冨蘆花(著)
皆は振返って今行った人たちの後を見ずには得(い)られなかった。
木曽御嶽の両面 (新字新仮名) / 吉江喬松(著)
心の中では燃えていても、形へ現わすには時間(とき)が必要(い)る。そうして多くはその間に、邪魔が入るものである。そうして消えてしまうものである。
柳営秘録かつえ蔵 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
真下に視下(みおろ)す議場では、居睡(いねむ)りをしている人や、肩を怖(い)からせてつかみあっている人たちがいた。それが議員と云う人たちなそうで、もう吃驚(びつくり)してしまって、それきりな気持ちになってしまっている。
生活 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
申入(まうしいれ)も聞(き)かぬうちに婚禮(こんれい)とは何事(なにごと)ぢゃ? 父(とゝ)さまに言(い)うて下(くだ)され、わたしは嫁入(よめいり)はまだしませぬ。嫁入(よめいり)すれば如何(どう)あってもロミオへ往(ゆ)く、憎(にく)いと思(い)ふあのロミオへ、パリスどのへ往(ゆ)くよりは。
(しかしそれらの中に沈んでゐるのは、孤独の滓(おり)ではない。ひどく華やいだ、むしろ孤独怡(い)悦の神(こころ)の、——隠微(いんび)な擬態(まどはし)だつたやうだ)
雪 (新字旧仮名) / 高祖保(著)
私は急に臆病になり、怯(い)じけた性格になってしまった。
灰色の記憶 (新字新仮名) / 久坂葉子(著)
彼の毒菌の溼(しふ)に生じ、冷燄の朽(くちき)に燃ゆるが如き、倐生忽滅して、常無きものは、其の愈〻新にして愈〻取るに足らず、愈〻奇にして、愈〻道(い)ふに値せざるを見るのである。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
『はい!』と愛(い)ちやんが叫(さけ)びました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
東作は澁い茶一杯掩(い)れるでもない冷たい態度で、少し茶かし加減にかう言ふのでした。
しかし東天を破りて日出(い)ずるや、彼らはその武器とする暗黒を奪われてその悪を断たるるのである。神は日を以て悪を逐(お)い給う。神は朝を世に現わして悪人を撃ち給う。神の力は絶大である。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
此問題は頗(すこぶる)困難である。説文に拠れば楸は梓(し)である。爾雅を検すれば、槄(たう)、楰(ゆ)、櫰(くわい)、槐(くわい)、榎(か)、楸(しう)、椅(い)、梓(し)等が皆相類したものらしく、此数者は専門家でなくては辨識し難い。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
日と月と一時に沈(い)ったと申しましょうか、何と申しましょうか、それこそほんにまっ暗になりまして、辛抱に辛抱して結局(つまり)がこんな事かと思いますと
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
平岡は巻莨(まきたばこ)に火を点(つ)けた。其時婆さんが漸く急須(きうす)に茶を注(い)れて持つて出た。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
麁略(そりやく)にせず力の入事(いること)などはさせざりけり然ともお花は身を粉(こ)にしてなり恩を報(はう)ぜんものと思へば如何なる賤(いやし)き業(わざ)をも少しも厭(いとは)ず客が來れば夜具の上下(あげさげ)風呂(ふろ)に浴(い)れば脊中(せなか)を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
おおそうそう、月参講(げっさんこう)の連中が大勢泊った日でしたなあ。御一緒に青い梅のなった樹の蔭を歩いて、あの時、ソラ碓氷川(うすいがわ)で清(い)い声がしましたろう。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
これは旦那がおもしろく思いなさらぬももっともじゃとわたしは思うくらい。それに困った人はあの千々岩(ちぢわ)さん——たしかもう清国(あっち)に渡(い)ったように聞いたですが
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
二日酔柚餅子(ゆべし)で苦い茶を滴(い)れる飴ン坊
大正東京錦絵 (新字旧仮名) / 正岡容(著)
宋の紹興二十八年の夏、帛(きぬ)のたぐいを売りながら、妻と共に濰(い)州を廻って、これから昌楽(しょうらく)へ行こうとする途中、日が暮れて路ばたの古い廟に宿った。
ねまき姿もしどけなく、恐怖と昏迷に白い顔をひきつらせて、キッと立っている妻恋小町(つまごいこまち)——知(し)らぬ火(い)小町(こまち)の半身に、かたわらの灯影が明るくゆらめき、半身は濃(こ)むらさきの闇に沈んでいる。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
落花生が炙(い)れて居る。「落花生は大好きですから、私が炙りましょう」
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎、徳冨蘆花(著)
義男は何事も一氣に遣付ける事の出來ない口ばかり巧者なこの女が、煑(い)り豆の豆が顏にぴんと痛く彈きかゝつた樣に癪にさわつて小憎らしくなつた。
木乃伊の口紅 (旧字旧仮名) / 田村俊子(著)
私が肯(き)かないわ、とお源をつかまえて談ずる処へ、熱(い)い湯だった、といくらか気色を直して、がたひし、と帰って来た主税に、ちょいとお前さん、大丈夫なんですか
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
われ等をこゝへ牽(い)て来ませるこの神を。
有難いっ。痛快だっ。イヤ多謝(コウマブソ)……多謝(コウマブソ)……とりあえず一杯献(い)こう。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
甘い温(あった)かな乳汁(ちち)が滾々(どくどく)と出て来て、咽喉(のど)へ流れ込み、胸を下(さが)って、何とも言えずお甘(い)しい。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
数頭の馬が草を食(は)んでいた。骨と皮ばかりの痩せ馬であった。どこかの戦場から逃げて来て、ひとりで生活(い)きている馬らしかった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あなたのお傍にいてお話していると、妻が甦(い)きかえってきて私と話をしているように思われてならないのです。あなたとお別れするのがいやだった。いつまでもお傍にいたかったんです。
消えた霊媒女 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
療(い)する術あるを聞きながら、ただに死ぬを待つこそ烏滸(おこ)ならめ、その術ようせずば死なんのみ。
玉取物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
吉里は一語(ひとこと)も発(い)わぬ。見向きもせぬ。やはり箪笥にもたれたまま考えている。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
計を決し髀(もも)を拍(う)ち大いに喚(よ)んで烏竜と白(い)う、狗声に応じ奴を傷つく、奴刀を失し伏して地に倒る、狗ついに奴の頭を咋(く)う、然、因って刀を取って奴を斬り、婦を以て官に付しこれを殺すと。
「へえ、いたします。弓と申しても楊弓(ようきゅう)ですが、五月、九月の結改(けっかい)の会には、わざわざ江戸へ出かけて行き、昨年などは、百五十本を的(い)て金貝(かながい)の目録を取ったということでございます」
顎十郎捕物帳:23 猫眼の男 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
女は、さこそ忘れ給ふをうれしきに思ひなせど、怪しく夢のやうなることを、心に離るる折なき頃にて、心解けたる睡(い)だに寝られずなん。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さて義父よりかくかくの噂聞き込みたれば、その実否尋ねたしとて呼び寄せたるなりといはれ、お糸はハツと胸轟かせしが、よくよく思ひ定めたる義父の様子に容易(たやす)くは答(い)らへせず。
心の鬼 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
魔性(ましやう)の蜘蛛(くも)の糸(い)にまかれ
どんたく:絵入り小唄集 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
彼が水戸を押えて京都を圧したるが如き、あたかもこれ吭(のど)を縊(い)して背を拊(う)つの政策にして、眼快ならざるにあらず、手利ならざるにあらず。然(しか)れども彼は自(みず)から大勢調子の外に立てり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
(私が傍(そば)に見ていました)って、鼻ひしゃげのその頃の工女が、茄子(なす)の古漬のような口を開けて、老(い)い年で話すんです。
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
我見るに、彼はふたゝび嘲られ、ふたゝび醋(す)と膽(い)とを嘗(な)め、生ける盜人の間に殺されたまふ 八八—九〇
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
、禁厭(まじな)ってもらいなどするものか! 貧乏だと思って皆が、虐(い)じめるからこんなことになってしまったんじゃあないか!
日は輝けり (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
果然は一名蜼(い)また仙猴(せんこう)、その鼻孔天に向う、雨ふる時は長い尾で鼻孔を塞(ふさ)ぐ、群行するに、老者は前に、少者(わかもの)は後にす。
壁の上よりは、ありとある弓を伏せて蝟(い)の如く寄手の鼻頭(はなさき)に、鉤(かぎ)と曲る鏃(やじり)を集める。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
斟酌(しんしゃく)損益し、進んで忠言を尽すにいたりては、すなわち、攸之(ゆうし)・褘(い)・允(いん)の任なり。ねがわくは陛下臣に託するに、討賊、興復の効を以てせられよ。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その後、生命(いのち)は珠、と沢庵から訓(い)われた。よく考えてみると、資本いらずどころではない、人間最大の資本を提(ひっさ)げて、わずかな禄米を——それも籤(くじ)を引くような僥倖(ぎょうこう)をたのんで行ったことになる。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
また建築に譬(い)はば元禄は丸木の柱萱(かや)の屋根に庭木は有り合せの松にても杉にてもそのままにしたらんが如く、天明は柱を四角に鑽(き)り床違(とこちが)へ棚(だな)を附け
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
其の代りにゃアこゝな家は忙がしくて、庭の中(うち)を一日に十里位(ぐれえ)の道は歩くから、夜は草臥れて顛倒(ぶっくりけえ)ってしまうのサ、それから見ると熊ヶ谷(い)の女共は柔(やあらけ)え着物を着ていて楽な代りに
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
漢土最古の字書といわるる『爾雅(じが)』に、豕(い)の子(こ)は猪とあり。『本草綱目』にも豕の子を猪といい、豚といい、豰というと出るから、豕和訓イ、俗名ブタの子が猪、和訓イノコだ。
『ム、幾額(いくら)賭(い)く?』
魚紋 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ほん気な意地でも鞘当(さやあ)てでもないが、ほん気にも躍起(やっき)にもなって困る者を困らせるのが遊びである。光広もなかなか肯(き)かないし、紹由も決して退(い)かない。そして吉野を両方の義理に挟んで
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
阿那律寡婦に語りて言う、もし我に由らば、ことごとく宿を聴(ゆる)すべしと。賈客すなわち前に進(い)る。寡婦またこれなる念いを作す。
と韋(い)、蘇(そ)の二士を挙げ、其(その)他(た)の模倣者(もほうしゃ)を
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
白雨(ゆうだち)の滝にうたすやそく飯(い)板(いた) 孟遠
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
第二十一子模(ぼ)を瀋(しん)王とし、第二十二子楹(えい)を安(あん)王とし、第二十三子桱(けい)を唐(とう)王とし、第二十四子棟(とう)を郢(えい)王とし、第二十五子𣟗(い)を伊(い)王としたり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)